見た目は変わっても、中身は変わらない
学校に着いたのは9時半ごろ。
駅に到着した瞬間、菜摘はいつものように失踪した。
それで時間がかかり、捜し回した挙句、菜摘が駅の中にある自販機の横のベンチに座ってパンをもぐもぐと食べていた光景を見た瞬間、俺は流石に菜摘に怒り、菜摘を轟沈させた。
それがさらに時間をロスして、俺らは先生に怒られた訳だ。
俺は注意程度で怒られた程度だが、先生に目を付けられている問題児である菜摘、そして2ヶ月無断欠席をしていた塚本は、怒られるのとプラス、反省文と言う名の普通のペナルティを科されて長くなりそうなので、俺は1時間目の途中から授業に参加した。
楠木は俺が教室に入ると、楠木は晴れやかな、嬉しそうな顔をしていたが、やはり返信をしなかったのが悪かったのか、事情を説明するまで、俺にムッとした顔をしていたが、事情が分かると、すぐに機嫌が直っていた。
「……まあ、そんな事があったなら仕方ない! ヒロ、頑張ったから、私がメイド喫茶でご奉仕してあげましょう! 何してほしい?」
もし俺が学校なんか休んだら、楠木は死にそうな思いをするんだろうな。
こんなに顔をキラキラさせて、俺と話すをするのは、楠木にとって一番楽しい、至福の時間なのだろう。
「…朝から…大変だったね」
すっかり俺にだけ懐いた木村も話を聞いてくれて、そして俺を慰めるように頭を撫でていた。
「……ヒロ。……もし、私がそんな目に会ったら、ヒロはどうする?」
楠木が満員電車で痴漢に会ったら、と言う事だろう。
「そんな野郎がいるなら、たとえ怖そうな男でも、俺が楠木を守る……な……」
「そ、そう言うことぐらい、ちゃんと胸張って言いなさいよ……」
けど楠木は顔を真っ赤にしていた。俺が守ると言われたことが、顔から火が出そうなぐらい恥ずかしくて、嬉しかったのだろう。
「木村もな」
「……うん!」
木村も言って欲しそうに、俺の服を引っ張っていたのでそう言うと、木村は嬉しそうな微笑みをして――
「猪俣~。白昼堂々とイチャイチャしているバカ共がいるんだけど~?」
「な~に~? それは許せないわね~。不純異性交遊ともみなされるから、松原と楠木、木村にペナルティ執行~」
日下部が俺らの行動を見ていたようで、それを猪俣にチクられたので、俺らは涙が出そうなぐらいの電気を受ける羽目になった。
学年全員の中では3軍の日下部だが、スクールカースト制度が実行されて以降でも、日下部は猪俣と一緒にいて、今までと変わらず1軍のような振る舞いをしていた。
「松原氏~。松原氏はどこであるか~?」
痛みを堪えていると、教室の入り口から塚本が顔をのぞかせ、俺の名前を呼んでいた。変わり果てた教室に違和感があるのか、それとも2ヶ月で自分のクラスを忘れたのか。
「塚本~。このクラスで合っているから、遠慮せずに入って来いよ~」
席を立って塚本を手招きをすると、塚本は周りを見渡しながら俺たちの元にやって来た。
「いや~。反省文と言うのを初めて書くのでな、どう書いたらいいのか分からず、時間がかかってしまった」
「そうだろうな。まあ、普通に過ごしていたら、反省文なんて書かなくていいからな」
そう塚本と話をしていると、俺たちは教室にいたクラスメイト全員の注目の的になっていた。
「……ヒロ? ……そのロン毛は誰?」
「こいつか? このロン毛頭の男は、登校拒否になっていた塚本、4軍の塚本だ」
楠木にそう説明すると、楠木は動きが止まって、それでクラス中は静まり返っていた。これが本来のリアクションだろう。
「かっこよくなったよね~。塚本君~」
けど俺の幼なじみの菜摘は、変わり果てた塚本を一発で当てた。菜摘は勘が鋭いが、これは鋭すぎるだろう。
と言うか、菜摘はまたいつの間に現れたのだろうか。反省文が終わったのか?
「……マジで?」
「ああ。マジで」
楠木が再び聞き返したので、俺も再びそう返すと。
『う、嘘だーーっ!!』
クラス中からそんな声が上がった。これが本当のリアクションで、菜摘みたいに一発で当てるのはやはりおかしいみたいだ。
注目の的になった塚本はそれ以降、1軍の猪俣たちにビンタをされたり、変な質問されたりして、本当の塚本なのか確認作業が午前中に行われて、昼休みになる頃には尚更げっそりしていた。
「松原氏、聞いてくれ~」
「よ、寄るな! 気色悪い!」
放課後、塚本が復活した話を聞いたスクールカースト制度実行委員長の安藤が塚本を呼び出し、色々と審査をされたようだ。
変な事に巻き込まれる前に、さっさと帰ろうとしたが、運悪く帰って来た塚本にくっつかれて、頬を擦り合わせてきた。
菜摘たちがくっついてくるなら嬉しんだが、元を知っているので、この行動が凄く気持ち悪い。
「……私的には、オッケー」
BL好きな木村には、男同士の絡みはご馳走のようだ。目をキラキラさせて、涎をじゅるりとさせていた。
「ヒロ。こいつ、私たちより上なんだけど」
塚本の行動を気色悪く見ていた楠木がそう言ったので、胸ポケット辺りにつけることを義務されている紋章を確認してみると、銅の梅の花が描かれたバッチがつけられていた。
何故だろうか、何か塚本が俺らよりも上と言う事がムカつく。
「……なあ。正直に答えろ? 安藤にどれだけの賄賂をあげた?」
「賄賂とは人聞きが悪いぞっ!?」
だったらどうして塚本は4軍の代表と言えるだった奴が、こんなイケメンに変わり果てただけで昇格できるのか。絶対に安藤に賄賂を献上して、何度も頭を下げて3軍になったとしか思えない。
「松原氏。某を甘く見てもらっては困るぞ。某は精神と体を鍛えながらでも、勉学を疎かにはしなかった。それが安藤氏に気に入られて、某は3軍になれたのだ」
反省文を書いた後、塚本は修行している間に実行された、このいかれた制度、スクールカースト制度の説明を一通り聞いたらしい。
上手くいけば、4軍と言う不遇な立場から抜け出せると思って、本気を出して審査を受けたのだろう。
「……それで、お前は3軍になってどうすんだ?」
3軍になった塚本。3軍と言う立場はあまりパシリとして使われる事は無いと思うが、3軍の立場になって塚本はどうしたいのか。
「安心してくれ、松原氏。他の輩と一緒にしないでほしい。某は松原氏たちをパシリには使わない。弱い立場の気持ちはもう十分に分かりきっている。もう、以前のような生活を送りたくないだけなのだ。だから3軍になり、普通の学校のように今まで通りに仲良く、友達としてやってじゃないか」
「俺とお前、友達だったのか?」
正直に思った事を塚本に言うと、塚本はショックを受けていたが、すぐに立ち直り、今度は傍にいる楠木、またいつの間にか現れた菜摘に聞かれないように、俺に耳打ちをしてきた。
「……松原氏。……どうやったら松原氏はラノベ主人公になれたのだ? ……正直に言うと、凄く羨ましいのだ」
俺待ちの3人の女子の方を見ながら、塚本は俺にそう聞いてきた。
塚本がいない間で、俺はメイド喫茶で働く楠木、スマホで使わないと初対面と話せない人見知りの木村。変わった特徴を持っているが、俺は菜摘以外の2人の美少女と仲良くなっている。同類と思っていた奴が、急にモテだしていたら、誰もがそう思うだろう。
塚本はこれまで、学校の先生とか、親戚の人ぐらいしか異性と話したことがないと言っていたな。
こんなイケメンになった塚本が、異性と話したことがないとなると、あまりにも哀れだと思ったので。
「まずはその話し方を止めろ」
「断る。このキャラを止めたら、某はただの人間になってしまい、面白くない人となるだろう」
そんなキャラにこだわっているのなら、ずっと塚本はモテないだろう。諦めた方がいいな。
「女の子にモテたいなら、やっぱりその話し方を止めるべきだと思うな~」
「ぐふっ!」
俺の話を聞いていたのか、菜摘は悪気が無い、おっとりとした口調で塚本にそう言うと、塚本は精神にダメージを受けていた。
「その話し方されると、イラっと来るから、マジで止めて」
「ぐふっ!」
楠木も追加で塚本に精神にダメージを与えて。
『今時、そんな、言葉は、使わない。時代、遅れの、中二病、野郎』
「ぐはっ!」
止めの木村のスマホの毒舌攻撃。それで塚本はノックアウトとなった。全然、精神鍛えられていないじゃないかよ。
「……現実の女性は、やはり恐ろしい。……女子はやっぱり2次元に限るな、松原氏?」
「……そうっすね」
これがきっかけにまた塚本が不登校にならなければいいんだが。明日、塚本が来ることだけを祈っておこう。




