1軍のハーフ
俺たちの学年の新たなトップ、髙橋が新たな取り組みとして、バトルロワイヤルを導入すると言い出した。その最初の取り組みに、俺が選ばれた訳だ。
あまり気分が乗らないが、勝負に負ける、逃げてペナルティを受けるのはごめんなので、バトルロワイヤルが行われる空き教室に向けて、とぼとぼと歩いていると。
「グダーグ。松原さん」
突然、俺の横には白髪の女子が歩いていた。
「あなたも、高橋さんに招待されたのでしょう?」
「ああ。、そう言うあんたも、そうなのか?」
「ヤー」
所々、おかしな言葉を言うこの女子生徒。ちょっと変わった人なので、3軍の人かと思いきや、胸元には、金色に輝くバッジがあった。
「あんた、1軍か」
「ヤイは1軍の中村レイラ。父は日本人、母はノルウェー人。先程から変な顔して聞いている、ヤイやグダーグの言葉は、ノルウェー語なのです。聞きなれない言葉を使うから、きっと頭の悪い3軍だと思ったのでしょう?」
「べ、別にそう思っていないが……」
洞察力が高い中村は、ノルウェーと日本人のハーフ。この学校に、ハーフがいたことに驚きだ。どうしてこの学校の女子は、勘が鋭い人が多いのだろうか。
「ヤイは、ハエ以下の存在、4軍の松原さんに交渉しに、歩きたくもない横を歩いているのです」
女子に蔑まれるのは、大抵の男は傷つく。恐らく4軍のせいだと思うが、初対面でいきなり嫌われているので、話すたびに傷つきそうだ。
「ハエ以下の俺に、何の用か?」
「今から行われる勝負、ヤイと手を組んでください」
ハエよりも嫌っているのに、なぜか中村は俺と手を組みたいと言ってきた。
「この勝負、狙われるのは、松原さんとヤイだと憶測しています」
俺が狙われる理由は分かる。俺を即行で仕留めれば、他の奴らは最下位を免れる。勝者には褒美があるのに対し、勝負で最初に負ける人には、それなりの報いがあるだろう。
「どうして中村が狙われるんだ? 一番狙われにくいだろ?」
「ヤイが戦う相手、4軍の松原さんの他には、2軍の長谷さん。3軍の松田さん。2人は親友の関係なのです。二人が結託し、2対1でヤイを仕留めると憶測しているのです」
2軍と3軍が手を組んで、しかも仲が良いなら、息が合い、2人のコンビネーションはいいだろう。そうなってしまえば、流石の1軍でも負ける可能性が高い。
「松原さんは、成敗、下剋上勝負に慣れていると聞いたのです。その豊富な経験で、ヤイに手を貸してほしいのです」
1軍の中村と手を組めば、俺も最後まで勝ち残る可能性がぐっと高くなる。手を組むのは悪くないが、俺をハエ以上に嫌っている女子だ。どこかで裏切る可能性があるので、安心して戦う事は出来ないだろう。
「最後に聞かせろ。中村は勝負に勝ったら、何を髙橋にお願いするつもりだ?」
「4軍の松原さんに、ペナルティ執行です」
聞いたらマズかったのか、中村は俺にペナルティを執行したので、バッジから電流が流れた。
「他人のプライバシーを平気に聞くから、松原さんはハエ以下の存在の4軍なのですよ」
ゴミを見るような目で俺を見下した後、中村は、腰に手を当て、俺が電流の痛みから復活するのを待っていた。
「4軍は、素直に1軍の命令に素直に従うのです。1軍のヤイにお願いされる事に、松原さんは光栄に思った方がいいと思います」
中村は、どうやら俺の敵のようだ。髙橋と同じ、このスクールカースト制度の肯定派。1軍は、葛城以外に、このスクールカースト制度を変だと思わないようだ。
「これより、雑魚たちの殺し合いを始めてもらいまーす」
指定された空き教室に着くと、髙橋が仕切り、すぐにバトルロワイヤルが始まった。教室に机や椅子は片付けられていて、がらんとしていた。
「ルールは簡単や。この4人の中で、最後まで生き残った生徒の勝ち。最後まで生き残った雑魚には、トップの僕が褒美を与えたる。それで戦う場所は、この教室の中のみで、外に出る事は許されへんよ。ほな、始めてくださーい」
髙橋が合図をすると、中村の睨んだ通りに、2軍の長谷と3軍の松田が手を組んで、一斉に中村に勝負を挑んでいた。
「1軍を仕留めれば、この勝負に勝ったと同然! さっさとリタイアしやがれ。1軍ー!!」
2軍の長谷が、中村の前に立ち、3軍の松田が、中村の背後に立った。挟み撃ちで攻撃するつもりなのだろう。
「ヤイ以下の生徒は、みんな野蛮です」
隙があれば、即座に攻撃し、中村の手助けをしろ。それが命令だったので、背中ががら空きだった3軍の松田に攻撃を仕掛け、背後から自分の生徒証を松田のバッジに触れて、松田の数値を減らした。
「俺は蚊帳の外か? それとも俺はメインディッシュみたいに扱ってくれるのか?」
「4軍なら、ヤイと戦った後、かなり数値を消耗していても、余裕で勝てる相手だと思ったから。それが正解だと思うのです。そんな考えも分からないから、4軍なのですよ」
そんな事ぐらい分かっていたのに、親切な事に中村がそう解説してくれた。
俺が地味に傷つき、中村が俺の様子を鼻で笑った後、俺に続けて3軍の松田のバッジに自分の生徒証を触れさせて、3軍の松田を一瞬で葬っていた。
「……お前らも、手を組んでいたのか?」
「そうなのです。本当は、松原さんたちの吐いた息が紛れ込んだ空気すら吸いたくないヤイですが、これも1軍の威厳を保つための、苦肉の策なのです」
まだ菜摘は、教室で寝ているのか、俺の傍にいない。もし菜摘がこの言葉を聞いたら、菜摘は目を細めて、指を中村の唇に置いて、黙らせているだろう。俺を嫌う人は、菜摘は決して黙っていないだろう。
「……こうなったらやけだ! まずは4軍の松原を消してやる!」
自暴自棄になった長谷は、目の前に立っていた中村を弾き飛ばし、生徒証を携えて俺に突撃してきた。
「中村を突き飛ばす余裕があったなら、どうしてバッジを触れさせないんだ」
周りが見えなくなっている長谷に足をかけて、長谷を床に転倒させた。これも立派な作戦だ。髙橋も何も言わないだろう。
「4軍を甘く見ない方がいいぞ」
念のために、長谷の生徒証を取り上げ、俺は長谷のバッジに自分の生徒証を2度触れさせると、長谷のバッジから異常音が鳴り始めた。もう一度触れさせれば、俺は長谷の勝負に勝つことが出来る。
「長谷さんを倒す権利を、松原さんに譲ります。早く止めを刺してほしいのです」
「言われなくとも、分かっている」
長谷は生徒証を取り上げられると、もう勝ち目が無いと観念したのか、抵抗する事も無く、大人しく電流を受けていた。
「流石なのです。勝負慣れしていますね。松原さん」
「祝福するなら、ちゃんと拍手をしろよな」
心がこもっていない拍手をしている中村は、じりじりと俺に接近していた。
残りは俺と中村のみ。手を組む理由が無くなったので、中村は即座に攻撃を仕掛けてくる可能性がある。勝つには、先手必勝で先制し、数値が無くなるまで、何度でも攻撃を仕掛けるしかない――
「ぼーっとして、疲れたのですか?」
考え込んでいると、中村は俺の目の前に立っていて、気付いて後ろに下がった、下がる前に中村の生徒証が触れたようで、俺は一瞬で葬られた。
「少しつまらんかったけど、勝者は中村君や。おめでとう」
このバトルロワイヤルは、1軍の中村の勝利で終わった。
「こうやって、お目当ての物を貰えたのも、4軍の松原さんのおかげなのです」
「分かったから、俺に図書カードを見せびらかすのを止めてくれないか?」
中村は、勝者になった報酬として、髙橋に1万円分の図書券を要望すると、髙橋は快く受け入れて、すぐに1万円分の図書券を中村に渡していた。
「敗者は、頑張って床掃除ですか。ご苦労様なのです」
負けた者は、報復として掃除をさせられた。長谷と松田は、楽なトイレ掃除を選んで、俺だけが一番大変な空き教室を掃除する羽目になった。
「4軍にしては、よくヤイの命令を聞いてくれたのです。松原さんはハエではなく、忠実に働くアリだと、ヤイは認識したのです」
ハエからアリに昇格したようだ。あまり大差はないが、ハエよりはマシだろう。
「そんなアリに、チャンスを上げるのです。松原さん、明日から見習いとして、ヤイの傍にいるのです」
さっきまで俺が呼吸した空気を吸いたくないと言っていた中村が、どう言う風の吹き回しか、急に中村の傍にいて欲しいと言ってきた。
「松原君に変わって答えさせてもらうわ。答えはナイよ、中村さん?」
そしてこの空き教室に、唐突に現れた葛城が、中村を睨んでそう答えていた。




