黒髪少女の誘惑
「……それが、恐ろしい事か?」
葛城の話を聞いて、俺はキョトンとしてしまった。
法田がやろうとしている事は、安藤がやっていた事と変わらない。俺もその被害者だ。安藤は俺の事が気に入らなくて、俺を4軍の最底辺にして、そして片想い中の菜摘をどんなに成績が悪くても、1軍にした男だ。特別に恐ろしいとか、そんな事を思わない。
「別に怖くないかな~。そんな事じゃ、ヒロ君は驚かないよ~。最近はベッド下に隠しているエロ本の居場所を教えた方が、ヒロ君は驚くと思うんだけどな~」
「どうして知っているんだよ~!!」
難しい所に隠すと、すぐに菜摘にバレると思って、今回は簡単な場所に隠したのに、もう数日でバレてしまったようだ。また違う場所に隠すしかないようだ。
「……ま、まあ。むっつり君――松原君の性癖は、聞こえなかったことにして」
菜摘の一言で、俺に対する葛城の評価は一気に下がっただろう。最底辺、変態の男子高校生として見られるだろう。
「それで、松原君は力を貸してくれるの?」
現在、スクールカースト制度の実行委員長が不在。もし法田の奴が、仮に安藤と同じことをしようとしているなら、俺も黙っておけない。
「事情を聴いてしまったからな。出来る限り協力する」
「ありがとう。松原君」
葛城はにっこりと微笑んだ後、俺に顔を近づけてきて。
「キスはダメだよ~」
どうやら葛城は感謝の気持ちに、俺の方にキスをしようとしてきたようだ。だが、俺の横にぴったりくっついている幼なじみが黙っていない。咄嗟に葛城の唇に指を置いて、葛城のキスを阻止していた。少し残念だ。
「ヒロ君。女の子とキスしたいなら、私と、だよ?」
人形のようにおとなしくしていれば、菜摘はすごく可愛いと思えてくるだろう。顔はすごく可愛い菜摘だ。まあ、女子のキスは俺も憧れるんだが。
「本当にすると思ったの?」
「いきなり顔を近づけてきたら、それは期待するだろ……」
「松原君って、やっぱり面白いわね」
クスクスと葛城が笑った後、実行委員長の話を詳しく聞いた。
どうやらまだ正式に法田が実行委員長になっているわけではないらしい。俺は知らなかったが、玄関の所にある大きな掲示板の端の方に、小さくスクールカースト制度の実行委員長を募集していたらしい。そしてそれを見た法田が、就任しようと決意したと言う話のようだ。
「……で、今日その募集は締め切る。締め切りの前に、生徒会室から法田の応募用紙を俺らが奪って、法田に参加権を無くすって事か?」
「ええ。私は4軍になりたくないから、必死に勉強して、部活動も一生懸命にやって、1軍のトップになれた。そんな法田君の自分勝手な理由で、順位を変えられるのは嫌」
本当に俺の周りにいる奴らとはえらい違いだ。菜摘や、楠木たちに葛城の爪の垢を煎じて飲ませてあげたい。
「まあ、俺はこれ以上下がる事は無いが、これ以上、4軍と言う被害者を出したくない。葛城に協力する」
「ヒロ君が協力するなら、私も協力しま~す~」
俺らが協力することを聞いた葛城は、にっこりと微笑み。
「ふふっ。4軍の人たちの方が、1軍にふさわしいと思えてくるわね」
1軍のトップが嬉しい事を言ってくれて、俺はやる気が出た。そして葛城のお願いに協力することにした。
「私が中にいる生徒会の人に話しかけるわ。話し込んでいる隙に、松原君と松宮さんで募集の紙を奪ってほしいの」
「……いや、もうその作戦は失敗だと思うぞ」
「どうして?」
「すでに菜摘が、部屋の中に入っていった」
生徒会室の前に着いた瞬間、菜摘は俺から離れて中に入っていってしまった。何度も訪れているせいか、菜摘にとっては自分の家のような場所になっているようだ。
俺はこっそりと生徒会室の扉を開けて中を確かめてみると、菜摘は生徒会室に置いてあるパソコンの前に座って、パソコンを弄ろうとしていた。
「……噂通りのマイペースね」
やっぱり初見で菜摘のマイペースな姿を見たら、誰だって驚くようだ。もう俺は慣れてしまっているので、この光景は異様だとは思わない。
「作戦変更。俺が菜摘を探しているふりをして、生徒会の人と話をしてくる。葛城はその隙で用紙の回収」
「ええ。いいわよ」
俺が咄嗟に思いついた作戦で、生徒会室に入ろうとした時。
「松原君は、頼もしいわね」
葛城は俺の頬を突然突いてきたので、頬が痛く、そして心臓も少しドキッと来たが、すぐに気持ちを切り替えて、生徒会室に入った。
「し、失礼します。ここに菜摘が――」
運良く俺が生徒会室に入って来るのはおかしいと思い、俺は作戦通りに、菜摘を探しているふりをして生徒会室に入ると。
「ヒロ君。紙ってこれの事かな~?」
俺にヒラヒラと数枚見せつけてきた菜摘。それは実行委員会申込書と書かれていた。
「菜摘だけか?」
「そうだね~。私とヒロ君以外は見当たらないね~。新作のパンでも探しに行ったのかな~」
それは菜摘だけの行動だと思うが、無用心に部屋を開けっ放しにしている生徒会もどうかと思う。
「ヒロ君。パソコンも付けっぱなしって言うことは、ご自由に触って良いって事かな――痛いよ、ヒロ君?」
そしてパソコンを付けっぱなしにしておくなよ……。生徒会のセキュリティーがガバガバじゃないか。そしてパソコンを触ろうしている菜摘の頭を叩いておいて、俺は菜摘から募集の紙を預かると、紙は3枚あった。
「……そんなに、このふざけた実行委員長になりたいのか?」
まず最初に法田の応募の紙があって、他に2人の生徒の名前を確認していると。
「あら、人はいないのね」
隙を伺って入って来た葛城が、俺の傍に寄って来た。
「これで良いのか?」
「……そうね。これを破棄して、何かの手違いがあって届いていなかったことにすれば、募集者はゼロって事になるわ」
その募集の紙を葛城に渡して、葛城はそれをくしゃくしゃに丸めれポケットの中に入れて、すぐに生徒会室を後にしようとしたが、菜摘が勝手に生徒会室のパソコンで動画を見始めようとしていたので、俺は菜摘の頭を叩いで轟沈させると。
「松原君と松宮さんは恋人の関係なの?」
俺らの関係を見て、葛城はそう尋ねた。
「違う。ただの幼なじみだ」
「……幼なじみ。……それは仲が良いわけね。それじゃ、戻って来る前に、さっさと撤収しましょう」
葛城はクスクスと笑いながら、生徒会室を出て行った。
「おい。菜摘、起きろ」
「……復活の呪文を言わないと起きないかな?」
何だよ、菜摘の復活の呪文って。RPGじゃないんだぞ。
「ふざけてないで、さっさと出るぞ」
「……復活の呪文~!」
床に倒れながらも、駄々をこね、俺の方に顔を向けてジト目で俺を見てくる菜摘。そんな言う気力があるなら、復活の呪文なんていらないだろ。
「『菜摘、好きだ、I love you~』って、言えば、一気に目が覚めると思うわ」
いきなり耳打ちされて、そして話すたび、俺の耳に息をかかって、俺の心がドキッとさせる行動をするのは、再び戻って来た葛城だった。
葛城は、黒髪ロングの清楚な女子だ。そして俺が好きなアニメの『俺友』のキャラの一人、高間アリサにそっくりだ。そんな女子に耳打ちされて、至近距離で顔があったらドキッとしてしまう。
「そ、そんな事言えるか……!」
「じゃあ、この禁術なら、松宮さんは一発で起きると思う」
葛城は俺の手首を掴み、そして俺をうつ伏せで倒れるように、葛城の方に手を引かれ、そのまま葛城は床に倒れ、そして俺は気が付くと、俺の手は葛城の胸を鷲掴みにしていた。
「ラッキースケベ。これで松宮さんも黙っていられないはずよ?」
これは俗に言うラッキースケベだ。だが今のは不慮の事故とは言えない、葛城がわざと、俺の手に葛城の胸に触れるように仕向けたと、そのようにさせたとしか思えない。
「ヒロ君」
葛城の言う通りに、菜摘は体を起こし、そして少し頬を膨らませながら俺を葛城から引きはがし、菜摘は俺の腕にしがみついて、わざと菜摘の胸を俺の腕に当たるようにしていた。
「他の女の子はダメだと思うな~。私ならいつでもオッケーだけど、葛城さん、嫌がっているよ?」
「一度、少年漫画であるラッキースケベを経験してみたかったから、気にしていないわよ」
葛城は起き上がると、俺にしがみついている菜摘の前にしゃがみ、そして唇に指を置いていた。
これは、いつも菜摘がやっていることを葛城が真似をしてやっているのだろう。菜摘にこうやって他の人にやり返されるのは、まだ出会ったばかりの楠木以来だろうか。
「男子は、女の子を少しでも可愛い一面が見られれば、すぐにコロッとその女の子を好きになっちゃうの。ずっと余裕でいるみたいだけど、少しでも油断したら、松原君はすぐに私の事を好きになっちゃうかも?」
葛城は菜摘の唇から指を話すと、今度は俺の前にしゃがんで。
「ここだけの話。こうやって1軍のトップでいるけど、実は少年漫画が好きな女子なの。男の熱い友情が好き、あとBL、GLも好き。隠れ腐女子やってるの」
類は友を呼ぶ。まさかの1軍のトップが腐女子、そしてカースト制度最大のマイナスポイント、アニメオタクだなんて、俺は予想外だった。人は見かけによらないんだな……。
「私は松原君たちの味方。急に裏切るとか、そんな陰湿な事はしないから安心して」
そして立ち上がって、ようやく葛城はこの生徒会室を出て行こうとする時に一言。
「私も俺友のファンで、それで四ノ宮ルリが好きよ。松原君」
葛城も『俺友』を見ていたのか。そうなると尚更親近感が湧く。俺の周りは結構『俺友』を見ているんだな……。すごく嬉しい話だ。
「……むう」
そして菜摘は俺の腕にくっついたまま、葛城に嫉妬するように頬を膨らませて、そして尚更菜摘は俺の腕に胸を押し当てていた。
菜摘がこうやって俺以外にペースを乱されるのは珍しい事だ。流石カーストの上に立つ実力があるって事なのだろう。




