黒箱の中身
「……いつからそこにいた?」
「松原君に呼ばれた気がした。と言えばいいかしら?」
授業の合間の休み時間。今日は使わない教科書を、鞄の中にしまうと、俺の机の前からひょっこりと、元トップの葛城が現れた。
「……少し、顔色が良くなったか?」
葛城は、3軍の最底辺に降格されたのだが、直後に安藤の下剋上勝負を受けたが、葛城は敗北し、4軍に降格された。
だが、葛城は最底辺にならずに、安藤と順位が入れ替わったように、葛城は4軍のトップ。そして安藤は3軍の最底辺になっていた。
これも今回の勝負から変更された事だ。例えどんな上の者に勝っても、昇格と降格は1位ずつしか下がらなくなった。一気にトップ、一気に最底辺など。そう言ったことは出来なくなり、地道に上り詰めるしかなくなってしまった。
「そう? あまり自覚は無いけど?」
だが葛城は、トップだった時よりも、薄っすらと血色が良くなった気がする。トップのプレッシャーみたいな物が無くなったからかもしれない。
「……安藤君はいないわね」
「基本的に、休み時間にはいないぞ」
葛城が、この教室全体を見渡していたので、俺も念のために見てみたが、安藤の姿は無かった。
「昼休み。生徒玄関に来て。用はその時に話すわ」
それだけを言い残して、葛城はさっさと教室を出て行った。葛城は、あの一件で顔を知られてしまっている。あと教室の後ろでは、猪俣を中心とする1軍が集まっているので、あまり見つかりたくないのだろう。
そして昼休み。俺は葛城に言われたとおりに、生徒玄関の所に向かうと、下駄箱の前に設置されている、すのこに座り込んでいる葛城がいた。
「予測はしていたけど、やはり松宮さんもついてきているわね」
4限目の授業が終わり、目を瞑って背伸びをした後、俺の目の前には、パンをもぐもぐ食べている菜摘が立っていたので、久しぶりにびっくりして、後ろの席の村田の席を巻き込んで、倒れてしまった。
「松原君。早速だけど、生徒会室に潜入するわよ」
「今度は何を企んでいるんだ?」
葛城は、あの一件があったのにもかかわらず、再び諜報活動をしようと企んでいた。
「生徒証。松原君も貰ったでしょ? あの生徒証の中で、気になる事は無い?」
生徒証で気になる事。安藤が大体説明してしまったので、あまり気になる事は無い。顔写真は、生徒手帳と同じものだし、数値はスクールカースト制度の実行委員会が決めて、そして自分が属する階位が書いてあるぐらいだ。
「数値。どうやって決めているか知ってる?」
「確か……。3教科の合計、人間性、カースト制度の順位だった気がするな」
そう言うと、俺は葛城に思いっきり両肩を掴まれた。この様子だと、葛城は初耳だったのだろう。配られたプリントには、この数値に関して、『実行委員会の審査によって決まる』しか、書いてなかった。
「いつ、生徒会室に忍び込んだの?」
「安藤が教えてくれたんだよ。詳しい事は、ブラックボックスって言っていたけどな」
「……そういう時には、安藤君がいる事を羨ましく思うわ」
がっかりしたように、落ち込んだ顔をして俺から離れたが、葛城はすぐに気持ちを切り替えて、生徒会室の方に歩き始めていた。
「松原君。弱味を握る為に、そっと忍び込むわよ」
敵陣の生徒会室に忍び込むのは、凄くリスクのある行動としか思えない。だが、安藤がこのまま優位にいるのが気に入らないので、俺も葛城に協力することにした。
そして生徒会室にやって来た俺たち。生徒会室は、明かりがついていなかったが、鍵はかかっていなかったので、葛城がそっとドアを開けて、中の様子を伺っていた。
「……誰もいないわね」
誰も使用していないなら、鍵をかけておけと思っていると、葛城がそっと入って行ったので、俺も続けて葛城の後に続いた。
「松宮さん。貴方なら、どこに大切な物を隠すと思う?」
「そうだね~」
パンをもぐもぐと食べながら、菜摘は棚の方に移動し、棚の上にあった、段ボールの箱をじっと見つめていた。
「ヒロ君が、次に隠すとしたら、ここだと思うな~」
「誰が、そんな予想をしろと言った」
確かに、定期的に場所を変えている、俺の成人向けの本を隠す場所の案として、考えていたところだ。やはり、菜摘には分かってしまうらしい。
だが、変な事を予想したので、菜摘を轟沈させると、葛城は倒れている菜摘の横に立って、棚の上にある箱を見つめていた。
「とりあえず、取ってみましょうか」
葛城は、近くにあった椅子を持って来て、靴を脱いで椅子の上に立って、棚の上にある箱を取ろうとしていた。
「俺が取るぞ」
俺が椅子の上に立てば、簡単に取ることが出来るが、葛城の場合だと、少し背伸びをしないと取れない。足元が不安定で、危ないと思い、俺が代わろうとすると。
「遠慮なく見ればいいのよ? 箱の中身より、私のスカートの中身の方が気になって、一生懸命になって覗こうとしている、松原君の邪魔したら悪いと思うから」
確かに、俺が少ししゃがめば、葛城のスカートの中が見えるだろう。見たい気持ちもあるが、葛城は俺が動揺している姿を見て、楽しむ人間だ。ここは葛城の思い通りにならせないように、すぐに葛城を視線から外した。
「見ればよかったのに」
クスッと笑いながら、葛城は箱を取って、椅子の上から降りると、すぐに箱の中身を漁っていた。
「……私たちの勝ちね」
葛城は1枚の紙を取り出し、それを見るとニヤッと嬉しそうな顔をしていた。
どうやら、菜摘の予想は当たっていたようだ。男子高校生と言う物は、物を隠すなら、俺と似たような事を思いつくようだ。もう少し、予想で着なさそうな、厳重に保管していて欲しいもんだ。
「松原君。安藤君が言っていた事より、詳しい事が書かれているわ」
葛城から、マル秘の紙を受け取ると、この紙には生徒証の数値の決め方の詳細が書いてあった。
3教科の国語、数学、英語の合計点の300点。
部活動所属の30点。無所属は0点。部活動の成果、最高で50点加点。学校への貢献で満点で10点。生活態度の満点で10点の合計の数値が、人間性100点になる。人間性については、すべて実行委員会の審査によって、数値が決まる。
スクールカースト制度の順位。1軍は30点、最上位は更に20点加点。2軍は15点、3軍は5点、4軍は1点。最下位は更に30点減点。
それらの合計の数値が、成敗、下剋上勝負の数値になる。そう書いてあった。
最上位で、すべてが満点の場合は450点。最大値を知ってしまうと、俺の173と言う数値は、少ないと言う事になる。
「動揺していると言う事は、松原君は、そんなに数値が低いのかしら?」
「……想像に任せる」
低い点数を、堂々と言ったら、葛城に笑われるだろう。元トップの葛城なら、きっと点数は高いに違いない。
「数値は分かった事だし、各生徒の細かな数値が書かれている数値は――」
「1年の葛城果歩。生徒会室で、何をしている?」
ゆっくりし過ぎたのか、生徒会室に、生徒会役員が戻ってきたようだ。3人の男子生徒。他のクラスか、全く知らない人ばかりだ。
「これは、副会長の福島さん。ちゃんと施錠しないから、いとも簡単に侵入できてしまうんですよ」
副会長は、女子の夏野先輩だけかと思っていたが、一人は男子の副会長、福島先輩らしい。
「そして後ろには、高橋君と清水君。もしかして、私の後任を決めようと招集をかけたのでしょうか?」
葛城がそう福島先輩に聞くと、福島先輩は、2人に背を向けたまま、2人に話しかけていた。
「話し合いを決めようと思ったが、気が変わった。高橋と清水。今日から改定された新たな成敗勝負で、その反逆者の首を取れば、次の1学年のトップに任命しよう」
福島先輩がそう言うと、一人の男子が葛城の前に立った。
「福島さん。反逆者の首を、この清水に取らせてください」
「葛城。勝負を受けるか?」
「勿論です。私は逃げませんから」
突然起こった、葛城と清水の成敗勝負。審判は副会長の福島先輩がやるようだ。
「清水。お前の数値を言え」
「俺の数値は381」
381となると、高い数値になる。俺と戦ったら、清水は俺を瞬殺できるだろう。
ドヤ顔で言う清水だが、葛城は動揺せずに、むしろ清水の数値を聞いて、鼻で笑いながら、清水に生徒証を見せつけていた。
「こう見えても、私は元トップなの」
葛城が清水に生徒証を見せると、清水は一気に余裕そうな顔から、引きつった顔をしたまま、葛城と清水の成敗勝負が始まった。




