アドレス交換
「……こう言うの、好きなのか?」
「……妙にリアリティがあるから好き」
学校帰り。俺たちは大きなターミナル駅に立ち寄り、そして木村は駅の中にあるガチャガチャを興奮気味に回していた。
駅の広い構内で開催されているガチャガチャの特設会場。幼児向けな物からなんかマニアックな物まで。多くの人が行き交う駅構内のせいか、こういった場所にガチャガチャを置いても、足を止めてガチャガチャをやる人が多かった。
「……ヘラクレスオオカブトの幼虫。……大きいから当たり」
そして木村は300円入れて、1回ガチャガチャをやる。
「……収集癖あるのか?」
「……集めるの好き」
女子で収集癖があるのは、結構珍しい事だと思う。大体俺みたいな男子が集める。一部の男子にも向けての物だと思うが。
「……タマムシの幼虫。……ダブった」
「3つ目だな」
そしてもう一度回す木村。
「……トンボの幼虫」
「ヤゴだな」
そして木村がやっているガチャガチャは、リアルに作られた虫のおもちゃだ。男の俺でも、リアルすぎて引いてしまうぐらいに、凄く巧妙に作られていた。最近のガチャガチャは凄いと思う。
「……虫、平気なのか?」
「……平気」
虫の幼虫は結構気持ち悪い。だがそんなゲテ物が意外と好きな木村。これは凄く意外な一面だ。
「……特にこの蜂の幼虫。……じっと見ていると、興奮する」
こんな公衆の面前でそんな下ネタは言わせないために、木村の頭をぺしっと叩いた。
「これもそう! 蝶、カブトムシの幼虫も、見るだけで興奮――」
幼虫のおもちゃを見て、鼻息を荒くして興奮気味に、下ネタを語りだしたので、俺は菜摘と同じ力で、木村の頭を叩き、木村を黙らせた。もしかして虫の幼虫を男性のあの部分を想像していたから、興奮していたのか!?
なぜ木村がアキバのねこのあなを出入り禁止になっているのか分かった気がする。
木村はBLの事、下ネタを語りだすと暴走してしまうから、木村を出入り禁止にしたのかもしれない。多少なぐらいは目をつぶると思うが、相当な下ネタや、店内で相当暴れたのだろう。これからはあまりBLの話題は木村の前で言わないでおこう……。
そして木村が涙目になって頭を押さえながら、色んな虫の幼虫コレクションと言う名前のガチャガチャを再び回していた。
「……こんなに回してどうするんだ?」
「……松原君がやりたいと言っていた、1軍の対抗策」
1軍に対する、俺たち4軍の反抗と言う悪戯。木村は安藤が三葉虫のおもちゃを気味悪そうに触っていたところを見て、ニヤリと何か悪そうな事を企んでいた。空カプセルが山のようになるほど回し、このたくさんの幼虫のおもちゃをどうするのか。
「……虫嫌いの安藤に、これを箱にたくさん詰めて投げる」
おっかない事を考えるな……。
木村の予想は、三葉虫を気味悪そうに触っていた事から、安藤を虫嫌いと睨んだようだ。投げられる安藤を少し気の毒だと思ってしまう。
「……最初の頃に、私も安藤に酷い事をされた。……スマホばっかり触っているから、スマホ花子ってしばらく呼ばれていたんだよ?」
そう言えば、まだ木村と話し出す前に、安藤と猪俣たちの会話でその名前をあげていたことがあった。誰の事かと思っていれば、木村の事だったのか。
「……松原君たちの1軍に反抗したい気持ちは凄く分かるよ。……地味なやり方だけど、こんな私でもお役に立てればと思って」
最近は俺らといるせいか、あまり安藤も猪俣も木村に絡むことが無くなった。俺たちと関わる前には、木村は塚本と同じく1軍のおもちゃだった。特に猪俣と日下部のおもちゃになっていたが、猪俣たちだけでは無く、このようなカースト制度を作るきっかけを作った張本人、安藤にも不信感を持っているのだろう。
「……最後は、コオロギの幼虫」
木村の小遣いが無くなったところで、ガチャガチャは20回で終わった。出てきた虫の幼虫のおもちゃの山でグロテスクな光景を作り出していた。見るだけで悪寒が走るんだが。
「……あとはお菓子の箱に入れるだけ」
出てきた幼虫のおもちゃを見て、木村は満足気に鼻息を鳴らしていた。菜摘とは違って、虫に全く抵抗が無いようで、気味悪がる事無く、普通に通学用のカバンに幼虫を詰めていた。
「……松原君」
木村は幼虫がたくさん入ったカバンを持つと、俺の方を見ていた。
「……今日はここまで。……また今度、お休みの日にゆっくりと遊ぼう?」
「そうだな」
そう言えば、木村とどこか出かける約束をしていた。それの事を差すのだと思うのだが、近いうちに約束を守らないといけない。こう言うのは、木村と二人きりの方がいい。
俺がいる所に菜摘あり。と言う言葉があるので、菜摘にバレないように木村と遊ぶ約束をしないといけない。
「そうだ木村。ID……交換しておくか……?」
そう言えば、木村と知り合って結構経つが、俺は木村の通話アプリのIDを知らなかった。電話番号、メアドとかも知らない。菜摘にバレずにやりとりするには、通話アプリで会話した方がいいだろう。
菜摘と楠木、中学の時のヤバい奴、田辺。村田以外に俺は通話アプリに登録していない。これを機会に木村とIDを交換するのも良いと思って、そう聞いてみると。
「……もちろんだよ」
嬉しそうに頬を緩ませた木村。携帯をふるふるさせるやり方では上手くいかなかったので、俺が自分のQRコードを見せて、IDを交換した。
交換すると早速木村から通知が来た。初めて木村との通話。一体どんな文章で送って来るのか、見てみると。
『これからもどうもよろしくお願いします。この松野郎』
やっぱり木村はスマホで話すと口が悪くのは変わらないようだ。期待を裏切らないな……。
「……たくさん、話しようね」
もじもじと、少し顔を赤くして目線を逸らす木村。きっとしゃべっている方が、木村の本音だろう。木村は、やはり面と向かって話した方がいい返信が罵倒されて戻って来ていたら、俺の精神がもたない。
「マロン、マロン。それは日本人がみんなやっていると言う、通話アプリですか~?」
ちょっとだけ木村と良い感じになっていた時に、俺の肩に紫苑が突然飛びついてきた。俺たちとは別に、違うガチャガチャをやって紫苑。幼児向けの髪飾りを手に持っていた。
「日本人全員がやっている事は無いと思うが、大体の奴はやっているな」
「なるほど~。なら、私もマロンと交換したいです~」
俺の肩に自分の胸を押し当てながら、俺の背後から自分のスマホを見せてくる紫苑。女子高生が男子高生にくっついているせいで、人目も気になるが、俺は肩に当たっている紫苑の発達した部分の感触の方が気になって仕方がない。
『ニヤニヤするな。このスケベ野郎』
そして木村から再び通知が来たので、木村の表情を見てみると、スマホで口元を隠し、ジト目で俺を見ていた。これは、スマホと木村の本当の気持ちは一緒のようだ。
紫苑に俺から離れてもらってから、俺は紫苑と交換し、そして木村とも一緒に交換していた。
入学当時には、菜摘と田辺の名前しかなかったのに、今は少しだけ名前が増え、嬉しく思いながら、友達になっている名前の人を見ていると。
「……なあ。菜摘はどこ行った?」
木村がガチャガチャをし始めた頃には、俺の横にぴったりといた菜摘。
木村も紫苑も知らないと言うので、マイペースにどこかに行ってしまった菜摘を探すため、俺は広い駅構内を探す羽目になった。




