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幼なじみの母親

 長かった学校祭も終わり、また明日からは、平常の学校生活に戻る。勉強しなくていいって事だけが利点だけで、また勉強尽くし、そしてスクールカースト制度との戦いが始まるのかと、少し憂鬱な気分になりながら、俺はベッドに横になった。

 そう言えば、俺はあの生徒会長と面談をしないといけないんだ。一体、何をさせられるのか。4軍を虫けらとしか思っていない会長が、俺の意見を聞いて、スクールカースト制度を廃止するとは言わないだろう。


「疲れたし、もう寝るか……」


 現在の時刻は、夜の10時前。明日も学校なので、早めに寝て、明日の学校生活に備えよう――


「寝るのは早い! ヒロ君!」


 俺の一日は、まだ終わらないようだ。


「本当に、親子ですね……」


 夜遅くに俺の家に来て、そして勝手に男子高校生の部屋を勝手に入る女性は、俺の幼なじみの菜摘の母親、松宮まつみや美冬みふゆさんだ。

 普段は、仕事の関係で夫婦で東京を出ている。確か岡山県で、ジーンズファッションのデザイナーをしているはず。

 そして美冬さんも、菜摘と同じく凄いマイペース。菜摘は凄くのんびりとして、俺の事と、自分が興味を示した物しか行動しないが、美冬さんは違う。美冬さんは、のんびりとしたマイペースではなく、やりたい事は、すぐに行動に起こす人だ。そして周りの人も、美冬さんのペースに合わせないといけないし、自分の思い通りにならないと、どんな手を使っても、自分のペースに合わせようとする、強引な人だ。


「せめて、インターフォンを鳴らしてくれませんかね?」

「『近い将来に、親戚になるんだから、気軽に入ってくれればいいのよ~』って、りょうちゃんが言っていたから、遠慮なく、ね?」

「ね、じゃないです。世間の常識を守ってください」


 りょうちゃんと言うのは、俺のおふくろ、諒子りょうこの事。お互いに仲が良いので、下の名前で呼び合っているらしい。

 菜摘と同じく、美冬さんも俺の家の鍵を持っているので、好き放題に俺の家にお邪魔で来てしまうのだ。本当に、友好の印として、俺の家の合鍵を渡したおふくろを恨む。


「それで、こんな夜遅く何の用ですか?」

「菜摘が、ヒロ君と一緒じゃないと話さないって言うの。ヒロ君の今日が終わっても、私の予定が終わっていないの。残りわずかな時間で、幼なじみのお母さんの予定を終わらせるために、ヒロ君も協力してね?」


 本当に、菜摘と同じく面倒な人だ。


「い――」

「もし嫌と言うなら、気が進まないけど、実力行使で、ヒロ君を松宮家に連行します」


 行きたくないと言い切る前に、美冬さんはポケットからスタンガンを取り出して、バチバチと電気を流して脅して来た。電流は学校で十分浴びているので、素直に幼なじみの母親の命令を聞くことにして、夜な夜な菜摘の家に行く事になった。




 菜摘は、毎日のように俺の家に来るが、俺は菜摘の家に行くのは久しぶりだ。家の前に来たことは、約半年前。そして菜摘の家の中に入るのは、高校の受験の時、菜摘に勉強を教えた時以来だ。


「お邪魔します」

「お邪魔しますなんて、固い挨拶なんて言わなくていいのに。ただいまって、言えばいいのよ?」

「これが普通なんです」


 他人の家にお邪魔した時は、普通はそう挨拶するだろう。松宮家の人間が変なだけだ。

 久しぶりに玄関で靴を脱ぎ、そして入ったらすぐにあるリビングの中に入ると、椅子に座って、机の上でミカンを転がしている、パジャマ姿の菜摘の姿があった。ずっと手でコロコロとミカンを転がしている菜摘。これ、楽しいのか?


「菜摘。約束通りに、ヒロ君を連れて来たわ」

「こんばんは~。ヒロ君~」


 そしていつも通りに、マイペースな態度を取る菜摘。だが、表情は凄く眠そうだった。菜摘は、俺を早く起こしに来るため、いつもは早めに寝ているらしい。なので、いつもこの時間は寝ているので、凄く眠たいのだろう。


「これで、学校のお話を説明してくれる? 菜摘?」

「そうだね~。と言う事で、ヒロ君が代わりに説明をお願いするね~」


 だから俺を呼んだのか。面倒な事は俺に押し付け、菜摘は大きな欠伸をしながら、自分の部屋に向かおうとしたが。


「お母さんとの約束、破るの?」


 にこっと、不気味な笑いを浮かべる美冬さんに危険を察知したのか、菜摘は普段でも見ないような、機敏な動きをしたが、すぐに美冬さんにパジャマの襟を掴まれて、自然な流れで菜摘を椅子に座らせていた。


「ヒロ君も」

「はあ……」


 もう俺も帰って寝たいんだが、逃げ出したらスタンガンの刑だろう。俺も菜摘の横に座った。


「菜摘。定期テストの結果は、毎回報告するって約束じゃなかった?」

「そうだっけ~?」


 とぼける菜摘だが、これは俺の目の前で交わした約束だ。

 本当は、菜摘も岡山に引っ越す予定だった。だが、小学校の頃であり、俺にべったりだった菜摘は、俺と別れたくないと駄々をこねた。

 今でも覚えている。あの時もこの時の時間で家出をしたと、泣きながら、俺の家のインターフォンを押して、俺に助けを求めてきた事。その時の俺は、すぐに菜摘の両親に直談判しに、真っ暗な道を走った。


 俺が菜摘の面倒を見る。


 小学生の俺は、そう言う事ぐらいしか出来ず、菜摘の両親に頭を下げまくった事を覚えている。当時の俺は正義感が強く、菜摘の意思を無視して、無理やり連れて行こうとする態度が悪い事だと思い、菜摘を守ろうとしたのだろう。

 結果、菜摘の祖母が残り、定期的に学校の成績、学校でどんな事があったかを報告する事で、菜摘が残る事を許されたんだ。


「ヒロ君がいるから、勉強は心配しないでって、言ったのは菜摘よ? けど、最近の成績、生活態度が粗暴になっているって、お義母さんから聞いた。どう言う事か、説明してくれる?」

「何でだろうね~?」


 恐らく、ずっとこんな感じのやり取りが続いているのだろう。だから俺が呼ばれたのか。


「ヒロ君。こういう事だから、代わりに説明してくれる? 嘘をついたら、針千本以上呑ませるから、正直に話してね?」


 そう言って、本当に多くの縫い針が入った箱を机に置いたので、俺は正直に話す事にした。


「菜摘が、凄くマイペースなのが原因だと思います」

「そう? 女子高生って、みんなこんな感じだと思うけどな~?」


 マイペースな人に、マイペースだと言っても分からないか。


「お母さんは考えました。菜摘がこうなってしまったのは、ヒロ君のせいだと、お父さんとの話し合いでそうなりました」

「それは違うよ、お母さん」


 俺に責任があると聞いた菜摘は、冷めた目で美冬さんに反論した。


「悪いのは私。私がいつまでもヒロ君に甘えているからだと思う」


 自覚はあったのか。確かに、菜摘は俺に甘えて、高校でクラスが別々になって以降、更に俺への依存が強くなっている。


「じゃあヒロ君と、今後は一切関わらないなら、菜摘は変われるって事なの?」

「……嫌。……ヒロ君とは、離れたくない」


 今にも泣き出しそうな顔をする菜摘。ここで俺が話しに入ったら、話がややこしくなる。俺はじっと菜摘を見守る事しか出来なかった。


「来週、お母さんは戻るけど、代わりにお父さんが帰ってきます」


 美冬さんの言葉を聞いた菜摘は、一瞬で顔が凍り付いた。

 菜摘の父親、真彦まさひこさんは、菜摘に凄く厳しい人だ。美冬さんとは真逆で、他人、自分にも厳しい人だ。だが、美冬さんのマイペースには勝てず、いつも美冬さんの相手で、疲れ切っている印象しかないが、娘の菜摘には凄く厳しいらしい。先生に怒られも平然としている菜摘が、唯一恐れる人物が、実の父。どんな感じで怒るのかは、俺も想像できない。


「中間考査がある事は、もうお父さんの耳に入っていて、そしてお父さんから伝言を預かってるの。もし今回のテストですべての科目で70点以上取らなければ、菜摘も私たちと一緒に来てもらいます」


 いつも菜摘は、テストは一桁、良くても20点が限界だ。そんないきなり70点を取れなんて、無理な話だ。菜摘が転校するのは、決定しているような物だ。


「そして菜摘の教育係、家庭教師はヒロ君。もし成果が上げられないなら、今後の菜摘との接触は禁止です」


 にこっと微笑みかける美冬さんの表情が、俺の闘争心を焚きつけていた。


「禁止にはさせませんよ。何年、菜摘と一緒にいると思っているんですか? 今回のテスト、楽しみにしていてください」


 そんな法螺を吹いてしまったが、マイペースクーンと成り果てた菜摘に、真面目に勉強を教えられるだろうか。いや、今回は菜摘自身のピンチなんだ。受験の時みたいに、やる気を出して――


「ぐぅ……」


 鼻ちょうちんを出して、座ったまま寝ている幼なじみの姿があった。


 やっぱり、美冬さんと一緒に、岡山で暮らした方が、菜摘にとっていい薬かもしれない。


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