1学年VS生徒会長
昼休み以降、美冬さんはようやく帰ってくれたのか、俺たちの前に姿を現す事は無かった。ようやく俺にも落ち着けることが出来るかと思いきや、休み時間の度に、菜摘が勉強に対するストレスのせいか、更に俺にくっついて来て、グミを食べていた。
そして放課後。今日最大のイベント、生徒会長との会談が始まった。
「では、1学年による、スクールカースト制度についての会議を始める」
生徒会室の中は、コの字の形に並べられた机。生徒会長、そして副会長の夏野先輩が書記として出席していた。俺は机の橋に座らされて、横に3軍の女子生徒。そして1軍、2軍の代表は見知った顔だった。
「現在、1学年でトップになっている中村。今の現状をどう見ている?」
これは俺の予想通りだったが、1軍の代表は白髪の北欧と日本のハーフ、中村だった。
「私はスクールカースト制度を実施してくれて、学校生活が改善されつつあると思います。私たち1軍は、他の生徒の見本となるような行動を心掛けて過ごすようになり、1軍以下の生徒も、私たちの行動を見て、我が校、地域に貢献し、学生の本業を全うしていると思います」
大の女子好きであり、男は全滅しろとか言っている奴が、生徒会長の前では猫をかぶり、良い子ぶっているのが、なんか腹立つ。どうしてこう言う奴らが、1軍でいられるのだろうか。
「……本当にそうですかね」
ぼそりと呟いたのは、俺も予想外の生徒、教室でも存在が薄く、あまり教室にいない生徒、森下だった。こいつは、意外と頭も良いようで、銀色に輝くバッジを身に着けている。つまり2軍だ。
「……俺、あまり教室にいないんで、自分のクラスはよく分かりません。……ですが、廊下は歩くので、廊下を通行している際に、1軍の目に余る行動をよく目にします」
「その行動とは?」
会長が森下の話に興味を示したので、森下は中村の方をチラッと見てから話した。
「……傍若無人。……ガキ大将。……独裁者と言えば分かるでしょう。……それが現状です」
生徒会長はそれ以上話を追求しようとせず、すぐに3軍の女子生徒に意見を聞いていた。
「3軍の巽は、どう思う?」
「まあ……。私は、どっちでもいい派です。このままこの制度を続けていってもいいし、止めてもいいと思っています」
3軍の巽は、中立派。特に1軍のような上からの圧力もない。一番平和な階位だと思われるので、あっても無くてもいいらしい。
「4軍、そして最底辺の松原は、意見を聞くまでではないか。貴様は、スクールカースト制度の反対なのだろう」
「はい。俺は、さっさとスクールカースト制度を廃止にするべきだと思います」
俺にも発言する機会があるのに安心したが、会長は俺の気持ちを知っているらしい。一通り、俺たちの意見を聞いた後、会長はふーっと息を吐いた。
「私は、このスクールカースト制度を止めるつもりはない」
やはり、俺の敵のようだ。
「実施して半年が経った頃だろう。皆が勉学、部活動を疎かにせず、4軍に降格されないようにと、学業を全うしていると、私も思う」
「……現実から、目を背けないで欲しいですね」
生徒会長の話をあっさり否定したのは、また森下だった。
「……皆が学業を全うしている。……自画自賛もいいところですね」
「貴様こそ、現実から目を背けるな。私だって、この学校の生徒。他の生徒と一緒に授業を受けて、皆の手本になるような行動をとっている」
「……会長は、自分の評価を聞いた事がありますか? ……聞いていないでしょうね。……自由川の独裁者と陰で言われています」
会長が森下の発言で、動きが止まると、続けて森下は会長に追撃した。
「……生徒に慕われたいのであれば、普通な生徒会長でいいじゃないですか。……それをどうして、自由を奪うような制度を作ってしまったのですか? ……そもそも、スクールカーストと言う自体、あまりいい印象はありません。……安藤の話にどこに興味を持ったのか、どうしてスクールカースト制度を実行しようと思ったのか、まず俺たちに向けて説明してくれると嬉しいですね」
俺がタイミングがあれば言おうと思っていた事を、森下は会長に質問していた。
「メリットはある。まず、どの生徒が優秀であるか、その区別が出来る。どの生徒を尊敬すればいいか、それも一目で分かる。どの生徒が優秀ではなく、学業を疎かにしているのか。それも一目で分かる。生徒全員が一丸となって、皆で支え合えば、どの生徒も優秀になれると。私はそう考えたまでだ」
「……じゃあ、どうして電流を流す必要があるんですか?」
「罰ゲームと言えば、誰も自ら受けようとは思わない。だが、こけおどしだと知ると、本当に流れないなら、生徒は非行に走る。松原はよく分かっていると思うが、電流は相当痛い。だが、人間に害のない電流で流している。電流を受けたくなければ、日頃の生活態度を改めて、学業に全うすればいいだけの話だ」
会長がそう説明しても、森下は納得した様子はない。机に足を乗せて、生徒会長よりも偉そうな態度を取っていた。
「……会長の意見は分かりました。……ですが、電流を流す必要性はありません。……ここで、みんな聞きますが、電流は流す必要があると思う人は、挙手をお願いします」
会長は本当に必要があると思っているのか、自信満々に手を挙げていたが、会長以外、手を挙げる生徒はいなかった。
「……ほら。……これが事実なんですよ」
「夏野。お前もそうなのか?」
夏野先輩には信頼していたのか、この結果にかなりショックを受けていた。
「……ま、まあ。……流石に電流はやり過ぎかなと思っています」
「中村は?」
「イタズラ半分で流す生徒もいると、私も聞いています。電流ではなく、違う形でペナルティを執行した方がいいと、私は思います」
それをやっているのが、中村たち、1軍の奴らだと言うのに、よくそんな事が平気で言えるものだ。会長の立場が弱くなっている今なら、前から思っていた事を言えるかもしれない。
「会長。今のご時世、体罰はうるさいです。電流は廃止にしましょう――」
「黙れ」
俺の意見はあっさり蹴散らされて、会長はしばらく考え込んだ後、席を立って、生徒会室にあった黒板に板書していた。
「電流がダメなら、この中から選べ」
黒板には、音、振動、廊下に立たせる、大きい音、ペナルティ執行した生徒の命令を聞く。そのような候補が書かれていた。
「……そういう時こそ、松原たちの出番。……自分でペナルティを選べる方がいいと思いませんか?」
「それは一理あるかもしれない。松原、ペナルティの実験として、明日も生徒会室に出向くように」
こういう事は、森下の意見は聞かなくてもいいのに、生徒会長は森下の意見を採用してしまった。結局、また明日も生徒会室に行かないといけないようだ。それなら菜摘の勉強を教えていたほうがマシだ。
会談は、そんな感じで終わり、俺は何か気疲れして、大きく溜息をつくと。
「体罰が常習化している学校だったのですね」
「……まだいたんですか。と言うか、どうして話を知っているんですか?」
家に帰ったと思っていた美冬さんが、まだ学校を徘徊していた。
「生徒会室に掃除用具入れがあったでしょ? その中に潜んでいたの」
「……そうですか」
常にスタンガンを持ち歩いている人だ。そのような特殊な事をやっていても、俺は驚かなくなっていた。
「体罰が常習化、差別があると言うなら、尚更菜摘の転校も考えちゃいますね……」
今後の学校の動き次第では、菜摘は成績に関係なく、俺たちと別れる事になってしまうかもしれない。そうならないために、やはり菜摘の勉強は教えないといけないようだ。




