表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/175

正義が悪に成敗される瞬間

 姉貴の説得は、無事終了した事を言って、俺の家の最寄り駅まで、わざわざ来てくれたことをお礼を言ってから、俺は内田先輩と別れた。

 駅から家に戻ろうとした時、再びスマホに呼び出しのメッセージが届いた。

 メッセージを確認すると、俺は道を引き返し、メッセージに書かれていた、代々木公園に向かった。俺は近所なので助かるが、もう大分暗くなり始めている。彼女をずっと一人にさせるのは不安だ。


「……こんな遅くまで、道草か?」

「道草じゃないわ。ちょっと自然の中にいたい気分なの」


 代々木公園にある噴水を望める広場のベンチに、一人ポツンと葛城が座って待っていた。


「生徒会に、疑いを持たれたらしいな」


 葛城は、軽犯罪を犯して警察に補導されたとか、そう言った事ではない。

 葛城は、このいかれたスクールカースト制度を無くすため、時間があったら意味もなく校舎を彷徨っていると見せかけて、実は色々と諜報活動をしている。これまで俺が聞いてきた情報も、葛城の諜報活動によって知った物も多い。


「びっくりしたわ。松原君の家に向かおうと思ったら、黒ずくめの人に拘束されたの。欲求不満になった生徒が、襲い掛かってきたと思ったわ」


 俺をからかい、俺が動揺する姿を見て、クスッと笑う葛城。こんな危機的な状況でも、冗談を言う余裕があるようだ。


「松原君。生徒会の役職って、全部言える?」

「会長、副会長。会計ぐらいか?」


 中学の時でも、俺は生徒会に入った事も無い。アニメで生徒会を題材にした物なら見たことがあるが、覚えている役職と言えば、これぐらいしかない。


「生徒会長。生徒会副会長。書記。会計。各委員会の委員長。そして2学期から、保安と言う物が、設立されたの」


 ここで聞きなれない言葉が出て来た。


「保安は最近出来たから、ほとんどの人が知らないし、公表もされていないの。私も知ったのは最近。公表しないのだから、どう言う事をするか、何となく察せる?」

「……学校の治安を良くするためとかか?」

「それも1つ。最近のスクールカースト制度の事、あなたはどう見てる?」


 2学期始まってからの学校の様子。


 うちのクラスの様子はあまり変わらない。クラスのトップの猪俣を中心に、日下部や佐村、広瀬たちが教室の中でワイワイとやり、俺たち4軍は、教室でひっそり過ごし、他の2、3軍は各々で仲良くなり、普通の学校生活を送っている。そして渡邊は、狂ったように下剋上勝負をして、没落した安藤は、授業には参加しているが、休み時間になると、どこかに消えている。


「……どこかピリピリした空気がある気がする」


 渡邊が暴れているせいか、今まで無縁だった成敗、下剋上勝負を無理やりされて、そして汚いやり方で勝つ渡邊。地位を落とされ、今まで有意義だった学校生活も、渡邊のせいで台無しになりつつある。それは2、3軍の奴らが思っている事だ。

 そして、今でも4軍の立場は低い。命令に背けばペナルティ。このクラスは、以前のように頻発にペナルティを執行される事は無くなったが、廊下を歩いていると、俺のクラスの4軍以外は、重い荷物を持たされたり、雑用を押し付けられている感じがある。完全に1、2軍の奴隷になっている。

 4軍がどんなに不満を言っても、1軍や先生は聞き入れることなく、ただ日々送る地獄を耐え忍んでいるが、そろそろ不満が爆発し、4軍の反乱が起きそうな気がする。


「それを察した会長さんが、保安と言う役職を作った。生徒会、スクールカーストについて不満を持つ者、反乱を企てている者を見つけたら、生徒会長に密告する。所謂、忍者、スパイみたいな役職ね」


 そんなにスクールカースト制度を撤廃したくないのか? 弾圧で反乱を抑え、不満が出始めているなら、止めた方がマシだと思うんだが。


「疑いをかけられた者は、即降格。もしくは重いペナルティを課される事になるでしょう。それで私が第1号なの。てへぺろっ!」


 全く緊張感を持っていない葛城は、ふざけたように舌を出したが、すぐに神妙な顔に戻した。やはり、物凄く不安なのだろう。ずっと体が震えているのが証拠だ。


「明日の朝。全校集会が開かれる。反乱を企てるとこうなるみたいな、見せしめとして、生徒の前で私の事を追及するのでしょう。けど松原君。私は、どんな事を聞かれても、会長さんの前では白を切るつもり。スクールカースト制度のトップは守り抜くわ」


 力強く、俺の前で宣言した葛城は、心の内を話して気が楽になったのか、少しだけ顔色が良くなっていた。


「葛城。その保安が誰なのかは分からないのか?」

「心当たりは無し。もし松原君だったら、鼻息を荒くしているから、すぐに分かるのだけど」


 葛城が分からないのなら、俺たちだって分からないだろう。

 この高校に、正体不明の、スパイのような人がいるとなると、おちおちとスクールカーストについての不満も言えない、秘密裏に下剋上を起こすことも出来ない。過ごしにくい高校になったもんだ。


「安心して。松原君たちの学年のトップだもの。私は仲間を売るような事をして、命乞いなんて事はしないから。それじゃあ、また明日会いましょう」


 そして葛城は、ベンチから立ち上がって、暗くなった代々木公園の中に消えて行った。




 翌日。また面倒くさい1時間目が始まるのかと思ったが、朝のホームルームの途中、いきなり放送が入った。その内容は、緊急の全校集会を開くと言う話だった。

 きっと昨日言っていた、葛城の真意を追及するための集会だろう。集合場所の体育館に集まると、体育館の中央には、二つの机が向き合って置かれてあり、その机には、じっと目を瞑って、冷静に座っている葛城がいた。


「急に集合させて申し訳ない」


 そして全学年が揃った時、生徒会長の烏丸先輩が、体育館に入って来て、葛城の向かいの席の前に立った。公開処刑のように、生徒会長と葛城が、生徒や先生の前で尋問するようだ。


「1学年のトップである、葛城果歩が反乱を企てていると耳にし、私はそれが真実なのか、それを見抜きたいと思っている」


 そして烏丸先輩は、置かれた席に座り、葛城と向かい合った。葛城は臆する事無く、ゆっくりと目を開け、じっと烏丸先輩を見つめていた。


「葛城果歩。貴様の功績、この学校への貢献、活動はとても評価している。そんな貴様が、どこにスクールカースト制度の不満を持っている?」

「持っていません。私は、生徒会長に従い、スクールカースト制度を発展させようと、日々考えていま――」


 葛城が話している途中に、急に胸を押さえて、痛み出していた。


「嘘ぐらい、すぐに見抜ける。私の前で、下手な嘘はつかない方がいい。嘘をつくと、貴様のバッチから電気が流れ、4軍が受ける電流よりも、さらに強力な電流を受ける事になっている。正直に答えた方がいい」


 これは葛城にとってピンチだ。昨日の葛城は、どんなことを聞かれても、白を切ると言い張っていた。本当に烏丸先輩が、他人の嘘を見抜けると言うのなら、葛城は延々と電流を受け続ける事になる。


「葛城果歩。先週の日曜日、どうして生徒会室に忍び込んだ?」

「日曜日は、バレー部の練習で、学校に来ていましたが、生徒会室に立ち寄ってはいませ――」


 これも嘘だと見抜いた烏丸先輩は、再び葛城に電流を流した。


「バレー部は、日曜は休みだったと聞いているが?」

「……自主練で、来ていま――」


 これも嘘だと見抜いた烏丸先輩は、葛城に電流を流し、そして葛城も3度も電流も受けたせいか、大分体力も消耗し、苦しそうに机に突っ伏していた。


「他に共謀者はいるか?」

「……わ、私だけです。……単独行為で――」

「元文芸部の部室を、どうする?」

「……利用する気などありません。……4軍の雑用として、校内清掃の一環として、使われていなかった部屋を整理させてもらっただけです」


 4度目、そして5度目も電流を流されると、葛城は椅子に座るのも苦痛なのか、椅子からずり落ちて、体育館の床に座り込んで、胸を押さえて蹲っていた。


「事実を話すつもりはあるか?」

「……い、今まで話してきた事。……すべてが事実」


 そして6度目の電流を流し、そして葛城の体力は限界に達し、体育館の床に沈んだ。


「か、葛城――」


 もう葛城を見過ごすことは出来ない。俺は葛城を助けようとした時だった。葛城はゆっくりと体を起こして、生徒会長を睨みながら話した。


「……一つだけ言っておきます。……直ちに、このスクールカースト制度を廃止……廃止と行かなくても、一度中止して、方針を考え直さないと、この学校は崩壊――」


 そして7度目の電流。苦しみながら話している時、急に電流を生徒会長に流されたことが原因となって、葛城は、ゆっくりと床に沈んだ。


「葛城果歩。貴様は降格。だが、これまでの功績、成績、生活態度を評価し、4軍の陥落は勘弁し、3軍の最底辺として、頭を冷やせ」


 生徒会長は、倒れた葛城を蔑んだ目で見た後、体育館を去った。

 まるで本物の魔王のような生徒会長。この公開処刑を見た生徒、先生はただ無言で見る事しか出来ず、誰も葛城を介抱しようとしなかった。


「葛城っ!」


 葛城を見捨てることは出来ず、俺は静かになった空気をぶち壊すように、大きな声で葛城の下に駆け寄った。


「脈はあるな……」


 あれだけ強力な電流を流され続けたんだ。もし脈が止まっていたら、救急車と警察に連絡しないといけないので、ひとまず心肺停止になっていない事に安心した。


 その後、すぐに紫苑と菜摘、保健室の先生がやって来て、そして紫苑と菜摘で葛城を保健室に運んでもらった。その光景を見届けた多くの生徒、そして先生は、何事もなかったように教室や職員室に戻って行った。


「……なぜ、正義せいぎが悪に成敗されないといけないんだよ」


 葛城が何か悪い事をしていただろうか。悪い事をしているのは、無理に束縛し、力と恐怖で生徒や先生を操っている、烏丸先輩だ。それを救おうと、葛城は奮闘していたのに、どうして成敗されないといけないのか。


 俺たちの最後の希望だった、葛城の1学年のスクールカーストのトップの時代は終わり、3軍に降格させられてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ