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生徒証と数値

 

「今日からですね。す、スクールカースト制度で実施されていた、成敗勝負、下剋上勝負の勝負内容が、大きく変わります」


 朝のホームルームが終わり、担任の吉田先生が出て行ったと思いきや、すぐに大きな手提げかばんを持って戻ってくると、俺たちの前でそう言った。

 翌日。眠気を堪えながら受ける、1時限目の授業は中止となった。その代わり、大きく勝負内容が変更された、成敗勝負、下剋上勝負についての説明となった。


「……えっと、まずは、生徒の全員に、この生徒証を配布します」


 先生は、生徒一人ずつ生徒証と言う物を手渡しで貰った。その生徒証と言う物は、昨日保健室で見た、安藤が葛城にあげていた物だった。

 俺は先生から受け取って、改めて自分の生徒証を見てみると、自分の顔写真に氏名、4軍と言う階位。そして数値と言う不明な物が書かれていた。

 そして、生徒証と一緒に、ルールが改訂された成敗勝負、下剋上勝負の説明が書かれたプリントも貰い、俺は机に戻って、読もうとした時。


「文章読むの怠いから、誰かに実践でやってくれない?」


 そして猪俣は、嫌な事を提案した。こんな事になると、やる人物は限られてくるだろう。


「松原と楠木でいいんじゃね?」


 俺の嫌な予感は的中し、猪俣の言葉に佐村が反応し、俺と楠木の名前を挙げていた。


「……でしょうね」


 楠木の名前が挙がった瞬間、楠木は物凄く嫌な顔をしていた。ここで反対したら、猪俣がペナルティを執行する事は分かっている。なので、今は大人しく舌打ちをしていた。


「紗良ちゃん。我慢は体に毒ですよ~。私が、マロンとやってきますっ!」

「俺は、参加確定かよ」


 楠木の嫌そうな顔に勘付いたのか、楠木の隣の席の紫苑が、代わりにやると名乗り出た。俺はもう参加確定のようだが、今後の学校生活にも関わってくる可能性があるので、ここは一度実戦としてやっておいた方がいいのかもしれない。


「春馬。先生の話じゃ分かんないから、解説よろ~」

「ああ」


 俺が実践に選ばれたのが嬉しいのか、特に嫌がる事は無く、安藤は解説を引き受けていた。


「先生は、黙っていてもらえますか? 俺、実行委員会に入っているんで、代わりに説明しますんで」

「そ、そういう事なら、任せます……」


 吉田先生は、安藤の言われるがまま、教室の端に移動し、俺たちの行動を見守る事にしたようだ。一応先生なんだから、少しは安藤に抵抗しても良かったのではないのか。


 これからの成敗勝負、下剋上勝負は、今配られた生徒証、そして身に着けているバッジを使って勝負をする。


 勝負には必ず審判が必要となり、一定の距離を取った後、審判の合図で勝負が開始される。

 武器が生徒証になり、生徒証で、相手のバッジに触れて、先にバッジから、ペナルティの時に流れる電流を流した方が勝ちとなる。そう安藤は、簡単に説明した。


「じゃあ、一度試してみるか。本来なら、大体5mの距離を空けてから勝負を開始するんだが、教室では5mも空けられないから、今回は今の距離で構わない。松原、高村。お互いに向かい合え」


 安藤の言う事に素直に従うのは嫌だが、今回は素直に従うしないようだ。逆らったら、安藤か猪俣にペナルティを執行されそうだ。

 安藤に言われたまま、俺と紫苑は、互いに向かい合うと、紫苑は顔を赤くして、もじもじし始めていた。


「ま、マロン~。そんなに見つめたら、照れてしまいますよ~」


 紫苑がそう言ってしまったので、俺も意識してしまい、徐々に顔が熱くなってきた。


「いちゃついている松原と高村に、ペナルティ執行~」


 どのみち、俺たちはペナルティを受ける運命のようだ。ペナルティを実行した猪俣がスッキリした顔をしているのは分かるが、俺と紫苑以外のクラスメイト全員の表情もスッキリとしているのは何故なんだろうか。


「向き合ったら、審判は、互いが挙動不審な動き、フライングをしないかをしっかり確認してから、勝負の合図をする。今回は、俺が審判をする」


 審判がいるなら、今まで不正で勝ってきたような渡邊には、かなりきつい勝負となっただろう。審判を買収していなければの話だが。


「そして『始め』と言って合図して勝負が始まる。高村、松原のバッジに生徒証を軽く当ててみろ」

「分かりましたよ~」


 安藤に言われた通りに、紫苑は俺のバッジに生徒証を軽く当てると、俺のバッジから『ピッ』と音が鳴った。


「これで、バッジが生徒証に触れたと言う事になる」


 安藤がそう説明すると、すぐに俺のバッジから『ピー、ピー』と言う、警告音のようなうるさい音が教室に鳴り響いていた。


「それでこのやかましい音は、あと一回生徒証をバッジに当てれば、音が鳴っている人は負けになり、当てた人は、この勝負は勝ちとなる。高村、うるさいから、さっさと止めてくれ」

「安藤っ! これが最初からの目的だったんだろっ!?」

「ああ。お前が負ける光景は、凄く美味しいからな」


 そして安藤はニヤッと笑った。こいつ、この世で一番嫌いな人間だ。


「おっとっと」


 ワザとらしく、床に躓いたふりをして、安藤は紫苑を突き飛ばした。


「きゃっ! ま、マロン、危ないのですよ~!」


 バランスを崩した紫苑は、俺の方に倒れ、そして倒れた拍子に、紫苑の生徒証は、俺のバッジに触れた。


「――っ!」


 ペナルティ執行。その言葉が無くても、俺のバッジから電流が流れた。電流が流れると、うるさい警告音は止まった。これからの勝負は、電流を先に流した方が勝ち。この実践の勝負は、紫苑が勝ち、俺が負けと言う事になる。


「あいたた……。マロン、立てますか~?」

「す、すまんな……」

「ひゃいっ!」


 紫苑は無事らしく、俺を起き上がらせるために、俺の上から降りて、俺の横にしゃがんでいた。それで手を差し伸べていると思ったので、前に手を伸ばし、何かを掴んだと思ったら、手には何故か柔らかい感触があった。


「あっ……」


 俺が掴んだのは、紫苑の胸だったらしい。手を差し伸べていると思って、手を出したので、やはりよく見ないで、何かを掴むのは良くないようだ。こんな時に、ラッキースケベが発動しないでほしい。


「ま、マロンったら、本当に大胆なんですから~」


 すぐに手を離したが、紫苑は手を頬に当てて、もじもじして照れている中、再び猪俣にペナルティを執行されて、俺は電流を流されることになった。



 その後、安藤が吉田先生に変わって、これからの成敗勝負、下剋上勝負の大まかな説明をしていた。


「何か質問はあるか? ……って、森下か。何だ?」


 珍しい事に、このクラスではほぼ空気の森下が、手を挙げて安藤に質問をしていた。


「……生徒証に書かれている、この数値はどうやって決められている?」

「おっと。その説明を忘れていたな」


 確かに、俺もずっとこの数値が気になっていた。俺には『173』と言う数値が出ていた。


「その数値は、勝負では体力。ゲームで言うなら、HPとなる。その数値が無くなったら、電流が流れる仕組みだ」


 そして安藤はチョークを取って、黒板で大きく、何かの数式を書き始めた。


「国語、数学、英語の3教科の合計の数値、人間性、スクールカースト制度の順位の点数。それを合計した物が、その数値になる」


 つまり、これからは定期テストで良い結果を残す事が重要になると言う事になる。日頃、勉強しないといけなくなるって事か。俺の今までの努力は、無駄にならないって事だ。


「……人間性とは?」

「人間性は、実行委員会のブラックボックスで、詳細は話せない。日頃の行いを良くしておけば、良い点数が取れると思っておけばいい」

「……質問」


 森下は、この勝負に興味津々なのか、次々と安藤に質問をしていた。


「……HPがあるなら、攻撃力とか、防御力があったりする?」

「今回は、成敗勝負、下剋上勝負を、多くの人にやってもらうために改定だ。なので、少しゲーム要素を加えた。防御力はないが、攻撃力は存在する。数値から2で割った数値が攻撃力となり、つまり、数値の少ない人は体力も少なく、攻撃力も弱くなって不利となる」


 結局、1軍が勝負に有利で、4軍が勝負が不利だと言う事は変わらないようだ。勝負を有利で戦うとなると、1軍のような振る舞いをしないといけない事になる。


「数値が100で、攻撃力は50の奴が、数値が300で、攻撃力が150の奴に勝負を仕掛けたとする。100の奴は、300の奴に6回バッジに触らないと、勝負に勝てない。だが300の奴は、1回バッジに触るだけで、100の奴に勝てるって事だ」


 安藤が、そう例え話をし終えると、1時間目の終了のチャイムが鳴った。


「俺からの説明は以上。まだ質問があるなら、俺に聞きに来い」


 そして安藤は教壇から、自分の席に戻って、1時間目の授業は終了した。


「……また、面倒な事になったわね」

「……今まで以上かもしれないな」


 これからの勝負は、1軍が凄く有利になり、4軍がかなりの不利となる。そう簡単に下剋上が出来なくなり、簡単に成敗勝負が出来るようになる。

 楠木の言う通り、ルールは簡潔になったが、今まで以上に面倒になったと、安藤のニヤニヤしながら説明をする顔を見て、俺も改めて思うようになっていた。


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