冷やし中華とナポリタン
週末。俺の家で、文化祭の出し物で、和食の店で出す、料理の練習が行われる事になった。
「ナポリタン。冷やし中華。そしてデザートに、プリンアラモードをチョイスしてみた」
天津飯や、エビチリ、エビフライなど。ほぼ料理をしない俺たちには難易度が高すぎるので、麺を茹でたり、食材を着るだけの料理を選んでみた。ナポリタンは、万が一の時は、冷凍食品で代用するしかないだろう。
「まずは、簡単な冷やし中華でも作ってみる」
「結構、季節外れだけど? 文化祭で冷やし中華なんて食べに来るのかしら?」
「部外者は黙ってろ」
今回は、俺たちのクラス、俺と楠木、木村に紫苑がいてくれればいいのだが、冷やかしに来た葛城と、味見だけのためにやって来た菜摘がいる。
「紫苑は作れるのか?」
「今年の夏に、ママが作ってくれましたので、一応作れますよ~」
どうもならなかったら、紫苑に託すしかないようだが、とりあえずは俺たちで頑張ってみようと思う。
「それなら、俺と楠木は包丁で野菜を切る。木村は、麺を茹でてみるか。紫苑、木村を頼んだ」
流石の木村でも、麺を茹でるぐらいは出来ると思い、ここは紫苑に面倒を見てもらい、俺と楠木で野菜たちを切ってみる事にした。
ネットで調べると、盛り付ける具は、キュウリにトマト、人参、錦糸卵にハムと書かれていたので、それらを用意して、最初に難易度が低いであろう、キュウリから切ってみる事にした。
家庭科の調理実習で、色々と切り方を習ったので、教科書を見返して、何となくで思い出しながら、斜めに包丁を入れて、輪切りにしていった。それから輪切りにしたきゅうりを、更に細く切っていく。そうすれば、良い感じに仕上がると、ネットに書いてあった。
「ヒロ君。私のお手本を見て欲しいな~?」
ひょっこりと俺の横にやって来た菜摘。菜摘は俺から包丁ときゅうりを拝借し、凄くきれいな形で、キュウリを切っていた。
「……手先だけは、本当に器用だな」
「褒めてくれて嬉しいな~」
そして俺に褒められて羨ましがっている楠木に向けて、菜摘はドヤ顔をしていた。
「わ、私だって、野菜を切るぐらいは出来るわよ」
「野菜切ることが出来るなら、まずはヘタを取らないとね~?」
菜摘に指摘されたのが屈辱なのか、顔を真っ赤にして、プルプルと震えながら、トマトのヘタを取った。
「ひ、ヒロの前だったから、緊張したのよ! 松宮、私の料理の腕を見ておきなさい!」
そう言ってから気合を入れて、トマトを横にして、力強く包丁を下ろしたので、トマトは潰れて、中に入っている汁が、辺りに飛び散った。
「誰にでも、不得意な事はあると思うよ」
「あんただけには、慰められたくないわ……」
菜摘に憐れむように、楠木の頭を撫でられていると、楠木は再び顔を赤くさせて、体中を震わせていた。楠木にとって、菜摘に下で見られるのは、これ以上に無い屈辱なのだろう。
「茉莉香ちゃん! 中華麺を茹でる時は、まず袋から取り出さないといけませんよっ⁉」
「……違うの?」
レトルトパウチと勘違いしているのか、木村は煮えた鍋に、袋ごと麺を茹でようとしていた。この調子だと、俺たちの出店は冷凍食品のナポリタンだけになりそうだ。
「次はナポリタンを作りたいんだが、紫苑は、出来るか?」
「任せてくださいな~」
麺は茹ですぎて伸びてしまい、そして不格好に切られた野菜たち。このままだと、到底お客に出せる料理ではないだろう。このレベルで、ナポリタンは無理だろうと思い、この中で料理が出来る紫苑にお願いしてみる事にした。
「ちなみに、私も出来るわよ?」
ずっと俺たちの珍行動で、笑いっぱなしの葛城が、そんな事を言ってきた。
「料理が出来るなら、あんたが作ってみなさいよ」
ずっと高みの見物の葛城が気に入らないのか、楠木がそう言うと、葛城は待ってましたと言わんばかりに、ちょっぴり嬉しそうに鼻を鳴らした。
「いいわよ。松原君が、なんどもせがんでくるような、絶品のナポリタンを作ってあげる」
長い髪をヘアゴムで縛って、ポニーテールの髪型にすると、葛城は俺たちを台所から追い出した。
「冷やし中華を作って疲れたでしょ? 少し休憩した方がいいと思うの」
確かに俺は、菜摘と楠木の相手。紫苑は、木村の相手に凄く疲れていた。ここは、葛城の言う通りにしておいて、気が済むまで料理をしてもらおう。その間、俺たちが作り上げた冷やし中華の試食をしてみる事にした。
5人分の冷やし中華が出来たので、追い出されたメンバーで冷やし中華を試食。俺がまず食べてみると、麺は伸びきっているが、市販に売られている冷やし中華のたれを購入していたので、味はマズいと言う事は無かった。
「……どんだけかけるのよ?」
「……これぐらいじゃないと、物足りない」
楠木は、木村の行動に目を疑っていた。
木村は、練りからしのチューブを丸々一本使い切って、黄色のからしの渦巻きが、木村の冷やし中華の上に乗っていて、それを難なくかき混ぜて、木村は美味しそうに食べていた。
「……まあ、私たちがちゃんと練習すれば、食べられない事も無いわね」
「練習あるのみですね~」
楠木と紫苑も、特に不味いと言った感想ではないので、文化祭までにちゃんと練習すれば、俺たちだって、美味しい料理が作れるはずだ――
チーン!
そして何故か、台所の方から使っていないはずの、電子レンジが終わった時に鳴る音が鳴った。
「おい。どうして、電子レンジを使ったんだ?」
「……松原君。……実はね」
そう聞くと葛城は、冷凍食品を解凍し、湯気が出ているナポリタンが入った袋を持ったまま、しょんぼりとした顔をしたと思うと。
「私も、料理が全く出来ないのっ! てへぺろっ!」
ドジっ子のように見せかけて、葛城は舌を出して、てへぺろをして誤魔化そうとしていた。
結局、料理が出来るのは、紫苑のみ。出店がてんてこ舞いになったら、ピンチヒッターとして、菜摘を召喚するしかないだろう。それでもダメな場合は、葛城のように電子レンジで対応するしかないようだ。
「プリンアラモードは出来るわ」
葛城を拳骨で黙らせた後、今度はデザートとなるプリンアラモードを試しに作ったところ、楠木は、メイド喫茶で働いているので、手慣れたように、綺麗なプリンアラモードを作り上げていた。
「どうするの? 本当に、この方針で行くの?」
今までの出来事に、楠木は不安に思っているようだ。紫苑以外料理が出来ない俺たちに、1軍のスイーツ店に勝てるとは思えない。
「方針は変わらない。このまま、猪俣たちに対抗しようと思っている」
せっかく方針が決まったのに、料理が出来ないだけで挫折するのは、良くないだろう。センスは悪くないんだ。何度も言うが、ちゃんと練習すれば、ちゃんとした料理を提供出来るだろう。
「そうなったら、週末は練習ね。今度は、美味しい冷やし中華を頼むわ――イタッ」
俺らと同じ立場なのに、上から目線で話すので、葛城をチョップで黙らせておいた。
「……松原君。……今日は、どうしても言いたいことがあって来たの」
「何だ?」
どうやら葛城は、ただ単に冷やかしのために来たようではないようだ。いつものパターンだと、何か厄介事を持ち掛けてきたのだろう。
「文化祭の行事として、成敗、下剋上勝負で、トーナメント大会が行われる事が分かったの」
「俺は出ないからな」
「一緒に出てくれないと、みんなが文化祭の後に、地獄を見る事になるの」
本当に、葛城はいらない情報を持ってくる。どうやら、俺は文化祭でも、平穏に過ごすことは出来ないようだ。




