悪役令嬢の第十四歩: 解き放たれた番犬
銀姉が倉庫内に入り情報を持ってくる。堂々と潜入し笑顔で帰ってきた。
「15人も居ますね。負傷した偽騎士が手当てを受けて仲間と話し合ってます。面白い事に売り飛ばしではなく。誰かを待っているようですね~この倉庫の借り手は彼らでしょう」
「……誰かを?」
「そうよ。令嬢引き渡しでお金をいただけるそうね。人身売買かしら? 綺麗な令嬢は売春に最適ね」
「ギリッ」
ノブリスが歯軋りをする。怒りで今にも走り出しそうだ。そんなことを気にせず銀姉はまた中へ足を踏み入れる。雑多な木箱が散らばり檻も置かれていた。何人かの令嬢も縛られ震えている。
「では、行きましょう。ノブリスさん。令嬢を絶対に護ること!!」
「わかってる!!」
「……二人声うるさい!!」
「だ、誰かいるのか!?」
「居ますわ!!」
「銀姉!?」
銀姉が躍り出る。そして………偉そうに叫んだ。
「悪事を見に来ました。15人美味しそうですね」
ペロリと舌なめずりをする銀姉に堂々として目立つ。ノブリスが隠れているのを隠し。囮とするためだと思ったが。どうなんだろうか?
「……一人では銀姉でも大変だろう」
「……やっぱ一人での方がいいわね。勝負やめましょう」
「……はい?」
「命令、ソーマ……一人で全員殺りなさい。見てるから」
嘘だろおい!?
「ま、まってくれ!!」
「実戦に敵う訓練なし。相手は罪人……殺りなさい。私たちが殺されるわ」
「………大分余裕だな。こっちはこんだけいるんだぞ?ガキの大将か知らんがこっちは冒険者。生半可な奴なぞ」
ジャシュ!!
「ぎゃああああああああ!!」
一人のリーダーらしき騎士鎧の男が目を押さえのたうち回る。冒険者と言った人達が何事だと彼を見た。目にブッスリと棒状のナイフが刺さっており。投擲姿勢のまま固まっている銀姉が声を出した。
「あら、手元が狂って脳髄ではなく目を狙っちゃった。うるさいから黙らせようとしたら。余計煩くなったわね。ソーマ、あとは任せたよ」
「お、おう」
銀姉が近くの木箱に乗り。足を組んで笑みを浮かべた。冒険者は……動かない。いや……動こうとしたが銀姉の思いの外の手練れで思い止まったのだ。
理解される。一瞬の出来事で相手の強さを。だからか全員。何も言わずに大きい獲物を手に取った。
人間を狩るための武器ではない。魔物を狩るための武器たちを。斧や大剣等だ。
「銀姉……全員手練れですが」
「援護はするわ。さぁ~血祭りにしなさい」
俺はため息を吐くが……何故か高揚していた。銀姉を倒すためには……これぐらい勝たないといけないと信じて剣を引き抜く。
*
僕は戦闘を片目に木箱の荷物の裏を渡り。令嬢たちの閉じ込められている檻に近付いた。令嬢たちは涙を流して僕を見る。
「もう安心だ。待っていろ………今から解くから」
檻に鍵はされていない。だが紐で縛られており逃げられないようだった。少しムワッとした臭いもする。少し檻の床が湿っている気がするが僕は何も気にしない素振りを見せた。
「……怖かったんだろう………」
炎の魔法で紐を斬る。炎を現出させる奇跡の魔法だ。檻の向こう側でソーマドールが叫びながら戦っていた。激しい金属音の響きに激戦が予想される。
解放された令嬢は僕に抱き付く。それに対して僕は肩を優しくつかんで「木箱の裏から隠れながら逃げられる」旨を話し、待ってもらう。逃げるのは全員救ってからだ。
「……シンシア!?」
「……ん!?」
最後の檻にシンシアを見つける。僕は慌てて解放し、シンシアと抱き合った。
「ノブリスさん……来てくださると信じておりました」
「ああ、怖かっただろう。すまない待たせた」
「いいえ………ずっとずっと夢見てました……来てくださると」
他の令嬢の目線なんて気にしないほどに強く包容した。そして……背後から。
「フフフ!! いいわぁ!! すごくいい!!」
銀髪鬼の高笑いが聞こえ慌てて振り向く。
「楽しかったわ。シンシア」
「シャーリー!? ソーマは!?」
「戦ってる。私だけ抜けてきたのよ。ふふふ、これでソーマも終わり。あなたたちも終わりよ」
「シャーリーさん!?」
「シンシア後ろに」
「ふふひ、どう? 寝返りって怖くない?」
銀髪鬼が頬に手を添え手にナイフを構えて眺めてくる。僕は額に汗を浮かべ剣を構えた。他の令嬢も銀髪を見て震えている。
全員が殺される恐怖に身震いした。
「近付くな!! 悪魔!!」
「ふふひ」
「……ノブリスさん……主犯はもしかして……」
「そうよ。私が主犯よ!! あなたを貶めたいだけにね!!」
「そ、そんな!?」
「くっ!!よくも騙したな!!」
睨み付ける。そして彼女は笑う。
「ククク、いい笑顔、そしていい王子ぶり………」
バコッ!!
「つうううううううううううう!!」
銀髪鬼は唐突にしゃがみこんだ。背後に人影があり殴られたようだ。
「何するの!? ソーマ!!」
「アホなことするな。急いで来てみれば!! 銀姉!! あんた、ただの巻き込まれただけだろ!!」
「ふふふ、そうよ。でも見てあれ~」
僕を指差す銀髪鬼。
「最高よ」
まるで恐怖で震えている俺たちを嘲笑うように「最高」と言い放つ。確かに恐怖した。心情は悔しい思いがあるが、ソーマがもう一撃、頭に叩き込んだので目を瞑ることにした。争うのは今ではない。
「痛い!!」
「銀姉……今はそれどころじゃない!!」
ソーマドールが怒鳴り。銀髪鬼と睨み合い………そして大きい声が響く。そちらを向くと一人の男が令嬢を人質にしており、危険な状態だった。隠れて様子を伺っていたのだろう。油断した。
「くそ!! こいつがどうなってもいいのか!! この令嬢の綺麗な顔を」
しゅっ
「あがぁああああああ!! 目がああああ!!」
「見つけた!! 最後の一人か!!」
ザシュ!!
僕は何が起きたかを見る。令嬢の背後に立っていた男の顔にナイフが突き刺さっており、手が令嬢から離れた瞬間の隙をソーマドールが令嬢の服をつかんで無理やりひっぺはがして奪い、そのまま悶える男に躊躇なく剣を突き入れていた。その素早い親友の姿に驚くしかなかった。
「……これで終わり」
「中々、よかったわ。15匹全滅。人の死の山を築けたね」
「………ああ」
躊躇なく剣を体から抜き、血を振り払う親友に嫌悪感を抱く。心臓を人刺しの手際の良さで男は絶命していた。
「お前……人を……」
「………」
「ソーマ。あとはノブリスに任せましょう。助けてくれてありがとう。ノブリス」
「………」
銀髪鬼にソーマがついていく返り血の付いた姿で、まるで付き従うように。
僕はそれを見送りつつ、お礼の意味もわからず、令嬢たちを連れて倉庫を出る。悲惨な光景を目にして静かな令嬢たちは一目散に倉庫から逃げた。それはあまりにも凄惨な状態で令嬢にはキツイ光景が広がっていた故である。犯人たちは皆、体が裂けている。まるで魔物にやられたかのように、下半身と上半身が真っ二つの遺体もある。僕は恐怖で立てなくなって逃げれない令嬢たちを介抱しながら騎士たちを待つのだった。
*
屋敷に私たちは帰ってきた。お湯を沸かし、ソーマドールを綺麗にさせて寝室へ呼ぶ。
「おめでとう。あなたはもう。ノブリスより強いわ」
第一声に褒めてあげる。
「……」
「な~に? 暗い顔して~」
「人を……初めて殺った。落ち着いて………みると………うん」
「そう~いい経験だったわね。今の世の中じゃぁ、殺ることないもの」
「…………銀姉は初めて殺ったときを覚えてるのか?」
「いいえ?」
「そうか……」
私は「不思議な事を言うのね」と彼に言った。実際に最初に倒したのは誰だったか覚えていない。いや、どうだったかな。誰が最初かがわからないのだ。
「手の指で数えきれなくなってから。考えるのをやめたわ。幼少は結構……拐われてたの」
一人で居ることが多く。多くの腕利きが私を狙っていた。銀髪と言うだけでよく拐われた。しかし、誰一人成功させていない。メイドや使用人、私が阻止していたから。
「なーに? 初めて殺ったの今更後悔? 残念だけど家の島を荒らされて父さんが黙ってないわ。遅かれ早かれ殺されてる。罪悪感を持つ必要はない。あなたが殺っても殺らなくても関係ない。経験になっただけマシよ」
「………」
ソーマドールが顔を上げる。何も感情が無さそうな顔で。
「……銀姉」
「なーに」
「俺を殺すことに躊躇いは?」
「ないけど?」
「そうか……ふぅ。罪悪感かぁ……いつか騎士であるなら斬らないといけない。わかってはいたんだ………しかし………はぁ………」
「その感情は残すべきよ」
私は不思議とソーマドールが眩しく見えた。私にない物を持っている。そう考えて忠告する。
「全て正しいわけじゃない。殺す以外の手段もあるわ。ただ、今回はそれをしなかっただけ、力があれば……そういうこともできるわよ。あの人のように結果から見れば『ご都合主義』のような状況でも。力があったから出来たと言えるの」
「………ありがとう。よくわからない慰め」
「慰めてないわ。忠告よ。私みたいにならないようにね。私たちは……そう、私は昔から『戦争』に身を置いてたのだから歪んでるの」
「胆に命じとく。気分軽くなったよ。そう、どうだっていいや」
「ん?」
私はソーマドールが真っ直ぐ私を見つめ、何か覚悟した顔をする。格好よく黒髪を揺らし真っ直ぐ睨み付けて何かを訴えかけている。
「な~に?」
「……人も殺った。覚悟は決めたよ。銀姉……2学期でシンシアを奪うよ」
「あら………あらあらあら!?」
私は嬉しくなる。親友同士が奪い合う展開を生でみられることに。
「銀姉……覚悟はいいな」
「もちろん!!」
「ああ、楽しみだ」
頬に手を添える。笑いながら。
「楽しみ~恋愛」
「楽しみだな。恋愛」
それがいけなかったのか……このとき私はこの2学期が恐ろしくも激しい期になることが予想はできなかった。自分の手で獣を育てきってしまったことを気付くのは事件が起こってからだった。




