打ち上げ
「あ~。楽しかった。仁奈、パーッと打ち上げでもしない?」
「いいじゃん。みんな誘おうよ」
俺たちの学校祭のすべての日程は終了。体育祭の結果は、紫苑の功績により赤組の圧勝。そして俺たちの白組は、最後のリレーで勝利したが、今までの戦績によって大敗した。
「春馬~。近くのカラオケで、打ち上げしない?」
「……そんな気分じゃないんだが」
「松原に負けたのが悔しんだろ? 歌って憂さ晴らししようぜ?」
俺は最後のリレーで安藤にリレーに勝つことが出来た。俺はスカッとしているが、安藤は俺に負けた以降、不機嫌な顔をしていたが、佐村のグイグイくる態度に押し負けて、安藤も渋々行く事にしたようだ。
「高村。あんたも来る?」
猪俣は、意外な事に4軍の紫苑をクラスの上位で行う打ち上げに誘っていた。
「今回、赤組が勝てたのもあんたのおかげ。それとうちのクラスの出し物の売り上げにも大きく貢献してくれた功労者だから、今回は特別に誘ってあげる」
猪俣は、紫苑と同じく赤組。体育祭の紫苑の姿を見て見直したのか、紫苑を打ち上げに誘うと思ったようだ。
「条件があるのです」
「聞いてあげる」
「スクールカースト制度の事なんか忘れて、クラスの全員が参加してもいいと言うのなら、私も参加します」
クラス全員。つまり、いつも仲間外れにされている俺たち4軍も誘えば、紫苑も参加すると提案していた。俺にとってはありがた迷惑な提案だ。安藤や猪俣がいる中で、パーッと打ち上げが出来るか、むしろ更にストレスが溜まって、学校祭よりも疲れる事になりそうだ。
「好きにしなさい。けど、問題なんか起こしたら、承知しないから」
普段なら紫苑の提案を却下するはずの猪俣なのだが、何故か今回は紫苑の提案を聞き入れて、俺たちの参加を認めた。
「良かったですね~。雫ちゃんが認めてくれましたから、マロンたちも一緒に行きましょうよ~」
「そ、そうだな……」
ありがた迷惑の提案だったが、今は学校祭が終わって機嫌の良い猪俣。ここで機嫌を損ねたら、明日からのクラスが怖い。俺たちも渋々行く事にした。
駅近くにあるカラオケ店にやって来た自由川高校の1年2組の生徒たち。
「今日は、お祭りか何かなのかな~?」
安定で菜摘はサンドイッチを食べながら、俺の横をいつの間にか歩き。
「……私たち、参加する意味あんの?」
「皆で参加した方が楽しいじゃないですか~」
これでもかというぐらいのテンションが低い楠木と木村は、ハイテンションの紫苑に手を引かれて連れてこられていた。
「わ、私は参加する権利は無いから、ここで帰らせてもらうわ――」
「一人だけ逃げるのは許さない」
紫苑は葛城にも声をかけたようで、猪俣たちが主催であることを知らずに、葛城は俺と合流し、目の前に猪俣がいると言う事を知ると、咄嗟に逃げ出そうとしたが、楠木がそれを許さず、葛城の手首を掴んで逃げられないようにしていた。
「そんじゃ、今日までお疲れ様~! 今は羽目を外して怒られない程度で、パーっと騒ぎましょう!!」
そして誰が予約したのか知らないが、大人数が利用することが出来るカラオケのパーティールームに案内された俺たち。上機嫌の猪俣の進行で、パーティールームを盛り上げていた。
「言い忘れていたけど、全員で割り勘だから」
急に冷めた感じで言う猪俣に、急にみんなのテンションは下がって黙り込んだ。ただで利用できるとは思っていなかったが、一体どんだけお金を払わないといけないのかと心配していると、猪俣は俺たちに一枚のメモ用紙を手渡してきた。
「そんじゃ、4軍の人は、みんなのドリンクを持ってきてね~。あっ、最初に歌うのは私だからっ!」
なぜ猪俣が紫苑の提案を引き受けたのか。やはり俺たちをこき使おうと思って承諾したのだろう。コーラが10、ウーロン茶が3など。莫大の量のドリンクを運ばないといけないようだ。これは店員の仕事だ。
「雫ちゃんっ!! みんな楽しくやろうって言ったじゃないですかっ!!」
「諦めろ。あれが猪俣という人間なんだよ」
相変わらずの猪俣の態度に、紫苑は不満で頬を膨らませながら、俺たち4軍のメンバーで、クラス全員分のドリンクを運ぶことにした。
俺たち4軍が歌う出番はなく、ずっと飲み干したドリンクに新しい飲み物を入れる作業を入れ続けると、いつの間にかお開きになった。そして夕方の6時前でカラオケでの打ち上げは終了。現地で解散となったが、猪俣たちは、まだ打ち上げをやるようですぐに駅の方に向かって移動していき、俺たちも帰る事にした。
「……正義君」
学校の最寄り駅の改札に入る前、木村は俺を呼び止めた。
「……私はここでお別れ」
「そうだったな……。木村は、わざわざ多摩川を越えて来ているんだったな」
俺たちが住む代々木と、木村が住む神奈川、横浜とは真逆の方向だ。俺たちの中では、たった一人だけが返る方向が違う事になる。
「……覚えてる? ……ずっと前に言った事」
くすっと笑った顔をして、木村はそう聞いて来た。
「……心当たりが多すぎて、どれを答えたら良いのか分からないんだが」
「……お出かけしようって、約束」
もしかすると、秋に行った遊園地で約束した話の事だろうか。正直な事を言うと、俺はすっかり忘れていた。そんな事を言ったら、木村にゴミを見るような目で蔑まれるだろうと思うので、言わないでおこう。
「……今週の土曜日、朝の9時にここで集合だから」
俺に耳打ちした後、木村は少し顔を赤らめて改札を抜けていってしまった。土曜日、溜まったゲームでもやろうかと思ったが、予定変更だ。木村とのお出かけに付き合うか。
「良かったですね~」
「おわっと……! いつの間にいたんだ!?」
走り去る木村の姿を見ていると、俺の肩に手を置いて、ニコニコしている紫苑。この様子だと、俺と木村の会話を聞いていたのだろうか。
「茉莉香ちゃんとお出かけですよね~」
「盗み聞きとは、趣味が悪いぞ」
「盗み聞きではないのですよ~。最後のリレーで、茉莉香ちゃんがやる気が無さそうでしたので、やる気を出させるために、週末のマロンをどちらが独占できるかを賭けて勝負をしたのです」
確か走る前に、紫苑と木村がそのような話をしていたのを、チラッと聞こえた。だが、あれは木村が負けて、紫苑が勝負に勝ったはずだ。
「けど、レースの結果はマロンたちの組の勝利でしたので、茉莉香ちゃんにマロンのデートの権利を譲りました。けど、マロンを世界で一番想っているのは、私なのですよ……」
本当に、紫苑を怒らせるのはよくないようだ。心の中では、木村にデートの権利を譲るのは地団駄を踏むほど悔しくて、今すぐにでものたうち回りたいぐらいなのだろう。
「それでは、また明日のですよ~」
「おう」
「じゃあね~」
葛城、楠木とそれぞれ利用する駅で降りて、最後は俺と菜摘、紫苑だけとなり、俺と菜摘もいつも利用している駅で降りて、紫苑だけは2つ先の下北沢まで電車に乗っていった。
「色々あったけど、楽しかったね~」
「誰かさんのせいで、余計に疲れたけどな」
ホームから降りる階段で、菜摘は微笑みかけてそう話してきた。
今までとは違い、菜摘はずっと俺の傍にいる事無く、他の奴らと関わっても楽しめるようになってきたようだ。
菜摘もようやく自立し始めたのだろう。だが、少し寂しいと思うのは何でだろうか。
「お帰り。菜摘」
改札口を出ると、菜摘の名を呼ぶ人がいた。
つばが広い帽子を被り、サングラスをかけて、菜摘同様に駅ナカにあるパン屋でパンを購入し、パンを食べている。この姿は俺の幼なじみとそっくりだ。
そして菜摘はその怪しい姿の人物を見ると、ずっと食べていた焼きそばパンを地面に落とした。
「……お母さん」
「来ちゃった」
菜摘にとっては、最大の宿敵と言える自分自身の母親が現れると、菜摘は一目散に逃げだし、そして菜摘の母親も、菜摘を全力で追いかけていき、俺はポツンと置いて行かれた。




