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体育祭2

 誰もやりたがらない競技、借り物競争を俺たちの押し付けた1軍。俺の予想では2軍の奴らがやりたいと言い出しそうだったのだが、色んな所を探し回り、色んな人に話しかけるのが億劫だと思ったのか、誰もやりたいとは思わなかったらしい。


「それでは、借り物競争を始めます。ルールは、運営で事前に決めたお題を制限時間内に探してもらいます。時間は15分。多くのお題をクリアした組が勝利です。また、学校の敷地内である物を借りる事にして、学校外の物は禁止とします」


 まあ、無難な借り物競争のルールだ。この高校ならではのルールが追加されずに良かった。


「それでは、スタートします」


 そして銃声がグラウンドに響いた。校庭の真ん中に設置された、たった一つの机の上に、紙がたくさん詰められた大きめの水槽があった。くじを引くみたいに、各々のお題を確認していくようだ。


「マロンには悪いですが、この体育祭では勝たせてもらいますよ!」


 今の所、紫苑は全ての競技に出ている。いつか疲労で倒れないのかと心配してしまうが、勝負事には負けたくない紫苑は、闘志に火を付けて、本気で戦おうとしていた。


「こっちも手加減はしないからな」

「それでこそマロンなのですよ」


 そして紫苑は俺にニッと笑ってから、紙を1枚引いた。


「国語の教科書なのですよ~」


 紫苑は簡単なお題を引いたようで、すぐに自分の国語の教科書を持ってこようと、校舎の中に入っていった。


「引くか」


 このままぼーっとしていたら、中村に殺されるだろう。あまり気が乗らないが、俺もお題が書かれた紙を1枚引いてみると。


『人体模型』


 これは結構ハードルの高いお題だ。まずは生物の先生からどこに置いてあるのか聞いてこないといけない。


「……1年2組の出席番号9番の人。……って私じゃない」


 楠木は、自分が該当するお題を引いたらしい。いいな、なんて簡単なお題なんだ。


「……1学年で、4軍の女子生徒。……これは私の事」


 木村も、自分が該当するお題を引いたらしい。もしかして、俺はくじ運が悪いのかもしれない。


「ヒロは何なの? 私のお題はもう終わったから、手伝う?」

「いや。お題をクリアしているなら、早く審判の生徒に報告して、次のお題に移った方がいいと思うぞ。俺も簡単なお題だから、すぐに終わらせる」


 これはどちらの組が、制限時間内にお題をクリア出来るかの勝負。他人の生徒の手伝いをしていたら、白組に後れを取る事になる。中村は、負けたら俺にペナルティを課すと脅してきたので、この勝負は絶対に勝たないといけないので、俺もすぐに人体模型を取りに行って、他の生徒と比べて少し遅れて1つ目のお題をクリア。そして次のお題の紙を引くと。


『人の骨格標本』


 誰だ、こんなお題ばかり書いたのは。また薄暗い生物準備室に行かないといけないじゃないか。

 仕方なく、再び生物準備室に向かい、人の骨格標本を取りに行って、2つ目のお題をクリア。そして3つ目のお題を確認してみると。


『生徒会長』


 俺はやはり、くじ運が悪いようだ。4軍の生徒を虫けら程度としか思っていない人だ。4軍の俺が話しかけに行ったら、あの生徒会長の機嫌を悪くするのではないのだろうか。


「どうしたのヒロ?」


 このお題をどうクリアするか。考え込んでいると、楠木が俺に話しかけて来たのだが。


「何だそれ?」

「こけし」


 何でこけしが学校にあるのか。そう言った物は、どうしてあの生徒会長はうるさく言わないのか。


「……正義君のお題、生徒会長だって」

「マジッ……?」


 いつの間にか俺の紙を勝手に取って、お題を見ている木村。そして俺の過酷なお題に、楠木は口を押さえて絶句していた。


「……ヒロ。……あんた、本当にくじ運が悪いわね」

「ほっとけ」


 俺が人体模型や、骨格標本を持ってきていた光景を見ていたのだろう。簡単なお題ばかりに引いてしまうから、俺が貧乏くじを引く羽目になるんだ。


「だったら、楠木は他に何をやったんだ?」

「私。スティックのり。落ちてた枝。それでこけし」


 俺とは雲泥の差だ。


「木村は?」

「……私。……ハサミ。……校庭に落ちていた石」


 この借り物競争はどうなっているんだ? 他の奴らもそんな簡単なお題を引いているのか? 難しいお題ばかり引いている俺は、かえってくじ運が良いのかと思えてくる。


「……落ち込む事は無いと思うよ。……チラッと聞こえたけど……他の人は、百点の答案、二千円札があった」


 百点の答案も探すとなると難しいだろうし、そして最近は見なくなった二千円札。俺が本物を見た事がないぐらいなので、今、この場で誰かが持っているとは思えない。人体模型持って来いの方がマシだと思った。


「ヒロが心細いなら、ついてく? いざって時には、加勢するけど?」

「……口喧嘩なら任せて」


 生徒会長を連れて来るのに、喧嘩になるのは避けられないのだろうか。もし喧嘩になるなら、ついて来てくれる事はありがたい。だが、3人で一緒に生徒会長を説得しに行った方が、更に生徒会長の機嫌を悪くするだろう。


「一人で行くから、楠木と木村は、ドンドンお題をこなしてくれ」


 正直、俺は心細い。あの会長に話しかけるだけでも緊張するが、こうやって楠木と木村と話している最中に向けている中村の目線の方が怖い。なので、足取りを重くして、運営のテントに座っている生徒会長に話しかける事にした。


「……すいません。……生徒会長――」

「会長にアポは取りましたか?」


 会長に話しかけようとすると、俺の話を遮るように……。


「どこかでお会いしましたっけ?」

「副会長の夏野ですっ!!」


 そう言えば、そんな人がいたな……。このスクールカースト制度が実行されて間もない頃、俺と菜摘に成敗、下剋上勝負のルールを説明してくれた人だ。印象が薄くて忘れていた。


「会長に用があるなら、まず私か、もう一人の副会長――」

「生徒会長、話があります」

「無視しないでくれるっ!?」


 今は夏野先輩に構っている暇はない。アポイントなんて、俺は知らない。このお題をクリアするかで、俺たちの組の勝敗が決まるかもしれない。残りわずかの時間で、貶される覚悟で会長にいきなり話しかけた。


「私がお題に入っているのは知っていた。どの生徒が私の所に来ると思ったら、1学年の最底辺、4軍の松原か来るとは思っていなかった」

「ちゃんと見てくれていたなら、話が早いです。生徒会長、会長をお借りしたいです。生徒の事を思ってくれているなら、俺について来てくれませんか?」


 頭を下げて、生徒会長にそう言うと、生徒会長は俺の事をじっと見つめていた。


「明日の放課後。帰宅部の貴様なら、時間が余っているだろう。1学年の最底辺として、貴様に聞きたいことがある。面談に応じるなら、私も貴様の願いに応じてやる」


 生徒会長と、2人きりの面談。今こうやって話しているだけでも胃が痛いのに、対面の面談となると、俺の気が持つか分からない。だが、これは一つのチャンスとして受け取ってもいいだろう。


「奇遇ですね。俺も、生徒会長と色々話したいことがあったんです。生徒会長の提案に乗ります」

「いいだろう」


 生徒会長が俺の話に乗った事が意外なのか、夏野先輩が驚いた顔をしていた。


『あいつ、マジかよ……』

『……怖いもの知らずなバカがいるぞ』


 後ろに生徒会長を連れているので、他の生徒は、俺を見る目が変わっていた。

 人体模型、骨格標本を持ってくるときよりも、俺は堂々と歩けていた。生徒会長を引き連れて、審判員の生徒に生徒会長を見せつけようとした時――


「終了です!」


 制限時間、15分が立ったようで、審判員と目と鼻の先で、借り物競争が終わってしまった。


「ただいまの競技、1点差で白組の勝利です」


 超難題の生徒会長を連れて来たのに、まさかのタイムオーバー。俺は後ろを振り返ることが出来ず、自分の組の所に戻ることすら出来なくなっていた。


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