出し物
「文化祭の出し物、何かしたい人はいる?」
この学校に級長、クラス委員長などと言う概念はない。なので、スクールカースト制度で一番上位の者が、級長のような扱いになる。なので、級長みたいな役は、俺らのクラスで一番のトップ、猪俣が仕切っている訳だ。
「何も無いなら、あたしが提案する、飲食店になるけど」
そして俺たちは、ホームルームの時間に、各々の教室で行う出し物の内容を決めていた。学校の印象を良くするためか、一般の人も入って来るらしい。色んな人が入って来るとなると、スクールカースト制度を利用しない出し物が良いだろう。
「お化け屋敷は?」
「ありきたりだから、却下」
男子が挙手をして、猪俣にそう提案したが、猪俣は却下した。このクラスの決定権は、猪俣、ただ一人の女王様にしかない。
「……人間射撃。……4軍の奴らが的になって、色んな人に楽しんでもらう」
「もし一般客がいなければ、採用だったかもしれないわね。けど、今回は却下よ。承認した、あたしの印象が下がっちゃうわ」
恐ろしい事を提案する森下。森下は、大人しく、一体何を考えているのか分からないから怖い。今回は一般公開があるから、助かった。
「春馬。何が良いと思う?」
「猪俣が言う、飲食店で良いだろ。色々と資料に書かないといけないが、たくさんの客が来ると思うぞ」
猪俣と安藤の意見が合っているので、もう俺たちのクラスの出し物は、飲食店に決定だろう。俺は、森下が提案した人間射撃にならなくて、本当に良かったと思っている。
「そんじゃあ、何の店にする?」
出し物が、飲食店に決まったが、次は何の店にするのか。誰も意見を出さず、お通夜みたいに再び教室が静かになると、猪俣がイライラし始めた。八つ当たりで、4軍にペナルティを執行しなければいいんだが。
「……あんたら。適当な紙に、今食べたいものを書いて、あたしに提出しなさい」
猪俣もネタが無いのか、ようやく俺たちに意見を求めて来た。何でも良いというので、俺は何となく『トンカツ』と書いて出した。
そしてみんなが出したところで、猪俣は料理名が書かれた紙を一通り見ていた。
「春馬。トンカツは出店として出せるの?」
「さあな。出来ない事は無いかもしれないが、色々とツッコまれるだろうな」
恐らく俺が書いたものを見て、そう思ったのだろう。逆に悪目立ちしてしまっただろうか。
「……一番多い意見は、ケーキ、カレーライスね」
本当に、今食べたい物しか書いていないようだ。ケーキは女子、カレーは男子辺りが提案したのだろう。
「ヒロ君。私のパンケーキが入っていないよ?」
「どわぁあああ!!」
そして、俺の椅子の後ろには、突然と現れた菜摘がいた。菜摘はさりげなく、自分の食べたいものを出していたようだ。
「松原、存在と声がうるさいから、ペナルティ執行ね」
そして猪俣に目を付けられて、俺はバッジから電流を流された。というか、存在がうるさいってどういう意味だ。
「……菜摘。……猪俣に気づかれる前に、さっさと自分の教室に戻れ」
「ヒロ君のクラスがいいな~。私のクラス、確か迷路になったから、あまり面白くないんだよね~」
俺の話を聞かず、マイペースにポケットから菓子パンを取り出して、パンを食べながら自分のクラスの愚痴を話し始めた。
「そうだ。あたしたちのクラスは、カーストの順位別に出店を出さない?」
皆で楽しく出し物をするのかと思いきや、猪俣はここでスクールカースト制度を引用してきた。
「ショッピングモールにある、フードコートのように、教室で別々の料理を出すの。1軍から4軍までだから、4つの店が出せる。それなら和食、中華、洋食、スイーツで分ける。これでいいわよね?」
猪俣は、もう考えたくないのか、威圧的に俺たちの反応を伺うと、誰も反論する者はいなかった。
「それじゃあ、どの階位が、何を担当するのか。スイーツは1軍で決定しているから、2軍と3軍でじゃんけんしなさい」
ここで、スクールカースト制度が引用され、俺たち4軍には、選ぶ権利すらないようだ。そして2軍が洋食を選び、3軍は中華。そして余った和食は、俺たち4軍になった。
「……私は、松宮のクラスみたいに、迷路が良かった」
ホームルームで出た内容は、猪俣からの命令で、楠木に企画書を書かせていた。企画書を書き終えると、楠木は生徒会室に提出するために、俺を誘って、一緒に廊下を歩いていた。
飲食店と決まった瞬間、楠木は嫌な顔をしていた。バイトでメイド喫茶でいろんな男子に接客しているのに、学校の文化祭でも、接客業をやりたくはないのだろう。
「俺、料理は出来ないぞ」
「ヒロ、私を忘れてない?」
ジト目で見つめる楠木。楠木は、メイド喫茶でも接客をしているイメージしかない。弁当は持参せず、いつもコンビニのおにぎりやパンで済ましているし、メイド喫茶でも、あまり厨房に入って、料理しているイメージが無いからだ。
「親がいないときは、私が飛翔たちのご飯を作っているの」
「得意料理は?」
「卵かけご飯かしら?」
ダメだ。全く期待できない。こうなったら、木村か紫苑が料理できるのを期待するか、俺が頑張って料理を覚えるしかないだろう。しかし和食は、下ごしらえとか、手順がかなり多いので、俺たちだけで出来るだろうか。
「私なら、何でも作れるよ?」
「お前は、クラスが違うだろ」
菜摘は、手先が器用なので、料理が上手だったりする。学校に持ってきている弁当は、菜摘が自分で作っている。
「松宮の得意料理は何なのよ?」
「ヒロ君が好きな料理は、基本的に作れるよ? カツ丼だったり、カレーライス、オムライスだったり……。楠木さん以上には、私はヒロ君の役に立てると思うな~」
菜摘の言葉にイラッと来たのか、楠木は拳を握りしめ、手を出さないようにと、何とか怒りを堪えていた。
「何やかんやあって、生徒会室に着いたよ?」
菜摘にそう言われると、確かに生徒会室の前に到着していた。教室と同じぐらい来ているせいか、自然と足が覚えているようだ。
「あとで、パンを買ってやるから、菜摘は外で待ってろ」
「は~い」
そう言うと、菜摘は大人しくパンを食べながら、外で待つことにしたようだ。文化祭の出し物の企画書を出すのに、菜摘が色々とツッコんで来たら、面倒だからだ。
そして生徒会室の扉をノックし、そして楠木と共に生徒会室に入ると。
「松原さんなのです」
生徒会室には、俺たちの学年の新たなトップになった、中村レイラが鎮座していた。
あの日以降、髙橋は中村に脅されながら、辞職願を書き、髙橋はトップの座を降りた。そして髙橋が、中村を推薦し、中村が簡単にトップの座に就いた。
「ヤイに、何か用なのですか?」
「1年2組の、文化祭の出し物の企画書を、提出しに来ました」
「松原さんのクラスは、何をするのですか?」
そしてまず、企画書を学年のトップに見せないといけない。それが通ったら、生徒会長が確認し、生徒会長が許可したら、正式にクラスの出し物を出来るという流れになっている。
「これです」
「……凄く美人さんなのです」
企画書を持っていた楠木が、中村に差し出すと、中村は目をハートにし、楠木に熱い視線を送っていた。
「……貴方、今からヤイとお茶しませんか?」
「は? 何で、あんたとお茶しないといけないのよ。一人で飲んでなさいよ」
「こ、こんな美少女に罵られるのも、悪くないのです……」
仲が良くない人には、冷たく当たる楠木。しかし、中身がおっさんの中村には、ご褒美だったようだ。
「流石、ハーレム王なのです……」
俺に対する感謝の言葉のようなのだが、全く嬉しくない。そして、俺たちの企画書を一通り読んだ中村は、机に企画書を置いた。
「悪くないと思うのです。スクールカースト制度の階位ごとに分かれて行うのは、きっと生徒会長も喜ぶと思うのですよ。ヤイは許可します」
そう言って、中村は企画書にサインをして、生徒会長の机に企画書を置いていた。とりあえず、第一関門は突破のようだ。
「さて、松原さんは帰っていも良いのですが、貴方はまだ時間がありますか? 是非とも、僕――ではなく、仲良くなりたいのです」
「何度も言わせないで。あんたと話す事は無いわ。行きましょ、ヒロ」
楠木は、全く中村に興味を持たず、すぐに生徒会室を出て行った。
「松宮さんと同じぐらい、ヤイの僕になって欲しいのです……」
楠木の態度が、かえって逆効果らしく、ますます中村に興味を持たせてしまったようだ。




