ハーフと機関銃
「髙橋の奴はいたか?」
「飛び降りた所には、いなかった。どこかに身を潜めているいるんだろう」
中村に強制連行された後、俺たちは廊下に出ると、さっきデモを起こした生徒たちが、廊下を走り回っていた。どうやら、髙橋は飛び降りたすぐに、どこかに身を潜めたようだ。
「松原さんなら、どこに身を潜めます?」
他の奴らとは別に、中村は廊下を走り回っている生徒を蔑むような目で見ながら、俺に意見を求めてきた。
学校で追いかけられることは、菜摘以外にない。菜摘は、俺の行動を読んでしまうので、隠れようとしたところに、すでに菜摘がいる事もよくある。
「……体育館の更衣室」
「4軍の松原さんに、ペナルティを執行なのです」
どうやら、俺の答えは間違っていたらしく、バッジから電流が流された。俺が髙橋の立場なら、取りあえず人目が付かない、人が滅多に来ないような場所に隠れるだろう。体育館の更衣室なんて、部活動の生徒が使うぐらいだ。
「そんな所に隠れていたら、もう髙橋さんは吊し上げられているのです。松原さんも、髙橋さんと同じく男なのです。貴方も同じ立場になったら、どこに身を潜め――あそこに可愛い女の子がいるのですっ!!」
中村は、俺の説教を投げ出し、恐らく廊下を歩いていた女子に飛び掛かっていた。
「ど、どちら様なのでしょうか~?」
どうやら、教室に戻ってきた紫苑に飛びついたようだ。菜摘や葛城を見た瞬間、飛びつく奴だ。2人と同じぐらいの美少女を見たら、中村が黙っていないだろう。
「貴方、夏頃に転校してきた、高村さんですよね?」
「そうですよ――あははっ! 体中を撫でないでください~!」
再びよろしくない場面を作り出している中村。背景には百合の花が咲きそうな光景を作り出していたので、俺はその光景から目を逸らした。
「高村さん。もし貴方が、命が狙われているとしたら、どこに隠れますか?」
「そうですね~。まずはマロンの後ろに隠れますよ~」
頬を赤く染めて、もじもじし始めた紫苑。そして察したのか、中村は俺の方をチラッと見て来たので、すぐに目を逸らしたが、再び中村にペナルティを執行された。
「やはり、松原さんの近くにいれば、ヤイ好みの女の子がやって来るのです……!」
思わぬ幸福だと思ったのか、中村は目をハートにして、紫苑を美術品でも見るように、うっとりしていた。
「さて、本題に戻るのです。髙橋さんは、どこに隠れたと思いますか?」
そして紫苑が加わり、再び髙橋がどこに潜んでいるのか。中村が紫苑に尋ねた。
「かくれんぼですか? 私なら、体育館の更衣室に隠れますね~」
「そうですよね~。ヤイもそう思っていたところなのですよ~」
おい。俺の時と全く態度が違うんだが。中村は、紫苑を実の子のように、頭を撫でて褒めていた。本当に女子が大好きなんだな……。
「やはり、ここにいたのですね」
俺と紫苑が予想していたところに、髙橋は身を隠していた。更衣室の壁にもたれかかって、誰かが入って来るのかを待っていたように、立っていた。
「やっぱり、君は他の雑魚とは違うんやな――」
中村がここを突き止めたと思うな。ここに来られたのは、紫苑のおかげなんだが。
「髙橋さん。さっさとヤイに、トップの座を譲るのです」
そして中村は、今まで見た事の無いようなにっこりとした表情で、髙橋にそう迫った。
「それが君の本音か?」
「ヤイは平和主義者なのです。穏便に済ませるために、さっさとヤイにトップの座を譲りやがるのです」
中村の本音を聞くと、髙橋はニヤッとさせていた。
「君の言う通りに、僕は下剋上勝負を受けてあげる。君の後ろにいる雑魚の二人も一緒にかかってくればええよ」
俺と紫苑にバカにした笑いをすると、制服のポケットから自分の生徒証を取り出した髙橋は、中村の仕掛ける勝負を受ける事にしたようだ。
「言ったのです。ヤイは、下剋上勝負をしません」
だが、中村は下剋上勝負をしようとしなかった。
「何で? もしかして、あんだけ大口を叩いたから、もし負けた時が怖いんか?」
「怖くないのです。さっさと辞表を書いて、トップの座を譲った方がいいと思うのです」
頑なに勝負をしようとしない中村は、ポケットからある物を取り出していた。
「さっさと、トップの座を寄越すのです」
何を取り出すと思いきや、中村は拳銃を取り出し、銃口を髙橋の方に向けていた。
「それ、モデルガンやろ? そんなこけおどし、僕には食らわんよ――」
髙橋がそう言うと、中村は天井に向けて、銃声を鳴らした。その音は大きく、小さな部屋の更衣室だと、鼓膜が破け、後に障害になってしまうほどの、物凄い音だった。
「次は、腕を狙うのです。痛い目に会いたくなければ、早く降伏するのです」
「う、撃ってみるなら、撃ってみねや……! 君の方が、タダでは済まないと思うよ?」
「バトルロワイヤルの件、貴方はあんな愚かな方法で、成功したと思っているのですか?」
銃だけでは屈しないと思った中村は、次は精神攻撃で髙橋を降伏させようとしているようだ。
「どんな願いでも叶える。それが致命的なミスだと、ヤイは思うのです」
「どうしてや? 美味しい餌さえ与えれば、どんな動物でも喜んで寄ってくるよ?」
「貴方は、餌を与え過ぎたのです。最近、不可能な事をお願いされたようですね?」
どんな願いでも叶える。そんな事を宣言してしまったら、誰だって無茶苦茶だと思えるような願いを言うだろう。
「社会人にある有給休暇みたいに、生徒の中に設けて欲しい。次のテストは、どんなに答えが間違っていても、百点にして欲しい。1軍に昇格したい、嫌いな人を4軍にしろ。ヤイのように、図書券だけなら、叶えられたのに、何でもと言ったから、バトルロワイヤルを中止する羽目になったのですよね?」
そんないろんな願いを聞いてしまったら、木村のお願いが可愛らしく思えてしまう。
バトルロワイヤルに参加すれば、どんな欲しい物でも手に入る。毎日のようにバトルロワイヤルを開いているうちに、そのような噂が広がり、ドンドンと要求がエスカレートしていったようだ。
「君に言われたくない。君もトップになれば、僕の立場が分かるはずや。君も僕みたいな運命、もしくはそれ以上の災厄を招くかもしれへん――」
そう髙橋が話している途中に、中村は銃を発砲した。銃口からは煙が出て、そして高橋は足から崩れていき、倒れた。
「だ、大丈夫なのですか~!?」
「お、おい! 本当に拳銃をぶっ放す奴がいるかっ⁉」
俺も紫苑もパニックになり、けが人が出てしまったので、早く保健室に運んだ方がいいのかと思ったが。
「これはプロップガン。ドラマで刑事が持っている作り物なのです。この日のために、オークションサイトですぐに落としたのです。髙橋さんの言う通り、こけおどしのために用意したのです」
こけおどしに、ドラマで使うような銃を用意するか? 確かに、髙橋には目立った外傷は無く、ただ撃たれたと思い込んで、失神してしまったようだ。
中村の奴、自分がトップになるなら、どんな手段でも選ばないようだ。
「それと、この事はご内密でお願いするのです。もしばらしてしまったら、もう学校に来れないと思って欲しいのです」
にっこりとした表情で、銃をポケットしまい込んで、俺たちに脅迫していた。背中に寒気が走るような、不気味な表情だった。
「中村。お前がトップになったら、何をする気だ?」
一応、中村にもマニフェストを聞いてみる事にした。女子生徒を優遇し、男子生徒は冷遇とか、そう言った事を言い出しそうだ。
「11月に学校祭があるではないですか。ヤイの手腕で、どんな人でも楽しめるような、思い出に残る学校祭を企画したいと思います。ヤイは、歴代のトップとは違って、みんなにスクールカースト制度の施行の中、有意義に過ごさせたいと思っているのです」
それは本音なのか。ただの建て前なのか。容赦なく、作り物の拳銃をぶっ放す女子生徒の言葉には、全く信用出来なかった。




