遊園地1
少しずつ紅葉が始まり始めている富士の麓。朝だからか、ずっと夏に着てきたシャツ1枚では少し肌寒く、上に羽織る物でも欲しいと思った。
「木村さんのおかげね。ありがとう、木村さん」
『遠慮、するな』
自分が勝ち取った訳でもないのに、どこか偉そうな葛城が、木村を褒めていた。
バトルロワイヤルで、木村が髙橋にお願いした事。それはお隣の山梨県にあり、富士山の麓にある大きな遊園地の入場券だった。それで週末、俺と菜摘、楠木、木村、紫苑、葛城。そして入場券が余ったので、塚本と田辺も呼んだ。村田も呼びたかったのだが、野球部を休むことが出来ないようで、俺たちを凄く羨ましそうにし、そして野球部の顧問とキャプテンを恨んでいた。
それにしても、髙橋の奴は、勝利したら本当にどのような願いも叶えるようだ。そこまでして、バトルロワイヤルにやる気を出させたいのか。
「まあ休日だから、人は多いわね」
「菜摘が迷子になったら、見つけるのは困難だろうな」
楠木が言った通り、ここは全国でも有名な遊園地でもあるので、来園している人もたくさんだ。休日の秋葉原、平日の朝の新宿駅みたいな混雑ではないが、それなりに人がいるので、誰か一人でも迷子になったら大変だろう。
「松原君。そんな事言うから、フラグが立っちゃうのよ?」
「気付いているから、そんなありきたりなフラグを言えるんだよ」
勿論。もう菜摘が俺の傍にいなかった。この遊園地に入場した時には、俺の横でもみじ饅頭を食べていた。恐らく、ソフトクリームの幟でも見つけて、買いに行ったのだろう。
「皆さん、まずはどこに行きましょうか? 私は、ジェットコースターが良いのですっ!」
この有名な遊園地には、たくさん遊ぶ場所がある。今言ったジェットコースター、メリーゴーランド、お化け屋敷、観覧車など。とりあえず、千葉にある有名な国と同じぐらい遊べそうだ。
「ちょっと待て。まず、みんなでどこに行きたいかを聞くべきだ」
紫苑ばかりの願いを聞いていたら、みんなが不満に思うだろう。
「紫苑が言う、ジェットコースターに乗りたい人はいるか?」
俺がみんなに尋ねると、手を挙げたのは紫苑だけだった。
「……わ、私は、ヒロと一緒にメリーゴーランドがいいな」
少し顔を赤くして、ロマンティックな事を言う楠木。見た目は大人っぽい楠木だが、心の中は、俺たちの中で一番乙女だろう。
「私は、あそこに見える観覧車が良いと思うの。頂点に行った時、大きな声で、『人がゴミのようだ!』って言いたいの」
葛城は観覧車を希望した。そんなの、コミケ会場でも出来るだろう。
「正義。ちょっと耳を貸せ」
いきなり行き詰った俺たちに、田辺が何か提案があるようだ。
「正義、俺はお化け屋敷を提案する」
「理由は?」
「女子の苦手な物のトップ3に入ると言ったら、お化けだ。しかも、ここのお化け屋敷は日本一怖いと有名じゃないか。お化け屋敷に入れば、まず怖がった木村さんが、俺に頼って、抱き着いて来る。そして正義も、菜摘様たちに抱き着かれるぞ」
田辺は、木村と接近するため、吊り橋効果で、木村と仲良くなりたいようだ。
「某も、お化け屋敷を希望する」
塚本も、田辺と同じような事を考えたのか、お化け屋敷を希望していた。
田辺の言う通り、ここのお化け屋敷は日本一怖いと聞いた事がある。機会があれば、行きたいと思っていたところなので、田辺たちみたいに下心で行くのではなく、純粋にお化け屋敷に行ってみたいので、俺もお化け屋敷に賛成派だ。
「お化け屋敷に行きたい人はいるか?」
念のために、全員に聞いてみると、俺と田辺、塚本、そして意外な事に木村も小さく挙手していたので、俺たちは最初にお化け屋敷に行く事にした。
ここのお化け屋敷は、廃病院を利用しているお化け屋敷。中にはおぞましい姿に変装したスタッフなのだが、実際に本物を見たと言う人もいる。霊も住みやすいと思ってしまうほど、実際の廃墟に近いような、お化け屋敷だ。
「ま、マロンだけが頼りなので、絶対に私を守ってください……!」
「はいよ」
田辺の案で、お化け屋敷に入る時は、人数を分けて入る事になった。
俺、紫苑、葛城。そしていつの間にか、菜摘が合流して4人。楠木、木村、田辺、塚本の4人ずつの2班に分かれて、入る事になった。
「正義。俺はここで、幸せを手に入れる」
「お化け屋敷に入る前の言葉とは思えんな……」
結婚式場と何かと勘違いしているのか、まずは田辺たちが先に、病院の中に入って行き、数分時間を空けて、俺たちも廃病院に入って行った。
「松原君は、お化けとか平気なの?」
「基本的にはな。怖かったら、俺じゃなくて、菜摘にくっついた方がいいと思うぞ」
恐らく、葛城も怖かったら、俺に抱き着こうとしていたのだろう。俺も全く怖くないわけではないので、こんな状況でもマイペースにもみじ饅頭を食べている菜摘に頼った方がいいだろう。
廃病院と言う設定なので、微かに消毒液の匂い、そして埃っぽい感じがあり、ここまで再現をするのかと思っていると。
「……っと」
歩いていると、血塗られた無数の髑髏の山があった。薄暗い中、突然現れたので、俺も少しビビった。
「きゃぁあああああ!!」
そして紫苑は絶叫し、葛城も体をビクッとさせていた。
「ヒロ君。こんな風に綺麗に積むこと出来るの?」
「やろうと思えば、出来るんじゃないのか?」
菜摘は、どうでも良い事に疑問に思ったらしく、興味深そうに髑髏の山を見ていた。
そして髑髏の山を通り過ぎた後、少し大きな部屋に出た。手術器具や、散らばった資料があり、どこからか小さな子供の楽し気な笑い声が聞こえてきた。
「ヒロ君。この笑い声って、机の下でスタンバイしている、血だらけの人を見て笑っているのかな?」
「……菜摘。……お化けの仕事を取るな」
子供の笑い声を、机の下で待機しているお化けのスタッフを見て笑っているのだと思ったようだ。
「……ぐ、グワーッ!!」
出るタイミングを失ったお化け役のスタッフは、机の下から強引に出てきていた。何だか、脅かす側のお化けに頭を下げたくなってきた。
「きゃぁあああああ!!」
そして紫苑は、思惑通りに大きな悲鳴を上げてくれる。これでお化け役のスタッフも安心できるだろう。
「貴方は脅かさないの?」
横で、もみじ饅頭を食べている菜摘には、何も置かれていない、部屋の隅の方に話しかけていた。俺たちには見えない、何かに話しかけているようなので、深く聞かない事にした。
あの部屋から歩き続けると、廊下には血が付着した壁。亡くなった人だと思われる死体の人形。どこからか聞こえる、男の子の声。訪れた人をとことん怖がらせようと言う気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
「……ま、マロン」
叫び過ぎたのか、紫苑の声は若干かすれていた。
「リタイアするか?」
「……ま、マロンが傍にいるので、平気なのです」
俺がいるから頑張れると言っているが、無理は良くないだろう。限界だと思ったら、俺たちだけでもリタイアした方がよさそうだ。
「……ただ単にお化け屋敷を歩くだけじゃなくて、何だかつまらないわね」
薄暗い通路で、紫苑が怯え、菜摘が新たなもみじ饅頭を取り出そうとしている時、葛城が良からぬ事を考えていた。
「松宮さんは、次は何をしたい?」
「ラーメンが食べたいような?」
菜摘は、こんだけ黙々ともみじ饅頭を食べていると言うのに、もう昼ご飯を希望してきたんだが。
「松原君は高村さんと。私は松宮さん。次の目的地を、ジェットコースターに乗るか、昼食にするかを賭けた勝負をしない?」
やはり俺は、ただ純粋にお化け屋敷を楽しむことが出来ないようで、葛城たち、女子に振り回されるようだ。




