元トップの意地
審判になった、副会長の福島先輩が合図をすると、清水が葛城を成敗する、成敗勝負が始まった。
「仕掛けてこないの? もしかして、まだルールを覚えていないのかしら?」
さっきまで自信満々だったのに、葛城の数値を見て以降、清水の動きは止まり、頭を抱えて、何か悩んでいる様子だった。この様子だと、まだ清水が、成敗勝負のルールを把握していない可能性がある。これは葛城が先制出来るチャンスだろう。
「こうやるの」
葛城はゆっくり清水に近づいたと思ったら、急にスピードを上げて、清水の背後を取ると、葛城は肩から手を回して、清水のバッジに触れ、ピッと言う音が鳴った。
「はい。先制」
音が鳴ったと言う事は、生徒証がバッジに触れたと言う事になる。だが、流石に数値が400近くのせいか、まだ異常音は鳴らなかった。
「思い出した。バッジに生徒証を触れさせればいいんだったな」
ルールを教えてしまったせいか、急に清水の態度が急変した。
「くっ」
急に振り返った清水をかわそうとしたが、清水の生徒証が葛城のバッジに当たったらしく、葛城のバッジから異常音が鳴り始めた。
「元トップはアホだな。黙って、すぐに攻撃すればいいのによ。先制取れて、余韻に浸っているからだよ」
「それは清水君の方じゃない?」
優位に立って、葛城を否定している隙に、葛城は再び、清水の前に立ち、そしてサッと清水のバッジに触れて、音が鳴った後、遂に清水のバッジから警告音が鳴り始めた。
「これで、立場は一緒ね」
次に葛城も清水の生徒証がバッジに触れてしまったら、葛城は成敗勝負に負けとなり、更にもう1位下げられてしまう。それで葛城は、すぐに清水から離れて、態勢を整えていた。
「何をグズグズしている。さっさと反逆者の首を取れ」
「分かってますよ」
一瞬で勝負が着くと思ったから、葛城に勝負を持ち掛けたのだろう。審判の福島先輩は、清水に再度忠告した後、徐々にイライラし始めて、立ちながら貧乏ゆすりをしていた。
「ねえ、清水君。今朝配られた資料を、ちゃんと読みこんだ?」
「それがどうした」
互いのバッジから警告音が鳴る中、葛城は清水の不思議そうな顔をしている様子を見て、クスッと笑った後、一歩足を後ろに置いた。
「生徒会室だけじゃなくて、他の場所でやりましょうか」
長い黒髪を翻して、葛城は勢いよく生徒会室を飛び出して行った。
「副会長! 途中で逃げ出したんだが、敵前逃亡じゃないのかっ!?」
「いいや。ならないんだよ、トップ候補の清水」
福島先輩も、葛城の突拍子の行動に呆気に取られていたので、代わりに俺が清水に説明することにした。
「戦える範囲は、この自由川高校の敷地内。授業中以外で学校の敷地内ならどこで戦ってもいい。そう朝に配られたプリントにちゃんと書いてあった」
この様子だと、清水どころか、副会長の福島先輩も、自分は数値が高く、そしてこの勝負に有利な事しか把握していないようだ。そんな奴に、俺たちの学年のトップを任せてはいけないだろう。
「お前、松原だろ?」
「ああ。もしかして4軍に口出しされたのが、気に入らないのか?」
俺が口出しをすると、清水は俺を睨み付けていた。4軍のくせに口出しするなと思っているのか、それとも、俺にくっついて菓子パンを食べている菜摘を羨ましがっているのかのどちらかだろう。
「清水。さっさと追いかけろ。見失う」
「分かっていますよ……!」
福島先輩にそう言われて、清水も葛城を探しに出て行き、続けて福島先輩は出て行った。
清水たちがが生徒会室を出て行った後、俺も葛城を捜す事にした。
異常音が鳴り続けているはずなので、すぐに葛城や清水を捜し出せると思い、廊下を歩き回っていると。
「清水。さっさと反逆者の首を取れ」
「分かってますよ」
購買の前で、葛城と清水が対峙していた。どうやら、葛城はこの人が多い場所を戦いの場所に選んだらしい。昼休みの時間には、購買の前には多くの人がいるので、今の葛城と清水の成敗勝負は、注目の的だった。
「昼休み終了まで、残りわずか。すぐに決着をつけてあげる」
どちらも残り一回。バッジに生徒証が触れてしまったら、電流が流れ、勝負が負けとなる。どちらも負けられない勝負に、まず葛城が動いた。
「清水君は、今まで女子とのお付き合いは?」
「あ、あるぞ。今はいないが、中学には同級生の女子と付き合って――」
そう、前に彼女いましたアピールをしている時、清水は急に葛城から顔を俯けた。
「付き合っていたなら、女子への免疫があるはずなんだけど?」
葛城は、スカートの両端を摘まんで、スカートの中がギリギリ見えない位置まで持ち上げていた。
「見なくていいの? これが高校生活で最後になるかもしれないわよ?」
清水が顔を赤くして、顔を俯かせて動けない隙を狙って、葛城は一気に攻撃を仕掛けた。
清水の首を取る一歩手前に立ち、すぐに自分の生徒証を、がら空きの清水のバッジに触れようと差し伸べた時だった。
「……そ、そんなにせがむなら、見せろっ!」
「ひゃっ!」
清水は、両手で葛城のスカートを持ち上げて、葛城のスカートを捲った。まさか捲るとは思っていなかったのか、葛城は顔を真っ赤にして、すぐに両手でスカートを押さえていた。
と言うか、清水だけが、葛城のスカートの中が見たので、俺は羨ましいと思った。あの時、見ておけば良かったと後悔している。
「す、隙ありっ!」
清水に隙を突かれた葛城は、呆気なく清水の攻撃を許してしまい、清水の生徒証が、葛城のバッジに触れてしまった。今回は、清水が葛城を成敗したと言う事になる。葛城の負けのようだ。
「か、勝ったっ! 俺の初めての戦いは――」
「……まだよ」
だが、葛城から出ている異常音は消えておらず、葛城は完全に油断している清水のベルトに手をかけて、ベルトを引き抜いたので、清水のズボンがずり落ち、真っ白なブリーフが露わになった。
「可愛らしい下着ね。とてもお似合いよ」
自分のブリーフを両手で隠し、隙だらけになった清水のバッジに、自分の生徒証を触れさせ、清水は廊下に蹲った。そして清水から出ている異常音は消え、葛城のみが鳴っていた。
「これで勘弁してあげる」
まだほのかに顔が赤く、ムスッとした顔で、清水から顔を背けていた。どうやら、他人に捲られて見られるのは嫌のようで、自分のタイミングだと、いいと言う事になる。
「……10分経っていたのか」
「ちゃんとここまで計算していました。福島先輩、数日前までトップだった私を、甘く見過ぎですよ」
葛城か勝ってしまった事が気に入らないのか、唾を吐き捨てるような感じで、言っていた。
福島先輩が言った『10分』と言う時間。恐らく、朝に配られたプリントに書かれていた事の事だろう。
『10分間、バッジが生徒証に触れなかったら、異常音が止まり、そして体力となる数値も、最初の数値に回復する』
つまり、例え1軍が強くても、戦いが長期化すれば、段々と勝負も不利になっていくと言う事だ。
恐らく、清水の生徒証が、葛城のバッジに触れる数秒前に、鳴り始めてから丁度10分が経ち、数秒だけ異常音が止まったが、すぐに清水の生徒証が触れたので、すぐに異常音が鳴り始めたので、音が止まらないように聞こえたと言う事になる。今の葛城は、そのルールに助けられたようだ。
「私は375点。数値では負けていましたが、勝負は私の勝ちのですよね? 福島先輩?」
やっぱり元トップは、例え4軍になっても、元から4軍の俺たちとは別格だ。通りで、ほぼ互角で清水と戦えるわけだ。
「……葛城の勝利」
審判の福島先輩が、悔しそうにそう宣言をすると、野次馬で見ていた俺を含む数名の生徒から、小さく拍手が送られた後、他の生徒たちは解散していった。
福島先輩は、今の戦いで清水に失望したらしく、清水を放っておいて、生徒会室の方向に戻って行き、清水もすぐにズボンを上げて、福島先輩の後を追いかけて行った。この様子だと、清水が俺たちの学年のトップになる事は無いだろう。
「……はぁ」
俺と菜摘以外、葛城の周りに誰もいなくなると、葛城は腰が抜けたように、廊下に座り込んだ。そして葛城は、少しを頭を低くして、褒めて欲しいようにこちらを見ていた。
「葛城」
「ど、どうしたの? 松原君――イタッ!」
急に生徒会室を飛び出し、そして本当は見られたくないのに、スカートをギリギリに持ち上げて色仕掛けをして勝負に、勝とうとしていた。
危険な賭けをせず、もう少しマシな勝負をしろと言う意味で、葛城の頭を叩いて轟沈させた。




