表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/175

金色の悪魔

 長かったようで短かった夏休み。4軍と言う理由で、学校の雑用、補習として学校に来ることが多かったせいか、今年の夏休みはあっという間に過ぎた気がする。


「……そう言えば、秋に学校祭があるのよね」


 学校の最寄り駅で合流した楠木と一緒に学校に向かい、学校に到着し、教室に向かって歩いていると、楠木がそう呟いた。


 学校祭。勉強だらけの学校の中、唯一生徒が羽を伸ばせ、学校の行事の中で盛り上がる行事に入るだろう。自由川高校の学校祭はどのような事をするのかは知らないが。


「ヒロたちの中学って、どんなだったの?」

「俺の学校か? ほぼ一日中体育館に集まって、クラスの寸劇を見せられて終わりだったな」


 欠伸が出るぐらいな、誰得な各クラスの寸劇、夏休みにあった優秀賞をもらった自由研究の発表など。中学の学校祭は、アニメで見るような盛大な事をしていなかった。


「まあそうよね。私の学校もそうだったわ。ほとんど記憶が無いし……」


 楠木の学校も寝てしまうぐらい暇だったようだ。寝てしまうぐらい、退屈な学校祭にならなければいいんだが。


「……あっ、忘れてた!」

「どうした?」


 急に大きな声を上げて、苦虫をかみつぶしたような顔をしている楠木。一体、何を思い出したのか。


「ヒロと会うのが楽しみ――じゃなくて、うっかり昼食を買うのを忘れていたわ……」


 俺たち4軍は、購買で昼食を買う事も制限されているので、学校外で買う方がいい。パンの耳、おにぎりの海苔ぐらいしか売ってくれないからな……。

 以前は、家の近くのコンビニで買っていたらしいが、最近は駅の中にある店で買った方が楽らしいので、俺と合流する前に、昼食を駅中の店で買っているようだ。


「……まだ、時間はあるわね。ヒロ、私、駅に戻って昼食買ってくるわ」

「おう。学校には遅刻するなよ」

「分かってるわよ」


 そして踵を翻して、楠木は急いで駅にとんぼ返りしていった。


「楽しそうなので、私も楠木さんについて行っていきます~」

「……だろうな」


 駅で食べ物を買うと思ったのか、菜摘のすぐ楠木のあとを追いかけて行った。菜摘のせいで、楠木が学校に遅刻しなければいいんだが。

 一人になった俺は、見慣れた廊下を歩き、そして見飽きた1年2組の教室に入ると、教卓の上に座って、俺を見てバカにしたような口調で話す女子生徒に話しかけられた。


「松原君は、全然変わってな~い」


 だが、こんな女子生徒、うちのクラスにいただろうか。夏休み明けでイメチェンした猪俣や、日下部、広瀬の顔ではない。そうなると、この女子は一体誰だ?


「松原君なら覚えているよね~。私、誰か分かる?」


 猪俣は1軍の座に就き続ける為、このような品位を落とすような行動はしない。そもそも、俺に君付けで呼ばないし、見下すような目で、バカにしたような目で見ない。

 日下部、広瀬が俺に話しかけてくる事も無い。俺に近寄ろうとはせず、意味も無く嫌っているようだ。


「……まさか、渡邊か?」


 教室の一番後ろの席は、猪俣、日下部の荷物置き場になっていた。おそらく、猪俣たちすら忘れているであろう、登校拒否になっている渡邊の席だ。

 だが、ふと見ると、机の上はきれいになっていて、2学期にしてはきれいすぎる通学用の鞄が置かれていた。

 猪俣たちが夏休みの間、整理整頓したか、新しく鞄を買い替えたのかと思ったが、渡邊の席の周りには、猪俣たちの私物らしきものが、散乱して落ちていた。

 それらの情報を踏まえて、別人と否定される覚悟で聞いてみると、その生徒は満面の笑みで笑った。


「そうそう。覚えてくれていて、すっごく嬉しいな~」


 どこかで見た事のある顔だと思っていたが、まさか2学期になって初日。俺たちのクラスだけでやっていた、初期のスクールカースト制度の闇に葬られた幻の階級、唯一D軍に落とされて、登校拒否になっていた、渡邊が今日から復活していた。

 どうやら渡邊は、登校拒否になっていた間は、非行に走っていたらしい。地毛であった黒い髪を止め、金髪に染めた渡邊。長い髪から覗かせる耳には洒落たピアスがぶら下がっている。それが証拠だ。


「ずいぶんと変わったな。金髪の方が、似合っているんじゃないのか?」

「ありがとー」


 5ヶ月ぐらい登校拒否になっていたから、自分が忘れ去られているのが不安なのだろう。見た目は大分変わっても、まだ小心者のようで、こうやってやって来たクラスメイトに聞いて言うのだろう。


「もし忘れてたら、遊ばないといけなかったからさ~。やる手間が減った~」


 気が付くと、ほかのクラスメイトは席に静かに座って、がくがくと震え、頬に痣を作っていた。

 本気で頬を殴ったのか、それとも何かにぶつけられたのか。これが渡邊が言う遊びと言うのだろう。これは遊びではない、ただの暴力だ。


「……何事?」


 ずっと扉の前で突っ立っていると、ひょっこり現れ、登校してきた木村が、教室の雰囲気に不思議そうに思い、俺に小さく話しかけてきた。


「あっ。スマホ花子だ~」


 視界に入った木村を見た渡邊は、もはや猪俣たちすら呼ばなくなった、木村の悪口で呼びつけていた。


「私の事、覚えてる?」


 渡邊の姿を見た木村は、少し驚いていたようだが、すぐにスマホを取り出して、素早く打ち込んだ。


『知りません』


 見た目からなのか、それとも関わりたくないからか。渡邊を警戒した顔で、木村は即答で返答してしまった。


「知らないんだ~」


 知らない、その単語を聞いた渡邊は、不気味な微笑みをしながら、教卓から降りて、隠していた金属バットを持って俺たちの方にやって来た。これは、渡邊を分からないと言った木村を、遊びとして殴ろうとしている。


「……マジでやるつもりかよ!」


 どうなるか分かっていた俺は、すぐに渡邊の腕を掴んで阻止させようとした時、俺よりも早く、渡邊の腕を掴む生徒がいた。


「ここは教室ですよ? 野球したいなら、昼休みで遊びましょうよ」


 渡邊を止めたのは、今登校してきた紫苑だった。にっこりとし顔でも、紫苑は決して渡邊の腕を離そうとしなかった。


「茉莉香ちゃん。大丈夫ですか?」


 こくりと頷いた木村。紫苑のおかげで、これ以上の被害を出すことは防げたようだ。


「いい加減離してくんない? 痛いんだけど」


 これ以上渡邊の腕を掴むのは危ない、暴れ出すと予想した紫苑は、すぐに渡邊を離した。


「あんた、誰? もしかして転校生か何かなの?」

「私は、高村紫苑と申しますっ! 6月ごろに転校してきたのですよ~」


 渡邊が知る由もない。渡邊が学校に来ていない時に、紫苑は転校してきたんだ。


「そんなら、あんたは免除ね。私は渡邊って言うの。ちゃんと覚えてね~」

「渡邊さんですかっ! はい、しっかりと覚えましたよっ!」


 一触即発が怒りそうだったのに、紫苑はいつもの感じで渡邊の名前を覚えていた。


「あっ、そうそう、あんたは何軍?」

「4軍ですよ?」


 紫苑が4軍だと知ると、渡邊は急に紫苑をバカにしたような目で見ていた。


「ゴリラのような握力があるなら、そりゃ4軍だ~。マジウケる~」

「ご、ゴリラ……」


 紫苑はショックを受け、白くなりかけて、放心状態になってしまった。この様子だと、しばらく紫苑は復活しないだろう。


「ねえ、松原君。私が学校サボっている間に、随分学校が変わったんだよね~」


 俺に覚えてもらえていた事が嬉しかったのか、バカにした目で見るのは変わらないが、俺に話しかけていた。ここで渡邊の機嫌を損ねると、俺も殴られる可能性は大だ。


「そうだな。跡形も無く変わってしまったな」

「前はこのクラスだけ。それが今じゃ、カースト制度を全学年、全校生徒がやっている。4軍は奴隷。そして命令を背けば1軍からペナルティ。めっちゃ面白い事になってんじゃん」


 渡邊がこんなに今の状況の事を理解しているのが意外だった。どこでこの情報を知ったのだろうか。


「そして、上に昇格したければ、上の奴に勝負を仕掛ける事が出来る。下の者に負けたら、その上の奴を奈落の底に落とす事が出来る」


 嫌な顔をしている渡邊。これは良からぬ事を考えているに違いない。


「まずは、あんたで練習かな~。クズの木」


 俺の背後の方を見る渡邊。そして俺の背後には、駅から急いで戻ってきた楠木がいた。ふらりとついて行った菜摘の相手もしながら戻ってきたせいか、少し疲れ切っているようだ。


「戻ってきたの? てっきり中退したと思ったわ」


 楠木は、金髪の生徒が渡邊だと気付くと、思いっきり渡邊を警戒し、睨んでいた。

 楠木が4軍になる前、楠木が2軍の頃だった時は、楠木と渡邊は仲が良かった。楠木が4軍に落ちると、渡邊は手の平を返して、1軍の猪俣たちに接近した。


「クズの木。いや、楠木紗良。私はあんたに下剋上勝負を申し込む」


 スクールカースト制度が実行される前に不登校になっていたため、今のところ、渡邊は無所属。俺よりもスクールカースト制度の階位が低いと言う事になるらしい。そうなると、無所属の渡邊は、4軍の楠木に下剋上勝負になると言う事になる。


「実行委員長には許可は貰ってあるんだけど~? あとはクズの木の承認が必要なだけ~」


 成敗、下剋上勝負には、勝負する互いの了承と、実行委員長の承認が必要となる。申請書の所には、あとは楠木の名前を書くだけ。楠木が名前を書き、それを実行委員長に提出すれば、勝負は承認される。


「いいわよ。私は、あんたには負ける気がしない。その勝負、受けてあげるわ」


 楠木は、渡邊から申請書を取って、そして申請書に楠木、自分の名前を書き込んでいた。これで楠木と渡邊の下剋上勝負が承認されたことになる。


 そして2学期開始早々、楠木と渡邊の下剋上勝負で、幕を開ける事になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ