外道な奴らに制裁を5
「マロン、とても可愛いですよ~」
屈辱だ。男なら、普通はカッコいいと言われたいものだ。
「あとは、パットを入れて欲しいな~」
お客を呼び込む為、そして嘘の情報のせいで、信頼を失った出店の印象をアップさせるために、中村が提案したミスコンでお客を呼び込むことになった。
「足はタイツで隠した方がいいかもしれないね~」
目を輝かせて、菜摘は俺の女装姿を全体的に見ると、そう呟いた。
楠木と木村は出たくないの一点張り。なので、女装させられた俺と紫苑で出る事になり、俺は文化祭でも使われていなかった空き教室で、菜摘の着せ替え人形になっていた。本当に、俺の初めての文化祭は散々だ。
「……私の貸す」
するするっとタイツを脱いで、顔を赤くして俺にタイツを渡してきた。数秒前まで身に着けていたので、木村の体温が残っていた。
「これで完成かな~?」
菜摘が無理やりタイツを俺に履かせて、そして最終チェックをすると、菜摘は満足そうな顔をした後、さり気なくスマホを取り出して、写真を撮っていた。
「……原型ないわね」
制服を提供し、体操服になっている楠木がそう呟いたので、俺は菜摘が撮った写真を見せてもらうと、演劇部から借りたというどこかの劇団にいそうなウイッグ。楠木の制服に、胸をバストアップさせるパットを付けられて、木村から借りた黒タイツ。女装の監修、化粧は菜摘で行った結果、恐らく菜摘以外では分からないであろう俺になっていた。
「多分入賞は出来ると思うな~」
「入賞なんかしたくないぞ」
だが、これも俺たちの出し物に客を呼び込むためだ。ここは腹をくくって紫苑と共に頑張るしかないようだ。
「それでは、今年初開催の自由川高校のミスコンを始めたいと思いますっ!」
俺と葛城のトーナメント大会の前に行われる企画、学校で一番の美少女は誰なのかを決めるミスコンが、体育館でついに始まってしまった。今回の企画の司会は、いつもの内田先輩ではなく、違う女子生徒だった。
「応募人数は1学年で10人! 2学年で8人! 3学年で12人と言う、色んな方から応募をいただきました! これも今回企画した1学年の首席、解説の中村さんも満足じゃないですか?」
「そうなのです。色んな美少女が見れると思うと、ヤイの涎が止まらない――優勝を目指して頑張って欲しいのです」
「変な言葉が聞こえた気がしましたが、あえてツッコまないでおきます。そして今回の司会は、3年の大村がお送りします」
司会は恐らくベテランの人だろう。中村の変な発言をさり気なくスルーし、司会をしていた。
ちなみに、どの生徒が俺に女装して出ているのは、中村は知らない。もし俺が優勝してしまい、その正体が俺だと分かった瞬間、中村はカッターナイフを投げつけてくるだろう。そうならないために、棄権した方がいいかもしれない。
「マロン! 最高の文化祭にしましょう!」
「そうしたいなら、俺の腕を離して解放してくれないか?」
こっそりと逃げ出そうとしたが、紫苑はがっちりと俺の腕を掴んだ。
「他の生徒にはない経験が出来て、きっとみんなも羨ましがるはず。胸を張れる、楽しい思い出になれるはずですよ?」
「そんなに俺の黒歴史を増やして嬉しいか?」
女に紛れてミスコンに出たなんて、他の男子に知られたら何を言われるか。兎に角、安藤や猪俣たちにはゴミを見るような目で見られ、ヒビト君以上の悪い噂が立つだろう。そうなったら、俺はもう学校に行けない。
「それでは、1学年の1番から5番の方に出てもらいましょう!」
「マロン。私は呼ばれたので行きますが、決して逃げないでくださいね?」
背筋がゾッとするような不気味な笑みを浮かべると、3番の紫苑が体育館のステージに向かっていった。本当に逃げたら、中村よりも危険な目に会いそうなので、俺は黙って待つことにしよう。
「それでは3番の方、自己紹介をお願いします!」
「はいはい~! 私は高村紫苑なのですよ~」
暇なので、欠伸をしながら待っていると、いつの間にか紫苑の出番になっていた。恥ずかしいと言っていたのに、体育館のステージの前に一歩出て、いざ本番となると、いつもの紫苑になっていた。
「高村さん。貴方の今日の下着の色――好きな色は何なのです?」
「今日の下着の色はピンクで、好きな色は紫なのですよ~」
紫苑の発言に、ミスコンを観に来ていた男子たちから歓声が上がっていた。女子の口から下着の色をカミングアウトされたら、男なら誰だって喜ぶだろう。
「そう言うのは、顔を赤らめて、もじもじと恥じらって答えて欲しかったのですので、血涙が出るほど悔しいですが、これは減点なのです」
「そう言う事を聞く中村さんが減点だと思いますが、それでは高村さん、決めポーズをよろしくお願いします!」
「了解なのですよ~」
紫苑は、スカートを翻してくるりと一回転し、そしてにっこりしながら敬礼のポーズ。多くの男性のハートを射抜いていた。
「ぶはっ……!」
「男子どころか、中村さんのハートも射抜かれたようなので、1学年の高村さん、ありがとうございました!」
女子が女子を見て鼻血を噴射させるのは初めて見た。そんな中村を見ても司会の大村は冷静に対処していた。
「ちょっと待ってほしいのですよ~」
「何でしょうか?」
紫苑の出番は終わりなのに、紫苑は一歩後ろに下がろうとしなかった。
「私のクラス、1年2組は、私たちが愛情をこめて、皆さんに笑顔になれるような料理を提供しています。和洋折衷の様々な料理を食べられるので、1年2組に足を運んでほしいのです。よろしくお願いします」
ぺこりと一礼すると、紫苑は俺たちのクラスを宣伝していた。こんな可愛い美少女がいて、色んな料理を食べられる店なんて滅多にないだろう。これで少しは印象をアップさせることが出来ただろう。
『別に料理なんて食べなくていいだろ』
『あの子だけ見られれば満足だし、しかも1年2組って、食中毒を出したお店なんだろ? 店員が可愛くても、料理がダメなら、誰も行かないだろ』
紫苑がそう言っても、体育館の客席から、そのような声が聞こえた。
どうして良い評価より、悪い評価の方が流行ってしまうのだろうか。恐らく料理を食べていないのに、その嘘の噂を鵜呑みにして嫌悪してしまう。日本人は、どうしてそう簡単に噂を信じてしまうのか。
「こんな可愛い美少女が作る料理が不味い訳ないのです。料理を、美少女が手渡しでくれる他に、時にはビキニ、時には裸エプロンで提供――ではなくて、彼女の最高のスマイル付きくれるのですよ」
「スマイルだけですよっ!?」
中村のせいで、いかがわしいお店だと勘違いされてしまいそうだ。男性客は大量に押し寄せるかもしれないが、女性客が来なくなりそうだ。
「身も蓋もない噂。もしそんな報告があれば、文化祭は中止。区から立ち入り調査が入るのです。そんな間抜けな噂に惑わされるなんて、どうして私以外の人間は愚かなんでしょう」
意外な事に、中村が紫苑のフォローをしてくれた。俺たちが作ったナポリタンを美味しいと言ってくれたんだ。身も蓋もない噂に中村も黙っていられなかったのだろう。
「平気で下着の色を聞く方が愚かだと私は思うのですが、1年2組の出す料理は絶品だと言う事なので、是非お立ち寄りください」
そして毒舌の司会、大村が更にフォローを入れてくれると、体育館の雰囲気が変わり、俺たちのクラスに行こうかとひそひそと話が聞こえて来た。この様子だと、俺の出番はいらないな。いかがわしいお店と勘違いしている人も良そうだが、客が来れば、こちらとしては結果オーライだ。今のうちに、こっそりと抜け出して、この格好をすぐにやめよう――
「ヒロ君。トイレなら、男子トイレに行くと怪しまれるからね~」
いつの間にか横に座ってフランクフルトを食べていた菜摘がいたので、俺は大人しく出番を待つことにした。
「それでは4番の方、自己紹介をお願いします」
「1年4組。田村千賀」
俺は聞き間違いだと思い、すぐに体育館のステージの方を見ると、葛城の生徒証を奪い、ずっと重藤と共に雲隠れしていた田村がいた。
「1年2組のお店に行くのは自由だと思うけど、ウチたち4組のお店に来るのもいいと思うけど。ウチたちも和洋折衷の料理を提供、そして特別料金払えば、ウチたちのクラスメイトから色んなサービスを受けられる。興味があるなら、2組の前に4組を先にお立ち寄りくださーい」
誰が俺たちのクラスの印象を下げていたのか分かった。ジャンルがかぶっているから、あんなデマ情報を、重藤たちが流したのだろう。
やはり、俺が出場してもうひと押しするしかないようだ。




