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仁義なき悪役令嬢   作者: 水銀✿党員
悪役令嬢プロローグ
12/59

悪役令嬢の第十二歩: 自分自身を鍛えましょう。恋のために


 俺は朝日によって目が覚めた。そう……目が覚めたのだから。起きようと思う。


「んしょ……」


 だが起きない。いや………正確に言うと動けない。


「あぐっ……」


 それに気がついたように全身が異常に痛い。腕が内側からキシキシと痛みを発し、お腹はナイフを突き入れられている程に。俺はこの痛みを知っている。筋肉痛だ………異常に痛すぎるがその痛みに近い。


「………何故こんなに……いや、昨日の事を考えればそうか………」


 銀姉の鍛え方………いいや、仕打ちのような物。騎士団ではここまではしない行為を銀姉はさせた。


「休日だったな………寝よ………」


 動けない体ではどうしようもない。痛みを押し殺して静かに俺は目を閉じた。







 私はソーマの寝室の扉を勢いよく開けた。陽光が差し、温風が部屋を順繰りする。僕は慌てて窓を閉め、魔法を唱えた。部屋を冷やすように水魔法の派生。氷魔法をちょっこと打ち出す。部屋の温度が下がり過ごしやすい温度になった。


「熱くて死にますわ」


 魔法の発展は非常にいいものと実感しながら。ベットに腰かける。


「すぅ……」

「ふむ。起きなかった………おい」


 私は頬を触れる。


「……起きなさい」

「んん……」

「全く、熱い中でよく眠むれたわね」

「銀姉……いてて」


 頬をつねる。痛みで顔を歪ませるソーマ。


「ふむ、元気。朝食は後で。今は上を脱ぎなさい」

「………銀姉体が動かない」

「そう? つんつん」

「つぅ!?」

「筋肉断裂。まぁ予想通り壊れた………今から回復魔法と薬で癒すから」


 私は彼を起こし、上を脱がす。


「……ほう、鍛えてはいたのね~」


 そこそこの筋肉がついており男らしい体だった。


「鍛えても無理なほど厳しいかったぞ………昨日」

「薬で大丈夫でしたでしょ?」

「動かなくなったぞ……」

「限界まで酷使した。今の限界がそれ」


 私はベットの横に置いている塗り薬を用意する。


「これを全身に塗ってマッサージするから」

「……銀姉が?」

「もちろんよ。何か? ああ………胸は触らないでね。その時はその腕を貰い。部屋に飾ってやろう」

「あっ……いや……」

「ぶつくさと女々しい!! ささっと横になりなさい!!」

「あたたた!!」


 ドサッ


 ソーマドールの体を押し込み倒す。


「最初から……素直でいる」

「………」(目の前に好いてる人がいて素直になれるかよ)


 私は薬瓶を開けて手に馴染ませて彼の体に塗り魔法を唱えた。暖かい手から薬に反応を与える。


「……これも……銀姉の家の秘術か?」

「宗教者の奇跡魔法よ。残念ね」

「ええ……ちょっとそれは………」

「な~に? 神を信奉しないとでも思った? 酷い」

「………」

「残念、私はご飯のときに手を合わせるでしょ? それで十分らしいわね。でも私はもっと尊敬し、崇めているわ」

「…………」(くっそ……いい顔だな)


 私は彼の体を優しく撫でる。女の子より堅いたくましい筋肉。やっぱり男の人だ。


「きひっ………ノブリスがあなたと戦うの楽しみだわ」

「……信奉者のしていい顔じゃない」

「信奉者も面白いほどに黒いわよ………ふふふ」

「………寝てもいいですか?」

「寝てもいいですよ……おやすみ」

「………じゃぁ……寝かせてもらいます」


 彼は目を閉じた。本当にだらしなく。殺すのは簡単なほどに。私に気を許していたのだった。





ユサユサ


「お昼よ」


 優しく揺さぶられ。俺は目を開けて体を起こす。ベットの脇に銀姉が笑顔で首を傾げて聞いてくる。


「どう? 動かせる?」

「あ、ああ………最初より痛み引いて。動ける…………!?」

「どうした?」


 俺は………下半身をみて驚いてしまう。タオルが被させられ、一切何も着ていなかった。


「銀姉!? これ!?」

「……ああ、下半身もマッサージしておいたから。動くでしょ?」

「違う!! なぜこんな姿で………もしや……」

「ふん………可愛らしい物だった」


 俺は顔を押さえる。何て言うことだ。こんな……仕打ちさえ銀姉はするのか?


「見られたぐらいで泣くな!! 女々しい!!」

「これは心境なもんで!! 簡単に納得できるもんじゃないんだぞ!!」

「………ごめん」


 いきなり、申し訳なさそうに胸に手をやり顔を伏せた。だから………そんな可愛い仕草はズルい。


「銀姉………見て恥ずかしくないのか………」

「ミイラになったのを………昔に」

「ひぇ……」


 それは矯正ということだろう。


「見たいですか? 地下にあって……」

「いや……結構です」


 本当に俺はこんな人を好いていていいのだろうかと少し思ったが。こんなに親身になって鍛えてくれてるだけで。その問いはすぐに答えを得る。やっぱ好きだ。


「ふーん。まぁ面白い物ではないですからね。切った小指のがいい?」

「全く興味はございません」

「……ふふ。そう~ではご飯にしましょ」

「待ってくれ!! 服は着させて!!」

「どうぞ」

「………本当に令嬢として欠けていますね。銀姉は」

「褒めてくれてどうも」

「褒めてませんよ」


 銀姉は笑う。本当に可愛く目を細めて。同じ歳とは思えないようなお姉さんの笑み。しかし………行動は子供っぽくて。


「なーにボーとしてるの?」

「なんでもないです」


 見惚れていたと言いたい。正直に。


「お嬢様。お食事お持ちしました」

「ええ、ありがとう」

「………」


 昼ご飯、ホットサンドと豪華な肉料理と野菜が運ばれてくる。それが、何個も。


「お、多くないか?」

「全部食え」

「えっ」

「残さず食え」

「………」

「昨日もいっぱい食べただろ?食べろよ~」


 確かに寝ているだけで空腹ではあるが………


「お嬢様も手伝った料理を残すのですか? ソーマドールさま?」

「えっ!?」

「意外そうな顔ね」

「い、いや………」

「一応、薬の調合が出来るのに料理が出来ないのはおかしいでしょう?」

「………確かに」


 銀姉の意外な面をずっとずっと見ている気だった。まだまだ魅力的な所もあるだろう。関わらなければわからないことだ。


「………」

「おい、ソーマ。私の顔を見続けても腹はふくれないわよ」

「お嬢様違います……ソーマドール殿は………」

「……!?」


 ヤバイ!? もしや好意がバレてる!?


「手が上がらないのでアーンして欲しいのでしょう」

「ほう………自分で食え………愚か者」

「食うよ!!」


 俺はベットから立ち上がりテーブルの料理と対峙した。運がいいのか………銀姉の手料理だ。全部食べきってやる気持ちで挑むのだった。





 夜中、私は……何故だろうか……機嫌がいい。だからだろうか。自分の部屋に置いてある楽器に手をだす。アップライトピアノ。久しぶりに鍵盤を一つ押す。


 ポン


 ソ#の音が部屋に満ちる。気分が乗り、窓を開けた。そして…………私は音楽を奏でる。






 ご飯は無理矢理詰め込み。午後も銀姉に癒して貰った。背面を重点的に。それからも何もせず気がつけば夕飯で。こんどは量は少なかった。


 そう……何もせず。一日が終わる。そう思っていた。


「…………ん?」


 廊下から音楽が聞こえてくる。誰かが歌っているらしい。俺は立ち上がり……歩きだす。部屋から出て音楽が響く場所へ。


「だれ……いいや……銀姉か」


 声でわかる訳じゃない。優しい声なのだ。声を作っている気がする。でも………きれいな歌声で俺はまるでセイレーンの声を思い浮かべた。


 破滅に向かう歌声。そう……破滅の歌声。そう思うのは彼女の特徴からだろう。しかし………それでもいい歌声だと思うのだ。


「全く……魅せ方がうまい………どれだけ………惚らさせばいいんだ」


 トントン


 夜に銀姉に会いに来るなんて。殺されに行くようなもんだなと思いつつ扉を叩いた。


「……あら? ソーマ?」


 扉を開け銀姉が顔を出す。意外そうな声で。


「綺麗な歌声は誰だろうと思って……来てみたら銀姉だったか………」


 嘘をつく。知ってた。そんな気がしてた。


「ふふ、意外かしら? 中へどうぞ」

「いいのか?」

「?」


 首を傾げて無防備な雰囲気を出す。可愛い仕草であり、地獄への片道切符だろうと俺は部屋に入っただろう。しかし、確認はしておく。


「いや………男だし。間違いが」

「大丈夫、首を噛み千切ってやるから」


 ようは、殺すと言っている。やっぱり。


「安心した。お邪魔します」

「ふふ、どうぞ」


 俺は狼の檻に入った。中では、ピアノが置いてあり飾りかと思っていた。


「……今日2回目か3回目の意外そうな面ね」

「だって。銀姉は令嬢らしくない事が……今では令嬢らしいと思えるから」

「一応、令嬢。これも………人の懐に入るためよ。料理は毒を盛るため。音楽はあなたのように引き付けて殺すため。隙を作るために必要なの………1度だけ使える婚約者殺しね」

「…………銀姉は家について何か特別な感情はある?」


 生まれてそんな殺すことばかりで。他と違うなら……そんな事を考えずに生きていけたのではと。


「郷に入っては郷に従え………何度も同じことを聞くのねあなたは………忘れん坊? 仕方ない人ね………」

「そりゃ………」

「親や生まれる場所は選べないの。まぁいいけどね………ふぅ」


 銀姉が俺から離れピアノ前の椅子に座る。ピアノをひきだし、聞き覚えのある音楽が流れた。


「メリーさんの羊~メエメエ~ひつじ~メリーさんの羊~まっ白ね」


 童話を唐突に歌い。それに驚く。メェメェと歌う場所はすごく可愛くて口を押さえた。歌い終った彼女は笑顔で自分に言う。


「懐かしいでしょ? 子供の時は何処でも一緒よ」

「ええ、懐かしいです」


 そのあとも俺が知っている曲……童話を中心だったかを彼女を歌ってくれたのだった。


 






 
















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