夏コミ3
菜摘が失踪し、そして捜していると、まさかのうちの学校の放送委員、内田先輩が有名なコスプレイヤーと知って、そして木村は財布を盗まれ、そして犯人から木村の財布を取り返すと、木村の好感度はMaxになって、そしてキスをされた。
木村にキスされた後、俺たちは西館で行われていた企業ブースを見て回り、新作のアニメの最新情報などを感心して聞いていたり、先行販売されているアニメグッズを見て、購入したりと、結構楽しめた。
「……」
「……疲れましたね」
西館を出て、俺たちは暑さと人ごみで疲れ切った楠木と、紫苑の回復するまで、正門近くにあるベンチで座って休むことにした。いつも元気いっぱいの紫苑も、初めてのコミケは疲れてしまうようだ。歩くと揺れているツインテールも、今は何だか元気をなくして、しおれているように見える。
「お疲れのようね」
「……お前、どこに行っていたんだ?」
「内緒」
休んでいると、俺たちの前に葛城が現れた。ずっと俺たちと別行動を取っていたみたいだが、一体どこで何をしていたのか。聞いても教えてくれないようだ。
「松原氏。これを見てくれないか」
企業ブースを回っていると、塚本はコスプレのエリアに行き、しばらく俺たちとは別行動を取っていて、そして俺たちの所に戻ってきたようだ。
塚本が俺の背後から肩を組んで、そして顔の前に塚本のスマホを差し出してきたので、俺はスマホの画面を見てみると、そこには俺友のキャラ、高間アリサのコスプレをしている人物がいた。
「このコスプレイヤーさんを見た瞬間、某の胸は撃ち抜かれた。猪俣氏と同じぐらい、この方が好きになって――」
「これ、葛城だろ」
どう見たって、俺には俺友の世界の制服を着た、葛城にしか見えなかった。
「正解。当てた松原君には、後で高間アリサのコスプレをした状態で、おっぱい枕のご奉仕をしてあげる」
俺が顔を赤くしているのがおかしいのか、葛城はクスクスと可笑しそうに笑っていた。
「羨ましいぞ……」
指を咥え、羨ましそうに俺を見つめる塚本。そんなこと、恥ずかしくて出来るか。更に葛城に弱みを握られるだけだ。
「葛城。ちょっといいか」
俺は葛城を、楠木たちが休んでいる少し離れた所に呼び出した。葛城はあっさりと承諾し、俺のあとをついてきて、そしてもれなく菜摘もちゃんとついてきていた。
「神妙な顔だけど、もしかして会場の中で、痴漢の冤罪をかけられたの?」
「違うわ」
もしそうなっていたら、俺はこの場におらず、警察署の取調室でカツ丼を食べさせられているだろう。
「葛城は、猪俣雫って女子、知っているか?」
「……も、勿論。……けど、話した事は……無いわ」
学校で話しても良かったのだが、学校だとどんな奴が俺たちの会話を聞いているか分からない。おそらく1軍の奴がいないこの場所で、猪俣から聞いた奇妙な話を、葛城に聞いてみる事にした。
「その猪俣から聞いた話なんだが、どうやら葛城の1軍のトップの座が危ぶまれるらしい。葛城だけではなく、俺たち、そしてこのスクールカースト制度に参加しているすべての人の順位が危ぶまれる。そう俺に忠告してきたんだが、葛城は心当たりあるか?」
「……猪俣さんが……ね……」
そう言うと、葛城は遠くの景色を見て、歯切れの悪い答えをし、そして考え始めていた。
「……猪俣さんが、私を困惑させるために、そのような偽情報を流している。そして悩んでいる隙に、猪俣さんが私に下剋上勝負を仕掛ける。そう考えた方が無難だと思うけど」
「そう思ったんだが、猪俣は葛城に勝負を仕掛けるつもりはさらさらないって言っていた」
そう言うと、葛城は舌をペロッと出した。
「じゃあ、分かんない!」
こいつ、ようやく上り詰めた1軍のトップの座が奪われるかもしれないと言うのに、てへぺろって感じで、話を有耶無耶にした。菜摘だったら、轟沈させていただろう。
「生徒会長、そして実行委員会にも不穏な動きは、今のところない。その人たちの可能性は低いと思う。もし他に下剋上を狙っている生徒がいるなら、私は容赦なく相手を叩きのめす。1軍のトップなの。そう簡単に1軍のトップの座は譲らないわ」
さっきのてへぺろが無ければ、俺は葛城の言葉に感心していたんだがな……。
「もし、何かの有事あったら、勿論協力してくれる?」
「……まあな。俺もこれ以上、この学校の環境が悪化するのは勘弁だからな」
俺と葛城は、このいかれたスクールカースト制度を撤廃しようとして、手を組んでいる。
もし、これ以上スクールカースト制度が改悪されるなら、俺も止めないといけない。折角、スクールカースト制度のトップと最底辺が手を組んでいるんだ。トップの奴が、安藤のように変な奴になってしまったら、俺はスクールカースト制度を撤廃するチャンスはもう無いと言えるだろう。
「その言葉を待っていた。ご褒美にニーソ姿で、膝枕してあげる――」
「それは絶対にさせないかな~」
菜摘は葛城の唇に人差し指を置いて、黙らせていた。菜摘はこれがあると睨んでいたから、俺に付いてきたのだろう。
コミケもようやく終了の時刻になり、今までコスプレや、中で同人誌を売買していた人たちが撤収して、そして打ち上げに向かう人や、帰路に着いて家にゆっくりする人たちがいた。
俺も一日中ずっと、ビックサイトで過ごすのは初めてだ。結構長い事いたようなので、俺たちもさっさと家に帰って、家で休もうとした時、大きな声で俺の名前が呼ばれた。
「正義っ!」
どうやら、ロリをこよなく愛する男、田辺がまだこのビックサイトにいたようだ。アニメキャラが描かれた、たくさんの袋を持って、俺の所に駆け寄ってきた。
こいつ、早朝から起きて改札ダッシュしているはずなのに、夕方になっても凄く元気そうだった。
「お前がまだいて良かった! 帰りの電車の中で、来期に入る『ロリッ娘魔法少女うらら』について語ろうじゃないか」
「大声でそんな事言うな……!」
田辺が堂々とロリッ娘と言うので、周りにいた人たちが俺たちの事を注目していた。
「ヒロ君が釘付けになって見ていた作品の事かな?」
「そうだよ!」
菜摘が余計な事を言ってしまい、俺も見ていた事を知った田辺は、同士だと確信し、俺の肩をポンポンと叩いてきた。こいつと同類だと思われるのは、すごく屈辱的だ。
「……おっ。……おおっ!」
どうやら、俺の近くを歩いていた木村が視界に入ったらしく、田辺はすぐに木村の前に立っていた。予想通り、どうやら木村は、田辺の好みにドンピシャだったようだ。
「正義の知り合いか? 俺は田辺太陽。正義とは小さい頃から仲良く――」
『去れ』
冷たい視線、地声で話さず、スマホの音声機能で話す。田辺から距離を取ろうとしていた。
「変わった子だな~」
『そう、思うなら、さっさと、去れ』
田辺とは全く関わろうとはせず、固く口を閉ざし、スマホの音声機能で話し、冷たい視線で田辺を睨んでいた。木村は心を開いていない人には、こんなに冷たい態度を取るんだったな。笑顔で俺に話す木村とは、えらい違いだ。
「だが、完全に俺の好みだな。小さい身長に、小さな手、細い脚に、小さな胸。どれも一級品。俺はお前のような体系、ロリッ娘が好きなんだ。神が与えた素晴らしい属性に自信を持ってほしい――って、本気で橋の上から落とそうとしていないかっ⁉ 俺はまだ死にたくないぞ!」
「……最低」
田辺にとっては、木村を褒めたつもりなんだろうが、今のはどう聞いたって、木村を怒らせるような事しか言っていないだろう。ビックサイトの正門に繋がる橋の上から、本気で田辺を車が走る道路に落とそうとしたのだから、それほどの殺意が木村に湧いたのだろう。
コミケが終わった時間になっても、俺たちの周りは騒がしい。
楠木は、木村の暴走を止めようとして、紫苑はこの状況をお祭りだと思っているのか、楽し気に合いの手を入れ、葛城はこの状況をおかしそうにくすくすと笑い、塚本はこの状況に入れず、あたふたしている。
「やっぱり、コミケは楽しくないとね~」
そして菜摘は流石に菓子パンが切れたのか、いつの間にかコンビニに行ったらしく、コンビニ袋を持っていて、フランクフルトを食べていた。
やはりコミケは、暑さと多くの人、例年通りの過酷な場所だったが、このおかしな面子といると、一日もあっという間に過ぎたような気がした。楽しい事はあっという間と言う事だろうか。




