楠木と紫苑の対決
「高村~」
「はいはい。何ですか~?」
経った半日でクラスに馴染んだ紫苑。
好奇心旺盛で、何よりも見た目が可愛く、人を疑わない天真爛漫な性格が1軍の猪俣の目に留まり、猪俣の新しいおもちゃにされていた。
「ノート、ちゃんと私の分も書いてくれた?」
「もちのろん! はい、どうぞ~」
そして猪俣のパシリになっていた。4軍の俺たちとは違い、何でも言うことを聞く紫苑を随分気に入ったようだ。
「他に何かありますか~?」
「じゃあ、ここで3回以上回って、最後にワンと鳴いて」
完全に猪俣に遊ばれているが、紫苑は猪俣の言うことを聞いて、ぐるぐる回った後にワンと鳴いた。物凄いお人好しだ。
昔からクラスのムードメーカー的な存在だった紫苑。困っている人は放っておけず、俺が菜摘のマイペースに頭を悩ましている時に、話しかけてきたのが紫苑だった。
「……楠木。……本当に他人には興味は無いんだな」
猪俣の周りには、今日は学校中から転校生で帰国子女の紫苑を一目見ようと、多くの人が居た。
俺が紫苑に近づくと、紫苑が俺に飛びついてくるので、俺は猪俣とは離れている自分の席に座って遠くから見ているのだが、隣の席の楠木は、全く興味が無いようにスマホをいじっていた。
「私さ、ああいうキラキラしたの嫌い。見てるだけでイライラするから」
どうも仲良くなる気配は無いようだ。
もし楠木が、俺と紫苑の関係を知ってしまったらどうなるか。今はまだ知られていないが、楠木とはあまり関わらせるのは良くないようだ。
「ヒロ」
「何だ?」
「ヒロ、絶対に高村が好みでしょ?」
スマホをいじるのを止めて、楠木は急に俺に少し悪魔っぽい微笑みを見せてそう聞いてきたので、俺は吹き出した。
「あいつもニーソ穿いているしさ。怒んないから、言ってみてよ」
「好みです。はい――いてっ!!」
正直に答えたら、楠木に思いっきり足を踏まれた。
「ホームルームの時もずっと見ていたから、まさかとは思ったけど。本当に、ヒロは変態さんね」
「……すいません」
「謝る事じゃないわ」
すると楠木は、俺の真横に椅子を移動させ、そして俺の肩にぴったりとくっつけてくると、楠木は俺の手を持って、俺の手を楠木の絶対領域の所に置いた。
「誰のために。こんな暑苦しい物履いていると思っているのよ。これもむっつりスケベのヒロの為なんだから。そこにいるロン毛ならぶっ飛ばすけど、ヒロなら見てもいいし、さ、さ……わって……も……いい……」
さり気なく塚本を拒否し、俺の手が楠木の太ももにあるのが恥ずかしいのか、途中で顔を赤くして、ごにょごにょと何を言っているのか分からなくなってしまった。
本当はずっと見ていたいし、ずっと触っていたいが、俺はそっと楠木の絶対領域から手を放し、今の光景を羨ましそうに見ていた塚本に話しかけた。
「……春が来たんじゃないのか?」
「某は、あのようなリア充たちの空間には入れぬ。モテない男子の近くで、ここで静観していた方がいい」
「つまり、紫苑――高村に話しかける勇気が無いって事なんだな」
未だに菜摘にまともに話しかけることすら出来ない塚本が、あれだけの美少女に話しかける勇気なんてさらさらないだろう。
「そこは察してくれて言わなくてもいいであろう。松原氏?」
「早く春を手に入れたいなら、まずはその口調とロン毛はやめろ」
「遂にロン毛まで否定されるのか!? ロン毛は今、流行の髪型だとファッション誌に書いてあったのだぞ!?」
どこのファッション誌かは知らんが、塚本がロン毛は似合わないと言えるだろう。折角痩せてカッコよくなったのに、このロン毛、そして昔の言葉を使うので印象はがた落ちだ。短髪のスポーツ刈りとかなら似合いそうなんだが。
「確かにロン毛は無いですね~」
塚本が誇りに思っている髪形をあっさり否定しながら、いつの間にかあの集団の中から、紫苑が俺の所にやって来ていた。
やっぱり、つい紫苑の白くて艶やかな肌の絶対領域に目が行ってしまう。楠木みたいに触らせてくれないか」
「ほうほう。全然私はオッケーオッケー! 彼氏のマロンの頼みなら、私はマロンに身を捧げる覚悟……!」
どうやら、俺の願望がつい声に出ていたようだ。
「さあさあ。遠慮せずに!」
塚本を払い除け、何の躊躇いもなく、俺の椅子に足を乗せ、絶対領域を触らせようとしていた。
「高村。マロンってヒロの事?」
「そうなのでーす! マロンはマロン。マロンは私の彼氏、ボーイフレンドなのですよー!」
俺が隠しておきたかったことを、あっさりとクラス中にばらしてしまう紫苑。そして一番聞かれたくなかった楠木の目の前で、その事を公表してしまった。
「は?」
一瞬で不機嫌な顔になった楠木。頬杖をついて紫苑を睨んでいた。
「今日来たばっかの奴が、馴れ馴れしくヒロに未熟な体を差し出さないでくれる? ヒロはスタイルの良い女子が好みなの」
「それは、私の体を見てから言ってくださいな~」
紫苑はムッとし顔で、急にカッターシャツを脱ぎだしていた。
「お、おい! 紫苑、みんな見ているから、止めろないでくれ!」
「どっちが本音なのよ……」
紫苑の下着姿が見たいと言う本音が勝っていたようで、変な言葉が出ていた。そして楠木にも変な目で見ていた。
「マロンは、本当に正直者ですよ~」
塚本は、カッターシャツを脱ぎだした瞬間、鼻血でグロッキーになり、全く役に立たない。そして男の俺が女子の体を触るわけにいかないし、楠木は今の状態では紫苑の行動を止めないだろう。自分が勝っていると思い、好きにやらせているみたいだ。
「き、木村! 高村を止めてくれ!」
『やってみる』
木村らしくない、物理の教科書を読んでいるふりをして、この状況に巻き込まれないようにしていたが、俺のお願いで、スマホの音声機能で、返事をしたが、身長差もあって、紫苑を止めることは出来なかった。
「これでも、私を子ども扱いしますか?」
紫苑も凄くスタイルが良かった。バスト、ウエスト、そしてヒップなど。女子のスターテスと言えるスリーサイズは、どれも楠木や菜摘には劣らないスタイルだった。劣っているのは、身長ぐらいだ。
楠木は見た事は無いが、菜摘はよく家に上がり込んでは、俺の部屋で平気で下着姿で私服や制服に着替えるので、見慣れてしまっているので比較が出来てしまう。紫苑も海外を転々とする間に、すっかり体は成長したようで、菜摘とあまり変わらないスタイルだった。
「……うぐっ」
自分の方が自信があった楠木は、意外とスタイルが良かった紫苑の体を見ると言葉を詰まらせて、動きが固まっていた。
「思いつきました! どっちがスタイルが良いのか、マロンに決めてもらおうのはどうでしょうか! そうとなれば、早速脱いでくださいっ!」
紫苑は祭りの勝負事のようなノリで、そして男子には嬉しい提案をしてきた。
そしてこの状況を面白がってか、猪俣や男子を中心に楠木に向けて『脱~げ。脱~げ』と言う、合いの手が始まっていた。
「楠木~。脱がないとペナルティよ~。これも1軍の命令だから~」
猪俣が面白がって楠木にそう言うと、1軍中心で楠木が顔を真っ赤にして戸惑っている姿をおかずにして笑っていた。
「……わ、分かったわよ! ぬ、脱げばいいでしょ! 脱いでやるわよっ!!」
「……い、いやならーむりーするなよー」
「ヒロの棒読み、すっごくムカつく」
正直な事を言うと、楠木の下着姿は見たい。けど、こんな形で楠木を恥ずかしい想いをさせるのは酷だ。
「……まあ、海水浴で水着を見せるつもりでいけば、どうって事も無いわね」
楠木が、カッターシャツのボタンに手をかけ、ボタンの隙間から、楠木の下着が見えようとした瞬間。
「そんな事はさせないかな~」
忍者のように突然現れた菜摘は、俺に楠木と紫苑の下着姿を見せないために、首の後ろを手刀で打ちつけ、2人を気絶させていた。何とか教室の真ん中で変な勝負を阻止できた。
「ヒロ君には、他の女の子の裸は刺激が強いと思うな~」
菜摘の下着姿は、他の男子には怒られるかもしれないが、もう小さい時から見ているので慣れてしまっている。他の女子の下着姿は、俺には刺激が強く、紫苑の下着姿を見た瞬間、顔が赤くなって鼻血が出そうだった。
「……」
「すごく残念そうだね。ヒロ君、帰ったらゆっくり話そうか」
紫苑と楠木の下着姿がチラ見すら出来なかったことが、顔に出ていたようで、菜摘を怒らせてしまった。これは、夜遅くまで部屋に居座るつもりだろう。
「ヒロ君のピンチには、私が守るからね~。どこかの人たちより、この状況を楽しむほどの心が冷たい幼なじみじゃないからね~」
俺のクラスメイト達に、皮肉交じりでそう言うと、他の生徒は聞かないふりをして、今の出来事が無かった事のように、雑談や携帯をいじりだしていた。




