文化祭4
「いらっしゃいなのですよ~!! って、菜摘ちゃんではないですか~」
「ど、どうもー」
ようやく俺のクラスに戻れたので、顔出し程度に、クラスに入ってみると、俺たちの出し物は大盛況だった。
店の名前は、焼肉定食を何とか回避し、木村がボソッと言った名前、メイドインジャパンで行く事にして、実は日本が発祥の料理、冷やし中華とナポリタン。プリンアラモードに、緑茶を提供するお店に行きついた。
「店員が可愛いな」
「俺、両方好みだ」
近くにいた客の声から察するに、この盛況は料理の味ではなく、ウェイトレスの評判の方らしい。
着物姿の紫苑、着慣れたメイド服を着て、楠木が接客しているおかげで、この行列。そして心配していた料理は、中身が俺の菜摘が料理を器用に作り、木村が盛り付けをするシフトで、お店を回していた。
「可愛いJKの料理を食べたいなら、ここに並ぶのがいいと思いますよ~。最後尾はこちらですー」
そして、俺たちのクラスには関係ない葛城が、手作りのプラカードを持って、お客の列を整理していた。体育館で行われているはずの、成敗、下剋上勝負のトーナメント大会は、どうなったのかは知らないが、爽やかな表情からだと、順調に勝ち進んでいるのだろう。
「松宮さん。貴方も並ぶ?」
「な、並ぼうかなー」
昼は、フランクフルトしか食べていないので、まだお腹が空いている。ナポリタンでも食べて、腹を満たすことにしよう。
列に並び、ナポリタンを注文して、パックに入ったナポリタンを貰って、机に座って昼食をいただくことにした。
食べてみると、美味しいナポリタンだ。菜摘は料理が出来るので、文化祭の間だけ、菜摘と入れ替わっていた方がいいのかもしれない。このまま人気を保ち、1軍の奴らを見返したいなら、この最高の状態を維持するしかないだろう。
「松宮さんって、やればできる子なのね」
プラカードをお客に持たせて、葛城は俺の席の前に座ってきた。
「楠木さんのメイド服。高村さんの着物、私のプラカードも松宮さんが考案したの。貴方のマイペースな幼なじみは、松原君よりもしっかりしているかも――」
「葛城。どうして、俺と菜摘が入れ替わっている事を知っている?」
俺と菜摘が入れ替わっているのは、俺と菜摘、楠木しか知らない事だ。どこで葛城は、俺と菜摘が入れ替わっている事を知ってしまったのだろうか。
「松原君が、さっきまで料理しながら、栗ようかんを食べていた。口調が、凄くまったりしている所。楠木さんの挙動がおかしかった事。そして、貴方の棒読みの演技で確信が持てたの」
流石、元トップの洞察力と言ったところか。まあ、よく観察すれば、誰だってそう思えてくるだろう。
「どうしてこんな事に?」
「階段から転げ落ちたら、こうなってた」
「まさか、何年か前にヒットした映画みたいな現象が起きるなんて……。ねえ、松原君。松宮さんの豊満なおっぱいは触った――」
こいつは何を言っているのだろうか。とりあえず、葛城の頭をチョップしておいた。
「……この力加減は、間違いなく松原君ね。……けど私は、誰かに言いふらす事なんてしないわ。……正直に言ってみて。松宮さんの、おっぱいの感想を――」
しつこいので、机に備えてあった、練りからしのチュープを、葛城の口にツッコんで、思いっきり握り、練りからしを口の中に、噴射させると、葛城は顔を赤くして、地面にのたうち回っていた。これで、しばらくは大人しくなるだろう。
「ヒロ君。私は気にしないから、遠慮なく触ればいいと思うな~」
いつの間にか抜け出してきた菜摘は、俺の横の席に座り、そして栗ようかんを食べていた。
「その代わり、ヒロ君の体を触ってもいいよね~」
「ダメに決まっているだろ」
この様子だと、どこかのタイミングで俺の体を触っているんじゃないよな……。チラッと、俺の股の方を見たのは気のせいだろう。
「と言うか、厨房はどうしたんだ?」
「塚本君、料理が出来るみたいだから~」
あいつ、料理が出来るのか。凄く意外な特技だ。
「まあ、俺の代わりに、菜摘はよく頑張った」
「褒めてくれるなんて嬉しいな~」
菜摘が頑張った事に、間違いはない。菜摘が調子に乗らない程度で褒めることにしよう――
「何だよ。この店の料理、クソマズいわ~! ふざけるのも、店の名前だけにしろってな~」
俺が座っている席の近くで、どこかのクラスの男子生徒が、大きな声で、菜摘が一生懸命作ったナポリタンを批評していた。
「と言うか、他の店はちゃんとジャンルが決まっているのに、この店だけジャンルがバラバラじゃないかよ~! この店の責任者、バカじゃないのか~?」
「不満に思うのは、一人だけでやってくれませんかー?」
俺たちは、この文化祭の日のために、色んな準備、努力をしてきた。それを知らず、ただ単に批判をするのにイラッときて、俺は男子生徒が座る椅子を蹴飛ばした。
「な、何だよお前っ!」
「クソ不味い料理を提供して、ジャンルも分からない、バカな責任者ですが?」
責任者がいると思っていなかったのか、この男子生徒は、すぐに逃げ出した。
「待てっ!」
何の目的で、あの男子生徒が、俺たちの店を批判をしていたのかは知らないが、俺は男子生徒を追いかけるために、廊下を走ろうとしたが、教室を出たすぐの所で、誰かに足を引っかけられて、盛大に転んでしまった。
「廊下は、走っちゃダメなのですよ。松宮さん」
「……中村か」
この辺りを見回りしていたのか、俺たちのクラスのトップ、中村が俺の足を引っかけて、転ばせたようだ。
「そ、そんな事より、俺の前――じゃなくて、私の前に、男子が走らなかったかなー?」
「見知らぬ男には触りたくありませんので、そのまま行かせたのです」
何て役に立たない学年のトップだ……!
「今逃がした生徒は、私たちのクラスで営業妨害をしたんだよねー。そんな事、トップの中村さんが見逃して良いのかなー?」
「4組の山本さんが、営業妨害ですか。それは見過ごせないのです」
見知らぬ男子と言っていたが、顔と名前はしっかりと覚えているようだ。俺の話を聞いた途端、中村はすぐに俺と別れ、廊下を歩いて行った。
そして数分後。校内放送で、中村が山本にペナルティを課すと、遠くから悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいだと思い、昼食の続きを食べる事にした。校内放送でも、ペナルティは課せられるようだ。俺たちも、用心した方がいいようだ。
「松原君。そろそろ、行くわよ」
「はーい」
昼の2時ごろ。葛城は菜摘を呼びつけて、どこかに行こうとしていた。
「松宮さんも、もちろん来るわよね?」
「どこに?」
「成敗、下剋上勝負の準々決勝。私たちの勇姿を見ていて欲しいの」
そう言えば、俺と葛城で成敗、下剋上勝負のトーナメント大会に出るんだったな。葛城も、何度か実戦をしているので、勝負には慣れているはず。だが、中身が菜摘のおかげで勝てているのだろう。ドッジボールでは、一回もボールに当たった事の無い菜摘だ。その能力を活かせば、菜摘と葛城のコンビで勝てるだろう。
「マロンと、果歩ちゃんも頑張って欲しいのですよ~」
紫苑が、葛城たちにエールを送り、葛城はにこっと微笑んでいた。
「……頑張って」
小さく呟く木村も、葛城たちを応援していた。
「お店は、私たちがいるから心配しないで。存分に戦ってきなさい」
「メイドの格好をしているのだから、メイド喫茶みたいに、萌え萌えキュンとかしてほしいわね」
「調子に乗るんじゃない」
楠木に紙コップを投げられると、葛城はおでこを痛そうに撫でながら、成敗、下剋上勝負が行われる体育館に向かった。




