遊園地4
木村の鼻血が止まるまで待っていると、気絶していた紫苑がようやく気を取り戻し、俺たちは次の目的地に行きたいのだが。
「私は、苦手なお化け屋敷を我慢したのですよ~? 次こそは、私のお願いを聞いて欲しいのですっ!」
「今の時間だと、人気のアトラクションは混雑しているわ。時間を無駄にしないように、まずは観覧車で、大勢の人々を見下した方がいいと思うわ」
今度は、紫苑の提案のジェットコースターと、葛城が提案する観覧車に行くかで揉めていた。
「それより、早く私はご飯が食べたいな~」
散々食べ歩いているのに、菜摘はマイペースに昼食を提案していた。今の時間は、11時前。少し、昼食には早いだろう。
「葛城。さっきの勝負はどうなったんだ? あれで次の目的を決めるんじゃなかったのか?」
お化け屋敷の中で、次に何が来るかを予想する勝負。勝敗は、多く当てた方が勝ちだったはず。最後の予想は2人とも外したので、勝敗はどうなったのだろうか。
「……同点だったから、さっきの勝負は無し」
さっきの勝負は何の意味もないらしい。ふりだしに戻った訳だ。
「と言う事で、ここは、公平にじゃんけんで、どうかしら?」
「望むところですよ~!」
そしてジェットコースターの紫苑。観覧車の葛城、昼食の菜摘も加わって、3人でじゃんけんをしたら、菜摘が勝ってしまい、その後の二人のじゃんけんだと、紫苑が勝った。俺たちは昼食を食べてから、ジェットコースターに乗る事になってしまった。
昼食を食べた後、俺たちはジェットコースターに乗る事になった。
「楽しそうなのですよ~!」
速いスピードで、コースを駆け抜け、楽しいのか怖いのかは分からないが、悲鳴のような声も聞こえているのに、紫苑は目を輝かせていた。紫苑は絶叫系の遊びが好きなようだ。
「怖いのか?」
昼食を食べた後、足取りを重くし、暗い表情になり、ずっと言葉を発していない葛城に、そう聞くと、葛城はすぐに凛とした態度に戻った。
「こ、怖くないわ」
と強がっている葛城だが、実際に並び、そしてジェットコースターを乗ると、葛城だけが悲鳴を上げて、お化け屋敷以上に怖がっていたが。
「ヒロ君。大丈夫?」
それ以上に、菜摘と紫苑以外の全員が、ジェットコースターに酔ってしまい、ダウンしてしまった。恐らく、昼食を先に食べたのが原因だったのだろう。ジェットコースターが予想以上に曲がったり、一回転するコースを通ったので、食べ物が体の中でシェイクされたので、全員が船酔いのような気分になってしまったのだろう。
「菜摘ちゃん! 私、もう一度乗りたいのですが、付き合ってくれませんか~?」
「いいよ~」
そして何故か俺を関節技を決めて、菜摘から逃げ出すことが出来なくなってしまい、俺は菜摘と一緒に、紫苑の行動に付き合わされて、そして2度目のジェットコースターを乗った後、俺は更に体力を奪われて、ベンチの背もたれにかけて、休むことにした。
さっきより、更に吐き気がするんだが……。また乗りたいとか言って来たら、俺は倒れる――
「菜摘ちゃん! もう一度なのですよ~!」
「いいよ~」
再び菜摘に捕獲されそうになったので、俺も必死に抵抗した。
「……勘弁してくれ。……ちょっと休んでいたいんだよ」
「ヒロ君は、頑丈だから、まだ大丈夫だよ~」
絶不調の中で3度目のジェットコースターを乗る羽目になり、ジェットコースターから降りた後、その場で倒れた。
「……気が付いた?」
「……木村か」
気を取り戻すと、俺はどこかの休憩所の長椅子に寝かされていて、そして横にはちょこんと木村が座っていた。
「……今、何時だ?」
「……15時38分」
ジェットコースターを乗ったのが12時過ぎだった。それ以降の記憶はなく、ずっと気を失っていたのだろう。
「……私はお留守番。……皆、色んな所に行っている」
「……そうか」
この様子だと、俺は色んな人に迷惑をかけたのだろう。
そもそも、こうやって遊園地に来られたのも、木村のおかげなんだ。木村が一番遊びたかったはずなのに、こうやって留守番をさせてしまい、申し訳なかった。
「……私は、正義君と、一緒にいられるだけで、今回の目的は達成された。……どんなアトラクションで遊んだり、どんな所ではしゃいでも、正義君がいないとつまらない。……だから、気にしないで」
尚更、木村に気を遣わせてしまったようだ。そう言っているが、本当はたくさんのアトラクションに乗って、俺との思い出を作りたかったのだろう。
今回は、俺がたくさんの人を誘ってしまった事が失敗だ。木村の気持ちを考えられなかったことが、一番の反省だ。チケットだって、機嫌が来年まで使える。何回か、少人数で来れば良かった話だ。楽しむなら大勢でと思っていたが、それが今回は逆効果になってしまったようだ。
「……どこに行きたい? ……今度は、俺が連れて行く」
詫びになるか、それともお節介と受け止めるか、木村は遠慮して断るか。どの結果にでも覚悟をして聞いてみると。
「……食べ歩き。……美味しいお店を調べておいてね」
さて、また俺のお小遣いがピンチになりそうなので、そろそろバイトでもした方がいいだろう。バイトしながら、美味しい店でも探そう。
「……菜摘はどこ行った?」
「……正義君が起きた瞬間、あそこに行った」
木村が手を向ける方に、菜摘がいた。またマイペースにアイスクリームを買っているようだ。よくも、そんなに食べ物が胃の中に入るもんだ。
「……ごめんなさい」
俺と気まずそうに話しかけ、頭を深々と下げてきた菜摘は、自分が食べるのかと思っていたソフトクリームを、俺に差し出してきた。
最近、菜摘の言う事ばかり聞いていたから、菜摘も大分我がままになっていた。それがエスカレートして、今回のような結果を招いた。マイペースクイーンの菜摘でも、流石に今回は反省したようだ。
「……出来る限り、ヒロ君に迷惑をかけない事を心掛けます」
「……丁寧語だと、不気味だな」
そう心掛けても、菜摘は数時間後には、いつも通りのマイペースクイーンに戻っているだろう。
だが、この様子だと心の底から反省している。食べ物がある前で、じっとしていられない菜摘が、ずっと頭を下げたまま、ソフトクリームを差し出している。
「……度が過ぎない、いつもの菜摘でな」
菜摘からソフトクリーム受け取ると、菜摘は顔を上げ、一気に表情を明るくして、いつも通りにマイペースに休憩所内を歩き始めていた。
そして夕方。俺たちは帰る事にし、帰りの電車に揺られていた。
俺がダウンしている間、楠木や紫苑たちは、色んなアトラクションで遊んでいたらしく、そして疲れて、電車の中で眠っていた。
「楽しい事は、あっという間ね」
だが、横に座っていた葛城は起きていて、少しウトウトとしていた俺に話しかけて来た。
「松原君。お疲れの所悪いんだけど、ちょっと話を聞いてくれる?」
「どうした?」
この様子だと、何やら真剣な話をする。俺をからかう時なら、少しニヤッとした顔をしているからだ。
「月曜日、1年生で暴動が起きる」
どこからかそんな情報を手に入れたのか、葛城は不吉な事を言った。
「そんなこと話して、俺はどう反応すればいいんだ?」
「一緒に、暴動に参加しましょうって事」
本当に、平和な時間って、あっという間だと、また俺を厄介事に巻き込む葛城を恨むことにした。




