和食
全てのクラスの出し物が、生徒会長の認可を得ると、早速俺たちのクラスは、準備に取り掛かる事になった。
約1ヶ月後、11月にある学校祭に向けて、放課後や昼休み、そして憂鬱な土日返上で学校に来る羽目になる。放課後ぐらいなら仕方ないと思うが、土日の貴重な休みを犠牲にして、学校祭の準備をしたいかと、俺は納得できなかった。
「俺たち4軍は和食、そして屋台のような店を出すとなると、作れる料理も限られてくる」
学校祭準備期間の初日の放課後。俺たち4軍は、教室の隅でどのような出し物をするか、話し合う事にした。ちなみに、クラスの半分は、1軍の猪俣たちが占領している。
「木村。お前の得意料理は?」
「……インスタントラーメン」
木村も期待が出来ないようだ。もしかすると、楠木よりも出来ないかもしれない。
「紫苑。お前の得意料理は?」
「オムライスでしょうか~?」
良かった。これで、4軍の奴らは料理が出来ないというレッテルを貼られる事は無くなった。この様子だと、紫苑と俺で頑張るしかないようだ。
「私は、カツ丼かな~?」
「菜摘。お前は、自分のクラスに戻って、自分のクラスの出し物を準備しろ」
そして無関係の菜摘は、いつの間にか俺の横にいて、羊羹を食べていた。いつも通りに、教室を抜け出してきたのだろう。
「段ボールを切っているより、ヒロ君とメニューを考える方が、楽しいんだよね~」
男子だったら、段ボールを切って加工するような作業は楽しいかもしれないが、女子にはいまひとつ面白くないだろう。菜摘は手先だけは器用なので、そのような作業で不備を出すと思わない。マイペースな面を除けば、菜摘はクラスメイトに重宝されているだろう。
「私の事は気にせず、続きをやったらいいと思うな~」
「腕に抱き着いて、胸を押し当ててくるのを、気にしない事なんて、男子に出来ると思うか……?」
思春期真っ只中の男子高校生が、女子高生のボディタッチに無反応でいられるだろうか。例え菜摘が小さい頃から一緒で、幼なじみでも、こうやって菜摘がくっついている事は、凄く嬉しいと思ってしまう。
「失礼するわ。ここに、松宮菜摘はいるわよね?」
突如、俺らのクラスに、ポニーテールの女子生徒が現れた。突如現れたポニテの生徒に、クラス中の男子生徒の注目を浴びている中、女子生徒は、俺の腕にくっついている、菜摘の前に立った。
「松宮菜摘。こんな所で油を売っていないで、早く作業に戻る」
「それは無理かな? 私は、ヒロ君と一緒に準備を――」
「頑張ったら、私の家のお菓子をあげる」
「頑張ります~」
簡単に物で釣られた菜摘。菜摘は、俺に羊羹を一つ手に握らせて、彼女の後について行った。
「彼女は、松宮さんたちのクラスのトップに立つ、1軍の斉藤英梨さん。家が和菓子屋らしいの」
菜摘と入れ替わるように、今度は俺たちの前に、葛城が現れた。情報提供してくれるのは嬉しんだが……。
「葛城。お前のクラスの準備は?」
「私のクラスは、4軍に仕事を与えてくれないの。ウェーイ系な男女がキャッキャウフフと、準備をやりたいらしいの」
葛城のクラスも、色々と大変なようだ。そんな話を聞くと、猪俣や斉藤のようなトップがまともなのかと思ってしまった。
「どうせサボっていても、怒られないと思うから、暇つぶしにいさせて」
「横やりは入れるなよ」
菜摘の代わりに葛城が加わって、俺たちは本題に戻る事にした。
1年2組。そして4軍の出し物のテーマは和食だ。遠くから聞こえた会話からだと、猪俣たちは、クレープを作ると言っていた。
「無難に、おにぎりか……?」
おにぎりぐらいなら、料理が出来ない俺たちでも出来ると思う。テイクアウトも出来ると思うし、苦手意識する人は少ないだろう。
「松原君。蟻が、スズメバチに勝てると思う?」
「貧相な考えで悪かったな」
葛城の意見にも一理ある。学校行事で、かなり大きな行事だ。生徒以外の人も入って来る俺たちの学校祭に、クレープ屋とおにぎり屋だったら、華のあるクレープ屋に行くだろう。
「……たこ焼きや団子に、ロシアンルーレット形式で出すのはどう?」
小さく意見を述べる木村。確かに、こう言ったお祭り事なら、ロシアンルーレットの料理は受けるかもしれない。
「まだインパクトが弱いと思うわ。ミツバチとスズメバチと言ったところかしら?」
暇なのか、俺たちの意見を、弱肉強食の世界で例えるのはやめて欲しい。
「お寿司を出すのはどうでしょうか~? みんな、喜んで食べてくれると思いますよ~」
「生ものを管理するのは、難しいの。食中毒を起こしたら、私たちの学校は、しばらく休校になると思うわ。熊とスズメバチと言ったところかしら――」
何でも自然界の摂理で例えてくるのがうるさいので、葛城の頭を叩いて、しばらく黙らせることにした。
「……業務用の食品を買って、売るのが無難だと思うわ」
「そ、それだと、1軍に到底敵わないわ。例えるなら、プランクトンと、ジンベイザメ――」
俺が手を下す前に、楠木が葛城に拳骨の制裁を下していた。俺がやった時よりも、楠木の拳骨の方が痛がっている様子なので、この様子だと、弟の飛翔とかにやっているのだろう。
「誰かさんのせいで、話が全く進まないんだけど?」
「どうするか……」
楠木も真剣に考えてくれているようで、腕を組んで唸るように考えていると。
「……ナポリタン」
「木村。それだと、洋食よ」
「……和食」
木村は、尋ねて来た楠木に、自分のスマホの画面を見せた。
「……横浜のシェフが、考えたのがナポリタンの始まり。……日本で発祥されたなら、れっきとした和食だと思う」
雑学が大好きな奴がいて、今回は本当に助かった。木村は、奇想天外な考えを持っているから、例え物静かな奴でも、頼れる。
「け、けど。他の皆さんが、怒ると思うのですが……? ナポリタンは、みんな洋食だと思っていると思うので、2軍の人に怒られる可能性も……」
紫苑の言う通り、俺たちがナポリタンを出せば、当然2軍の奴らが、文句を言うだろう。
「日本人が考えたなら、和食も同然だ。そっちの方が、インパクトもある。しかもここは学校だ、一般客にも、ナポリタンは日本料理だと言う事を教えることが出来る、学校らしい事も出来る。そうなれば、2軍の奴ら、学校や生徒会も、文句を言えないはずだ」
和食と言えば、饅頭とか、煮物など。少し地味な物を思いつくだろう。けど、俺らがそう言った情報を発信すれば、そのイメージを根本的に覆すことも出来るだろう。
「つまり、文句言って来たら、下調べしなかった、お前らが悪いって言うのね。私、そう言う考えは好きよ」
「まあな」
この場合だと、葛城は何も文句を言ってこない。上位の奴らと対抗できる作戦なら、葛城は大人しくしているようだ。ひねくれた考えだが、そう言った考えだと、葛城と気が合うようだ。
「……プリンアラモード。……冷やし中華。……エビチリなど。……たくさんある」
木村が、さっき楠木に見せたサイトに載っていた文章を読み上げると、何だか俺も腹が減ってきた。意外な物も日本発祥なんだな……。
「けど、マロンたちは料理は出来ないのでしたら、それらの料理は、どうするんですか?」
紫苑にそう言われると、俺たちの盛り上がった空気は、一気に冷え切った。
そうだった。例え、出し物のテーマが決まっても、その料理を作れる人がいない。紫苑も作れる保証がない。つまり、ふりだしに戻った訳だ。
「練習すればいいじゃない。週末、松原君の家で」
うるさい姉貴は、大阪に行っていていない。菜摘並みに手がかかるおふくろは、親父と一緒に買い物と言っていた。家は俺以外は無いのは確かだ。
「どうして、俺の家なんだよ」
「そっちの方が、みんな来るみたいよ」
葛城がクスッと笑うと、俺以外の4軍は目を輝かせていた。どうやら、俺の家で練習するのは、もう決定してしまったようだ。




