外道な奴らに制裁を7
「心折れずに来たか」
「そうらしいな」
ミスコンが終わり、俺と紫苑ではない、知らない生徒が優勝して、遂に成敗、下剋上勝負のトーナメント大会の決勝戦が始まった。
対戦相手は、好都合な事にあの重藤と田村のペアだった。重藤は俺が来ることを予想していたのか、特に驚いた様子はなく、ラスボスの魔王のように仁王立ちしていた。
「自分の黒歴史を幼なじみに晒され、幼なじみと共にアキバで鬼ごっこ、その光景がSNSで拡散されても、こうやって松原君はここにいる。重藤君よりも苦難を乗り越えて来たから、松原君は毅然とした態度でいられるの」
まだ生徒証が見つからない葛城だが、試合会場に入ると、葛城はいつもの凛とした態度で重藤と向き合い、そして俺の傷口を抉るような事を大勢の前で言い放っていたので、さっそく俺はダメージを受けた。
「4組の出店は好調か?」
「急に客足が減り、2年、3年の方に客が増えている。誰かが、変な噂を流したからからだろう」
どうやら俺の道連れ作戦は成功したらしい。俺たちのクラスも客が相変わらず客が来ないが、4組も客が激減したらしい。マリオ・ダルメシアンと言う生徒が、1年の飲食店はヤバいと宣伝したからだろうな。
「勝負する前に一つ聞かせてくれ。重藤は出し物の売り上げに一位になり、トーナメント大会で優勝する目的は何だ?」
これはずっと俺が気になっていた事だ。妨害しようとして来ると言う事は、何としても俺たちに勝ちたいと言う事だ。
「売り上げ一位になったクラスは、明日の体育祭の準備が免除される、そして俺はバッジを手に入れて、俺好みの校風にする」
通りで皆が出店でやる気を出していたわけだ。
俺は知らなかったが、明日は振替休日となっている。だが生徒は明後日の体育祭の準備をしないといけない。しかも一日中で、午前中で文化祭の後片付けと掃除、午後からは体育祭の準備をするらしい。土日を犠牲にして学校に出て来たのに、どうして更に休日を犠牲にして準備をしないといけないのか。それは皆も嫌がり、売り上げを伸ばそうとするわけだ。
「俺好みの校風とは?」
「それは、俺がバッジを手にした時に分かる」
ニヤッとした重藤を見て、俺は重藤に優勝賞品を渡してはいけないと分かった。今は中村がトップで、変な事を起こす気配はない。せっかく平穏なのに、重藤のせいで平穏な時間を壊させたくない。
「そして決勝戦! 同じ1学年同士の戦いとなりました! 重藤、田村ペア対、葛城、松原ペアの勝負、開始ですっ!」
この勝負の司会をする、放送委員の内田先輩が勝負の火蓋を切ると、さっそく重藤が仕掛けて来た。
「度重なる連戦で疲れただろ? すぐに楽にしてやる」
相手は1軍。4軍の俺が重藤の生徒証にバッジが触れてしまったら、瞬殺されるか、瀕死状態になるだろう。今回は辛うじて避けることが出来たが、重藤の生徒証が凶器と思ってしまうと、そう簡単に近づくことが出来ず、重藤の攻撃を避ける事で精一杯だった。
「何で攻撃して来ないの~? 早く生徒証出して、戦ったら~?」
葛城の相手は田村。田村は葛城が攻撃できないと言う事を知っているので、ワザとらしく葛城を煽り、すかさず自分の生徒証を葛城のバッジに触れようとしていた。
「……」
葛城は表情を変えず、黙々と田村の攻撃をかわしていた。元トップの葛城だ。そう簡単に田村に負けるとは思えない。こうやって黙々とかわしているのも、何か作戦があるに違いない。
「……そろそろ本気を出そうかしら」
葛城はニーソの中に手を入れると、葛城が持っているはずのない物、生徒証を取り出していた。
「まさか、あんな所に隠していたなんて。私、びっくりしちゃった」
「な、何で! 私のロッカーに隠して、鍵をかけて――」
「引っかかったわね」
例え4軍だとしても、生徒全員に個人ロッカーが与えられる。基本的に体操服や、各々の雑貨品を入れる。
急いで口を塞ぐ田村だが、時すでに遅し。個人ロッカーに隠してあるなら、それは亡霊のように探し回っても、葛城が見つけられないわけだ。
「それじゃあ、よろしくお願いするわ」
「クレープの為なら頑張るね~」
菜摘の扱いになれている葛城は、菜摘をクレープで釣って、今でもクレープを食べて観戦している菜摘に、葛城の生徒証を取りに行かせていた。
「田村さんの体力が尽きるのが先か、私の生徒証が戻ってくるのが先か。とりあえず、もう田村さんの命は無いわ。元トップの私を、よくもこんな惨めな思いをさせてくれたわね」
身体能力は高い田村だが、頭はそこまで良くないのが、田村の弱点らしい。どれだけ強いと思っている奴でも、何かしらの弱点はあるはずだ。そうなるとこの見た目はおっかない重藤にも、何かしらの弱点があり、反撃できる可能性があるって事だ。
「よそ見をしていていいのか?」
俺も神経を尖らせて、重藤の弱点を探してみる。だが、重藤は1軍の君臨し、4組のトップを務める器だ。そう簡単にボロを出すとは思えない。
『忠ーっ!! 優勝目指して、頑張れーっ!!』
『お前ならいける、行けるぞー!! 俺らの兄貴、重藤ーっ!! 忠ーっ!!』
俺が追い詰められていると思ったのか、ここぞとばかりに応援し始めたのは、数十人の男子たち。しかも手製の旗を作って、重藤を応援していた。
「お、お前ら……! 来るなと言っただろ――くっ!」
やはり、どんな奴にも弱点があるようで、重藤の場合は応援されると弱いらしい。だが、俺でもあんなに目立つ応援されていたら、恥ずかしいだろう。恥ずかしがっている隙に、俺は自分の生徒証で重藤のバッジに触れさせ、ダメージを与える事が出来た。
「場所が分かっても、葛城は生徒証を取り戻すことは出来ないだろう」
「あら? どうしてそんな事が言えるの?」
「鍵は田村が持っている。そして不審な奴を近づけさせないように、クラスの生徒が警備している。この勝負が終わったら、葛城の生徒証は用済みだ。すぐに返してやる」
まだ勝つという自信があるのか。重藤は堂々としていた。
「重藤。お前は、大きな過ちを犯している」
重藤は、俺と葛城しかマークしていない。俺と葛城よりも、もっとマークする奴が、俺の身近にいる。
「中々可愛く写っていると思うよ?」
「ありがとう。後でクレープをご馳走してあげる」
試合の最中でも、菜摘は葛城の横に立ち、互いで持っていた生徒証を交換し合っていた。どうやら、田村を騙すために持っていた生徒証は、菜摘の物だったらしい。
「1軍で偉そうに威張っている無能な生徒より、私が属する4軍で、その底辺にいる生徒の方が、とっても優秀で信頼できる。4軍をなめていると、痛い目に会うわよ」
4軍の木村のピッキングでロッカーのカギを開ける。それで、予測不能な動きで菜摘が生徒証を取り戻す。
「正義。こいつらだ」
「サンキュー」
警察に逮捕されたような感じで、田辺と楠木で2人の男子生徒を拘束していた。
重藤が言っていた警備していた生徒は、楠木と紫苑、そして部外者の田辺が協力してくれたおかげで、無事に葛城の生徒証を取り戻すことが出来た。
その警備していた生徒は、田辺が目撃した2組に対する悪評を流していた張本人の2人だった。田辺の言う通り、一人は短髪で黒いTシャツを着て、ドクロがプリントされていた。
「正直に話してくれたわよ。重藤の命令で、嘘の情報を流していたって」
楠木が大きな声で話すと、重藤の数々の不正行為が多くの人に知られた。徐々に追い込まれて行く重藤の姿を見て、田村も威勢が無くなり、重藤の傍に寄っていた。
「形勢逆転ね。貴方のような外道な人には制裁を下さないといけないわ――」
「……あの~。……盛り上がっているところ悪いんですが」
魔王に勇者の剣でぶった斬ろうとしているような空気の中、申し訳なさそうに司会の内田先輩が入ってきた。
「生徒会長が、お話ししたいそうです」
少しやり過ぎただろうか。
ラスボスの後ろから、裏ボスが現れたような感覚に陥り、俺と葛城、そして重藤は白くなって固まっていると、生徒会長が、俺たちの前に現れた。




