新たなペナルティ
翌日の放課後、俺だけではなく、楠木と木村、紫苑が生徒会室に呼ばれた。
「ヒロ。私たち、何かした?」
生徒会室を、警察か何かと勘違いしているのか、楠木は耳打ちでそう聞いて来た。まあ、あながち間違いではないと思うが、生徒会室はあまりいい印象は持たれていないようだ。
「待たせてすまない。4軍共」
楠木が耳打ちでそう聞いてきた瞬間、生徒会長と副会長、夏野先輩が入ってきた。
「松原。他の生徒に説明はしたか?」
「いえ。生徒会長がやってくれると思っていたので、特に説明は――」
「4軍、松原正義にペナルティ執行」
説明しないといけなかったのか、早速生徒会長に電流を流された。何度も流されているとはいえ、やはり電流に慣れと言う物はない。早急にペナルティを廃止しないといけない方向に持って行こう。
「夏野。この4軍共に説明を」
「はい」
生徒会長は説明しないのかよ。代わりに夏野先輩に説明させていた。
「4軍の松原正義さん。楠木紗良さん、木村茉莉香さん、高村紫苑さんには、新たなペナルティの実験台になってもらいます。候補は5つ、音、振動、金縛りに近い状態にする、大きな音、ペナルティを課した生徒の命令を聞く。それらを、貴方たちに実験してもらい、どれが一番ペナルティに相応しいかを選んでもらいます」
「ペナルティと言う制度を廃止する。そんな選択肢はないの? 副会長さん?」
一体、どこから湧いて出たのか、こう言った事には目がない葛城が、生徒会室の扉を思いっきり開けて入ってきた。
「会長の方針です。ペナルティはスクールカースト制度には欠かせない物。廃止する、そんな意見はありません」
「あー、そうですかー」
勢いで行けるかと思ったのか、急に冷めたような顔をして、生徒会室のソファーに座った。一度、トップだったおかげか、まだ会長たちに大きな顔が出来るのだろう。
「生徒会長さん。意見は多い方がいいでしょ? 私も参加します」
「好きにしろ」
生徒会長は、葛城の参加を認めて、そして本題の電流に代わるペナルティを模索する実験が始まった。
「貴方たちには、この試作品のバッジを付けてもらいます」
夏野先輩に渡されたのは、俺たちが普段付けている者とあまり変わらない、白いバッジ。ただマジックで「試」と書かれていた。
「まずは音からします。バッジから10分間音が流れ続けますので、感想をお願いします。それでは、ここにいる全員にペナルティ執行」
夏野先輩がそう言うと、全員からのバッジから「ピーッ、ピーッ」と言った音が流れ続けた。
「どうでしょうか?」
「うるさいです」
「でしょうね。私もそう思います」
俺だけではなく、夏野先輩、そして生徒会長も快く思っていないようだ。
「音は、4軍だけではなく、私たち優秀な1軍たちにもペナルティとなる。夏野、これは却下だ」
「そうですね。私も会長の意見に共感です」
俺たちの意見を聞くことなく、生徒会長が気に入らないと言う事で、音は却下された。
「次は振動です。身体中が揺れますので、万一気分が悪くなったら、すぐに知らせてください。それでは、4軍全員にペナルティ執行」
そう言うと、今度は音ではなく、身体中がマッサージいすに座っているような、どこか心地良さを感じた。今の中では、これが一番いいんだが。菜摘と過ごしているうちに溜まった疲れが、取れていくようだ……。
『すみません』
ここで木村が夏野先輩に、スマホの音声機能で話しかけていた。
「気分が悪くなりましたか?」
『そうじゃ、なくて』
そう木村のスマホの音声が聞こえると、木村はジト目で右の楠木、紫苑を見ていた。
『物凄く、殺意、湧くので、やめて欲しい』
「あ、あぁ……」
振動は身体中が揺れる。なので、女子の一部発達した部分が揺れる。楠木、紫苑はそれなりに揺れていたので、一部の女子にとっては、違う意味で気分を害するようだ。
「……振動は、私たち貧乳がかえってペナルティとなるため、却下です」
そして、木村と同じぐらい無い夏野先輩もダメージを受けて、悲し気にメモしていた。
「これから毎日、鼻血の海に沈む事を回避できて、良かったわね」
俺は目線を話していたが、振動が終わると、葛城が耳打ちで話しかけてきた。それは確かにそうなので、俺は黙り込んだ。
「次は、金縛りです。これも10分間、手足が動かせなくなりますが、会話は出来ます。それでは、4軍全員にペナルティ執行」
夏野先輩がそう言うと、4軍全員がメデューサを見て、石化したように動かなくなった。こんな小さなバッジで、どうやって体を硬直させることが出来るのだろうか?
「……本当に動かせないな」
俺は起立したままなので、立ったまま動かせなっていた。隣の楠木、木村、そして紫苑も――
「……紫苑。どうしてそうなった?」
「せっかく固まるなら、カッコいいポーズをしたいと思いまして~」
紫苑だけ、右手で右目を隠し、左手は腰に当てて、そして片足を上げると言う、謎のポーズをしていた。
「マロンは覚えていますよね~。正義の字は、正義の字! みんなを守る正義の味方、果物戦隊マロンイエロー!!」
「これ以上、学校での印象を下げないでくれ……」
顔から火が出そうだ。本当に、どうして昔の俺はあんな事を平気に言えたのだろうか。過去に戻れるなら、子供の頃の俺を蹴飛ばしたい気分だ。
「それで感想をお願いします」
「まだ電流よりかはマシだと思います」
俺が代表で言うと、楠木たちも異議なしと言った感じで、夏野先輩を見つめていた。
「次は大きな音です」
硬直が解けると、次は大きな音を検証する事になった。
「数秒間、耳を劈くような大きな音が流れます。それでは、4軍全員にペナルティ執行――」
ブオォオオオオオオオン!!
甲子園で、試合が開始した時のサイレンの音が、生徒会室中に流れ、そして間近にいる俺たちは、鼓膜が破れそうな思いをした。
「音系は、止めておくべきだろう」
この生徒会長の意見は、全員が賛成していた。これを機に、生徒会長がペナルティは碌な物じゃないと言う事を気付いてほしい。
「続いては、ペナルティを課した生徒の命令を聞くです」
「夏野。それも却下だ」
「あら。それはどうしてでしょうか?」
生徒会長が、検証する前に止めると言ったのが意外だったのか、驚いた顔をしていた。
「いじめを誘発しかねん」
「かしこまりました」
いじめの事を考えているのなら、どうしてスクールカースト制度を無くそうとは思わないのか。この制度も、いじめを誘発すると思うんだが。
「……あれこれ命令したかったのですが」
この場で、たった一人、夏野先輩だけは乗り気だったらしい。俺の方をチラッと見ると言う事は、まだ体育祭での扱いで根に持っているらしい。
「以上で、新たなペナルティの検証を終わります。それでは会長、どれが相応しいか決まりましたか?」
「ちょっと待てよ。俺らが決めるんじゃないのか?」
何故か決定権は、生徒会長になっている。おかしな事になっているので、そう抗議したが、俺の行動も虚しく。
「貴方たちが決めても、最終的に許可するのは生徒会長です。勝手に改変されるより、目の前で、決まった方が心地よいでしょ?」
やはり、夏野先輩も生徒会長側の人間のようだ。ニヤリと笑う夏野先輩、いや副会長の顔が不愉快だった。扇子持って高笑いしそうな、悪女だ。
「それでは会長。ご決断を」
「電流、音、振動、硬直。大きな音を覗いた、それらがランダムに出るように、ペナルティの数を増やそう」
ペナルティを廃止するどころか、まさかかえってペナルティのレパートリーを増やす事になってしまうとは。俺たちが素直に従ったせいで、更に俺たちを追い詰める状況になってしまった。
「会長さん。貴方は、本当にそれで良いの?」
「私の考えに、間違いなどない」
「そう」
諦めさせる事は諦めた葛城は、生徒会長に失望したような冷めた顔していた。




