塚本の悩み
テストまで一週間を切った。
隣りの席の楠木は、バイトの疲れか机に突っ伏して寝ており、木村はいつも通りのスマホを操作。紫苑は階位関係なく、クラスの女子と楽しそうに会話し、塚本は目立つように、大きなヘッドホンを付けて、女子に声をかけてもらうのを待っていた。
皆は普通に学校生活を送る中、俺は休み時間にテスト勉強をしていた。好成績を取って、最底辺から抜け出すのが目標とし、勉強を頑張る日々を送っている。
午前の授業を乗り切って、俺は昼食を食べようと思ったら、塚本に連れしょんに誘われ、仕方なくトイレに行く事にし、トイレに向かっている途中の事。
「松原氏。どうやったら女子にモテるのだろうか?」
俺に連れしょんを誘う時は、塚本は俺に相談したい時だ。どうしたら女子にモテるのかを聞いてくると思ったが、俺の予想通りだった。
「何度も言っているが、そのロン毛と口調を止めれば、少しは改善されると思うぞ」
まだ太っていた頃よりはマシなのだが、この口調とロン毛を止めない限り改善はされないと思っている。だが、クラスメイトには、塚本が太っていた頃のイメージが強く、猪俣たちは気持ち悪がって、話しかけようとはしない。
「……やはりそうなのか」
いつもの塚本なら、それは譲れないと言うのだが、今回は違った。
「今度は、誰に恋をした?」
前は猪俣に恋心を抱いていた塚本。だが、文化祭でのトーナメント大会の時、塚本は俺と葛城、猪俣と日下部の試合を観ていたらしく、猪俣を応援していた。だが、猪俣の母親が試合中に乱入し、猪俣を連れて行った無様な格好に幻滅し、猪俣を諦めたらしい。
「……高村紫苑殿だ」
塚本の意中の相手は、紫苑のようだ。
「高村殿は、某たちにとっては天使、女神の存在なのだっ! 可愛い容姿だけではなく、性格も良い……!」
塚本がここまで言うとなると、紫苑は塚本に何かしたのだろう。
「松原氏。某と高村殿の物語の初頭を聞いてくれるか?」
「興味な――」
「それは昨日の朝だった」
マジで興味が無いのだが、塚本は俺に紫苑との出会いのシーンを聞かされる事になった。
「学び舎である、校舎の中にある、某の教室に向かって歩いていると、『おはようございま~す!』と、元気良く挨拶してくれた。しかも今朝も、某に挨拶をしてくれた」
「それで、気があると思って、紫苑に恋心を抱いたと……」
モテない男子中学生、高校生あるある。それは、人気のある女子に少し話しかけてもらっただけで、『あれ? 俺に気があるんじゃね?』と思ってしまう事だ。俺も中学の時、菜摘以外の女子に話しかけられた時、ちょっとドキドキして、好きになりかけた事もある。
「紫苑は、どんな奴でもあんな感じ――」
「松原氏は、某の恋のキューピットになって欲しいのだ。某とウエディングドレスの高村殿と共にヴァージンローで歩きたいのだ」
古臭い話し方をするわりには、西洋風の結婚式を望むようだ。紫苑と塚本が結ばれる事は無いと思うが、たまには塚本にも良い思いをしてもいいだろう。
「まあ……。文化祭の時に、出店の料理を作ってくれたからな。これでチャラだ」
「恩に着るぞ~! 松原氏~!」
「よ、寄るな……」
男なのに、俺に抱き着いて来る塚本。そして少し生えた髭がチクチクして痛かった。
「紫苑と接近したいなら、まずは塚本から声をかける。これが最初の一歩だと思う」
「そ、そんなハードルが高いことは出来ぬぞ!」
声をかけられないなら、容易く女子に恋心を抱いてはいけないと思うんだが。
「だったら諦めるしかないぞ」
「ぶ、文通とかはどうかと思ってな。高村殿の下駄箱の中に入れて、文通しようかと……」
塚本が口調通りの文章を書き、そして紫苑が呆然と立ち尽くして、気味悪がっている姿しか想像できない。
「文通じゃ、塚本の本心を伝えられない。やっぱり自分の気持ちは、直接で語った方がいいと思うぞ」
「そこまで言うなら、松原氏も背中を押してほしいのだ! それぐらいは協力してくれ~」
「だからくっつくな……!」
腐っている木村が見たら鼻血の海を作り出しているだろう。時折廊下を歩く生徒に冷ややかな目、そして一部の女子は、少し興奮気味に俺と塚本の行動を見ていた。
紫苑とお近づきになりたい塚本。まずは何気ない会話、『テスト頑張ろう』と声をかける事になった。
「ま、松原氏。あれでは近づけぬぞ……」
昼休み。紫苑は楠木と会話をしていた。楠木に苦手意識がある塚本は、紫苑の傍に楠木がいる事で、更に難易度が上がっていた。
「高村殿。来週のテスト、某と共に戦おうぞ。という感じで声をかければいいんじゃないのか?」
「そんな事を言ってみろ。即行で楠木殿に殺されるぞ……」
楠木にどんなイメージを持っているのだろうか。仲良くなれば、楠木はそんなに悪い奴だと思わなくなるだろうが、今回は紫苑と仲良くなるのが目的だ。
「楠木の事は心配するな。さり気なく、紫苑に話しかければいい。変な風にきょどって、少しでも気持ち悪い行動をしたら、楠木に殺されると思った方がいい」
「しょ、承知した……」
そして極度の緊張状態になった塚本は、手と足が同時に前に出て、ブリキのおもちゃのようないびつな歩き方をして、紫苑に近づいて行った。
「お、おおお……」
やはりダメだったか。紫苑に近づいて行くにつれて、塚本が鼻息を荒くして、変な声を出していた。
「おやおや? 塚本君、どうしましたか~?」
変な行動に異変を感じたのか、紫苑は塚本に声をかけていた。
「て、てててて……」
「て? どこか走りたいのですか?」
意味不明な言葉に、紫苑は首を傾げていたので、俺は仕方なくフォローに入ろうかと思ったが。
「鉄火丼を食べに行こうではないか!」
まさかの食事に誘う塚本。どうしてさり気ない会話は出来ないのに、更に難易度が高い女子を食事を誘うことが出来るんだ? しかも鉄火丼を食べに行こうなんて、変わった誘い方だ。
「鉄火丼ですか~。良いですね! 日頃の勉強の憂さ晴らしとして、食べに行きましょうか~」
そしてまさかの紫苑がオッケーを出したので、これで塚本は紫苑とお近づきになれた。もう俺の助け入らないようなので、俺は塚本と紫苑の仲を邪魔しないために、さり気なく自分の席に戻って、何事も無かったように弁当を食べよう。
「松原氏~! 某はやり遂げたぞ~!」
自分の席に戻ろうと思ったら、意外な展開に驚いているのか、塚本は俺に飛びついて来て、喜びの報告をしてきた。
「良かったな。2人で思いっきり楽しんで来いよ」
「何を言っている松原氏。松原氏も来るのだぞ」
なぜ俺も来ることになるのだろうか。こんな幸運な事は、一生に一度あるかないかだ。俺がいない方が、塚本も幸せだろうと思うし、何より俺は時間があるなら、テスト勉強をしたい。
「マロンも行きましょうよ~。みんなで行った方が、絶対に楽しいですよ~」
そして紫苑も俺を誘いに来ていた。こいつらは、来週何があるのかを分かっているのだろうか。
「来週、テストだぞ。遊んでいる余裕はあるのか?」
「魚を食べると頭が良くなるって、昔に流行った歌であったじゃないですか~。マロンも食べれば、更に頭が良くなるに違いがありませんよ~」
「そうだよ~。私も食べたいな~」
紫苑の言葉の後に、いつの間にかパンを食べて現れた菜摘が、食べ物の話に興味を示して、俺の腕をぶんぶんと振り、駄々をこねていた。
「ヒロ君。私はヒロ君に会えないストレス、やりたくもない勉強をやらされているので、更にストレスが溜まっているんだよね~。もしヒロ君が、私に勉強を教えてくれて、そしてお出かけを許してくれるなら、私は物凄くやる気を出すんだけどな~?」
主に餌をおねだりするように甘えてくる菜摘。この様子だと、菜摘の思い通りにならないと、どんな話にも耳を貸さないだろう。
「……俺との約束を守れよな」
「は~い」
そして、俺と菜摘、紫苑と塚本で週末出かけることになった。




