遊園地2
葛城は、単純にお化け屋敷を回るのが楽しくないのか、次の目的地をジェットコースターか、昼食にするか。その2つを賭けた勝負を提案してきた。
「私と松宮さん。松原君と高村さんのペアで、次に何の仕掛けが来るか予想する。多く予想を当てた方が勝ち」
恐らく、紫苑のこの状況を見て、葛城が考えたのだろう。
お化け屋敷と言うのは、人の五感を利用し、薄暗い中で、正体不明な物、不気味な物がいきなり現れるから、怖いと思ってしまうのだろう。あらかじめ、予想して入れば、紫苑も少しは気が楽になるかもしれないと思って、そう提案したのだろう。
「……葛城も怖いのか?」
「べ、別に……。ひ、暇すぎて、うたた寝しちゃうぐらいよ……」
葛城もそろそろ限界なのか。腕を組み、凛とした態度を取っているが、足は紫苑と同じぐらい、ずっと震えっぱなしだった。
そして、更に進むと、俺たちは手術室のような所にやって来た。
「ひっ……!」
そして手術台には、内臓が見え、血まみれで横たわった人がいた。あまりにもリアルなので、紫苑と葛城だけではなく、俺もビビってしまった。
「ヒロ君。どれが心臓?」
そんなグロテスクな光景を見ても、菜摘はもみじ饅頭を食べながら、手術台で横たわっている人の中身をじっくり見ていた。
「そ、それでは。恐らくこの手術室には、仕掛けがあると思うの。何の仕掛けでしょう?」
声を震わせながら、葛城は最初の予想を聞いてきた。
「定番なのは、その横たわっている人が、いきなり起き上がって、俺たちに襲いかかって来る」
そうじゃなかったら、菜摘の指で内臓をつつかれている人は、何の為にいるんだ。
「ヒロ君。この人、ちゃんと生きているから、ヒロ君の予想が当たっていると思うよ――」
これ以上、菜摘にネタバレさせない為か、いきなり横たわっていた人が飛び起きて、俺たちに襲いかかってきたので、すぐに手術室を逃げ出した。やはり予想していても、怖い物は怖い。
「……い、今のは予想が一緒だったから、引き分けね」
一番先に逃げて行った葛城が、先に次の舞台に到着し、俺たちを出迎えていた。
「2回戦。次は何の仕掛けがあると思う?」
次の舞台は、診察室。相変わらず漂う消毒液の匂い。そして保健室のように、いくつもの仕切りがあった。恐らく、あの仕切りの奥には、脅かす人がスタンバイしているのだろう――
「ヒロ君。ここで寝ている人は、全部人形だったよ?」
いつの間にか、菜摘が寝かされている人の状態を確認していたようだ。よくもまあ、もみじ饅頭を食べながら、丁寧に作られた、グロテスクな人形を触れるもんだ。
「そうなると、この部屋には何も仕掛けが無いと予想するわ」
そうだったら、いいんだが。だが、これだけ本格的にしているのなら、やはりこの部屋にも仕掛けはあるだろう。
「……何の映像だ?」
辺りを見渡していると、机の横には、ブラウン管テレビが置いてあり、その映像には、暴れる人から、無理やり内臓を取り出している、規制がかかりそうな映像が流れていた。
「ヒロ君。あれが心臓?」
「……肝臓だと思うぞ」
どれだけ菜摘は心臓を見てみたいのか。モザイクがかかる映像でも、菜摘は全く怖がる様子はなかった。
「そんなに気になるなら、ホルマリン漬けになっている臓器でも探してこい。瓶詰になっているはずだぞ」
「了解~」
そしてふらっと、本物の幽霊のように、菜摘はこの診療室の中を歩き回っていた。
「ま、松原君の予想は?」
「床の下から、死人が出てくるとかじゃないのか?」
そう予想したが、この診療室には、何も仕掛けは無かったので、今回の予想は、葛城が当たったようだ。
「ヒロ君。心臓って書いてあったけど、これ?」
「……本当にあったんか」
適当に言ったはずなのに、菜摘は勝手に持ってきて、次の舞台につながる通路で、それを見せつけていた。本当にホルマリン漬けの臓器が置いてあるとはな。まさか本物じゃないよな……?
「……逃げたな」
そしてさっきまでいた葛城の姿は無く、どうやらホルマリン漬けの瓶を見た瞬間、逃げ出したようだ。
「……ま、マロン」
「限界か!? それなら、リタイアするか?」
床に座り込んでしまった紫苑は、俺の問いかけに首を横に振った。
「……私は、このメンバーで、最後まで頑張りたいのです。……ですが、腰が抜けてしまいまして。……立てなくなっちゃいました」
菜摘が持ってきたホルマリン漬けの瓶を見て、紫苑は腰が抜けてしまい、動けなくなってしまったようだ。
紫苑が、一番怖がっている。けどどんな仕掛けで怖がっても、弱音を吐かず、ずっと俺の服の袖を掴んで付いて来ていた。大分歩いているので、もう少しで終わりだと思う。ここまで来たら、このお化け屋敷を突破したいのだろう。
「……ほら。……乗れ」
「……ありがとうなのです」
紫苑をおんぶすると、紫苑は俺の服をぎゅっと握った。このままが一番安心するのだろうと思い、出口まで行く事にした。
そして俺たちも葛城を追いかけ、薄暗い廊下を歩くと、今度はヒヤッとする場所にやって来た。死体を安置する、霊安室のようだ。
「さ、3回戦……。こ、ここでは、何が起こるでしょうか……?」
寒いのか、葛城は少し体が震えていた。さっきまで、不快に感じる蒸し暑さも感じていたが、ここではクーラーが効きすぎと言う感じの寒さだった。
「何も起こらない……。そう願うわ……」
そろそろ葛城も限界になってきたようだ。一刻も早く、このお化け屋敷を抜け出したいのだろう。
「さ、さあ。松原君の予想は?」
「……ここも定番に、いきなり幽霊が襲いかかって来るんだろ?」
お化け屋敷の脅かし方なんて、それぐらいしかないと思うので、適当に言っておくと。
「ヒロ君の予想、当たったようだよ?」
菜摘が、もみじ饅頭を食べながら後ろを向いていたので、俺も背後を見てみると、メイクによって、血まみれになった人が突っ立っていた。暗闇でいきなり現れたら、誰だって驚くだろう。
「ヒロ君。救急車を呼んだ方がいいと思うな~?」
「菜摘。そろそろ演技でもいいから怖がってくれないか? 菜摘が怖がらずに、マイペースにもみじ饅頭を食べているから、この人が泣きそうなんだが……」
全く動揺しない菜摘の姿を見て、この幽霊役のスタッフが、この仕事に自信を無くし、この仕事辞めなければいいんだが。
「きゃー。これでいいの?」
「どこかの大根役者のせいで、落ち込んでしまったぞ」
再び叫び声を上げて、菜摘を驚かせようとしたが、菜摘は全く驚くことなく、もみじ饅頭を食べていたので、幽霊役のスタッフは、壁の裏に戻って行き、そこから大きなため息が聞こえてきた。
そして今回の予想は、俺の当たりなので、葛城とは同点だ。その勝負している葛城と合流しようと、次の場所に移動すると。
「松原君。ここが最後みたいよ」
少し表情が明るくなった葛城が見つめる先には、明かりが見えた。恐らく、あれが出口なのだろう。
「最終戦。この長い廊下にも、きっと仕掛けがあるはず。何があると思う?」
「廊下を歩いていると、たくさんの幽霊が追いかけてくる」
「私は、上から何かが落ちてくる」
俺と葛城の予想が出た所で、俺たちは出口を目指して歩き出すと、通路には特に仕掛けは無く、このままゴールかと思いきや。
「ぐわぁああああ!!」
物陰に隠れた幽霊役のスタッフが2人、俺たちを脅かした。
「きゃぁあああああああ!!」
葛城は油断していたのだろう。最後の最後に血まみれの幽霊が脅かしに来たので、葛城は凄く大きな悲鳴を上げ、腰が抜け、地面に座り込んで、泣きそうになっていた。
「脅かす暇があるなら、早く病院に行った方がいいと思うな~?」
いきなり脅かしても、菜摘は動じる事は無く、新たなもみじ饅頭を取り出そうとした時、菜摘の動きが止まった。
「……菜摘にとっては、お化け以上に怖いだろうな」
菜摘が見た先。そこには、壁に蛾が止まっていた。蛾を見た瞬間、菜摘は真っ青な顔をして、俺の後ろに隠れてしまった。
「……俺たち、蛾以下なのか」
「そんな事は無いですからっ⁉」
どんなグロテスクな人形でも、血まみれの幽霊でも、大きな物音が立っても、どこからか聞こえる子供の笑い声を聞いても、怖がることが無かった菜摘だが、たった壁にいた蛾一匹で、お化け以上に怖がってしまった、その光景を見た、幽霊役のスタッフが落ち込んでいたので、俺が幽霊をなだめると言う、シュールな光景を生んでいた。




