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夏コミ2

 

「……邪魔して、申し訳ないです」


 コミケ。東館の同人誌即売会、西館の企業ブース。俺は今そのエリアにいるわけではなく、ビックサイトの会場の外、正門前で行われているコスプレの撮影会の所にいる。

 俺は、マイペースにビックサイトを徘徊し、そしてコスプレの場を邪魔していたので、少し離れた場所で、轟沈している菜摘の代わりに俺が謝っていた。


「謝らなくてもいいよ~」


 そしてそのコスプレのエリアに、まさかの家の学校の生徒がコスプレイヤーとしていた。以前に菜摘と法田の成敗勝負の実況をしていた、ぴょんぴょんと揺らすポニテが印象の放送委員の生徒だった。


「やっぱり来るんだ~。松宮さんとヒビト君」

「……黒歴史の名前を呼ぶのは勘弁してください」


 成敗勝負の一項目、演説の時に、菜摘が俺の黒歴史を校内放送で暴露して、その名前は学校中に広まっている。本当に菜摘を恨んでいる。


「そう言えば、改まって話すのは初めてだよね? あたしは2年3組、そして3軍の放送委員、内田うちだ光莉ひかり


 つまり、俺たちの先輩か。2学年で3軍。俺的には放送委員、成敗勝負など、大事な勝負の司会を務めているのから、2軍にいるのかと思っていたんだが。


「この業界では、『ひかる』って、名前でやってま~す」


 レイヤーさんの事はよく分からないが、内田先輩のコスプレのクオリティは凄く高い。可愛らしい容姿で、拒否する事無く、カメラにポーズを構えている。きっとSNSでは、フォロワーが数万人いるほどの有名人なのだろう。塚本はこう言った分野も詳しそうだから、後で聞いてみるか。


「私がこうやってコスプレしているのが生徒会の耳に入ったらしくて、それが理由で3軍にされちゃってね~。あはは~っ」

「笑い事ではないと思いますよ」


 内田先輩は、自分のスクールカーストの位を、腹を抱えて笑っていられるほど、陽気な人柄の人のようだ。


「……そのコスプレは、プチキュアですよね?」

「そうそう。分かるって事は、ヒビト君は見ているって事?」


 幼児向け、しかも女の子向けのアニメだ。とてもじゃないが、俺は田辺のように堂々と見ているとは、同じ学校の先輩には言えないので、誤魔化すことにした。


「たまにですね。暇な時に観て――」

「嘘はダメだと思うな~。ヒロ君と私、いつも一緒に見ているよね~」


 どうして、俺の幼なじみは空気の読めないタイミングで復活するのだろうか。本当の事を内田先輩に話してしまったので、俺は再び菜摘の頭を叩いて黙らせた。


「恥ずかしがる事は無いって。お父さんなんて、毎年公開しているプチキュアの映画、ペンライトを振って小さい子と一緒に応援しているから~。あははは~。あ、あたしもペンライト振って応援しているよ~。あははは~」


 その時の上映、すごくシュールな光景なんだろうな。女子高生と父親がペンライトを振ってプチキュアを応援する。そんな二人と行けば、俺も恥ずかしさなんて無いだろう。



 そして俺たちは内田先輩と別れ、今度は菜摘が失踪しないか、しっかり見張りながら、再び東館、楠木たちがベンチで休憩しているところに行くと、そこには、物凄く落ち込んだ木村がいた。


「木村、どうした?」


 木村に声をかけると、木村は俺に飛び込んできて、そして俺の中で泣き出していた。


「何があった?」


 そして木村は、俺の方にスマホを向けて、音声機能で話してきた。


『本、買おうと、したら、財布、が、無かった。盗まれた』


 木村はすりに会ったようだ。


 確かに、こんなに人がいれば、すりを目的にやって来る悪い人がやってくる可能性は無いとは言い切れない。会場の放送でも、『すり、偽札の使用に注意してください』と言う、注意の放送が流れている。こうやって放送していると言う事は、実際にあったから、このような放送をしているのだろう。


「正義の字は、正義のヒーローの字と一緒。悪い奴は見過ごせない、それがヒロ君でしょ?」

「……まあな。ずっと楽しみにしていた夏の思い出を、こんな形でぶち壊すのは嫌だからな」


 木村はずっとこの日を楽しみにしていたんだ。俺とコミケに来るのを、ずっとずっと楽しみにしていたんだ。同人誌を楽しみに買いに来ている人に紛れて、すりを目的として訪れている奴が許せない。マジのクソ野郎がいるようだ。



 取りあえず、俺たちだけで探すことにした。こう言ったのは、速やかに運営に言った方がいいと思うのだが、すりが会ったと公にしてしまうと、犯人に警戒される可能性がある。しばらくは俺たちだけで探すことにした。


「……この中で探すのは無理でしょ」


 この会場の混雑を見て、楠木は早くも諦めモードだ。それは俺も思っている。


「この中で探すのは確かに不可能に近い。だから、今時の俺たちのやり方で探す」


 こんな大勢の人が居る中で、少人数の俺たちで、一人の犯人を探すのはほぼ不可能。だからこの時代、スマホ世代、SNSを使う俺たちが出来るやり方だ。


「ヒロ君。連れてきました~」


 俺は菜摘に頼んで、ある人物を連れて来てもらった。


「あははは~。さっきぶりだね~」


 俺たちは、ツイートや写真を投稿するSNSをやっていない。なので、ここはSNSフォロワーさんがたくさんいそうな、有名人に頼むのが早い。


 それはコスプレイヤーの内田先輩。コスプレの撮影会の中、きっと菜摘なら強引でも連れてくると思い、連れて来た。

 内田先輩のフォロワーなら、きっとこの会場に何人かいそうだ。そう睨んで、俺は内田先輩を呼んだ。


「移動中、松宮さんに話を聞いて、早速聞いてみたんだ。そしたら、昨日からそういう事が頻発していると言う情報がある様子」


 この人が集まる場所を焦点に絞って、すりの犯人はここで荒稼ぎをしているようだ。尚更許せないな。


「それと、フォロワーさんの投稿によると、行列に一人で並んでいる女の人に近づいて、そしてすぐに立ち去る人を見たって、情報もあるよ~。有名球団のキャップを被って、大きめのリュックサックを背負っていたって」


 そうなると、中年の男性か? そう言う人物は、この会場にかなりいると思われる。少し犯人が探りやすくなったという程度か。


「……もういいよ」


 俺の腕にしがみついている、顔を俯かせている木村が小さく呟いた。


「……犯人は、きっと常習犯。……そう簡単には見つからない――」

「そうやって、黙り込んで、自分の中に溜めておくから、こう言った事件は減らないんだよ」


 犯人の心境は分からないが、きっと興味本位で財布をポケットなどから引き抜いた。そして意外と上手くいき、そして調子に乗って犯行をしているだろう。そんなせこい手でお金を儲けようとしている奴が、俺は許せない。

 そして、財布だから別にいい。警察に言って大事になるのが嫌だ。そうやって黙り込んでしまう人もいるから、こう言った事件は減らない。俺はそう思っている。


「俺とコミケに来て、楽しい思い出を作りたかったんだろ? 苦い思い出となってコミケを終わらせたくないだろ? スクールカーストと一緒だ。底辺で頑張っている人が報われずに、上位で優雅に過ごして、何もせずに報われる人は、木村も気に入らないだろ? なら、諦めるなよ。諦めたら、ここで楽しいコミケは終了だ」


 改めて自分で言った事を思い返すと、凄くキザな事を言っている気がする。最後の方は、どこかの先生の言葉に似ていた気がするが。


「ヒロ。あそこ」


 ずっと辺りを見渡していた楠木が、目で大きめのリュックサックを背負い、そして有名な野球帽をかぶった人が、サークルの商品を拝見するように、行列に並んでいる女性に、何気なく近づいている光景があった。

 そしてこっそりとショルダーバックの中に手を入れて、財布を抜き出す輩がいた。これはもう間違いないだろう。


「菜摘。協力してくれ」

「は~い」


 俺と菜摘で、すりの犯人に近づいていき、そしてさり気なく歩き出すすりの犯人の前に、菜摘が立ち、そして犯人を足でひっかけて転ばせてから、俺は犯人に逃げられないように、咄嗟に両手首を掴んだ。


「何の苦労もせずに、お金を稼ぐのは楽しいか?」


 転んだ拍子に帽子が外れると、犯人は丸刈りの小さな男子だった。おそらく中学生、そして野球部だろう。


「ここにいる人は、寝る暇も惜しんで、命を懸け、必死になってイラストを描いている人たちだらけなんだよ。楽して金を稼ぐお前とは、雲泥の差だ。頭を冷やせ、バカ野郎」

「……ごめんなさい」


 そして少年のリュックサックの中を見ると、中は色んな人の財布がぎっしりと詰まっていた。その中に木村の財布もちゃんとあった。

 そして俺と菜摘は、コミケの運営の人に、泣く犯人の少年の身柄を引き渡した。持ち主の分からない財布は、運営に任せるとして、そして俺は盗られた財布を木村に渡す事にした。




「証明したからな。諦めなければ、解決するってな」


 そして俺たちの帰りを待つ、エントランスに戻っていた楠木たち。そして木村に財布を渡したが、木村は浮かない顔だった。


「……新刊、買えなかった」


 財布を盗られていたので、木村はお目当ての同人誌を買うことが出来なかったようだ。これは気の毒だと思う。


「……ちょっと頭を下げて」


 木村にそう言われたので、俺は木村の言われるがままに、背の低い木村の目線に合わせて頭を下げ――


「……んっ」


 何をされるかと思いきや、木村は顔を赤くして、自分の唇を俺の唇に重ねていた。


「……今日は、私の我儘に付き合ってくれて……そして、盗られた財布を見つけてくれてありがとう。……松原君は、本当に私の正義のヒーロー。……本当に好きだよ、正義君」


 コミケ会場のど真ん中。そして木村の唇が俺の唇に重ねられていた時、一瞬だけ思考が停止して、状況が分からなかったが、気が付くと、木村が俺の下の名前で呼び、そして驚いている周りの様子を見る限り、俺は木村にキスされていたのは、夢ではない、現実だったようだ。


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