カードバトル
「……これって、勇者王のレアカード。……懐かしいわね」
4軍の定期補習が終わると、俺は部活に来ているはずの村田に勇者王のカードを譲る為に、一旦机の上に置くと、楠木が懐かしそうに、カードを一枚取って眺めていた。
紫苑が不意に思い出した、あの公園に埋めたタイムカプセル。俺たちは紫苑の記憶を頼りに、公園に植えてある大きな木の下を少し掘ってみると、お菓子が入っていたであろう、四角い缶の箱が出てきた。
そしてそのタイムカプセルの中には、俺が子供の頃に流行ったカードゲーム、『勇☆者☆王』のたくさんのレアカードだった。
俺はほとんどレアカードが出なかったが、菜摘、紫苑は俺を真似してカードを買うと、何故かレアカードばかり出して、出た奴は全て俺にくれたのだが、強いカードなので、俺のデッキでは中々組めず、そしてクラスの奴らに羨ましがられて、妬まれていた。
それが嫌で、俺はこのたくさんのレアカードを、タイムカプセルとして埋めて封印したんだ。このカードを見て、俺はようやく思い出した。
前に、村田が勇者王をやっていると言っていた。未だに野球部の人と戦っていると言っていたので、いい値で売ろうと思い、こうして持ってきた。
「楠木は、知っているのか?」
「まあね。弟がやっていて、私を無理やり対戦相手にしていたから、少しはルールも分かるの」
女子が勇者王のルールを知っているのは、結構珍しい。ルールが分かるなら、少し楠木と戦ってみたい気がする。
「……これって、サファイアアイズドラゴン」
俺の所にやって来た木村も、楠木のように一枚カードを取って、目をキラキラさせて眺めていた。
「木村も分かるのか?」
「……集めるの好きだから。……今でも、家にたくさんある」
収集癖がある木村。こう言った男子向けのカードゲームも集めるのは好きなようだ。
「……けど、ルールは分からない」
それはちょっと残念だ。カードがたくさんあるなら、木村にルールを教えて、戦ってみたいものだ。
「懐かしいよね~。それって、周りの男子に冷やかされるからって言って、もう見たくないって言って、近所の公園に埋めたタイムカプセルだね~」
横で菓子パンを食べている菜摘は、ちゃんと覚えているようだ。覚えていなかったのは、俺ぐらいだろうか。
「ヒロ君、他にも埋めなかったっけ? 確か、中学校の時のヒビト君の衣装も、確かあの公園に埋めた――」
再び、俺の黒歴史をほじくり返そうとしている菜摘の頭を叩いて轟沈させてから、俺はお菓子の箱を持って、野球部のところに行こうとすると、木村に制服のシャツをちょこんと掴まれた。
「……誰かにあげちゃうの?」
「村田にな。あいつ、まだ現役でやっているから、やっている奴にいい値で売ろうと思って」
このまま店で売るっていう手もあるのだが、いくらで売れるのかは分からない。
昔はどんだけ強かったとしても、今ではかなりルールが改変されて、弱体化してしまい、安くなっているのもあるだろう。村田はそう言ったところは気にしなさそうなので、俺は村田に譲る事にしたんだ。
「……気に入ったなら、あげるぞ」
「……松原君の形見として、大事にするね」
サファイアアイズドラゴンのカードが気に入ったようで、木村は俺があげると言うと、嬉しそうな顔をしていた。
木村がこんなに嬉しそうにしているのは、サファイアアイズドラゴンのカードが気に入ったのか。それとも、俺にもらったカードなのかは分からないが、何より、アキバのねこのあなのように、目をキラキラさせてカードを眺めているのは、心の底から気に入ったって事なのだろう。
「ヒロ。村田にあげる前に、このカードの中だけで、戦ってみない? ……って、私、デッキは組んだこと無いから……。ヒロが組んで?」
「無理だ。コストが高い奴ばかり――」
「そんな事がいつか起きると思って、松原君たちのために用意しておいたの」
こいつはどこから、俺たちが勇者王のカードで戦おうとしている事を聞きつけたのか。葛城が勇者王のカードをたくさん持って、俺たちの前に現れた。
「……お前もやっていたのか?」
「全く無いわ」
「じゃあ、葛城も木村みたいに、このカードを集めていたのか?」
そう言うと、葛城は首を横に振った。
「このカードは、校内で、先生たちが没収したカードたちなの。先生も没収したことを忘れたカードたちだから、黙って持ってきても怒られる事も無いと思って、松原君のために持ってきちゃったっ!」
「お前、絶対に1軍のトップじゃなくて、4軍にいるべきだろっ!?」
『てへぺろ』って言いそうな口調で、お茶目な感じで言う葛城。本当に、どうして葛城が俺たちの学年のカースト制度のトップなのか分からない。
だが、この学校、そんなに勇者王の決闘が盛んに行われていたのか? このクラスは、休み時間だろうが放課後になっても、やっている様子はない。他のクラスなら昼休みにやっているのは見たことがあるが、きっと、安藤や猪俣と言う大きな存在がいるので、堂々と出来ないのだろう。俺たちの1軍は、こう言ったカードゲームに嫌いそうだしな。
「弱いカードから強いカードまで。好きなように組めるわよ、松原君?」
葛城がこんなにカードを持ってきてしまったので、俺は楠木と戦う事は避けられないようなので、俺は深く考えずに、2人分のデッキを作り、そして楠木と戦う事になった。
「私が勝ったら、何か奢ってね~。じゃあ、私からっ!」
おい。この勝負、負けたら勝った人の言う事を聞くと言う、テンプレの罰ゲームがあるんだが。
「私はクレープを奢ってほしいな~」
と、菜摘はよだれを垂らして、さり気なく俺におねだりしていた。
「私も~。松原君の奢りで、うな重を食べたいな~」
甘ったるい声を出して、俺におねだりしてくる葛城の話は無視しておこう。
「ヒロ、早く」
「お、おう」
楠木だって、あまりやっていないだろう。俺もタイムカプセルを封印して以降、勇者王のカードはやっていない。小学校以来だが、楠木に負ける気はしない。菜摘と楠木に奢らせないために、俺も本気を出して戦おう。
「……ほらよ」
結局、俺は楠木に負けた。
楠木は、今でも弟の相手になっているらしく、俺が即席で作ったデッキでも普通に強かった。と言うか、楠木、弟がいたのか。
それで近くの店でクレープを奢る事になり、俺は菜摘、楠木。そして木村、葛城にも奢る羽目になった。
もう俺のお小遣いがない。折角、新刊のラノベを買うために溜めておいたんだが……。
「……松原君」
俺たちはクレープ屋の外に設置してあったベンチに座り、菜摘が俺の横で美味しそうにクレープを食べている中、木村が俺の前にしゃがんで話しかけて来た。
「……クレープ。……ありがとう」
「……ああ」
木村は何て良い子なんだ。木村の行動を、お礼も言わず、横で美味しそうに食べている菜摘たちも見習ってほしい。
「……そ、それでね。……話があるんだ」
「どうした?」
「……コミケ。……松原君は付き合ってくれる?」
そう言えば、今度は木村と夏コミに行く約束をしていたんだ。
あまり気が乗らないが、以前に行く約束をしてしまったので、ここで断ることは出来ない。
「……木村は、改札からダッシュする派か?」
「……ううん。……早起きは辛いし、私はそんな体力は無い。……人気のサークルは、後でお店で買うから」
それなら、朝早くから並ぶ心配は無くなった。だが、田辺は早朝から並ぶと言っていたな。俺はそれだったら断っていただろう。
「ヒロ君、私も行きたいな~。夏休みなんだし、ヒロ君とひと夏の思い出を作りたいな~?」
「何度も言うが、コミケは苦の思い出しか残らんからな」
菜摘は興味本位で行きたいようだ。実際は、菜摘はコミケの会場で速攻で迷子になりそうだから、あまり一緒に行きたくない。
「楠木も来るのか?」
「ヒロが行くなら、私も行ってみたい。興味はあるし」
楠木も、菜摘と同じく興味本位で行きたいようだ。
「ちなみに言うけど、私は毎回行っているから、今回は松原君たちと是非ともお供させてほしいわ」
「勝手にしろ」
1軍のトップも来る羽目になり、これで菜摘、楠木、木村、葛城と一緒に行くことになった。塚本も行くと言っていたし、先日再開した田辺も一緒に行こうと誘いを受けているし、それでその場にいた紫苑も行くと言っていた。
今回のコミケは、かなりの人数で行くことになりそうだ。
「……じゃあ私たち、オタクの夏の決戦に向けて、頑張ろうね」
木村は、ハイタッチのつもりか、俺に手の平を向けて来た。
「……無理のないように、頑張るか」
俺は木村とハイタッチをして、少し湿っぽい溜息をついた。
夏のコミケは本当に地獄だ。熱気と夏の暑い気温が一気に襲ってくるので、下手したら熱中症になってしまう。水分はこまめにとって、人ごみに酔わないように、今から気合を入れておくか。
「そう言えば、ヒロ君。村田君にカードはあげなくて良かったの?」
菜摘がクレープを食べ終わって、そう言うまで、俺はすっかりと村田に勇者王のカードをあげる事を忘れていた。
村田にカードを譲るのは、また別に日にするか。




