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幼なじみと一緒にいたら、スクールカーストの底辺になった  作者: 錦織一也
幼なじみに頼るのは恥だが、役に立つだろうか。
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真の支配者

 

「……ここから入るのか?」

「そう」


 保護者が抗議のため、学校に集結する。それを学校が対応、説明するために、校舎の一角の視聴覚室で行われる。


「……窓から入るなんて聞いていないぞ」

「普通に入ったら見つかるに決まっているでしょ」


 視聴覚室は1階にある。葛城が事前に視聴覚室ではなく、視聴覚室の一角を利用して作られた視聴覚準備室の窓の鍵を解除しておいて、そこから侵入する。葛城は元々から、この視聴覚準備室で聞くつもりだったらしい。

 だが、窓を乗り越えるのは普通じゃ出来ない。降りる事は可能だろうが、地上から高い位置にあるため、乗り越えるとなるのは難しい。なので、これも事前に葛城は、器械体操の時に使うマットを何枚も重ねて、台を作っていた。これが葛城一人でやったとなると、感心してしまう。


「松原君は最後でもいいのよ? 窓を乗り越える時。ふふっ、私たち女子はどうなっちゃう?」

「……俺が先に入らせてもらう」


 スカートの端をチラチラとさせる葛城。男子はズボンなので何も思わないかもしれないが、菜摘や葛城たち女子はスカートだ。女子が窓枠を乗り越える時、ふとした行動で、スカートの中が見える可能性がある。

 視聴覚室の外で倒れないために、俺は先に視聴覚準備室に乗り込んで、その後に猫のように軽々と入って来る菜摘。辺りをきょろきょろとして確認してから葛城は乗り込んで、窓を閉めた。


 視聴覚準備室。俺は初めて入るが、中は山積みの資料、視聴覚室に設置されているスクリーンに映像を写すためのプロジェクターなどの機器たち。


「葛城。ここに資料があるって事は、あとから誰かが入って来るんじゃないのか?」

「日付、題目をちゃんと確認した?」


 葛城にそう言われたので、俺は山積みの資料を確認してみると、日付は数年前の物。題目も数年前の予算の使われ方、行事の事が書かれていた。この様子だと、この部屋に物を取りに来ると言うことは無さそうだ。


「会議の準備は、私が自ら生徒会長に頼み込んで準備をさせてもらったの。あの人、私には全く警戒していないから、こういった工作はやりやすかったわ」


 もし俺が準備をやらせてくれって言っても、あの烏丸先輩は絶対に許可はしないだろう。1軍のトップ、俺以外では猫を被っている葛城だから、烏丸先輩は許可をしたのだろう。


「……密室、そして薄暗い部屋。……何だか遊びたくなっちゃう」


 葛城は、俺の腕を掴んで、無理やり視聴覚室につながる扉の前に座らせた。そして菜摘が特等席と主張する腕に、自分の胸を押し当てるように一緒に座った。


「こうやって、扉越しから聞きましょうか。途中で襲いたくなったら、襲っても良いのよ?」


 完全に、葛城は俺をからかっているだろう。俺が今の言葉を聞いて顔を赤くすると、葛城は可笑しそうにクスクスと笑った後。


「始まったみたい」


 扉越しから、まず俺たちの学校の校長先生の声が聞こえた。


「……ま、まず。……今回、保護者の方がいらっしゃった理由としては、我が校で実施しているスクールカースト制度の事。……では、まず制度の説明をしたいと思います」


 おどおどした様子で、校長は聞きなれたスクールカースト制度の説明を保護者の前で説明を始めた。


 学校が力を入れて取り組んでいるスクールカースト制度。学力向上、風紀の乱れを無くすため。そう言ったでっち上げで始まったのだが、今では真逆な結果を招いている。学力向上は多少効果はある物の、風紀の乱れは全く改善されていない。むしろ、改悪している。


「……では、今の説明で質問がある方は挙手をお願いします」


 校長が説明を終えると、早速一人の保護者の声が聞こえた。


「今の説明を聞くと、どうも学校が掲げている目的には到底達成出来ない思われますが。どうして身分をはっきりさせることで、風紀の改善につながるのでしょうか?」


 痛い所を突く保護者。さて、校長はどう答えるのか。


「では、何故昔の学校では定期テストの結果を順位で表し、名を公表していたのでしょうか?」


 この声、さっき集会の時に聞いたあの男子生徒だ。


「挙手の前に発言してしまい、申し訳ありません。それと申し遅れました、私は自由川高等学校、生徒会長の烏丸光徳と言います」


 どうやら、この会議にあの烏丸先輩が出席していたようだ。


「身分をはっきりさせることに異義があるようなので、校長の代わりに答えさせてもらいます。誰もが見れる場所で、1位から最下位までを実名で公表。1位の人は凄いと多くの生徒に褒め称えられ、模範の生徒と誰もが呼ぶようになる。先生も誇らしく思える事でしょう。最下位の人を公表するのは、このような最下位になった事の辱めを受けたくないと思う生徒も出てくるかもしれない。それか成績を公表することで、この生徒勉強を教えた方がいいと思う心優しい生徒も出てくる事も否定出来ないと思います」


 烏丸先輩の言い分は筋が通っている。俺も否定する事も無い。


「そして我が校で取り入れているスクールカースト制度も、今の例えと一緒です。1軍は成績優秀、生活態度、部活動を懸命に取り組む模範の生徒。4軍は成績不良、生活態度は疎か。そして非行な生徒を表しています。1軍は優秀な方が就いております。品行方正の姿を見て、下位の生徒は模範な生徒になろうとする。皆改心し、模範な生徒が増えて行けば、風紀も改善される。違うでしょうか?」


 質問した保護者は黙り込んでしまった。


 再び、校長がスクールカースト制度の細かい内容を説明を始めた。ペナルティがある、昇格降格、下剋上、成敗勝負があるなど。それらの説明を終えると、再び保護者が質問をしていた。


「ペナルティって体罰ですよね? 悪い事したなら、先生が対応し、謹慎でもよろしいのではないでしょうか? なぜ電流を流す必要があるのでしょうか? うちの娘は、このペナルティでいつも電流を流されていじめられていると、泣きながら帰ってきます。風紀の改善ではなく、いじめを助長してませんか? 本当に上位の人たちは模範の人たちなんですか? どうやってその順位を決めているんですか?」


 今質問した保護者は、このペナルティの被害者のようだ。これをモンスターペアレントと言うのだろう。


「そ、それは私も認識――」

「ペナルティ、体罰も立派な教育だと思っています」


 校長が弁明しようとすると、校長の言葉を遮るように烏丸先輩が説明を始めた。


「ペナルティを受けたくなければ、悪いことをしなくていいだけの話です。ペナルティを悪用し、いたずらで4軍の人をいじめているというのであれば、それは許せない事です。名を教えてくれれば、こちらで処分を下します。ですが、あなたの生徒はなぜ黙っているのですか? なぜ先生や、この私に相談をしてくれないのでしょうか? 最近の人は周りに迷惑をかけたくないと言って、黙ったままの子供が多いそうです」


 いじめをチクったら、いじめられた奴らに再び仕返しされる。その理由もあると思うが、大きな理由は大事にしたくないという理由で、黙ったままの人も多いだろう。俺もその一人だが。


「働いている貴方なら、『報連相』。大人では常識のこの言葉を知っていますよね? 報告、連絡、相談。それが出来ないというのであれば、これから会社で働くとなったら生きていけないでしょう。それを今まで教えてこなかった保護者の責任もあります」

「……そ、それはそうかもしれないですが」


 完全に烏丸先輩のペースに持っていかれてしまった。この抗議に来た保護者も黙り込むしかないようだ。


「なぜ2軍、3軍と言う、中途半端な地位を設けているか。カースト制度の呪縛から解放されたいと、一時期だけ品行方正で振る舞って、1軍になろうとする生徒も出てくるでしょう。しかし、1軍と言う安定の地位に就けば、もう上からの圧力も無い、勉強だけすればこのままいられると、こざかしい生徒も出てくる。ですが、そう言う生徒はいずれボロが出る。ちょっと触っただけで壊れない、硬くて丈夫な生徒が真の1軍につける。表面を脆くて柔らかい砂で出来た生徒は、少し揺さぶりをかけただけで壊れてしまう。そう言う生徒が、2軍、3軍となるのです」


 2軍、3軍にはそう言った意味があるのか。そんな結論、俺では思い至らなかっただろう。


「ようやく来ましたか」


 誰か会議が行われている視聴覚室に、ドアをノックして入ってきたようだ。烏丸先輩は、待ちわびたと言わんばかりの声をしていた。


「静粛にお願いします」


 入って来た人物を見た保護者は、何故かざわついていた。一体、誰がこの視聴覚室に入って来たんだ? 扉越しから聞いているので、視聴覚室の様子はさっぱり分からない。


「……保護者の方には、貴重な時間を割いて学校に来ていただいた事には感謝をしています。……私、横の烏丸光徳の父、烏丸(からすま)周善(しゅうぜん)です」


 どうして、今まで校長、教員が誰もスクールカースト制度に文句を言わなかったのか、ようやく分かった。

 どうして、生徒である烏丸先輩が絶大の権力を持っているのか。ようやく分かった。


「この地域の教育委員長兼、現在の内閣で文部科学大臣をやっております」


 ニュースなどで聞いたことある名字だと思った。まさか、文部科学大臣の息子が、うちの学校の生徒会長をやっているなんて、夢にも思わなかった。


 つまり、この学校は烏丸親子が実権を握っているって事だ。


「校長先生。話の続きをよろしくお願いします」

「……はい」


 烏丸先輩の親父が校長にそう言うと、校長は素直に指示に従い、さっきまで質問が多かった会議も、誰も意義を唱える者はいなくなった。


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