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私生活チェック

 

「……姉貴。……酒飲んでるだろ?」

「いっえ~すっ! お酒、最高~!」


 とてもじゃないが、姉貴の大荷物を通勤通学の多い電車で移動するのは大変だろうと思い、駅前に止まっていたタクシーで家に向かう事にした。

 そして、姉貴は凄く酒臭い。大阪から東京までの新幹線の中、ずっと一人で飲んでいたらしいので、こんなに酔っ払っているらしい。


「妃芽さん。これをどうぞ~」

「ありがとう~。菜摘ちゃん~」


 ずっと駅の中で食っていたお土産用のお菓子を姉貴にあげる菜摘。その行動が嬉しかったのか、姉貴は菜摘に抱き着いて、嬉しそうに頬をすり合わせていた。こりゃあ、かなりの重症のようだ。


「ヒロ君も、お姉さんみたいに甘えてくれればいいんだけどな~?」

「そんな事するか」


 キラキラした目で、菜摘はそう言ってくるが、俺は気にしない事にした。そんな事、絶対に俺はやらない。


「……やかましくて、申し訳ないです」

「気にしないでください。酔って仕切り板を破壊されるよりかは、マシですから」


 一応、車内でバカみたいに大笑いして、やかましい状況だが、タクシーの運転手は、平気そうに運転していた。




 俺たちは家に到着し、そしてリビングのソファーで、姉貴が夜まで寝ていると、酔いが醒めたのか、姉貴は急にむくっと起きて、大きく背伸びをすると、夕食を食べていた俺の方を向いた。


「正義ぃ。私が、家を出る前に言った約束は、守ってんの?」


 そんな物、守っているはずもなく、そして約束の内容は、すっからかんと忘れているが、覚えているふりをして、話を続けた。


「も、勿論。お、俺はちゃんと姉貴の言いつけを守って、規則正しい生活を送っていた」

「ならお姉ちゃんに、お部屋を見せてくれる?」


 それだけは絶対に避けたい。姉貴が爆睡している間、ある程度のラノベやフィギュアは、押入れの中に封印した。

 大人向けの保健体育の本は、悪友の田辺に預かってもらおうかと思ったが、残念なことに田辺とは連絡が付かず、苦肉の策だが、仕方なく菜摘に預かってもらった。

 今は、凄くきれいな状態だが、身内に年頃の男子高校生の部屋を見られたくないのが本音だ。何でもかんでも、身内に報告する義務なんて無いだろう。


「……そう言うと思ってな。……ほら、これでいいだろ」


 部屋の整理をした後、こうなると思って、俺の部屋の全体の写真を撮っておいたんだ。これを見せておけば、部屋に入る理由は無いだろう。


「約束、守れていないようやね」


 姉貴の中途半端な関西弁。何かイラっとする。


「窓枠、埃だらけ」


 あんたは、姑か。例え、スマホのカメラの性能が良くなったとしても、この写真で少し小さく写る窓枠の埃なんて見つけられないだろう。


「正義との約束76条の内、第34条。掃除、身の回りの整理は、寝る前に必ず行う」


 そりゃあ、俺が覚えている訳ないな。約束事が多すぎて、覚えるのを止めた事は覚えている。


「正義。掃除には、ちゃんとした意味があるんやで。心を落ち着かせるとか、気持ちを一新する事が出来るとか……」


 それから、似たような叱り文句が繰り返され、姉貴の説教が1時間続いた。当然、夕食を食べることも出来ず、1時間後に冷めた夕食を食べる羽目になった。




「……見せればいいんだろ」


 大人向けの保健体育の本は、菜摘の家。ラノベや美少女フィギュアは押入れの中。自然に、俺が押入れの前に立っておけば、姉貴が押入れを物色する事は無くなるだろう。押し入れの中以外、何もやましい事は無い。この綺麗に片付けた部屋だけを見せておけば、今回は怒られる事は無いだろう。


「姉貴。俺にだって、条件がある。勝手に人の部屋を荒らしたり、引き出しやベッドの下を覗くな」

「ほんなら、そこを重点的に見るわ」


 俺は墓穴を掘ってしまった。これ以上、迂闊な事を言わない為、そっと押入れの前に立つとしよう。


「それでは、失敬」


 姉貴が俺の部屋に入ると、俺も部屋に入り、そしてそっと押入れの前に立った。


「スケベな本で溢れかえっていると思っていたけど、大丈夫やね」


 流石に、普通の状態でも、そんな事になった事は無い。


「正義。勿論、テストの答案は残してあるよな? 正義との約束第28条に、定期考査の問題、答案用紙は保管する。もし一つでも――」

「ちゃんと残してあるから、説教は止めてくれ」


 4軍から脱出するため、日々の予習は必ずやっている。そして定期テストも、間違えたを確認するため、よっぽど酷い点数じゃない限り、保管はしてある。

 テストは勉強机の引き出しの中に保管してあるので、勝手に引き出しを開けられるのも嫌なので、俺が机の前に移動し、テストの答案を取り出そうとすると。


「……隙ありっ!」

「しまった!」


 姉貴はこれを狙っていたのだろう。俺が押入れの前を退かせるために、そのような作戦に出たのだろう。


「お姉ちゃんを見くびらない事やっ! ずっと押入れの前に立っていたら、その後ろに何か隠していると思うてしまうやんっ!」


 やはり、ずっと押入れの前に立っているのは間違いだったようだ。時折、立っている場所を移動するべきだった。


「お姉ちゃんがいない間、正義はどんな物に手を出したのかな~?」


 そして姉貴は、興奮気味に押し入れの取っ手に手をかけようとした時だった。


「ちょっと待ってほしいな~」


 いつの間にか、菜摘が俺の部屋にやって来て、俺の部屋の押入れの前に立った。

 こういう時に限って、菜摘は役に立つ。俺の危機を察知して助太刀に来てくれたのは嬉しいが……。


「……あんた、風呂上りやん」

「お風呂上りじゃなくて、湯船に浸かって、マッサージの途中だったんだよね~」


 菜摘は、しっかりと俺の家で夕飯を食べた後、俺が食べ終わる前に、家に帰って行ったのだが、まさか、再びバスタオルを巻いて部屋にやって来るとは思わなった。何のマッサージの途中のなのかは、聞かないでおこう。


「ヒロ君、そんな体のラインを確認しても、意味が無いと思うな~? ちゃんと下は、水着を着て来たので~」

「そう言う問題じゃないだろっ!」


 だからと言って、下に水着を着て、バスタオルを巻いて、俺の家までやって来るか!? 本当に、マイペースクーンの菜摘には手を焼く。


「菜摘。ここ数年で立派に成長して、すっかり可愛らしくなったやん」

「ありがとうございます~」


 姉貴に可愛いと言われたことが嬉しいのか、にっこりとしてお辞儀をした後。


「ヒロ君に迷惑をかけるのは、やめて」


『ずっと菜摘のターン』を、俺の姉貴にする菜摘。


「ヒロ君は、立派な男子高校生。男の子の性欲を制御するのは、どうかと思うんだけどな~。制御するから、ヒロ君は、このようなエロ本を集めちゃうんだよ?」

「菜摘~っ!!」


 菜摘のバスタオルの下から、俺が菜摘に預けた内の2冊のエロ本を取り出し、それを姉貴に見せつけていた。これで、俺がエロ本を隠し持っていることがバレてしまったじゃないか。やはり菜摘ではなく、田辺に預けるべきだった。


「ヒロ君は、もう小さな弟じゃないよ。私や、常日頃にいるクラスメイトの人とは仲良くしてくれて、友達想いで、人とを傷つけるようなことをしない、とっても立派な男の子だよ。妃芽さんは、もうヒロ君を親みたいに、縛る必要性は無いと思うよ?」


 そして姉貴の唇を離した菜摘は、黙り込む姉貴の顔をじっと見つめていた。


「あのな菜摘。正義は、昔から正義感が強く、困っている人を放っておけない性格。色んな人と関わる事が多かった。家から帰ると、今日友達になった人を家に連れて来るって事が、たくさんあったこと、菜摘も覚えているやろ?」


 それは、中学に入学した頃の話だ。俺と菜摘の関係を知ると、俺を妬むようになり、菜摘との関係を冷やかされる事が多くなり、むやみに話しかける事も無くなった。


「正義。明日、正義のお友達を連れて来てくれんか?」

「何故?」


 そう言うと、姉貴は無防備になっていた押入れの取っ手を掴み、思いっきり押入れを開けた。


「やはり、隠していた。これは説教の対象」


 結構無理やり押し込んだせいか、押入れからは、ラノベの本や、フィギュアをしまった箱が足元に散らばった。


「正義は、バカげた弟になってしまったようやね。今、お付き合いしている友達の方も、皆オタクやろ? 正義、それと菜摘も、そこで正座」

「姉貴。これらを隠していたのは謝るが、アニメ好きの何が悪い?」


 姉貴も、安藤や猪俣、そして生徒会長のように、かなり深夜アニメを嫌っている。たまに入るアニメのDVDのCMが映った瞬間、チャンネルを変えるぐらいだ。


「会ってもいない人を批判するのは、俺も黙ってはいられないな。姉貴、約束通りに、俺の友達を連れて来てやるよ」


 姉貴がアニメを嫌うと同じぐらい、俺は友達や、大事に思っている人を批判されるのが大嫌いだ。約束通り、俺は部屋を出て行き、関わっている人全員に連絡を入れる事にした。


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