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仁義なき悪役令嬢   作者: 水銀✿党員
悪役令嬢プロローグ
11/59

悪役令嬢の第十一歩: ライバル鍛えましょう。恋のために

 明日から夏休み。学園での魔法石整備や学園内の温度調整が厳しくなる時期。令嬢たちの意向や、遠くから来ている令嬢達のために1月ほど学園が閉じる。


 一応は研究室や訓練所などは解放されているが、使う者は限られている。しかし、カフェテリアは細々とやっており行き場のない令嬢に結構人気なのだ。


「……シンシアさん。実家に帰られるのですか?」


「そうだ。遠い場所だから大変との事だ」


「……ノブリス。君に聞いたわけではないがそうなのだろう。気を付けて」


「はい!! 二人ともまた……2学期でも仲良くしてください」


 シンシアはいつもの丸い可愛い顔で笑顔を振り撒く。小動物のような護ってやりたくなる人だ。本当に君の爪垢を誰かさんに飲ませてやりたい。


「……ええ、もちろん。そうだこれを………2学期始まる前に開封し読んでおいてください」


「なんだそれは? ソーマ?」


「……開封したらわかる。銀姉の対応書と思っておいてくれ。そういえばハンカチは返したよ」


「受け取ってくれましたか?」


「……もちろん」


「凄いですね………」


「ああ、凄いな……」


「……何がです?」


 俺は首を傾げ。シンシアは尊敬の眼差し。ノブリスは奇っ怪な者を見る眼差しを向けた。


「……ああ、仲が良いことですか。たまたまです」


「羨ましいです。何度も言います。羨ましいです」


「……羨ましいでしょう」


「僕は全くそうは思わない」


 ノブリスは「あの女」と悪態をつく。俺はそれに苦笑いを向けた。


 思えば数ヵ月。学園に入ってからすぐに振り回され。苦しまされ。何度も迷惑をかけて………銀姉ばかりの1学期だった。


 彼女と関わった者は皆が「不幸だった」と言うだろう。しかし、俺は彼女に関わった者で唯一。「幸せだった」と言えるのではないだろうか。


 胸の内をしっかり喋ることを教え、俺をバカにしながらも……心の内を教えてくれた。そして………あんな可愛い笑顔を向けてくれる。


「……楽しかった」


 そう言えるぐらいの濃い1日ばっかりだった。


「楽しかったです……私も。銀姉さま。大変でしたけど。でも………二人に逢えてよかった」


「シンシア……ああ。僕もだよ」


「……ええ。そうですね」


 全く違う解釈をされたようだが空気を読んで俺は合わせた。


「そういえば銀姉さまは?」


「……今日は一人で帰りました」


「本当に自由な奴だな」


「……ええ」


 それが「いいとも悪い」とも言える悪魔的な令嬢なんですがね。








 夏休み初日。俺は銀姉の住む屋敷の玄関に立っていた。荷物を先に送っており、元お父さんが住んでいた部屋を借りることになった。今から24時間、好きな人と同じ屋根の下だ。もし、何も知らないければ喜べるだろう。


 だがここは悪名高き銀姉の城。俺は震える手で大きく鐘を鳴らした。


「ソーマドール・マクシミリアン様ですね。どうぞお入りください」


「……はい」


 綺麗な使用人の女性に連れられ。部屋を案内される。部屋の中に入ると予想通り、銀姉がいた。窓に佇み。風に銀髪を靡かせて片手に恋愛小説を持ち。耳に髪をかける。妖艶な美しさに声を失う。その姿は天使のように美しい。


「あら、やっと来た………遅かった」


「すいませんね。銀姉」


「一冊読み終える所だったわ。読み返しって必要ね。もう、内容忘れていたわ」


「そうですか………銀姉!! これから一月お願いします!! 銀姉より強くなりたいです!!」


「ふふ、なれるかしら?」


「やってみなくちゃわからない」


「そうね~クスクス。その顔が悲痛と悲鳴に変わるのが楽しみね」


「………」


 俺は背筋が冷える。天使と思えるほど美しい外見の中に悪魔がいると。これから24時間の恐怖が体を覆った。


「動きやすい服に着替えなさい」

「は、はぁ………」

「外周走るわよ」

「外周?」

「王国の外周ね」


 俺は…………考えが甘いことを知った。






 王国の外周とは壁の上。魔物や敵から守るための城壁。その上は弓兵や魔法使いなどが攻撃できるよう広い足場がある。もちろん兵士が循環している。そこを俺は走る。全力で。夏の灼熱の日差しと熱に体が悲鳴を上げる。銀姉が持ってきた竹の水筒をなん本も飲み干す。ボタボタと汗が落ち。服はびしょびしょになった。


「ゼハ………ゼハ………」

「1周でへばった?」

「………どれだけ………広いか………」

「知ってるわ。でも昼には帰れるから上等。これ飲みなさい」

「……はぁはぁ……んぐっ!!」


 エリクサーもどきを手渡され飲む。体がフワッと軽くなった気がした。


「凄い疲れが取れる!?」

「あっ気のせいよ。ただ疲れを感じないだけ」

「!?」


 俺は銀姉を見る。


「ふふ。そんな悲しそうな顔をしない………帰るって飯。それからまた、訓練よ」

「…………」

「一日目で弱音を吐かないでね。期待してるから」

「……わかった。吐かない」


 期待してるからなんて言われて。吐けるわけがない………絶対期待に答えてやる。


「いい顔よ……では……お昼にしましょ」


 俺たちは壁を降り、屋敷に帰って来た。ご飯は喰えそうも無かったが。銀姉がむりやり捩じ込み。昼食はそれで終わった。







 地獄の午後が始まる。体の疲れは無いがそれが紛い物と言われ、その恐怖を覚える中でおれは。


「おい、椅子が震えている」

「…………」

「ほら、腕を下げ」


 腕立て伏せの状態で銀姉に乗られていた。プルプルと我慢するが重たい。銀姉は女性とは思えないほど重たい。熱い日差しは屋敷の影で涼しいが。それでも汗が滝のように流れていく。時間ごとに徹底した水分補給と岩塩をいただいているがそれでも……キツイ。


「い、いつまで……こ、これを………」

「午後いっぱい。騎士さんだから~余裕でしょ?」

「うぐぅ……」


 弱音を吐かないと誓った手前吐かないが。もう、吐きそうなほど辛い。腕と胸の辺りが感覚がなくなるほどにピリピリするのだ。


 べちゃ


「ぐっ………」

「なっさけな~」


 屋敷の芝生に体が吸い寄せられる。銀姉が立ち上がり。俺の顔を掴んだ。


「もうやめる? その程度なの? あなたの愛は?」

「うわああああああ!!!」

「ほら!! まだ腕立て伏せできるじゃない~今度は私は乗らないから、できるわね」


 糞やろう………そう。罵ってやりたかったが………これだけをしないと届かないとわかった。何故、こんなに厳しくできるか。それは銀姉も同じようにやって来たに違いない。


「はぁはぁ……」

「そそ、ゆっくり上げる下げるを繰り返す」


 銀姉がずっと俺を見守ってくれている。シンシアを奪わせるために鍛えているだろう。しかし……俺は目の前の威張る女性を倒すだけ強くなりたかった。


「なーに? こっち向いて。乗って欲しい?」

「……」ぶんぶん

「乗ってあげるわぁ~」


 体が壊れるのが先か心が壊れるのが先か………わからない。







 夜、恐怖の1日が終わった。エリクサーもどきと言うドーピング材のような物を飲まされ。風呂に浸かり汗を流し綺麗にした。動きがぎこちないが痛みはない。風呂に入り終え寝室に戻って来た。すると……


「んっ……!?」


 寝室の窓に今朝と一緒の佇みで銀姉はいた。窓から月光が彼女を照らし。銀色に髪を輝かせる。その美しい光景は昼間とは違い。夜の女王、夜の人間であることを示していた。


「……今日は月が綺麗ね」

「そうだな………」


 月よりも君が綺麗だなんて言えるわけがない。いつか………いつか胸の内を言える日が来て欲しい。焦がれる。


「さぁ、これを飲んで今からすぐに寝なさい」


 机に1本の薬瓶。今日でなん本飲ませる気だろう。


「よっと」


 窓から降りて俺の前にたち顔を近付けた。


「今日は1日、お疲れ様……明日は休みよ」

「お、おう」


 綺麗な瞳と長いまつげが見え鼓動が早くなり。抱き締めたい衝動に駆られる。


「流石、努力だけは得意な人。よく頑張った、カッコ良かったぞ……」

「………そ、そうか」


 べた褒め。あまりの真っ直ぐな褒め方に照れが来て顔を背ける。


「ふーん。せっかく褒めてやってるのにその態度か………仕方ない人ね」

「!?」


 俺は……ドキッとする。妖艶な声が月明かりだけの部屋で響く。


 まだまだ俺は彼女を知らない事が多いいようだ。


「じゃ~おやすみ」


 彼女は肩を叩いて部屋を出た。取り残された俺は彼女の心に響いた声を反芻し薬を飲む。


「ん!?」


 飲んだ瞬間眠気に襲われる。そしておぼろげながら……理解した。睡眠薬だと。ベットに横になり俺は大の字のまま目を閉じた。


「………仕方ない人か………」


 仕方ない人。俺はそう、また………言われたいなと想いながら……意識が…………闇に落ちるのだった。 





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