姉貴と幼なじみたち
「……ヒロも大変ね」
「……お疲れ様」
昨日あった事を、話しながら帰っていると、楠木に同情され、そして木村に背中をポンポンと叩かれて慰められた。
家の最寄り駅を出て、俺は招集をかけた仲間を引き連れて、姉貴に立ち向かう事にした。
「それにしても、マロンのお姉さんは、どうしてアニメを嫌うのでしょうか?」
「さあな。それは俺の姉貴に聞いてくれ」
どうして姉貴がアニメを嫌うのかは分からない。学校が終わって夕方、俺が小さい頃に入っていたアニメを見ていても、姉貴はそこまで嫌う事は無く、一緒になって観ている時もあった。
「それで、私たち以外にも声はかけたの? 木村はともかく、私と高村はそこまでじゃないけど?」
楠木は誰もいないかと、辺りを見渡した後、俺に話しかけてきた。この中だと、重度なのは木村ぐらいで、楠木と紫苑は暇があったら観ると言う感じだ。
「葛城と2年生の内田先輩、あともう一人の幼なじみの田辺って言う奴にも、声をかけている」
今は、菜摘と楠木、木村に紫苑で、家に向かっている。
塚本も呼んでも良かったのだが、姉貴の容姿を見て、ずっと黙り込んでしまう、部屋の隅で体育座りをしている可能性が高いのでやめた。
「ヒロ。松宮以外にも幼なじみいたの?」
菜摘以外にも幼なじみがいる事に、楠木と木村は驚いていた。楠木たちにも、あまり話していないし、かなりヤバイ奴なので、あまり紹介したくなかった。
「ああ。田辺がそれなりにフォローしてくれると思うから、あまり見栄を張らなくても良いと思う」
「なら、私たち来ない方がよくない?」
「学校でボッチなんて知られたら、更に説教の時間が長くなりそうなんだよ」
『ご学友を作るのも、学生の務め』とか言い出しそうで、姉貴が突き付けた約束にも友達を作れとか言っていたような気がするので、楠木たちを連れてきた。
「まあ、ヒロが理不尽に怒られるも可哀そうだから、私も出来るだけ協力するわ」
楠木がそう言うと、続けて木村と紫苑もゆっくりと頷いた。こういう光景を姉貴見せたら、納得するのだろう。
そして自宅に到着し、楠木たちを家に入れ、リビングに案内したら、先に菜摘が家に入っていて、ソファーでたい焼きを食べて、くつろいでいた。
「……どうして、菜摘の方が先に帰っているんだ?」
「早くヒロ君の家で、くつろぎたかったんだよね~」
駅に降りた時には、菜摘は俺の横にいた。通りで、家に帰る途中は静かだと思った。
「いらっしゃい」
そして姉貴が、リビングに入ってきた。
「正義。お客さんに、お茶を」
「姉貴に言われなくても、分かってる」
こうやって、偉そうに命令されるのは気に入らないが、俺は姉貴に命令されたとおりに、楠木たちにお茶を入れていると。
「何々~? 正義のお友達は、ガールフレンドしかおらんの?」
「ちゃんと男もいるからな」
と言っても、仲の良い男子と言ったら、村田と田辺ぐらいだろうか。塚本は勝手に俺を友達だと思い込んでいるようだが、俺は塚本を友達とは思っていない。村田以外の男子は、俺の事をバカにしている奴や、4軍として嫌っている者も多い。
「私は正義の姉、松原妃芽って言うんやけど、お嬢さんの名前を伺ってもよろしい?」
まずは楠木の方を見た姉貴。急に名前を尋ねらえたので、楠木はビクッとしながらも、すぐに答えた。
「楠木です」
「楠木さん。正義にはもったいないぐらい、べっぴんさんや」
「そ、そうですか……」
やはり女の子は、可愛いと言われると嬉しいのだろう。姉貴に可愛いと言われると、楠木は顔を赤くしてもじもじし始めた。
「私は、高村紫苑と言いま~すっ!」
「綺麗な髪やね~。こんなに長い髪できれいに保とうとするなら、お手入れも大変じゃない?」
「勿論ですよ~。マロンに可愛いと言われるため、日々努力をしていま~す!」
紫苑も姉貴に褒められて、楠木と同じく、もじもじし始め、照れていた。
「……木村です」
「正義、どうやって中学生の女の子と仲良くなったん?」
「木村は、俺と同じクラスで、ちゃんとした高校生だからなっ!?」
初対面の相手に、勇気を出して地声で話したのに、今回は身長でバカにされた木村は、ゆっくりと菜摘の横に移動した。
「木村さんも食べる?」
「……貰う」
菜摘の横に座って拗ねてしまった木村は、菜摘にたい焼きを貰い、菜摘に頭を撫でられ、もぐもぐとたい焼きを食べながら、慰められていた。
「木村さん、楠木さん、そして高村さん。名前は覚えた。とりあえず座って、正義の話を聞きましょうか。正義、お茶はまだ出せないんか?」
「今、持っていく」
お茶はとっくの通りに用意は出来ていたが、姉貴たちのやり取りを、すっかり夢中になって見入っていた。
一応、この部屋にいる分のお茶は入れたので、いつも食事の時に使っているテーブルの所に座った姉貴と楠木、紫苑にお茶を渡し、姉貴たちとは別に、勝手に俺の部屋から持ち出した、俺友のDVDを見ている菜摘と木村に、お茶を渡した。
「……見るのは構わないが、姉貴の前だから、静かに見ろよ」
「分かってるよ~」
たい焼きを咥えながら、お茶を受け取って、木村と共に俺友を鑑賞していた。俺も見ていたいが、そうゆっくりとは出来ないようだ。
「……なぜ、俺がやらないといけないんだ」
お茶を淹れようと思ったら、台所は朝から変わっていなかった。食器類は、水につけっぱなし。つまり姉貴は、俺に食器洗いを押し付けたのだ。
今日、おふくろは用事があって出かけている。出かける前に、家にいる姉貴に食器洗いをお願いしていたが、姉貴は全く手を付けていない。姉貴はずっと家にいたので、食器洗いぐらい出来たはずだ。
「楠木さん。学校での正義は、どのような感じなん?」
そして姉貴、俺が代わりに食器洗いの礼も言わず、知らん顔をして、俺の学校での過ごし方を、楠木に尋ねていた。
「ヒロは、いつも私と話相手になってくれて、話していても飽きなくて、話していると、つい時間を忘れてしまうほど、とっても仲良くさせていただいています」
「それって、アニメの話か?」
楠木と話すときは、大体、楠木の弟の飛翔、妹の七音の愚痴や、面白エピソードなどの、日常的な話をする事が多い。
「そ、そういう時もあります」
「高校生なのですから、アニメ以外にも話したらどうなん? すぐに大人になるんやから、今からでも政治の話を覚えたらどう?」
「そう言う姉貴も、周りでは政治の話をするのかよ?」
そこまで偉そうに言うのなら、姉貴は政治の話をしているのかと思い、そう聞いてみると。
「アニメの話をするぐらいなら、政治の話をした方がいいと思っただけやよ」
そう言ってしまうほど、姉貴はアニメを嫌っているようだ。
「高村さんも、アニメはお好きなの?」
「嫌いではないですよ~。マロンが見ているアニメは、私も見ていますから~」
紫苑がニコニコして答えると、姉貴は深い溜息をついた。
「やはり、正義のガールフレンドもオタク女子ばかりですね。正義、オタクではない人の、つながりは――」
「妃芽さん。どうして、そこまでアニメを嫌うんですか?」
そう言って入って来たのは、菜摘と同じくもう一人の幼なじみ、腐れ縁の田辺だ。田辺も俺が招集をかけておいた1人だ。
姉貴と楠木が話し出す前に、今向かっていると連絡があったので、好きなタイミングで入れと、返事しておいたんだが、本当に、好きなタイミングで入って来るとは思わなかった。
「待たせたな、正義。お前のオタクライフの危機だと知って、駆け付けた」
「ありがとな。太陽も元気そうで何よりだ」
入ってきた田辺と頷き合うと、姉貴はすぐに田辺に食いついた。
「太陽じゃん。ずいぶんカッコよくなったんじゃない」
「それは、女の子にモテる為ですから」
それが幼女の為だと知ったら、姉貴はどう思うか。もしかすると、姉貴はぶっ倒れるかもしれない。
「妃芽さん。あなたは、人の好きな物を貶すような人でしたか? 妃芽さんは、すぐに怒って面倒臭い人だと、今日まで正義と言っていましたが、久しぶりに会うと、更に面倒な人になったと、俺と正義は思っています」
姉貴の嫌味を言いながら、田辺は姉貴の傍に立つと、姉貴もすぐに言い返した。
「それはこちらのセリフ。しばらく会ってないからか、生意気な口が言えるようになったみたいやん。正義に太陽。ちょっと話し合い――」
「その前に、俺は妃芽さんに確かめたいことがあるんですよ」
田辺は、持っていたコンビニの袋から、一冊の本を取り出した。
「妃芽さん。これ、妃芽さんですよね?」
田辺が取り出したのは、コンビニの隅の方に置いてある、成人向けの本だ。
制服でどうやって購入したのかは知らないが、その成人向けの本の表紙には、髪を結った大人の女性が、際どい下着を着て、中身が今にも見えそうな格好でポーズを取っている。
「姉貴。事情を聴くのは、こっちの方だな」
実の弟でも分かる。あの表紙の人物は、紛れもない俺の姉貴だ。成人向けの本を田辺に突き付けられると、姉貴は咄嗟に逃げ出した。




