遊園地3
「どうだった?」
「菜摘を、学校で相手している以上に疲れた」
お化け屋敷の出口を出た近くのベンチに、田辺たちが俺たちを待っていた。
「俺たち以上に、時間がかかっていたな」
「出口の所にいた蛾を見て、菜摘が意地になっても動こうとせず、しまいには、普通は戻らない、お化け屋敷の最深部に戻ろうと言い出したんだぞ」
結局、幽霊役のスタッフが、蛾を外に追い払って、ようやく俺たちは出れた。あそこで20分は止まっていたので、あとで入って来た人たちに追いついてしまったんだ。
「太陽の方はどうだったんだ?」
この様子だと、田辺は木村の仲は発展しなかったようだ。田辺が座っている別のベンチに、楠木と木村が座っていて、楠木は疲れたのか、ぐったりとしていて、木村は何事も無かったように、スマホを操作していた。
「聞いてくれるか?」
「紫苑が気絶してしまってな。目が覚めるまでな」
最後のが止めだったのか、紫苑は俺におんぶされながら、気絶していた。まだ起きる様子もないので、紫苑を近くのベンチに寝かせ、様子を葛城に見てもらう事にした。
そして俺も田辺の横に座り、田辺は、居酒屋にいるサラリーマンのように愚痴りだした。
「木村さん。怖くないすか?」
「……」
お化け屋敷に入って、吊り橋効果を利用して、木村さんと仲良くなる作戦。ところが木村さんは、全く怖がる様子もなく、興味深そうにお化け屋敷の中を見ていた。
「き、木村……。あんたは平気なの……?」
『平気』
正義の友達言う、楠木さん。体付きが凄くいやらしく、体のいろんな部分に目が行ってしまう。歩く成人向けの保健体育の教科書と言えばいいのだろうか。
「楠木さんは、お化け系は苦手なんすか?」
「悪い?」
「いや、とても女の子らしくて、素晴らしい個性だと思います」
正義には、女の子らしい、甘えた感じで接していたが、俺にはそんな態度を取らず、突き放すような感じで返答してきた。正義の奴、どうやってこんなスケベボディで、気が強い女子と仲良くなれたのだろうか。
このお化け屋敷は、廃病院を舞台にしているようで、受付の人に渡された一本の懐中電灯だけで、薄っすらと消毒液の匂いがする、薄暗い建物の中を歩いて行かないといけない。この状況なら、ほとんどの女子が怖がるはずなんだが。
そして廊下を歩き続けると、目の前に山のように積まれた髑髏が置かれていた。建物の雰囲気だけでは怖がらない木村さんでも、流石にこの髑髏の山なら怖がって、俺に飛びついてくるだろう――
「……よ、よく写真が撮れるわね」
『記念に』
お隣の楠木さんは怖がっているのに、木村さんはスマホで写真を撮っていた。これぐらいのレベルでは、全く怖くないようだ。
「田辺」
「ど、どうしたんすか?」
目標は違うが、楠木さんが俺を呼んでいた。気が強い楠木さんだが、やっぱり怖くて、俺と一緒に歩きたいと思ったのか……?
「塚本、気絶して倒れんだけど」
正義の同じクラスメイトの男子、ロングヘアで顔が整っている塚本君が、泡を吹いて気絶していた。男子なのにだらしないな……。俺と同じ目的で入った同士だと思っていたのに、情けない。女子にモテたいなら、男の強い所を見せないといけないんだ。
「すいませーん! 連れが一人、気絶しちゃったんですけどー!」
体を揺すったり、耳元で呼びかけてみたが、塚本君は気を取り戻す様子はない。このまま最深部まで行けないと思い、大きな声でスタッフを呼んだら、幽霊に仮装したスタッフが出てきて、塚本君を出口に連れて行った。
「あれ? 木村さん、どうしたんすか」
「……」
少し蒸し暑いせいか、木村さんは逆上せて、鼻血が出たのだろう。鼻にティッシュを詰めていた。
そしてしばらく歩くと、今度は手術室にやって来た俺たち。ここに来るまでにも、色んな仕掛けがあり、恐ろしい仮装をしたスタッフが出て来て、楠木さんは悲鳴を上げて怖がっていたが、木村さんは全く怖がることはなく、所々で立ち止まり、廃病院の施設の中をじっくりと眺めていた。
「おっと。これは女の子には見せらないっすね」
部屋の中央にある手術台の上には、内臓が飛び出た人が置かれていた。例え木村さんでも、こんなグロイ光景を見たら、悲鳴を上げてしまうだろう。
だが俺は紳士だ。わざと見せて、木村さんを怖がらせる事はしない。自然な流れで木村さんたち、ロリッ娘に好かれたい。
「近づかない方がいいですよ。見たらしばらく、焼き肉とか食べられなくなりますから」
「……」
俺の言葉を無視して、木村さんは手術台に近づくと、寝かされていた人は急に起き上がって、俺たちに襲いかかってきた。
「き、木村さん!」
内臓が飛び出た人に襲われると思い、木村さんを助けようと駆け寄ると、木村さんは全く動じる事無く、すぐに出口の方に歩いて行った。
「怖くないんすか?」
『全く』
そう言って、木村さんはさっさと行ってしまい、俺と楠木さんで歩いて行くと思いきや。
「田辺。私、塚本みたいにリタイアする」
楠木さんは、グロイ光景は平気なのか、さっきみたいな叫び声を上げず、落ち着いていた。
「こ、怖いなら、俺の傍で歩いてくれてもいいんですよ⁉」
「得体も知れない男と、暗い中で歩くのが怖いわよ」
そう言って、楠木さんはスタッフを呼びつけて、一人でリタイアしてしまった。
「……き、木村さん~!!」
俺たちのグループは分裂してしまったが、先に進んで行ってしまった木村さんを追いかけると、追いつく事は無く、すぐに出口に着いてしまった。
「……と言う訳で、木村さんは、廃墟マニアと言う事が分かった」
「どうして、そう言う結論になった?」
ずっと話を聞いていたが、田辺の作戦は見事に失敗。2人の女子に見向きもされずに終わってしまったようだ。木村が廃墟マニアより、入る前にあんなにノリノリだった塚本が、幽霊がダメだと言う事が、意外だった。
「さっきも言ったが、このお化け屋敷は廃病院が舞台で、昔に使われていたホテルを、そのまま使っているらしい。それを知っていたからか、ずっと外壁や内装をくまなく見ていた」
「……成程な」
恐らく、ゾンビを倒すゲーム、銃を使って戦場で戦うゲームをやっているから、今回のお化け屋敷は何とも思わないのだろう。そう言うゲームの中に、廃墟などの建物が出てくるので、次第に興味が出て来たのだろう。
「だが、まだ時間がある。俺は木村さんを諦めないからな……」
そう言って、田辺はポケットからチューインガムを取り出して、しばらく噛んだ後、大きな風船を作っていた。
この遊園地の中で、木村と田辺の仲が急接近できるとは思えない。田辺も、菜摘と同じく、男の幼なじみだ。せめて田辺が、木村に一言以上話しかけてもらえるように、心の中で応援しておこう。
「正義も、食うか?」
「ありがたく貰う」
縦長のチューインガムを一つ取って、そして俺も食べ、田辺みたいに風船を作ろうとしたが、上手く膨らませられなかった。
「相変わらず下手だな。こうやってな――って、木村さんがグロッキーな事になっているぞ!?」
田辺が俺に風船ガムを膨らませ方を教えようとした時、ベンチに座っていた木村が、ポーっとした顔で、鼻血を垂れ流していた。横に座っていた楠木は、木村の状態に気が付いて、すぐに介抱して、公衆トイレに連れていった。
「……成程な。……だから、鼻血が出ていたのか」
今の光景で、木村が腐女子だと言う事に気が付いたようだ。これで、田辺が幻滅してしまったのだろうか?
「……無口で、ロリッ娘で、背が低くて、腐女子。……ますます気に入った」
どうやら、木村に対する想いが尚更強くなったようで、本気で木村を落とそうと燃えていた。こんなに気合が入ってしまうと、ますます木村に嫌われそうだ。




