文化祭5
今年の文化祭の目玉行事だと思われる、スクールカースト制度を利用した、成敗、下剋上勝負のトーナメント大会が、体育館で行われていた。
「……結構、人がいるんだな」
こんなふざけた企画に、誰が観に来るのかと思っていたが、それなりに生徒がいて、そして一般客も見物しに来ていた。
葛城に軽く説明を聞いたが、このトーナメント大会のみ、本来なら流れるはずの電流が、流れないらしい。ピーっと音が鳴り響いたら、その生徒は負けという仕組みに変えてあるようだ。
今のご時世、体罰や、教育の仕方にうるさい。もし公衆の面前で、電流なんか流したら、何を言われるか分からないからだろう。これからも、ずっとそうして欲しいんだが。
「松宮菜摘。あんたも見に来たの?」
菜摘と葛城と別れた後、俺は体育館の壁に寄りかかって、中の様子を伺っていると、隣には菜摘のクラスのトップ、斉藤が横にいた。
「そ、そう言う斉藤――さんも、見に来たのー?」
「折角の文化祭なんだし、こう言った催しも見たかったの」
ずっと監視ばかりでは、斉藤も嫌になってくるのだろう。証拠に、斉藤は大きな溜息をついていた。
「松宮菜摘。私、こう言った事には興味ないから、ルールを全く知らないの。あんたは知ってる?」
正直な所、新しくなった成敗、下剋上勝負は、一日に1,2回行われる程度。ほとんどが、遊び目的でやっていたり、購買のパンを賭けて勝負したりと。誰かを成敗したり、上に目指そうと思って勝負しているのは、あまり見た事は無い。
以前の選挙や演説などで戦う成敗、下剋上勝負と比べたら、勝負は学校生活に馴染みつつあるが、まだ盛んに行われている様ではないようで、斉藤のように、全くやった事の無い、勝負の内容を知らない生徒も多いようだ。
「俺が――ヒロ君が、よくやっているから、私もそれなりに詳しいかなー?」
「あんたの彼氏、結構野蛮なのね」
誉め言葉なのか、引かれているのか。勝負ばかりするのは、あまり良くない印象を持たれてしまうのだろうか。
「会場の皆さまっ、お待たせしましたっ! 遂に準々決勝、準決勝に王手をかけるのは、一体どのチームなのか!? ここまで上り詰めた強者たちのチームワークに注目しながら、応援していきましょうっ!」
開始時刻になったのか。体育館の真ん中には、ポニーテールを揺らしながら司会をしている、内田先輩がいた。こう言った勝負事には、必ず内田先輩がいる。確か、3軍だったはずだが、生徒会や、スクールカースト制度には、気に入られているようだ。
「それでは、準々決勝1回戦。まずは2年生の本庄君と石田君ペア対、3年4組の島田君、山下君ペアの勝負ですっ!」
これは知らなかったが、どうやらこのトーナメント大会は、1年生から3年生までの混合で戦うようだ。俺たちの学年しか知らないので、2年生や3年生がどれだけの力を持っているのは、俺も分からない。
「松宮菜摘。知っているなら、ルールを教えて」
ルールを知れば、少しは斉藤も観戦を楽しめるだろう。要点だけ言っておけば、斉藤も理解するだろう。
スクールカースト制度実行委員会が考えた、この成敗、下剋上勝負は、日頃の生活態度、定期テスト、スクールカースト制度の順位を踏まえて、自分のパラメーターが決まる。
生活態度、定期テスト、スクールカースト制度を点数で算出し、そしてその合計点が自分の体力になり、合計点の半分の数値が、攻撃力となる。
ICカードのような生徒証が武器になり、自分の階位を示すバッジに生徒証を触れされると、攻撃して戦って行き、体力の数値がゼロになると、その生徒は負けになり、本来なら電流が流れる。
「勝負ありっ! 勝者は2年生の本庄君と石田君ペアですっ!」
斉藤に勝負の説明をしていると、いつの間にか勝負が終わっていた。
「あの男子生徒の動き、凄かった~!」
「高校生なのに、よく軽やかな動きが出来るよね~」
興奮した司会の内田先輩、拍手や、歓声を上げている観客から察すると、それなりに白熱した勝負だったようだ。ちゃんと見ておけばよかった。
「まあ、こう言った催しとして見るならいいかもしれないけど、私はやりたくないわ」
斉藤は、あまり興味がないようで、少し暇そうに腕を組んで、目を細めて勝負を見ていた。これを機に、斉藤も成敗、下剋上勝負にのめり込む様子ではないようだ。変な風に、戦闘狂になる事はなさそうだ。
「……おちおち休んでいられないわね」
そう思っていると、俺たちの元に、菜摘のクラスメイトが斉藤の元にやって来ていた。どうやら、お化け屋敷でトラブル発生らしい。そのトラブル解決のために、斉藤は俺と別れた。
「続いては3回戦! 今回注目のペア、1年生の葛城さん、松原君ペア対、同じく1年生、法田君と榎本君の勝負ですっ!」
しばらく一人で勝負を見ていると、遂に菜摘と葛城の出番になった。しかも菜摘と法田の勝負。菜摘と法田の間に、変な因果関係があるようだ。
「よう松原。お前、松宮という変な彼女がいるのに、そんな風変わりな女と、堂々と浮気か?」
見た目は俺だが、中身は菜摘だ。再び菜摘と関わってしまうのは、こいつも本当に運がない。
「浮気ではないよ~。これは、変な人が良からぬ事をしないように、葛城さんと手を組んでいるだけ――」
「そうなの? 私は、松原君とデートしているつもりなんだけど……いいえ、共闘しているだけです」
変に菜摘を茶化したのが失敗だったようで、目を細めて睨む、中身が菜摘の俺を見て、葛城は縮こまってしまった。
「お腹空いたし、早く勝負しようよ~」
教室から体育館に移動するときにも、菜摘はいつの間にか買ったクレープを食べていたのに、もう腹が減っているのか? どれだけ食えば、菜摘の胃袋は満たされるのだろうか。
「そう言う事なら、勝負に入りましょう! それでは、開始ですっ!」
内田先輩が合図すると、菜摘は目の止まらぬ速さで、榎本の背後に立っていた。
「はい。終わり」
忍者のように、菜摘は榎本の背後から、俺の生徒証でバッジに触れて、バッジからピーっと音を鳴らした。
「さすが松原君。その調子で、法田君を瞬殺しちゃって」
「はーい」
戦いを見ている感じだと、俺が葛城の駒になって、葛城は高みの見物、もしくは指令しか出していない。菜摘が速攻で倒すより、葛城が戦った方が早いような気もする。
元トップの葛城は、成績はトップに匹敵するのだから、法田なんて、一瞬で葬る事が出来るはずだ。このまま、葛城の意のままになっていると、学校中に、俺の黒歴史、ヒビト君の話よりも変な噂が立ちそうだ。
「葛城。お前も一歩ぐらい、動けよ。このまま松原に任せっぱなしで、元トップとしていいのか?」
「動きたくないじゃないわ。動けないの」
なぜ葛城は動けないのか。具合悪いとか、どこか怪我をしているようには見えないが?
「いいの? 私、今日が文化祭だということを忘れて、布の面積が少ないパンツを穿いて来ちゃったの。あまり派手に動いたら、スカートがめくれ上がって、体育館が血に染まると思うの。それでも良いの?」
「か、構わねえ! どんとこい!」
葛城を気に入らなさそうに言っていたが、やはり思春期の男子だ。女子のそのような話を聞いてしまったら、動揺してしまう。俺だって、早く菜摘よりも、葛城が活躍しないかと、待ち望んでいる。
「ホント、男の子って面白いわね」
クスッと葛城が笑うと、法田の方から、ピーっと音が鳴った。葛城の話に気に取られ、ゆっくりと歩み寄っていた菜摘に、俺の生徒証が法田のバッジに触れて、勝負が決まっていた。
「ちょ、ちょっと問題発言もありましたが、葛城さんと松原君ペアの勝利で、準決勝進出ですーっ!!」
とにかく勝負だ。葛城には色んな意味で活躍に期待をしていたが、準決勝に行けたのは良かった。
「さて私たちは、残りの試合を観戦していましょうか」
「そうだね~」
さっきまで体育館の前で勝負していた葛城と菜摘が、いつの間にか俺の横にいた。こいつら、この気配を消す技を活かせば、決勝戦でも余裕で勝てるだろうに、どうして俺の前でしか使わないのだろうか。
「まだ試合があるんじゃないのか?」
「準決勝、決勝は明日なの」
もう時間は、昼の3時前。まだ準々決勝は残っているので、決勝まで行ってしまったら、夕方は超える可能性があるので、2日間に分けて行うのだろう。
「ねえ、松宮さん。私のさっきの話を信じる?」
「な、何の事だ?」
「私の下着の感想を聞かせて欲しいの。これで松原君が喜ぶと思う?」
そう言って、葛城は俺に向けてスカートのすそを持ち上げて、俺にスカートの中を見せつけて――
「誘惑に負けちゃダメだよ~」
そう言って、菜摘は本来の自分の体に構わず、俺の目に指を入れられ、目つぶしをした。変な時に空気を読むマイペースな幼なじみを恨む。
だが、ほんの一瞬だけ見えたが、葛城の下着は黒で、布の面積は多かった気がする。




