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幼なじみと一緒にいたら、スクールカーストの底辺になった  作者: 錦織一也
幼なじみに頼るのは恥だが、役に立つだろうか。
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ねこのあな

 

「……今までの中で、一番疲れた」

「本当にご苦労さん……」


 楠木がバイトを終えて、梅雨の貴重な晴れ間の空の下、俺たちは秋葉原駅の電気街口の広場に移動していた。

 有名なアイドルグループのカフェの前、植樹されている木を囲っている銀色の柵の所に座って休憩していた。

 楠木はメイド服が気に入った菜摘。2軍の奴らを追い出すために貸したもので、従業員でもない菜摘にずっと貸しておくわけにはいかない。だが菜摘はメイド服が気に入って、ずっと着ていたいと言ってきたそうだ。嫌がる菜摘を着替えさせることに苦労して、菜摘が私服になった時にはげっそりしていた。


「ヒロ君。これからどうするの?」


 楠木の元気を吸い取ったのではと思うぐらい、菜摘は凄く元気そうで、そしていつの間にか買っているアイスを舐めながら俺にそう聞いてきた。


「……どこか行きたいのか?」

「どこかをぶらっとしたいな~」


 オタクに外人。こんな人がたくさん行き交う町に、ぶらりとは出来ないだろう。人ごみで疲れるのが目に見える。


「……松原君」

「ん? どうした?」


 行く当てを考えていると、小さな声で木村が呼んでいた。


「……ねこのあな」

「いいぞ。欲しい本でも出たのか?」


 ねこのあなは、同人誌を専門とする店。二次創作にはあまり興味ないので、俺自身もあまり入った事無く、よく分からない。


「うん……! 好きな作家さんが、新作を出したから……」


 木村は目をキラキラさせていた。こんな顔をされると、俺も断れなくなる。まあ、俺も入ってみたいと思う気持ちはあったし、知人がいるなら入ってみるのも悪くないだろう。まあ、安定に人で混んでいると思うが。


「菜摘。ねこのあなは?」

「良いんじゃないかな~」


 菜摘はとにかくぶらりと出来るなら不満はないようだ。


「楠木はどうする? このまま帰る――」

「一緒に行く!」


 俺に誘われたのが嬉しかったのか、顔を赤くして、げっそりした顔から、血色が良くなり嬉しそうな顔をして、俺の前に立って今すぐにでも行ける状態になっていた。


「じゃあ、行くか――」

「ちょっと待ってほしいかな~。まだアイスを食べているんだよね~」


 せっかく俺が行く気になっていたのに、マイペースに菜摘がアイスを食べているせいで、それから5分ぐらい待たされた。




 アキバの大通りに出ると、相変わらずの人の多さ。もうこの人ごみを分けて歩きたくないのだが、何とか青い看板のアニメショップの横、オレンジ色の看板が特徴のねこのあなに到着した。


「私、初めて入るんだけど、横とは何が違うの?」


 楠木は初めてのようなので、俺が楠木にねこのあなについて教えていると。


「……変装、完了」


 木村は、お下げの髪型をやめてツインテールにして、大きなレンズの丸メガネを取り出して、それをかけていた。

 このメガネ姿の木村は、以前に菜摘だけで来た時に、木村と思われるお下げ少女がつけていたものと一緒だった。やっぱり、俺がそそくさと入っていくお下げ少女は、木村で間違いないようだ。


「……さて、入ろう――」

「ちょっと待て。どうして変装したんだ?」


 流石にいきなりメガネをかけたら疑問に思うだろう。授業の時でもメガネをかけていないので、目が悪いとは思えない。コンタクトなのかもしれないが。


「……私、このお店で入店禁止を受けてるから」


 大人しい木村が、入店禁止を受けるほどの行為をするとは思えない。


「……けど、欲しい本、特典があるから、こうやって変装して入っている」


 最近はネットで買うのが主流になっている。そして簡単に、特に首都圏では数時間で荷物が受け取れることが出来るので、徐々にこういうお店に行かなくても、欲しいものが手に入る時代になって来た。

 だが、今までやっていたお店も黙っていられない。各店舗に当店オリジナルの特典、ポストカードやドラマCDを付けてお客を確保しようとしている。それらの特典が目当てで、木村はねこのあなで買うことにこだわっているのだろう。

 そう木村が説明すると、木村は軽い足取りでねこのあなに入っていき、俺たちも入る事にしたんだが。


「……って、菜摘はどこ行ったーっ!!」


 木村が説明している時には、俺の横にいたはずなんだが、一瞬だけ目を離しただけで、菜摘は姿を消していた。


「呼んだ? ヒロ君?」

「どわっ!!」


 そして少しだけ辺りを見渡していると、俺の横に突然菜摘の姿があったので、俺はびっくりした。本当にどうやったら、すぐに現れては姿を消す。この人間離れな行動が出来るんだ?


「見て見て、ヒロ君~。横のガチャガチャに俺友の缶バッチがあるよ~」


 確かに狭い路地にひっそりと、アニメや漫画のガチャガチャが設置されている。だがそれは公式の絵ではない、二次創作の絵柄で、菜摘は高間アリサの絵が描かれた缶バッチを俺に見せていた。


「ヒロ君はやらないの? ルリさんのもあったよ?」

「俺はいい。菜摘、さっさと入るぞ。木村を見失う」


 そして菜摘と楠木と共にねこのあなに入ると、入ってすぐの所に、こんな張り紙が書かれていた。


『店内で、推しについての熱く店員に語りかける、店員に推し変を強要する、書籍の表紙で妄想する行為は禁止されています』


 もしかすると、これが木村がやった事なのだろうか。けど、あの木村がそんな事するわけないと思って、俺はスルーした。




 ねこのあなに入って、階段を上ると、横の青い店とは雰囲気が違っていた。ほとんどが本で、二次創作が多いせいか、何か規制がかかりそうなヤバそうな本もちらほら見える。


「……っ」


 そのR指定が入っている本の表紙を見てしまったのか、楠木は顔を赤くしていた。こう言った耐性は全く無いようだ。


「……って、菜摘は少しは恥じらえっ!」


 菜摘なんて、何食わない顔で、R指定が入った本を手に取って、じーっと見ていたが、俺は菜摘からそれを取り上げた。


「ヒロ君もこういった本、好きじゃないの? ヒロ君の部屋の押し入れの奥の床をくり抜いて、そこに似たような色の板をさらに置いて、その下に紙袋に入っているエロ本にも、このような本があったよね?」

「どうして知っているんだよ~!」


 菜摘にエロ本の隠し場所が見つかってしまい、新たな隠し場所と思ってしばらくは見つからないと思っていたのに、1ヶ月足らずに菜摘にばれてしまったようだ。


「……お、俺はそんな過激なものは好きじゃない。……あいつが、数日前に試しに読めって言ってくれたんだよ」

「もしかして、田辺君のことかな?」

「田辺以外、誰がいるんだよ」


 俺をこんなアニメオタクにしてしまった張本人、そいつが田辺って奴だ。リア充そうな顔をしているのに、中身はかなりの変態だ。


「……そ、そんな話より、さっさと木村と合流だ」


 このままいたら、菜摘のせいで俺は周りにいる客たちに変態宣言をしてしまいそうだし、楠木なんてヤバい物を見過ぎて、顔を真っ赤にしてぶっ倒れてしまいそうなので、階段を上って行き、そして女性向けの階に来ると。


「……おっと」


 ここは腐女子が集まる階のようだ。

 置かれている本は、主にボーイズラブのBLの本ばかりだった。

 男が見て、顔を逸らしたくなるような男同士の絡みもあり、男がここにいるだけで場違いな気がする。


「……」

「……」


 楠木はBLの表紙を見て、安定の反応。顔を真っ赤にしていて、そして意外な事に菜摘も少し顔を赤くして大人しくなっていた。

 男向けのエロいのは平気なのに、なぜか女子向けのエロは耐性は無いようだ。不思議な奴だな……。


「……あっ、BLの世界にようこそ」


 女子二人が固まっている中、木村はお目当ての物が買えて満足そうに、袋を持っていた。


「……木村って、腐女子か?」

「……うん。……絶賛腐っている」


 まあ、ねこのあなに来る時点で、そうかと思ったが、まさかの本格的な腐女子だったとは。

 普段は大人しいので、こういったキャラだと言う事を知って、今日は木村たちとアキバに来れて良かったのかもしれない。


「……腐女子は嫌い?」

「別に俺は木村が腐女子でも、軽蔑はしないし、嫌いにもならない」


 特に腐女子だからと言って、俺は引いたりしない。まあ、度が過ぎているのは流石の俺でも引くかもしれないが。


「……やっぱり優しいね」


 木村は俺の言葉が嬉しかったのか、少し頬を赤く染めて、俺に少し潤んだ目で見て。


「……もっと早く、松原君に会いたかったな」


 そう言って、木村は俺に微笑みかけていた。




 木村が満足したことで、俺たちはねこのあなを出た。少しは色々と本を見てみたが、特にめぼしいものは無かったので、何も買わずに店を出ると、正気に戻った楠木が、俺の服を引っ張っていた。


「……ヒロ。……隣のゲーセンを見て」


 楠木が指さす通りに、隣に立つ大きなダイドウステーションを見て見ると、そこにはさっき菜摘のマイペースで追い出しだ、2軍の法田たち、そして4軍の塩田が無理矢理ゲーセンに入らされている光景があった。


「……まだいたのか」

「そうみたいね。とりあえず、尾行してみる?」

「どうしてそうなる?」


 そう楠木に尋ねると、楠木はもう一度隣のゲーセンを指さし。


「……だって、もう松宮がゲーセンに入っていったから」

「菜摘ー!!」


 本当にマイペースクイーンの菜摘だ。

 行くつもりがなかったゲーセンに、菜摘の捜索と、法田たちの尾行までする羽目になった。



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