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漫画の台詞は、人の心を動かす

 

「何かあったのか?」

「……べ、別に」


 それは朝の事。俺がこの教室に来てから、ずっと隣の席から視線を感じていた。授業中に確認してみると、それはチラチラと俺の方を見る木村の視線だった。

 いつもなら、先生が目の前で授業をしていようが、授業の話を全く聞かず、こっそりとスマホをいじっている木村。だが、今日はずっと俺の方を見たり、シャープペンでノートを突っついているだけであった。


「おい、安藤。これはお前の仕業か?」


 木村が目を逸らして、黙り込んでしまうと、ふと俺の耳には、佐村が安藤に話しかけている声が聞こえた。佐村は、自分の名前が書かれた茶封筒を、安藤に見せつけていた。


「それに関しては、俺は全く関係ない。トップの髙橋が新しく考えた遊び、レクレーションだと思ってくれればいいんじゃないのか」


 どうやら、今回の成敗、下剋上勝負のバトルロワイヤル。その一人に佐村が選ばれたらしい。


「そうかよ」


 入学して間もない頃、安藤と佐村は仲良さそうだったが、今ではそんな関係ではないようだ。安藤は佐村を軽くあしらい、そして佐村は求めていた答えがもらえなかったせいか、機嫌が悪くなっていた。


「……やっぱり、用があったんじゃないか」


 俺の制服の裾を引っ張る木村の方を見ると、木村は佐村と同じ茶封筒を、俺に見せつけていた。佐村と安藤のやり取りを見て、自分も出さずにいられなくなったのだろう。


『どうすればいい』


 照れ隠しで、木村はスマホの音声機能で話し、俺に助けを求めていた。


「どうしようもない。こうなったら、諦めて出るしかないだろうな」

『出たく、ない』


 木村は4軍。そして見た目が大人しそうで、気弱に見えるため、すぐに木村が狙われるだろう。そして今回は、同じクラスの佐村がいる。尚更、木村は出たくないだろう。


「松原君の言う通り、観念して出るしかないと思うわ」


 いつからいて、いつから話を聞いていたのか、葛城が木村の横に立ってそう言っていた。


『私は、貴方、みたいに、強くない、し、体力も、ない。すぐに負けて、笑い者に、されるのが、目に見える』

「勝負に体力とか関係ないと思うの。いい? 勝負に大切な物は……」


 そして葛城は、木村に耳打ちをし、何かをアドバイスした後、木村の雲った表情から、少しだけ表情が明るくなり、俺と葛城に小さくお辞儀をして、自分の席でスマホを操作し始めた。


「何を吹き込んだ?」

「己の欲望は、時に力よりも最大の武器になる。そう教えただけ」


 葛城の助言を聞いて、木村は何を思ったのか。何かに取り憑かれたように、スマホの画面に吸い付くように、じっと見ていた。


「木村。俺からもアドバイスしてもいいか?」


 木村はこくりと頷いたので、俺も木村に助言することにした。俺にせっかく相談したのに、何も言わないまま話を終えるのは、どうかと思ったからだ。


「最後まで諦めずに戦い抜けた者が、真の勝者だと思うぞ」

「……私も、白魂しらたま好きだよ」


 どうやら、少年漫画の有名なフレーズをご存じだったようだ。今の言葉もそうだし、葛城が助言した言葉も、その白魂と言う漫画に書いてある台詞だ。


「……ありがとう」


 再び俺たちに頭を下げた後、スマホの操作を再開していた。




 俺は、バトルロワイヤルが行われる空き教室に向かった。場所は変わらず、数日前に戦った教室で、ペナルティとして、床掃除をした場所だった。


「何故、君がおるん?」

「俺も、この取り組みに興味があってな。髙橋と同じく、観戦したらいけないのか?」

「観戦するのは構わん。けど、君の席はない。言うてる意味が分かるん?」


 髙橋の許可は得たので、俺は教室の床に、正座で座った。4軍らしく、髙橋にへりくだった態度で出ておけば、髙橋の機嫌は損ねないだろう。


「1軍の井上君。2軍の長野君。3軍の佐村君。4軍の木村君の雑魚たちには、この教室の範囲内で、殺し合いをしてもらう。ルールは、成敗、下剋上勝負と同じや。最後まで生き残った雑魚には、僕からささやかな願いを叶えたる。けど、負けた雑魚にはペナルティがある。ほな、開始や」


 そして高橋の合図で、再びバトルロワイヤルが開始した。

 今回は、1軍の井上、そして4軍の木村が女子。2軍の長野、3軍の佐村が男子と、丁度いい比率で召集がかかっていたようだ。


「おい1軍のメガネ。お前がこのスマホ花子をやっつけろよ」

「べ、別にいいですけど……」


 勝手に指揮を執り始めた佐村は、1軍の井上に圧をかけて命令していた。1軍の人は、みんな華やかな印象があったのだが、こう言った文学少女みたいな、地味な雰囲気の人もいたのか。


「わ、私、こう言った勝負は初めてなので、上手く出来るかどうか……」

「話している暇があるなら、さっさとやれよ」


 機嫌の悪い佐村の迫力に押されたのか、覚悟を決めて木村の前に立った。


「あ、あの。私は1軍にいます、井上――」


 丁寧に木村に自己紹介している時に、木村はすぐに自分の生徒証を井上のバッジに、2回連続で触れさせていた。


「……あ、あわわわ」

「……」


 木村の小柄な体型を活かした素早い動きに、井上が混乱し、取り乱している間、木村は3回、4回。そして4回に当てると、異常音が鳴り始めると。


「……か、火事ですか!!?」


 異常音が、火災報知器から出ている音だと思ったのか、目を回して混乱している井上に、木村は更に追撃をし、そして井上のバッジから電流が流れ、井上は地面に蹲った。


「……よくやったな」


 木村と井上の勝負は、木村の勝ちだ。そして木村は、少しドヤ顔になって、俺に向けてピースサインをしてきたので、俺もピースサインで返した。


「何だ、スマホ花子が勝ったのか。面白くないな」


 一方、佐村は2軍の長野に勝負を仕掛け、そして2軍に打ち勝っていた。残るは木村と佐村だけになっていた。


「スマホ花子は、勝ったらスマホのバッテリーでも頼んでもらうのか?」

『そう、思って、おけばいい』

「そんなくだらない事を頼む奴より、俺が、このチャンスを有意義に使う。スマホ花子、さっさと俺に負けろ」

『断る』


 どちらも引けを取らない様子だ。佐村の事だから、女子を誘うために、どこかの飲食店か、カラオケ店の割引券でも要求するのだろう。


「逃げんなよ」


 佐村は木村に近づこうとし、木村は佐村に捕まらないように、この教室全体を使って、教室の中をぐるぐる回り始めたが。


「……はぁ。……はぁ」


 さっきの勝負があったせいか、木村はすぐに地面に座り込んで、大きく息を切らしていた。


「何、自滅してんだよ」


 座り込んでいる木村の手首を強引に掴み、そして小柄な木村を持ち上げると、佐村は自分の生徒証を木村のバッジに当てた。


「この勝負、俺の勝ちだな――」


 そう佐村が安心している時に、木村も佐村のバッジに生徒証を当てていた。


『油断、した、方が、負け』


 もう一度、木村は佐村のバッジに生徒証を当てようと手を伸ばすと、佐村も同時に木村のバッジに手を伸ばし、お互いが同時に触れると、木村と佐村のバッジから異常音が鳴り始めると、佐村は木村を投げ飛ばし、教室の壁にぶつけた。


「痛くて動けないか。この勝負、俺の勝ちだな」


 勝利を確信したのか、余裕そうにゆっくりと木村に近づく佐村。痛みに悶絶し、身動きが取れない様子。このまま佐村の生徒証を当てられて、木村は負けてしまうだろう。


『ある人に、教わった』


 痛みを堪えながら、木村は自分の生徒証を佐村のバッジに向けて投げつけると、生徒証は狙い通りに、佐村のバッジに当たった。


『最後まで、諦めずに、戦い抜けた者が、俺は真の勝者、だ』


 白魂の台詞を糧にして、木村は勝つ事が出来た。

 そして佐村に電流が流されて、佐村は床に沈むと、木村は自分の生徒証を回収した後、ドヤ顔で俺も元に駆け寄ってきた。


「やったな」

「……当然」


 木村は嬉しそうに、ピースサインをしたので、俺もピースサインを返すと。


「雑魚のくせに、よく上位の雑魚に勝てた。そこだけは褒めてやるわ。それで君は、何を望むん?」


 髙橋に称賛された後、木村は髙橋にスマホの画面を見せつけた。


「君は遠慮と言う物を知らないんやな。けど、その願いを叶えたる」


 髙橋はニヤリと笑った後、髙橋は電流によって沈んだ生徒に、ペナルティの内容を命令してから、教室を出て行った。


「何を頼んだんだ?」

「……正義君が喜ぶ事」


 小悪魔っぽく笑った後、恥ずかしかったのか、木村は顔を赤くして、俺から顔を背けてしまった。



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