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幼なじみと一緒にいたら、スクールカーストの底辺になった  作者: 錦織一也
幼なじみに頼るのは恥だが、役に立つだろうか。
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操り人形

 日が徐々に傾き始めた。ビルの隙間から漏れるオレンジ色の夕日が、参拝する榊原先輩の髪をオレンジ色に染めていた。

 見た目は木村より小さく、世間、生きているのがつまらなさそうに、どこか遠くを見つめている榊原先輩。だが、この少女が、俺たちの学校生活を苦しめているスクールカースト制度の新たな実行委員長。まさかこの神田明神に現れるとは思わなかった。


「……気づかれる前に、ここを出た方がいいな」

「……私もそう思う」


 しかも俺たちはまだ学校の制服のままだ。制服のままで何をしている、と榊原先輩にツッコまれる可能性は大だ。木村もそう思っているようなので、気付かれる前にここを出た方がいいかもしれな――


「……ヒロ君に、ジェラートを奢ってもらえますように」


 何をやっているんだ、あのマイペースクイーンは。

 堂々と、榊原先輩の横で鈴を鳴らし、5円玉を入れて参拝しているんじゃない! と言うか、そんなお願いを、この格式ある神社にするな。


「えっと……。ヒロ君、お参りってどうやってするんだっけ~?」


 そして俺の名前を堂々と榊原先輩の横で呼ぶ菜摘。さっきから横で菜摘をつまらなそうに見つめている榊原先輩に何を言われるか、俺の冷や汗が止まらない。


「……2回お辞儀して、2回手を叩く。……そして1回お辞儀する」

「成程~」


 榊原先輩に言われたとおりに、菜摘は2回拝んで、2回手を叩き、そして最後にもう一度拝んでいた。


「……あなた、私と同じ学校」


 ほら、やっぱり榊原先輩に目を付けられてしまったじゃないか。


「……学校帰りに道草。……4軍の松宮菜摘にペナルティ執行」


 菜摘に向けて指を突き刺す榊原先輩は、菜摘にペナルティを課そうとしていた。

 道草ぐらい、高校生では良いだろ。そんな小学生の先生のように、学校帰りの事まで口うるさく言わないでほしい。


「……あれ?」


 実行委員長の榊原先輩が、菜摘にペナルティを課そうとしたが、特に菜摘に代わった事は無く、平然と神田明神の境内をふらつき始めていた。


「……松宮菜摘に、ペナルティ執行! 松宮菜摘に、ペナルティ執行~!」


 ムキになって、何度も菜摘の方に指を差して、ペナルティを課そうとしていたが、菜摘は痛がる様子もなく、販売していたソフトクリームを購入して、そして舐めながら俺の傍に戻って来た。


「ヒロ君。あの子は誰かな~?」


 やはり、全く興味を持たない人は、名前も顔すら覚えていないようだ。集会の時でも菓子パンを食っていたらから、覚えているはずもないもんな。


「あの子って言うな。菜摘より年上の先輩、榊原先輩」

「そうなんだ~。てっきり中学生だと~」


 木村よりも身長が低く、そして顔も木村より童顔。俺だって最初見たときは、飛び級してきた中学生かと思った。


「……ど、どうして、ペナルティが実行されないんですか~!」


 そして榊原先輩は、神田明神の境内に寝転がり、小さな子供が親に欲しい物をねだる時みたいに、駄々をこね始めていた。

 こんな見た目でも、高校2年生。そしてスクールカースト制度の実行委員長なんだろ? それがこうやって小さな子供のように、寝転がって駄々をこねている姿は、惨めだと思ってしまった。


「学校外ではペナルティは実行出来ない、階位を示すバッチは、学校外ではまったく力を持たない。そうスクールカースト制度の決まりに書いてあります。榊原先輩」


 いつの間にここに来たのだろうか。どうして俺がここにいるのが分かったのだろうか。

 社殿近くにある1体の狛犬の石像に寄りかかり、地面で駄々をこねている榊原先輩に忠告のするのは、さっき俺たちが逃げて来た葛城だった。


正義まさよしの字は、正義せいぎの字! みんなを守る正義の味方、果物戦隊、マロンイエロー。……って、昔、マロンは言っていましたよね~」

「おい。人の黒歴史をほじくり返して、いじめるのは楽しいか?」


 葛城が寄りかかっている隣の狛犬の所には、中二病のように眉の所に指先を置き、格好をつける紫苑がいた。


「懐かしいね~。私はマロンブラウンだった気がするな~」


 菜摘はソフトクリームのコーンを齧りながら、俺をはんなりとした顔で見ていた。

 今のは、小学3年の頃。俺が特撮好きで、仲の良い奴らで戦隊ごっこをやっていた役名だ。俺がリーダーをやって、紫苑と菜摘で戦隊を組んで、田辺には敵を演じてもらって遊んでいた懐かしい思い出がある。今となっては、黒歴史になっているが。


「話、戻していいかしら?」

「……すまん」


 折角格好良く決めた葛城だったが、今の紫苑の行動で、葛城の行動は台無しになってしまった。それが葛城は気に入らなかったようで。


「後で、お仕置き。してあげる」


 サキュバスのような、色っぽくて悪そうな顔を俺に見せてから、寝転がっている榊原先輩の所に歩いた。


「……あなたは?」


 榊原先輩は、葛城の姿を見て正気に戻ったのか、すぐに起き上がり、さっきまでのどこか遠くを見つめるような、つまらなさそうな目で葛城を見上げていた。


「1年生、そして1軍のトップの葛城って言います」

「……私に何の用? ……もしかしてあなたも道草?」

「私、この辺りに住んでいて、通り抜けとしてこの神社を歩いていたら、たまたま、偶然に榊原先輩を見かけたので、声をかけただけです」


 葛城はこの辺りに住んでいるから、俺たちについてきたのだろう。それならコソコソと俺たちのプライベートを尾行しないでほしい。


「榊原先輩。もしかして、スクールカースト制度の実行委員長が上手くいくための、願掛けをしていたのでしょうか?」

「……そんなところ」



「上手くいくといいですね。生徒会長に脅迫されて、スクールカースト制度の実行委員長をやっている榊原先輩?」



 葛城が榊原先輩にそう突き付けると、榊原先輩は肩をビクッとさせ、榊原先輩だけではなく、俺たちまで驚愕させていた。


「それ本当か? 葛城?」

「そうだったの? 当てずっぽうで言ったのだけど」


 自分でも驚いているようで、きょとんとしている葛城。当てずっぽうで、先輩を弱みを握るなんて、菜摘よりも勘が鋭いかもしれない。


「まあ結果オーライ。正直に話してもらいましょうか。榊原先輩?」

「……い、言わない」

「隠しても無駄。下級生を甘く見ないで」


 ここで葛城のドSの性格が発動し、榊原先輩の背後に回り込んで、榊原先輩の体中をくすぐり始めて、くすぐったくて泣きだす前に、榊原先輩は白状した。



 そもそも、榊原先輩は2学年で4軍。本当は大人しい、内気な性格。だが小さな見た目のせいで、色んな生徒にからかわれていたらしい。そんな中、榊原先輩がいじめれている光景を目撃した、生徒会長の烏丸先輩は。


『いじめとは実に醜い行動だ。他者をいじめ喜ぶ奴らを見返したいとは思わないか。そこで榊原に良い話がある。この素晴らしいスクールカースト制度の実行委員長に就いてほしい。榊原は何もしなくても良い。ただ実行委員長の座にいるだけでいい、スクールカースト制度の象徴になって欲しい。すべての命令は、真の実行委員長が考え、その命令は生徒会に通じて命令する』


 と、烏丸先輩に言われたらしい。

 勉強はそこそこできるらしいので、手違いがあったというでっち上げをして、一気に4軍から1軍に成り上がった榊原先輩。そして烏丸先輩の新たな駒として榊原先輩はスクールカースト制度の実行委員長になった。

 集会の時に宣言した、あの榊原先輩の話は、全て烏丸先輩に言わされた、と榊原先輩は供述した。



「つまり、榊原先輩は仮の実行委員長。本当の実行委員長は裏で命令をする。榊原先輩は、操り人形ってところね」

「……そう」


 すると葛城は、ニヤリと口元を緩ませていた。


「ワトソン君。次の目的が決まったわよ」

「俺はホームズの助手か? 探偵ごっこはごめんだ――」

「私の助手になってくれたら、毎日私のおっぱい枕、貴方が好きなニーソ姿になって、そして絶対領域の上に頭を乗せて膝枕してあげる特典が付くんだけど?」


 すぐに助手になると言いたかったが、ここで簡単に葛城の誘いに乗らない。また変な事に巻き込まれるのだけはごめんだ。平穏に過ごし、じっくりとカースト制度の昇格を伺いながら、アニメ三昧の生活を送りたい。


「こ、断る――うっ……!!」

「これでも断るの?」


 葛城の奴はこれが最終手段なのか。制服のスカートを持ち上げて、俺に葛城のスカートの中の、ピンク色の物を見せられた。

 菜摘の下着、パンチラぐらいなら平気だが、菜摘以外の女子には全く抵抗のない俺は、思わず神聖な神田明神の境内を鼻血で汚しそうになった。


「……松原君、これ!」

「……す、すまん」


 ずっと俺の横にいる木村は、すかさずティッシュを差し出してきて、俺はありがたくティッシュをもらって、鼻血を止血した。

 木村もたまに、クラスの男子生徒がすこしじゃれ合っている姿を見ても、BLの妄想を膨らませて鼻血を頻繁に出している。だから日頃ティッシュを持ち歩いているのだろう。


「断ったら、松原君が出血多量で死ぬ。断らなかったら、私のご奉仕で松原君は出血多量で死ぬ。さあ、どっちを選ぶ?」


 どっちを選んでも、俺は葛城の色仕掛けで血の海に沈んで死ぬらしい。


「つまり拒否権は無いって事。松原君、明日からよろしくね」


 葛城に最初から目を付けられて以降、俺は葛城からは逃げられないようだ。最初、素直に視聴覚室で出会ったしまった事が間違っていたようだ。


「ヒロ君。私もおっぱい枕、ニーソ姿で膝枕してもいいんだけどな~?」

「結構だ」


 いつの間にか球状の小さなカステラを買って来て、もぐもぐと食べている菜摘は、俺の腕に胸を当てながらそう言ってきたのだが、これ以上、俺が変態扱いされない為にも、幼なじみの菜摘の誘いを即答で断った。


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