身辺調査
本当に俺たちの学校に忍び込んできてしまった、菜摘の母親の美冬さん。どうやって忍び込んできたのか、俺は美冬さんに問い詰めた。
「急な来校は無理だって断られたけど、今日は菜摘の学校を見学するって決めているから、予定が狂わないように、少し荒療治で潜入してみました」
にこっとして美冬さんはそう言った。恐らく、ポケットに隠し持っているスタンガンで、誰かを気絶させて、無理やりでも侵入したようだ。本当に、美冬さんを敵に回さない方がいいようだ。
「いつ忍び込んだのかは分かりませんが、学校の雰囲気が分かったなら、怒られる前に、早く出た方がいいと思いますよ」
「大丈夫。制服を着ているのだから、忍び込むときに、先生を気絶させた事もバレないわよ」
さらりと聞き逃せない事を話したんだが。いつか美冬さんは警察に捕まるんじゃないのだろうか。だから、4時間目が始まる前に、歴史の先生が何度も校内放送で呼ばれていたのか。
「それと、学校のヒロ君は、どんな感じなのかを見て欲しいって、りょうちゃんに頼まれちゃったから、それも遂行しないといけないの」
おふくろ。学校に忍び込むことが分かっていたなら、何故止めなかったんだよ。あんたの友達が、不法侵入しているんだぞ。
「と言う事なので、早速ヒロ君のクラスに案内してね?」
そう言って、ポケットからスタンガンをチラつかせいたので、目を覚ましたら保健室にならないために、美冬さんをクラスに案内することにした。
「ヒロ。用は終わったの?」
美冬さんを連れて、教室に戻ると、いつものように猪俣たちが中心となって、どんちゃん騒ぎをしている中、肩身狭そうに楠木と木村が昼食を食べていた。
「ヒロ君。貴方には、ガールフレンドしかいないの?」
「そこはツッコまないでください」
美冬さんは、痛い所を突いてきた。楠木と木村は、俺と同じ4軍だ。俺のクラスの2軍や3軍は、俺たちに話しかける事は無く、いつの間にか4軍同士で仲良くなっていた。
「と言うか、ヒロのお隣さんは誰?」
制服姿の美冬さんに、楠木は怪訝そうな顔をして、初対面では絶対に口を開かない木村は、食べるのをやめて、スマホを触りだしていた。
「松宮で~す」
「松宮と同姓の人がいたのね……」
まさか、菜摘の母親とは思わないだろう。興味なさそうに、楠木は食事を摂り始めた。
「貴方たちは、ヒロ君の事をどう思う?」
美冬さんにそう聞かれると、楠木は飲もうとしていたお茶を噴き出しそうになっていた。
「た、大切なお友達です……」
顔を真っ赤にしながら、楠木は美冬さんに返答していた。
「お下げの子は?」
「……」
木村は当然のように話すつもりはないようで、スマホを触っていた。
「反応が無いって事は、彼女みたいに意識しちゃって、ヒロ君の事が好きで好きで、好きという言葉を発するだけで照れちゃうから、何も話さないと言う事ね?」
発言する事は無かったが、木村は頬を赤らめて、スマホの操作が止まっていた。
「懐かしいわ~。私も高校時代、好きな先輩がいて、ラブレターを書いたり、部活で練習している姿を見に行こうと、グラウンドまで行って応援して、そして卒業式に告白したわ~。けど、逃げられちゃったの。どうしてあの時先輩は、逃げ出したのかしら~?」
『断ったどうなるか分かってる?』みたいな事を言って、スタンガンをチラつかせながら脅して、告白したのだろう。本当に、その時の先輩は気の毒だ。
「じゃあ、菜摘とは関係はある?」
「松宮の事? まあ、一応……」
楠木はちゃんと美冬さんの問いかけに反応し、木村みたいに口を閉ざす事はしないようだ。
「菜摘って、学校ではどんな感じ?」
「極度のマイペース」
楠木がそう言うと、木村も首を縦に振っていた。
「それじゃあ、菜摘のマイペース伝説を聞かせてくれる?」
美冬さんは、そう聞いて菜摘が学校でどんな感じなのかを聞き出す作戦のようだ。
「ヒロ。どうしてこの人は、こんなに松宮の事を聞いてくんのよ?」
正直に菜摘の母親と答えていいのだろうか。ここでカミングアウトすれば、楠木たちどころか、猪俣たちの耳に入り、クラス中が驚くだろう。だが、ここは正直に話した方がいいかもしれない。菜摘の母親が学校に侵入している事が、先生たちの耳まで入れば、流石の美冬さんも出て行くだろう。
「この人は――むぐっ!」
美冬さんに手で口を押さえられてしまい、俺の脇腹にはハサミが突き付けられた。どうやら、正体をバラされたくないらしい。
「早く答えてくれる? 私の予定では、昼休み中に、菜摘の学校生活の実態を知らないといけないの。手荒な事をされたくなければ、変な勘繰りをしないで、すぐに質問に答えてくれる?」
話そうとしない楠木たちに、美冬さんはイライラし始めて、目を細めて楠木たちを見つめていた。
「10秒以内で話してね。10……9……」
「失礼します。今、4軍の松原さんはいらっしゃいますか?」
俺たちの教室に入って来たのは、生徒会の副会長の夏野先輩。夏野先輩が入って来ると、隣にいたはずの美冬さんの姿は一瞬で消えていた。本当に、親子そろって、どうやったらそんな人間離れな行動が出来るのだろうか。
生徒会の人が、俺たちの教室に入って来ることはほとんどない。恐らく、今日の会談について説明しに来たのだろう。
「俺はいますけど……」
夏野先輩の所まで行くと、夏野先輩は俺と関わるのは嫌なのか、汚いもので見るように、変な顔をしていた。
「4軍の松原さん。今日の予定は覚えていますか?」
「生徒会長の会談ですか? ちゃんと覚えていますよ」
「流石の4軍の人でも、重要な約束は覚えているのですね~」
こんなに嫌味を言う人だっただろうか。もしかして、体育祭の時の扱いで、腹を立てているのだろうか。
「今日の16時から、生徒会室で、各階級の代表で、貴方が選ばれました。各階級の代表で意見交換、会議と言いますか、それに松原さんは参加してください」
「個人の面会じゃないんですか?」
「変更になったんです。文句を言わないで、素直に出席するように」
そう言って、夏野先輩は教室を出て行った。
だが、俺一人だけで会長と面向かって話し合うのは、緊張してしまい、思った事が話せないだろう。だが、各階級の代表が集まって、話し合うとなると、また難しいだろう。俺の発言するチャンスも少なくなり、1軍の意見のみが採用されて、4軍の意見には耳を傾けないだろう。
「ヒロ君。さっき言っていた4軍って?」
そして夏野先輩がいなくなると、再び美冬さんが、俺の横に現れた。一体、どこに身を潜めていたのやら。
「聞いていないんですか? スクールカースト制度の事ですよ。俺は最底辺の4軍です」
「お義母さんがチラッと言っていた話の事?」
そう言って、美冬さんは教室全体を見渡して、そして廊下に飛び出したと思ったら、すぐに俺の所に戻ってきた。
「菜摘の学校生活の実態もそうだけど、そのスクールカースト制度についても、調べた方がいいかもしれない。ヒロ君、私は今から、お散歩してきます~」
何かを察したのか、美冬さんはなぜかウキウキした表情で、またどこかに行ってしまった。
「ヒロ。さっきの人、結局誰なのよ?」
「……初対面なのに、失礼」
そして少ししかめた顔をした楠木と木村が、俺にそう聞いてきたので、俺はさっきの人が菜摘の母親だと教えると、楠木と木村は驚いた後、顔を頷かせていた。
「怒るところと、マイペースな所は、本当に親子そっくりね……」
問題がある2人に呆れた様子の楠木は、額に手を置いて、深い溜息をついていた。




