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体育祭3

 

「最後の競技は、全員が参加のリレーなのです」


 午後の部が始まる10分前に、俺が属する白組は、中村に校庭に呼び出されていた。


「話、聞こえるの?」

「中村の声がでかいから、何となく聞こえる」


 昼食の時間になった途端、いつものように菓子パンを食べている菜摘が現れ、菜摘にそう聞かれていた。借り物競争の後にあったパン食い競争。菜摘は断トツで一位を取り、赤組の人、特に斉藤に称賛されていた。

 菜摘とは裏腹に、俺は白組に居場所が尚更無くなっていた。俺が借り物競争の時間に間に合っていたなら、俺たちの白組が勝っていた。だが、目と鼻の先で時間オーバー。そして俺のせいで負けたので、2軍の奴らかは冷ややかな視線。中村からはペナルティ。そして男子を入れたせいで負けたと言い出した中村に対し、正義感の強い小林がそれに反論し、再び口論に発展しまった。

 元々居場所はなかったが、更に白組の奴らとは関わりづらくなってしまったので、それで気配を消すように校庭の隅っこに座っていた。


「リレーか……」


 これまでにやったリレーは、部活動対抗リレー、選抜リレー、教員リレー。

 そして体育祭で最後で行われる競技は、生徒全員が参加しないといけないリレーだった。


「男子を参加させないと、ヤイが生徒会長に怒られてしまうので、順番が書かれたくじを作ったのです。適当に引くといいと思いますよー」

「僕らの学年のトップは、凄くいい加減だね……」


 未だに中村と小林が火花を散らしている。だが、今回はちゃんと男子の出番があるので、小林もあまりうるさく言わないようだ。


「けど、最初、最後に走る人は、別にくじ引きじゃなくてもいいんじゃないかな? これは勝負なんだし、足が速い人を挙げていった方がいいと思うよ」

「男子がアンカーで走るなんて、ヤイは嫌なのです。バトンをつなげるだけで結構なのです。そもそも、男子は肝心なところで役に立たないのです。さっきの誰かさんのように、凡ミスなんかしたら、次はタダじゃおかないのです」

「ミスはやりたくて起こしているんじゃない。必要以上に責めるのは、僕は感心しないな」


 再び火花を散らし始めた中村と小林。この二人は、犬猿の仲のようだ。


 そして2軍の奴らがくじを引きに行っていたが、特に歓喜する場面はなかった。この様子だと、第一走者、アンカーが出ていないらしい。


「引いていないのは、君たちだけ。中村が考えたくじを引いてくれないかな?」


 そして存在を消していたはずなのに、小林はすぐに俺たちがいる校庭の隅にやって来て、俺たちにくじを引けと勧めて来た。


「嬉しい事に、まだ一番最初に走る人、そしてアンカーが出ていないんだ。君たちの誰かが重要な役割を果たす事になる。いつも4軍で、階位が低いせいで、目立つことが出来ない。けどこう言った行事ぐらいは、君たちも目立って、楽しんでもいいと思うよ」


 この1軍は、まだまともな奴のようだ。中村、重藤、猪俣のように、自分勝手な1軍ではなく、本当に俺たちの上に立つのがふさわしい生徒のようだ。


「……余計なお世話」


 だが、木村はこう言った性格が嫌いのようで、唾を吐き捨てるような感じで、小林から顔を逸らしていると、楠木がくじを引いていた。


「……27番目ね」


 楠木がそう言ったこの瞬間、俺、もしくは木村が第一走者、もしくはアンカーになる事が確定した。

 一番最初に走るか、それとも一番最後に走るか。どちらがまだマシかと考えると、俺は咄嗟にくじを引こうとしたが。


「どうした? リレーに出たくないんじゃないのか……?」

「……それはこっちの台詞」


 俺と同じ考えに至ったのか、木村も咄嗟にくじを引こうとしていた。自分が引いたくじで、どちらかが決まるのかは良いが、余りのくじで決められた方が更に嫌と思い、それなら自分の運を信じて、どっちかの地獄に行ったほうがマシだと思い、咄嗟にくじを引こうとしたのだろう。


「木村はどっちを選ぶ?」

「……第一走者」


 やはり、俺と木村の考えは一緒のようだ。それなら、尚更第一走者、1番のくじを木村の手に渡すことは出来ない――


「ヒロ君は、アンカーだよ~」


 そして空気の読まない幼なじみは、勝手に俺の代わりに引いて、それを俺に渡した。


「そ、そうか……。ま、まあ、さっきみたいな失態を起こさないように、気を付けて欲しいな」


 俺がアンカーになると、小林は苦笑しながら中村に報告しに行くと、中村は凍てついた顔で俺の元にやって来た。


「次、あんなミスをしたら、もう学校に来れないと思ってください」


 視線だけで殺しそうな目つきで、俺にそう忠告してきた。このリレーで本当に負けてしまったら、俺は数時間後にはこの世にはいないかもしれない。


「ちょっと!? 木村、何をしているのよ⁉」

「お腹壊して、棄権する!」


 そう思っていると、楠木は暴れる木村を羽交い絞めにしていた。

 木村は、第一走者がいいと言っていたが、やはりリレーで走るのは嫌のようで、校庭の土や雑草を手に持って、それを食べようとしてしていた。



 午後の部、障害物競走、綱引きなどを終えて、そして最後の競技、学年対抗リレーが始まろうとしていた。


「……」


 第一走者がストレッチなど、体をほぐしている中、ただ一人だけは、無表情で突っ立っている木村がいた。


「緊張せずに、気ままに走ればいいと思うぞー!」

「ヒロの言う通り、体育の長距離走みたいに走ればいいわよ」


 木村を応援するのは、俺と楠木のみ。4軍であまり目立たない生徒の木村は、同じ白組の生徒に応援される事無く、第二走者の2軍の生徒が応援していた。


「……」


 緊張しているせいで声が届いていないのか、ずっと無表情のまま突っ立っている木村の横には。


「茉莉香ちゃんが、第一走者って意外ですね~」


 そして1学年で赤組の第一走者は、今日の体育祭で大活躍の紫苑だった。ほぼすべての競技に参加しているのに、凄く楽しそうな顔で、疲れを全く見せていなかった。


「私と茉莉香ちゃんだけで、違う勝負をしませんか?」

「……興味ない」

「私、週末マロンとデートの約束しているのですよ」


 そんな約束、俺は聞いていない。


「もし、私に勝てたなら、デートの約束は茉莉香ちゃんに譲りますけど、どうしますか~?」

「……」


 紫苑に返事する事無く、木村はじっとコースの先を見つめていた。だが、今の紫苑の駆け引きで、木村の雰囲気が変わっていた。


「それでは体育祭最後の種目、学年対抗リレーを開始します。位置について……」


 そして第一走者はクラウチングスタートのポーズを取って、そしてピストルの乾いた音がすると、遂にリレーがスタートした。

 結果は言うまでもない。木村は、他の生徒にあっという間に差を付けられて、ビリでゴール。いきなり俺たちの組は危機的な状況になった。


「木村さんは可愛いので、ヤイは許すのです」


 俺がやらかした時とは全く違う反応を見せる中村。俺たちの白組が負けるかもしれないと言うのに、中村は、美味しい物でも食べたような、とろけた顔をしていた。

 そしてリレーは進んで行き、遂にアンカーが走る番になった。


「まさか、ここでお前と戦う事になるとはな」

「俺も予想外だな」


 リレーのアンカー勝負。アンカーは他の生徒とは違い、グラウンドを一周しないといけない。だが今回はそのルールに感謝することにしよう。


「安藤。お前、足は速いのか?」


 1学年の赤組のアンカー。それは俺の宿敵の安藤だった。俺がアンカーになるのは予想外だったのか、安藤は俺が横に立つと驚いた顔をしていた。


「中学は運動部。お前には余裕で勝てるな」

「言ってくれるじゃねえか」


 相変わらず、俺たちの学年の白組がビリで、安藤が属する1学年の赤組は1位だった。最初の木村の走りが影響しているせいか、例え足の速い生徒が走っても、その差は縮まる事は無かった。


「借り物競争での罰か? これにも負けたら、お前は色んな奴に恨まれるだろうな」


 そう話し終えた途端、安藤の所にバトンを持った生徒が走ってきた。


「お先に」


 俺の不幸が蜜の味なのか。不敵な笑みを浮かべながら、バトンを受け取ろうとすると、安藤にバトンを渡す前にバトンを持った生徒が転んでしまった。これは大きなタイムロスだ。


「人の不幸を笑うからだぞ。安藤」

「……悪運の良い奴め!」


 安藤がバトンを拾ってすぐに走り始めたが、他の学年の生徒には抜かれ、そして俺が受け取らないといけないバトンを握りしめて走る生徒の姿に、俺は驚いた。


「中村からの伝言。負けたらバミューダ何とかに放り出すって」

「それは勘弁だな」


 文化祭では敵。だが今回は味方の重藤の手下、田村が俺にバトンを託した。負けたら、俺はバミューダトライアングルに沈められるらしいので、足が千切れる覚悟で、精一杯足を動かした。


 こんなに息を切らし、何かに取り組むのはいつ以来だろうか。


「ヒロ君。帰りにパンケーキを奢って欲しいな~?」


 いいや。つい最近あった。それは夏休みが終わろうとしていた頃。楠木がバイトするメイド喫茶で、無謀パンケーキを注文し、食べられないと言って、俺に無理矢理食べさせようとして、アキバの町を走り回った時だ。

 応援どころか、俺にパンケーキをねだると言うマイペースクーンらしい行動をみたら、俺は更に足が速くなっていた。


「お前、走るの早いのか……」

「誰かさんのせいでな……」


 すぐに安藤に追いつき、そして一進一退の攻防戦をして、俺はゴールの直前で、安藤に負けたくない、負けたら中村に海に沈められる。そして菜摘に文句をいち早く言うために、さらに加速すると、俺はいつの間にか安藤を抜いて、ビリを免れることは出来て、俺はゴールした瞬間、グラウンドに倒れこんだ。


「お疲れ様~」

「……パンケーキは奢らんぞ」


 俺を出迎えてくれたのは、俺に焼きそばパンを差し出す菜摘。こういう時は飲み物を差し出すと思うんだが、マイペースな菜摘らしい行動をとっていた。


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