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髙橋のマニフェスト

 葛城が、清水が仕掛けた成敗勝負に勝った数日後の朝。

 横には菜摘がぼーっと隣のホームにある駅名の看板を見ていて、その横で俺は電車がまだかと、大きな欠伸をしていると。


「おはよう。松原君」


 背後から、俺の名前が呼ばれた。


「いい天気や。学校なんかサボって、外で遊びたい気分と思わんか?」


 男性の声だが、この声は田辺や、塚本、村田や安藤たちの聞きなれた声は無い。


「無視? 無視は酷くない? 松原君?」


 話しかけてきたのは、清水と新たなトップの座の争いをしていた高橋だった。俺は高橋の方に振り返らず、そのまま線路側の方を向いて話した。


「高橋も、この駅を利用するのか?」

「僕の家は、田園調布。君たちの学校の近くや」


 こいつ、そんな高級住宅街に住んでいるのか。

 髙橋は、ぎょろっとした大きな目が特徴。夜道で高橋と出くわしたら、宇宙人かと思ってしまうほど、目力が強い。


「そんなお坊ちゃまが、わざわざこんなところで何の用だ?」

「電車来た。電車の中で、ゆっくり話さんか?」


 学校があると言うのに、俺に何か言いたくて、学校とは正反対の所まで、やって来たのだろう。

 当然、今は通勤、通学のラッシュ。俺たちが乗り込んだ急行の電車も、もちろん満員。菜摘はいつもの事なので、満員でも普通に寝ることが出来るぐらい慣れているのだが、高橋とギュウギュウ詰めの電車に慣れていないのか、深いそうな顔をしてから、大きな声で話し始めた。


「僕が、葛城君の後を継いだ、高橋和真や」

「……お前が、トップになったんか」


 やはり、葛城の勝負が敗因で、清水は次期トップの選考から外されたらしい。


「君が、僕たちの学年の最底辺、松原正義。通称ヒビト君やろ?」

「その呼び名は、マジで止めてくれ」


 大きな声、そして満員電車の中で、高橋がそう言ってしまうから、目の前に座る小学生が、俺の方を見て笑われているんだが。

 どうやら、俺が知らない学校の裏では、俺の名前はヒビト君で通っているらしい。本当に校内放送で、俺の黒歴史を広めた、横でこくりと立ちながら眠っている菜摘を恨む。


「乗り換えや。はよせんと、乗り過ぎてしまうよ」

「お前に言われなくても、分かってる」


 髙橋に主導権を握られ、高橋の言う事を素直に従うのが癪だが、乗り過ぎてしまったら、学校に遅刻するかもしれない。仕方なく、俺は、ウトウトしている菜摘を引きずりながら、高橋と共に移動することにした。

 電車を乗り換え、学校の最寄り駅に向かう満員電車に乗り込むと、横にはちゃんと高橋が立っていた。


「僕がトップになった暁には、やりたいことがあるんや」


 どんな状況でも構わず、高橋は大きな声で話し出すので、立ったまま眠っていたサラリーマンや、イヤホンで音楽を聴いていたOLがびっくりしていた。どれだけ、高橋の声は周りに響くんだ。


「無作為に、僕の学年の生徒を選び、そして生まれ変わった成敗、下剋上勝負で戦わせる。雑魚同士で殺し合いをしてもらおうと思っているやけど、ヒビト君はどう思う?」

「反対だ」


 こいつは、ルールが改訂された成敗、下剋上勝負をお遊戯と勘違いして、自分の娯楽の一環として取り組もうとしているらしい。


「成敗、下剋上勝負は、下位の生徒が、上位に目指すための救済措置であり、素行の悪い生徒を懲らしめるために行っている制度だ。お前の趣味として使うのはどうかと思うぞ」

「僕は、スポーツを実際にやるんじゃなく、客席で観戦するのが好きなんや」


 そして高橋は、首を直角に横に曲げて、フクロウのように大きな目で、俺をじっと見つめていた。


「これはいい案やと思うんや。君は知らんと思うけど、1軍のみんなは、トップをつかみ取ろうと日々努力し、地位を略奪しようと見えない所で争っている。けど、1軍より下はどうや? 誰も1軍に上り詰めようとしない、君のような素行の悪い4軍を懲らしめようとしない。これって、あの生徒会長が望んだことなんか?」


 確かに、あの生徒会長がやろうと言い出した理由は、自分の階位に満足せず、常にスクールカースト制度の上位を目指すのが目的だと言っていた。


「昨日、生徒会長に言われたんや。僕がトップになるには、成敗、下剋上勝負を普及させる方法を考えろ。けど僕は即答で答えた。僕たちの学年は、バトルロイヤルで戦わせますと。そう言ったら、生徒会長は気に入ってくれた。褒めてくれたんや」


 生徒会長のお墨付きを貰ってしまっているなら、確実に高橋は実行するだろう。


「ルールは?」

「もう考えておるよ。各階位から1人ずつ配置する。審判は僕。1人になるまで戦い続けて、最後に残った者が勝利、勝ち残った奴には、僕の権限で1つ願いを叶えたる。どうや? 少しはやる気が出えへんか?」


 何でも言う事を聞くと公表したら、誰かはやる気を出して、真剣に勝負をやる人が出てくるだろう。


「だが、そんな事を宣言して良いのか? 何でも言う事を叶えるって、高橋に何が出来る?」

「これは秘密なんやけどー」


 秘密なら、電車の中で大きな声で話すな。


「トップになった人は、生徒会長が何でも言う事を聞いてくれるらしんや。それを餌にしたら、雑魚たちもやる気を出してくれると思うんや」


 髙橋はトップの地位を利用して、古代のローマ帝国のように、奴隷を猛獣に戦わせて、その逃げ回る姿、猛獣に立ち向かう姿を見て、民衆や国王の娯楽化にさせると言っているような物だ。


「それで君には、最初のメンバーに選ばれた。それで今日は、僕からおめでとうって言いに来た訳や」

「成程な。ようやく納得出来た」


 髙橋に、目を大きく開いておめでとうと言われても、俺は全く嬉しくなかった。


「今日の放課後から実施するから、必ず参加してや。逃げたら、分かってるよね?」


 さらに大きく目を開いて、俺を脅してきたので、俺はあまりの不気味さに、思わずビビってしまった。


「用件は伝えたから、君にはもう話す事は無い。ほな、さいなら」


 髙橋がそう言うと、丁度のタイミングで電車のドアが開き、高校の最寄り駅に着いたので、髙橋はすぐに電車を降りて、俺たちと別れて、すぐに姿を消した。意外と髙橋と話し込んでいたらしい。気が付くと、菜摘を除く周りの人が、迷惑そうに俺たちを睨んでいた。


「……って、俺たちも降りねぇと!」


 近くで髙橋が大きな声で話していても、菜摘は制服の胸辺りに涎を垂らして熟睡していたので、菜摘を起こして、ドアが閉まるギリギリに電車を降りた。



 駅の改札を出ると、切符の券売機の近くに楠木が待っていてくれたので、楠木と共に学校に向けて歩きながら、高橋が企んでいる事を話した。


「……ホント、1軍にはロクな人がいないわね」


 楠木は、問題児だらけ1軍に呆れている様子だった。どうして、トップになった人は、好き勝手にやり始めるのだろうか。誰もこのいかれた制度を無くそうとは考えないのだろうか。


「けど、何でも言う事を聞くと言うのは魅力的よね……」


 ここで早速、髙橋の話に食いつく楠木がいた。


「か、叶えて貰うなら、遊園地の入場券とか、映画鑑賞券とか欲しいわね……。そ、それなら、ひ、ヒロと、遊べるし……」


 俺とデートする妄想でもしたのか、顔が真っ赤になって、途中で何を言っているのか分からなくなった。相変わらず、恋愛には初心だ。


「それで、ヒロは髙橋の怪しい企画に出るの?」

「出なかったら、即ペナルティだろうな」


 1軍にはペナルティを課せないが、格下の階位の生徒には即ペナルティだ。1軍の命令に逆らったと言えば、合法化される。


「勝てる勝算は?」

「173あるんだ。何とかなるだろ」


 1軍や2軍と戦うとなるとキツいかもしれないが、3軍ぐらいならなんとかなるだろう。俺だけ集中攻撃になる可能性も捨てきれないが。


「えっ……。ヒロって、そんなに高いの……?」


『私の年収低すぎ』と言わんばかりの、楠木は驚いた表情をしていた。


「そんなにって事は、楠木はどんだけ低いんだ」

「……は、80ぐらい」


 これはどんな勝負になっても、楠木は苦戦するだろう。勉強して来なかった結果が、今となって裏目となって出てきたようだ。楠木は運動神経が良いから、動き回って戦うしかないだろう。


「楠木さんは、強い方だと思うな~」


 いつの間にか菓子パンから、携帯食のゼリーをのんびりと吸いながら、制服のポケットから自分の生徒証を取り出して、楠木を慰めようとしていた。


「じゃあ、松宮はどんだけなのよ?」

「……えっとね。……私は32って書いてあるよ~」


 前に菜摘の数値を確認したら、俺は目を疑った。恐らく、菜摘が一番数値が低いだろう。どんな生徒も、菜摘を瞬殺できるぐらい、菜摘はこの勝負には、不向きだ。


「……高橋が私たちを選ばない事を祈るしかないわね」


 菜摘の数値を聞いて、更に不安になったのか、暗い顔をして、溜息をついていた。


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