楠木家
渡邊は、楠木を倒した以降、じわじわと渡邊の上に立つ人を下剋上勝負で倒していき、そして渡邊は3軍の仲間入りを果たしていた。
「ヒロ。今日の帰り、私の家に来て欲しいんだけど、なんか予定とかある?」
楠木は、スマホをいじりながら、俺にそう話しかけてきた。
楠木は、渡邊の勝負に負けてしまったので、今は楠木がカースト制度の最底辺。俺よりも低い事になっている。初めてカースト制度の最底辺を抜け出したので、少し嬉しい気持ちもあるが、代わりに楠木が最底辺になっているので、複雑な気持ちだった。
「理由は?」
「前に勇者王で戦ったじゃない? その話をしたら、弟がヒロと戦いたいって駄々をこねるから……。お願いっ、付き合って!」
けど楠木は最底辺になっても変わらず、今まで通りに俺に話しかけ、そして俺と話している時は楽しそうな顔をしていた。
「……自分の部屋に、男子を入れる事に抵抗は無いのか?」
「そう言うヒロこそ、エッチな本まみれの部屋に、女の子を入らせる?」
楠木にそう言われてしまうと、俺は反論できない。
「……まあ、楠木が良いなら」
「ありがと。これで、弟も喜ぶ――」
「3軍のトップはぶっ倒したし~。ねえ、次はだれと戦うべきだと思う~?」
楠木の幸せ空間をぶち壊すように、やかましく話しながら教室に入ってきた渡邊は、渡邊の手下と思わる2人の男子生徒を引き連れて相談していた。以前に榊原先輩を拘束していた、あのいかつい男子生徒だ。
また誰かと戦う気なのだろう。もう下位の生徒とは戦う気は無いので、俺は渡邊を気にしない事にした。
そして放課後。
楠木は、吉祥寺の方に住んでいるので、電車で楠木の家に向かう事になった。
「……やっぱりアンタも来るのね」
「何度も言うけど、ヒロ君いる所には、私が常にいるって事を覚えて欲しいな~」
勿論、菜摘もついてきて、そして横で話を聞いていた木村、紫苑も楠木の家に来ることになった。
「私も~。松原君いる所に~、1軍のトップありって言葉を覚えて欲しいな~?」
「……何でアンタもいるのよ」
何故か葛城もついてきていた。どこで話を聞いたのか。突然現れたので、きっと俺を尾行していたついでだろう。
「私はパンケーキを要望しま~す」
「家じゃ無理だから。精々、出しても棚にある煎餅程度よ」
「煎餅もたまにはいいかも~」
菜摘は、口に入れば何でもいいようだ。煎餅と聞いただけでも、菜摘は味を想像して涎を垂らしている間に、吉祥寺駅に到着した。
吉祥寺駅から歩いて数分。数分歩くと、おしゃれな外装の家の前に立った。
「さあ、入って。もう弟たちは居るはずだから」
「……ここが楠木の家か?」
「そう」
レンガの外装に、周りにはガーデニングが趣味なのか、家の周りには多くの植木鉢が設置され、綺麗な花を咲かせていた。俺の住む家とは、かけ離れているのでちょっと驚いてしまった。
「窮屈な家だけど、遠慮せず入って」
そして楠木の家にお邪魔すると、家の奥からバタバタと走って来る足音が聞こえた。
「そいつがヒロっていう、姉ちゃんの彼氏?」
小学生だろうか。俺の大嫌いな生意気なガキのようだ。
「敬語をちゃんと使いなさい。飛翔」
「へ~い。ようこそ、おいでくださいましたー」
棒読みで、俺たちをお出迎えする飛翔に、楠木は飛翔に拳骨を食らわせていた。
「あははっ……。ヒロ、小6で弟の飛翔。それでヒロの背後にいるのが、小4で妹の七音」
「うわっっと!!」
いつの間に俺の背後に、幼女が立っていたのだろうか。木村ぐらいの小さな女の子が、俺の制服に掴んでいた。
「……よ、ようこそ」
恥ずかしがり屋なのか。七音は小さな声で、俺たちに挨拶をしていた。
「ヒロ君に抱き着いて良いのは、私だけだからね~?」
「小さな子に喧嘩腰で話すな」
菜摘はたとえ小さい女子でも、俺に近寄ろうとする異性には容赦しない様子だ。
「楠木の妹が泣き出す前に、さっさと菜摘に食べ物を献上してくれ」
「……本当に、松宮は手を焼かせるわね」
そして俺たちも楠木の後について行き、リビングに案内されると、弟の飛翔は俺の前に、たくさんの勇者王のカードを撒き散らした。
「おい。決闘しよう」
「……礼儀作法がなっていない子供には、高校生が礼儀作法を教えないとな」
喧嘩腰で、俺に勇者王の決闘を申し込んできたので、俺も子供だからと言って容赦する事無く、飛翔の決闘を受ける事にした。
「……質問、してもいいですか?」
楠木の妹の七音が、リビングの机の周りに集まった女子たちに質問をしていた。
「……どうしたら、大きくなれますか?」
「それは毎日、お風呂とか寝る前に、ずっと揉み続ければ、貴方のお姉さんのように大きくなれると思うの」
純粋無垢な七音の質問に、絶対答えてはいけないと思う、葛城が答えた。それって、胸の話か? こう言う女子トークって、俺がいる所で話して良いのだろうか……。
「木村さんも気になるなら、今日からやってみたら? 私は毎日マッサージをしているわ」
「やべっ……」
葛城がそのような行為をしているのを想像したら、鼻血が出そうになった。小学生の前で鼻血を噴射するのは恥なので、塚本が女装した姿を想像して、邪念を消した。
『やらない。絶対に、やらない』
恥ずかしさを紛らわせるためか、木村はスマホで返答していた。けど、葛城が胸を強調して話している時は、木村も俺と七音みたいに、興味津々に聞いていた。
「ヒロ。まだか?」
「おっと。すまんな」
今の胸の話のせいで、俺の意識は女子トークの方に向いていたようだ。生意気に飛翔に注意されないように、真剣にデッキを考え、そしてようやく飛翔との決闘の準備が出来て、決闘が始まると、再び七音が質問をしていた。
「……む、胸もそうですけど。……どうやったら、お姉ちゃんみたいに身長が高くなるのかなって」
楠木はスタイルがすごく良い。スタイルの良い姉がいるせいか、自分も楠木みたいにスタイルが良くなりたいのだろう。
「それはですね~。たくさん食べて、たくさん笑って、たくさん体を動かせば、紗良ちゃんみたいに大きくなれますよ~」
紫苑はたくさん笑い、たくさん体を動かしていたからか、紫苑も凄くスタイルが良くなった。紫苑のアドバイスは当てになりそうだが、七音は暗い顔をして。
「……運動苦手。……上手く笑うことも出来ない。……好き嫌いも多い」
紫苑とは真逆の性格のようだ。
「それなら、毎日神社に行って、神頼みしましょう。手段が無いなら、神頼み一択だと思うわ」
「あんたは、七音に悪影響だから、口を開かないで」
確かに葛城の助言は、七音には悪影響を与えてしまいそうだ。楠木の判断は正しいだろう。
「七音。気にしないでも、女の子は成長するのよ。お姉ちゃんだって、大きくなり始めたのが、中学の頃だから。気長に待てば、七音も大きくなるわ」
「……じゃあ、お下げのお姉ちゃんは、いつ大きくなるの? ……お姉ちゃんと同じはずなのに、私と同じぐらい」
七音は小さな木村がいるせいか、楠木の助言は全く信用できないようだ。確かに、高校生の木村が七音みたいに小さかったら、あまり納得しないだろう。
「……対戦見るのか?」
「……こっちの方が、私の性に合っている」
小学生にまで小さいと言われたのがショックだったのか、いじけた木村も俺と飛翔の決闘を見に来た。
「ヒロ。早くしろ」
「お前に言われなくても分かってる」
再び飛翔に注意されたので、今度こそ真剣に決闘をすることにした。だが、もう少し口の利き方はどうにもならいか。だから小中学生の男子って、生意気だから嫌いなんだよ。
「モルト族の小人、5体を生け贄。そして、サファイアアイズドラゴンを召喚して、アタック」
やっぱり飛翔は強い。飛翔は最近出たカードを使っているので、小学校以来にやる俺にとっては、結構やりにくい相手だったりする。俺には同世代の村田と戦うのが合うようだ。
「……頑張って。……正義君」
「おう」
観戦している木村に応援されて、俺もやる気が出た。女子が見ている前で、小学生相手に負けるわけにもいかない。
「……ヒロに、隣のお姉さん。決闘を中断して、ちょっとやってほしいことがあるんだけど」
楠木たちが七音の質問で盛り上がっている隙に、飛翔は俺と木村をリビングの外に連れ出して、そして家を出て、家の裏にある小さな物置小屋に案内された。
「俺、成績が悪いから、よく親に点数の悪いテストを隠すんだけど、物置のどこに隠せばいい?」
「さあな。そう言うのは、正直に話した方がいいぞ。後々バレると厄介だぞ」
「エロ本隠すプロなんでしょ?」
楠木……! なんて余計な事を小学生に話しているんだよ。これじゃあ、逃げられなくなったじゃないか。
「……俺の名前は出すなよ」
「……私も協力する」
渋々、物置小屋の中に入って、木村と一緒にどこかいい場所を探していると、急にあたりが暗くなって、そして外から鍵が閉める音が聞こえた。どうやら飛翔が、俺と木村は物置小屋に閉じ込められたらしい。
「おい! 何のつもりだっ!?」
ドアを強く叩いて、外にいるはずの飛翔に呼びかけた。
「姉ちゃんよりも、その小さなお姉さんの方が好きみたいだから、俺が協力してやる。吊り橋効果って奴で、ラブラブになっちゃえばー?」
その言葉が最後で、外に何度も呼び掛けたが、飛翔の返事は無かった。
俺は、他人の家の物置小屋で、木村と暗闇の密室で閉じ込めれられてしまった。




