1軍への対抗
「クズの木。今日はパンをくれないの?」
「今日はおにぎりよ。そう言ってくると思って、たくさん買ってきたわ。昆布に梅、おかか、ツナに……」
「……別にいいわ。……今日はおにぎりの気分じゃないし」
俺が予想下通り、猪俣は懲りずに、日下部をパシリにして楠木にパンをタダでいただこうとしていた。
これも上位の奴の対抗策だ。あらかじめ多く用意しておき、素直におにぎりをあげようとする。
あいつらは、俺らが悔しがっている姿を見て、喜ぶ質の悪い奴らだ。こうやって変な抵抗をせず、すんなりと言う事を聞くと、今度は怪しがってもらおうとはしない。その人間の心理を利用した作戦だ。
「……一応成功ね。ヒロ」
「ああ。今日はゆっくり食べられるんじゃないか?」
日下部がつまらなそうに立ち去っていく姿は、どこか面白くて、楠木と笑い合ってしまった。
紫苑の提案で、俺たちは上位に対抗することになった。ずっと4軍と言う不遇な立場は嫌だ。上位の奴らが天狗になっているのが気に入らない俺たちは、4軍で少し反抗することにした。
小学生の頃、俺はどうも先生と言うのが嫌いだった。がみがみ怒鳴ってくるし、宿題はたくさん出してくるし、とにかく俺にとって先生は、悪の組織のボスとしか思わなかった。
なので俺の対抗策は小学生の頃にやった、教室のドアに黒板消しを挟んで、1軍の奴の頭にチョークの粉をお見舞いする悪戯を仕掛けた。
「……けどさ、あんなんで、引っかかる?」
俺たちは平然と教室にいるようにしながら、誰が引っかかるか見ている訳だが、隣にいる楠木がそう聞いてきた。
「単純な仕掛けの方が引っかかるんだよ」
「そうそう。人間は皆、子供なんですよ~。シンプルイズベスト!」
今日も財布と弁当を忘れた紫苑は、楠木からおにぎりをいただいていて、長年生きてきたような老人のような悟りを言っていた。
これで成功した試しがない。とにかく上位の誰かに引っかかればいい。少しはスッキリするだろうと思って仕掛けたわけだ。
「ヒロ君は昔はヤンチャだったからね~。ああいう、変ないたずらはよく男子同士でやっていたよね~」
「……一つツッコんでも良いか? 菜摘、お前はどうやって入って来た?」
俺が黒板をセットする前には、菜摘はまだ教室にいなかった。前と後ろのドアに仕掛け、未だにどちらも引っかかっていない状況、誰も出入りをしていない事のはずなのに、何故か菜摘はこの教室に入ってきている。
「それは秘密かな~」
どうして秘密なのか。もしかして菜摘がいつの間にか現れることに関係しているのか。
「きゃっ!」
と思っていると、教室のドアが開かれ、挟まれていた黒板消しが廊下側から入って来た誰かの頭に落ちた。
「ほら。引っかかっただろ?」
初めて成功した悪戯に、俺はつい笑ってしまうと。
「……引っかかったの、木村だけど?」
楠木がそう言ったので、俺は見てみると、ドアの所には頭が真っ白になった、今にも泣きそうな木村が立っていた。すぐに俺は木村のところに行き、頭を下げて何度も謝って、事情を話すと。
「……黒板消しを落とす悪戯なんて、小学生まで」
「うっ……」
そう木村に指摘されると、俺はこんな幼稚な悪戯をやろうとしたことが恥ずかしく思い、顔を逸らすと、俺の袖を引っ張っている、少し小悪魔っぽく笑う木村がいた。
「……悪戯するなら、もっと本格的にやらないと」
髪の毛に付いたチョークの粉を払いながら木村が、悪戯の内容を俺に耳打ちした。
「……これを1軍の人に投げ込めばいい」
そう言って俺の手に握らせてきたのは、それは巧妙に出来た虫のおもちゃだった。クワガタ、そしてかなり謎な三葉虫のおもちゃだった。
「……いきなり虫が現れたら、誰だってびっくりするよ?」
「……中々の鬼畜っすね」
これはいたずらと言うより、嫌がらせと言った方がいいだろう。
どうして木村がこのようなおもちゃを持っているのかは謎だが、兎に角投げ込んでみるか。安藤たち男子には分からんが、猪俣たち女子には効果はありそうだ。
昼休みの教室の端で楽しそうにティータイムをしている猪俣たちが腹が立つので、俺は猪俣たちに虫のおもちゃを投げ込んだ。すると。
「ぎゃぁあああああ!!」
取りあえず、猪俣たちの空間を阿鼻叫喚する空間に変えることは出来たようだ。猪俣たちは慌てふためて、すかさず教室の後ろのドアから出ようとすると、猪俣の頭に黒板消しが直撃し、猪俣の頭は真っ白になっていた。
「……ナイス」
「これは、俺がされたら嫌だな……」
リアルな三葉虫のおもちゃで楽しいティータイムはぶち壊されて、そして止めに黒板消し。誰もがされたら嫌な出来事だが。
「……スカッとするな」
いつも俺らに嫌な事を押し付け、偉そうな態度を取っている猪俣たちがこうやっておもちゃ一つで慌てている姿は、何とも言えない爽快感がある。日頃の恨みが晴らされていった。
「……うん。……テレビ局に、この話を送ろうかな?」
木村は最近放送している番組の事を言っているのだろう。嫌な事に会い、そして止めに悪い奴が成敗される。そんな番組がやっていたような気がする。
「……木村。……この調子で安藤たちにも」
「……喜んで協力する」
今の出来事で、謎な結束力が出来た俺と木村。こう言った悪戯は、複数でやった方がいいのかもしれない。
「安藤さん! 私のパンツ、見ましたね!?」
「はぁ!?」
放課後になると、俺たちは早速生徒会室に向かっていた安藤に紫苑が考えた悪戯を仕掛けた。
ただ単に、紫苑がわざと安藤の前でこけて、こけた拍子に女子のパンツを見てしまって、そして紫苑がただ単に怒って安藤を困らせると言う悪戯だ。どちらかと言うと、ドッキリなんだが。
「私の純白のパンツを盗み見るとは、このラッキースケベなのですよっ!」
「お前は、けなしたいのか、褒めたいのかどっちなんだよ」
帰国子女のせいか、日本語がおかしい紫苑。取りあえず安藤を困らせることは成功したようだ。
「私のパンツを見ていいのは、マロンだけです! 安藤君のようなラッキースケベには見せる価値などないです!」
「……どうして、あのオタクは好かれるんだ?」
さり気なく俺の事に気があると告げる紫苑。そしてまた俺は安藤に嫌われたようだ。
「と言うか、お前はスパッツ穿いていたから、下着は見えなかったからな」
安藤だけ良い思いをさせないために、楠木からスパッツを借りて、紫苑にスパッツを借りて今回の作戦に挑んだんだ。俺だって紫苑の下着を見てみたい。
「……何故バレましたか?」
安藤を困らせるためにやったドッキリなのに、もうちょっと、粘ってくれてもいいじゃないのか? 紫苑の奴、バカ正直すぎる。
「お前、何を企んで――」
「何も企んでいませんよ~? 私はマロンたちの作戦に協力をしているだけですから~。ではでは~」
黒幕は俺だと言う事をバラシて、安藤のいたずらは見事に失敗に終わった。安藤の奴、紫苑を変な奴と思い込んで、再び歩きだしていた。
「……やっぱりこれを出す時が」
静観していた木村は、先程の三葉虫のおもちゃをポケットから取り出し、それを安藤に投げつけて、安藤の足下におもちゃが落ちると。
「……うげっ! ……ゴキブリかと思った」
それを気味悪そうに摘まんでゴミ箱に捨てると、安藤は再び歩き出した。
「……使えるかも」
木村は今の安藤の光景を見て、少し悪そうな顔をしていた。何か恐ろしい事を考えていそうだな……。




