悪役令嬢の第十三歩: 囚われの姫君たち
俺は彼女の寝室で紅茶を嗜む。夏休みも残り少ない。銀姉による精神教育を耐え抜き、あと残り2日間は体を休める日とした。
薬による怪しいドーピングや鍛えた事により体の構造が変わった気がする。
「銀姉………戦術や戦い方は教えてくれなかったね」
「理由を知りたいのね。心技体と言う言葉をご存知?」
「知ってる。しかし、それがなにか?」
「本来は全て揃っての剣術が最高と言われているわね」
「そう、それを昔から教えられ鍛えられて来た」
「……ええ。決闘ならそれでいいでしょ。しかし、私たちは違う。基本的な考えは屈強な体で相手を倒し。それができないなら技で倒し。それが出来ないなら堪え忍んで隙を伺って倒す。体技心を重要視してる。だから………鍛えたの。現実、体の化物が世界には多い」
「それで鍛えるだけ鍛えたのか」
「技も心もやってきてるでしょ………なら……体が圧倒的に強ければいい。簡単ね」
「銀姉は技術に見えるが?」
「『基本的な考え』と言ったの。力で倒せない事が多いから技が多いの。尊敬する人もどちらかと言えば技術らしいけど……どうみても体が化物なのよね……正史と演史の差がないなんて……化物よね」
「誰の事かはしらないが強くなった気がしない」
「まぁ~実戦でないとわからないわね。でも………きっと強くなってるわ。気持ち悪いみたいに」
銀姉は悪い笑みを浮かべる。その表情を見ながら俺は「試してみたい」と思うのだった。銀姉に届くかを。
トントン
「お嬢様………お客様です」
「ん? 誰かしら?」
「ノブリス様です」
「!?」
「……なにかしらね?」
俺は席を立ち。驚いたように寝室を出た。あわてて玄関へ向かうとそこには………彼がいた。
「ソーマ!? 何故君がここに!?」
「ノブリスこそ………何故ここに!!」
玄関の前で物々しい騎士鎧を着た親友に俺は何か事件の臭いを感じとる。
「あら………本当にノブリスさまだわ。な~にかしら?」
「シャァーリィィイイイ!!」
ノブリスが怒気を孕んだ声で玄関を上がり剣を抜こうとした。俺は肩を掴みノブリスに制止を促す。ノブリスが全く動けなくなり俺を睨み付けた。俺はと言うと驚いた表情でノブリスを見る。「軽くなったのか?」と思うほどに親友の力が弱く振りほどかれない。
「……何があったか先ずは説明するべきでは?」
「ソーマ……こいつが犯人だ」
「……もう一度言う。説明を」
「シンシアが拐われた」
俺はそれを聞いた瞬間。銀姉を見るとニタァ~と笑みを浮かべる銀姉が腕を組み新しい玩具を見つけた嬉々とした顔をする。それに、対して深く俺はため息を吐くのだった。面白そうだと思っているのだろう。きっと。
*
私はシンシアさんの王子ノブリスを屋敷の応接室に入れる。新しい紅茶を用意させて笑みを浮かべて彼の怒鳴り声を聞いていた。
「何か言ったらどうだ!! 悪魔め!!」
「…………」
「シンシアを何処へやった!!」
「……あぁ~紅茶美味しい」
バンッ!!
「……何が目的だ」
「ふふ。私はなーにも知らない」
「そんなはずは!!」
「……ノブリス。彼女にはアリバイがある。それにシンシアを危害を加えることは俺が許さない」
「ソーマ? どう言うことだ?」
「……数週間、この屋敷に居候させて貰っている。その間で怪しい動きはなかった」
「な、なに!?」
「……そう。落ち着いて。何も知らないわ。今、知って悲しんでるところよ」
「……満面の笑み」
私はソーマドールを睨む。「余計なことを言うな」と目で訴える。
「……なんでもない。なんで俺だけに沸点低いんだよ」
ソーマがぶつくさと言いながら紅茶を飲み干す。
「くっ……じゃぁ……本当に何か知らないか? 令嬢達が失踪していることを」
「知らないわ」
「……銀姉は屋敷からあまり出ていない。俺を鍛えてくれてただけだからな」
「くっそ!!」
ドンッ!!
あの大人しい優しい王子が怒りで机を叩く。我を忘れているような気がして私は目を細める。腕を組みながら一つ提案を持ち出した。
「……手を組まない? 情報を見つけて提供するわ」
「お前と手を組めと? 断る。俺は俺で探す!!」
「ふーんそう。ねぇあなたは何処の騎士団出身?」
知っているが知らない素振りを入れる。婚約者だったのに知らないわけはない。
「銀姉、ノブリスの父上は現北騎士団長だ」
「わかった。見つけたら連絡するわ」
「…………」
「……ノブリス悩むな。見つかるかもしれない」
「はぁ……今回だけだ」
「そうそう、素直が一番よ。では待ってなさい……今から調べるから」
「……俺も行こう」
私は客人を残し、寝室で外行きの服に着替えた後に屋敷を出る。ソーマドールを連れて。
*
午後、銀姉と巡回することになった。俺はシンシアさんが拐われた理由を考えるが思い付かない。
「身代金しか考えられない」
「ソーマ、頭が固い。シンシアや他の令嬢も一緒に身代金を取ろうなんて非効率よ。一人一人取っていかないと」
「銀姉は拐われた理由をどう思う?」
「……情報がないからわからないわね。でも、大規模な拐われ事件が誘発してるのは噂で聞いていたわ。シンシアさんも拐われるなんて知らなかったけどね」
「……にしても。情報がないなんてな」
「探す気がないんでしょう………それとも見つけられないか………」
裏路地で銀姉についていくこと数分。二人の騎士に出会った。巡回しているようでチラチラと探しているような雰囲気だ。
「あっ!! 騎士さん騎士さん。教えて欲しいの最近拐われた人の情報を」
「ああ、なんだ。何処の令嬢か知らんが調査の邪魔だ消えろ」
「ええ……はーい。消えるのはお前だよばーか」
底冷えする声が路地に響き。銀姉さんが素早く動き鎧の隙間にナイフを突き立てた。
「ぐわあああああああああ!!」
「お前は誰だ!! 騎士に楯突くとどうなるかわかってるのか!!」
「騎士じゃないでしょ偽物」
「何を!!」
シャッシャッ!!
銀姉がナイフを投げ相手の鎧の隙間に突き刺した。
「あがっ!?」
「ソーマ逃げるよ!!」
「お、おう!?」
「戦闘が始まった?」と思ったら。そんなことはなく俺らの逃走で終わる。落ち着いた場所で俺は疑問を口に出した。
「何故攻撃したんだ!! 相手は騎士だぞ!!」
「偽物だったから」
「はい!? 偽物? どこが?」
「何処の騎士団の紋章だった?」
「……えっと」
「見てないわね。南方騎士団……裏路地での巡回ルートも違うし、なによりもここは東方騎士団の管轄地よ」
「しかし、他の騎士団も来る場合はあるだろう!! 事件が起きてるし………」
「でも……管轄外でわざわざこんな裏路地に調べに来る? 自分とこで調べるでしょう? 怪しいし、動きもトロい。それに有名である私をまったく知らないのはおかしいわ。少しは反応するべきよ」
「……銀髪鬼。たまたま知らないだけな気がする。全員が君を知ってるとは思えない」
「まぁそれも後で確認する。最後は勘と……変な臭い………ノブリスに報告しましょ」
「何を?」
「ついてきてって……追うの」
銀姉は何を考えているかわからなかったが俺は嫌な予感しかしなくなるのだった。
*
ノブリスと合流。銀姉の嗅覚は恐ろしいほど正確だった。合流後に現場に戻り、血の跡の臭いを銀姉の嗅覚で導き出した。
ついていくと路地から出て倉庫区へと足を運んだ。人気の少ない場所で騎士団や商人が商品を集め管理する倉庫が集まった地区。建物は簡素であり。騎士が何人も巡回している場所一角で血が途切れていた。
「騎士もいるのに何故!?」
「……倉庫の中は持ち主の世界よ。勝手に入るのは窃盗と同じ。騎士や歩兵を雇い護らせるけども中は見れないの。そういうビジネスよ」
「……倉庫を買い隠すか」
「誰も中を見に来ないわ。それに………奴隷もここに入るのよ。もう売られちゃったかしら?」
「……………」
ノブリスと俺は黙る。それだけはないという事をお願いしたい。
「………だる………いいえ。何も言わない。ちょっといくわよ」
「……銀姉ひとついいか? もしそうだったらどうするんだ?」
「どうするもこうするも………正面突破よ。一刻を争うわ」
「……一人報告しに行こうぜ」
「いいえ、行かない。突入あるのみ」
俺は冷や汗が出る。「流石に銀姉だけで乗り越えるのは無理だろう」と思うからだ。心配をよそに銀姉は一人で堂々と倉庫の木組の大きい建物に近づき。扉の鍵を確認し。何か………ごそごそしたと思ったら、鍵をあけ、扉を開き様子を伺う。口が裂けそうなほど笑みを浮かべながら。
「やった………いっぱいいる」
「ああ、中にいるんだな」と俺は察した。
「……ノブリスあの中にいる」
「そうか!!」
「ノブリス!?」
ノブリスが銀姉の元へ駆け寄り……俺はそれについていく。
「ノブリスさんは令嬢の拘束の解放と護り。私とソーマは兵を殺す。ノブリスさん頼みましたよ」
「わかった………」
「待て!! 待ってくれ!! 兵が何人いるかわからない!! 凄腕ならどうする!!」
「ソーマドール………特訓の成果を見せて。私は期待してるから………ね? あなたなら出来る」
銀姉のやろう……そんなこと言ったら。
「……わかったよ……ただし……遊びは無しだ」
「ええ~いやだ。ねぇソーマドール」
「……なんだ?」
「競争しよう。何匹仕留めるかでね」
その一言は中で行われる行為を示す。分かりやすい言葉であり戦慄する。
「勝ったら。何もないけどね」
ただただ。中の犠牲確定者に俺は同情するのだった。




