悪役令嬢の第十二歩: 自分自身を鍛えましょう。恋のために
俺は朝日によって目が覚めた。そう……目が覚めたのだから。起きようと思う。
「んしょ……」
だが起きない。いや………正確に言うと動けない。
「あぐっ……」
それに気がついたように全身が異常に痛い。腕が内側からキシキシと痛みを発し、お腹はナイフを突き入れられている程に。俺はこの痛みを知っている。筋肉痛だ………異常に痛すぎるがその痛みに近い。
「………何故こんなに……いや、昨日の事を考えればそうか………」
銀姉の鍛え方………いいや、仕打ちのような物。騎士団ではここまではしない行為を銀姉はさせた。
「休日だったな………寝よ………」
動けない体ではどうしようもない。痛みを押し殺して静かに俺は目を閉じた。
*
私はソーマの寝室の扉を勢いよく開けた。陽光が差し、温風が部屋を順繰りする。僕は慌てて窓を閉め、魔法を唱えた。部屋を冷やすように水魔法の派生。氷魔法をちょっこと打ち出す。部屋の温度が下がり過ごしやすい温度になった。
「熱くて死にますわ」
魔法の発展は非常にいいものと実感しながら。ベットに腰かける。
「すぅ……」
「ふむ。起きなかった………おい」
私は頬を触れる。
「……起きなさい」
「んん……」
「全く、熱い中でよく眠むれたわね」
「銀姉……いてて」
頬をつねる。痛みで顔を歪ませるソーマ。
「ふむ、元気。朝食は後で。今は上を脱ぎなさい」
「………銀姉体が動かない」
「そう? つんつん」
「つぅ!?」
「筋肉断裂。まぁ予想通り壊れた………今から回復魔法と薬で癒すから」
私は彼を起こし、上を脱がす。
「……ほう、鍛えてはいたのね~」
そこそこの筋肉がついており男らしい体だった。
「鍛えても無理なほど厳しいかったぞ………昨日」
「薬で大丈夫でしたでしょ?」
「動かなくなったぞ……」
「限界まで酷使した。今の限界がそれ」
私はベットの横に置いている塗り薬を用意する。
「これを全身に塗ってマッサージするから」
「……銀姉が?」
「もちろんよ。何か? ああ………胸は触らないでね。その時はその腕を貰い。部屋に飾ってやろう」
「あっ……いや……」
「ぶつくさと女々しい!! ささっと横になりなさい!!」
「あたたた!!」
ドサッ
ソーマドールの体を押し込み倒す。
「最初から……素直でいる」
「………」(目の前に好いてる人がいて素直になれるかよ)
私は薬瓶を開けて手に馴染ませて彼の体に塗り魔法を唱えた。暖かい手から薬に反応を与える。
「……これも……銀姉の家の秘術か?」
「宗教者の奇跡魔法よ。残念ね」
「ええ……ちょっとそれは………」
「な~に? 神を信奉しないとでも思った? 酷い」
「………」
「残念、私はご飯のときに手を合わせるでしょ? それで十分らしいわね。でも私はもっと尊敬し、崇めているわ」
「…………」(くっそ……いい顔だな)
私は彼の体を優しく撫でる。女の子より堅いたくましい筋肉。やっぱり男の人だ。
「きひっ………ノブリスがあなたと戦うの楽しみだわ」
「……信奉者のしていい顔じゃない」
「信奉者も面白いほどに黒いわよ………ふふふ」
「………寝てもいいですか?」
「寝てもいいですよ……おやすみ」
「………じゃぁ……寝かせてもらいます」
彼は目を閉じた。本当にだらしなく。殺すのは簡単なほどに。私に気を許していたのだった。
*
ユサユサ
「お昼よ」
優しく揺さぶられ。俺は目を開けて体を起こす。ベットの脇に銀姉が笑顔で首を傾げて聞いてくる。
「どう? 動かせる?」
「あ、ああ………最初より痛み引いて。動ける…………!?」
「どうした?」
俺は………下半身をみて驚いてしまう。タオルが被させられ、一切何も着ていなかった。
「銀姉!? これ!?」
「……ああ、下半身もマッサージしておいたから。動くでしょ?」
「違う!! なぜこんな姿で………もしや……」
「ふん………可愛らしい物だった」
俺は顔を押さえる。何て言うことだ。こんな……仕打ちさえ銀姉はするのか?
「見られたぐらいで泣くな!! 女々しい!!」
「これは心境なもんで!! 簡単に納得できるもんじゃないんだぞ!!」
「………ごめん」
いきなり、申し訳なさそうに胸に手をやり顔を伏せた。だから………そんな可愛い仕草はズルい。
「銀姉………見て恥ずかしくないのか………」
「ミイラになったのを………昔に」
「ひぇ……」
それは矯正ということだろう。
「見たいですか? 地下にあって……」
「いや……結構です」
本当に俺はこんな人を好いていていいのだろうかと少し思ったが。こんなに親身になって鍛えてくれてるだけで。その問いはすぐに答えを得る。やっぱ好きだ。
「ふーん。まぁ面白い物ではないですからね。切った小指のがいい?」
「全く興味はございません」
「……ふふ。そう~ではご飯にしましょ」
「待ってくれ!! 服は着させて!!」
「どうぞ」
「………本当に令嬢として欠けていますね。銀姉は」
「褒めてくれてどうも」
「褒めてませんよ」
銀姉は笑う。本当に可愛く目を細めて。同じ歳とは思えないようなお姉さんの笑み。しかし………行動は子供っぽくて。
「なーにボーとしてるの?」
「なんでもないです」
見惚れていたと言いたい。正直に。
「お嬢様。お食事お持ちしました」
「ええ、ありがとう」
「………」
昼ご飯、ホットサンドと豪華な肉料理と野菜が運ばれてくる。それが、何個も。
「お、多くないか?」
「全部食え」
「えっ」
「残さず食え」
「………」
「昨日もいっぱい食べただろ?食べろよ~」
確かに寝ているだけで空腹ではあるが………
「お嬢様も手伝った料理を残すのですか? ソーマドールさま?」
「えっ!?」
「意外そうな顔ね」
「い、いや………」
「一応、薬の調合が出来るのに料理が出来ないのはおかしいでしょう?」
「………確かに」
銀姉の意外な面をずっとずっと見ている気だった。まだまだ魅力的な所もあるだろう。関わらなければわからないことだ。
「………」
「おい、ソーマ。私の顔を見続けても腹はふくれないわよ」
「お嬢様違います……ソーマドール殿は………」
「……!?」
ヤバイ!? もしや好意がバレてる!?
「手が上がらないのでアーンして欲しいのでしょう」
「ほう………自分で食え………愚か者」
「食うよ!!」
俺はベットから立ち上がりテーブルの料理と対峙した。運がいいのか………銀姉の手料理だ。全部食べきってやる気持ちで挑むのだった。
*
夜中、私は……何故だろうか……機嫌がいい。だからだろうか。自分の部屋に置いてある楽器に手をだす。アップライトピアノ。久しぶりに鍵盤を一つ押す。
ポン
ソ#の音が部屋に満ちる。気分が乗り、窓を開けた。そして…………私は音楽を奏でる。
*
ご飯は無理矢理詰め込み。午後も銀姉に癒して貰った。背面を重点的に。それからも何もせず気がつけば夕飯で。こんどは量は少なかった。
そう……何もせず。一日が終わる。そう思っていた。
「…………ん?」
廊下から音楽が聞こえてくる。誰かが歌っているらしい。俺は立ち上がり……歩きだす。部屋から出て音楽が響く場所へ。
「だれ……いいや……銀姉か」
声でわかる訳じゃない。優しい声なのだ。声を作っている気がする。でも………きれいな歌声で俺はまるでセイレーンの声を思い浮かべた。
破滅に向かう歌声。そう……破滅の歌声。そう思うのは彼女の特徴からだろう。しかし………それでもいい歌声だと思うのだ。
「全く……魅せ方がうまい………どれだけ………惚らさせばいいんだ」
トントン
夜に銀姉に会いに来るなんて。殺されに行くようなもんだなと思いつつ扉を叩いた。
「……あら? ソーマ?」
扉を開け銀姉が顔を出す。意外そうな声で。
「綺麗な歌声は誰だろうと思って……来てみたら銀姉だったか………」
嘘をつく。知ってた。そんな気がしてた。
「ふふ、意外かしら? 中へどうぞ」
「いいのか?」
「?」
首を傾げて無防備な雰囲気を出す。可愛い仕草であり、地獄への片道切符だろうと俺は部屋に入っただろう。しかし、確認はしておく。
「いや………男だし。間違いが」
「大丈夫、首を噛み千切ってやるから」
ようは、殺すと言っている。やっぱり。
「安心した。お邪魔します」
「ふふ、どうぞ」
俺は狼の檻に入った。中では、ピアノが置いてあり飾りかと思っていた。
「……今日2回目か3回目の意外そうな面ね」
「だって。銀姉は令嬢らしくない事が……今では令嬢らしいと思えるから」
「一応、令嬢。これも………人の懐に入るためよ。料理は毒を盛るため。音楽はあなたのように引き付けて殺すため。隙を作るために必要なの………1度だけ使える婚約者殺しね」
「…………銀姉は家について何か特別な感情はある?」
生まれてそんな殺すことばかりで。他と違うなら……そんな事を考えずに生きていけたのではと。
「郷に入っては郷に従え………何度も同じことを聞くのねあなたは………忘れん坊? 仕方ない人ね………」
「そりゃ………」
「親や生まれる場所は選べないの。まぁいいけどね………ふぅ」
銀姉が俺から離れピアノ前の椅子に座る。ピアノをひきだし、聞き覚えのある音楽が流れた。
「メリーさんの羊~メエメエ~ひつじ~メリーさんの羊~まっ白ね」
童話を唐突に歌い。それに驚く。メェメェと歌う場所はすごく可愛くて口を押さえた。歌い終った彼女は笑顔で自分に言う。
「懐かしいでしょ? 子供の時は何処でも一緒よ」
「ええ、懐かしいです」
そのあとも俺が知っている曲……童話を中心だったかを彼女を歌ってくれたのだった。




