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外道な奴らに制裁を2

 現在、生徒証を奪われ、戦うことが出来ない葛城と共に、俺は成敗、下剋上勝負でトーナメント大会の準決勝を臨むことになり、司会の内田先輩の合図で、成敗、下剋上勝負が始まった。


「あら。間に合っちゃったの?」


 しかし、準決勝の相手が悪かった。


「犯人は、分かったのかしら?」

「全く」


 準決勝の相手、それは俺のクラスのトップの猪俣と、日下部のペアだった。


「ずっと犯人を捜していれば、私たちの不戦勝だったのに」


 俺に営業妨害の犯人を捜させたのは、どうやらそれが目的だったらしい。トップに君臨している奴らは、どうして正々堂々と戦おうとしないのだろうか。


「まあいいわ。準決勝は楽勝よ。4軍の最底辺の松原。そして怖気ついている葛城。戦い慣れていない日下部でも勝てるわ」

「私、松原の体に触りたくないんだけど」


 俺の方を見て、物凄く嫌そうな顔をしているの日下部。どうしてこんなに、俺は日下部に嫌われているのだろうか。


「ねえ、葛城。どうして私と目を合わせないのかしら?」


 猪俣が試合会場に入って来ると、葛城は一気にテンションが下がり、ずっと下を向いてしまっていた。

 葛城は、猪俣にトラウマがある。中学校の頃まで、猪俣が違う地域に引っ越しするまで、猪俣のおもちゃにされて来たらしい。


「あのダサい三つ編みは?」

「……」

「あのメガネは? 捨てたの?」

「……」


 猪俣の精神攻撃に、葛城は終始無言のまま、ずっと下を向いていた。


「ねえ。こいつの昔話を聞かせてよ」


 日下部が葛城の過去に興味を持ったのが嬉しいのか、猪俣は満面の笑みで話し始めた。


「こいつは、クラスでいうと木村みたいな奴だったのよ。予習とか言って、休み時間はずっと教科書を読んでいたし、声も小さくて何を言っているのか分からない。根暗でつまらない女だったの」


 猪俣の話が嘘にしか聞こえない。俺と関わっているとは、凛とした態度で、どんな相手にも臆しない、俺をからかうのが好きな、茶目っ気がある女子だ。そんな生徒が昔、根暗で目立たない生徒だと思えなかった。


「色々と遊びすぎちゃったみたいで、今でも私の姿を見ると、葛城はこのざまよ。こいつは以前と何も変わっていない、遊んでいる時も、こうやって足をがくがくさせて、無言でいた。そんな奴が、どうしてこの私より上にいたのか。それがすごく気に入らない。凄く腹立たしかったの。だから、その鬱憤を晴らすために、この場を借りて久しぶりに遊びましょうか、葛城?」

「……はははっ」


 恐怖のあまりに、葛城がおかしくなったのか、突然葛城は笑い始めていた。


「相変わらず、猪俣さんはお子様ね」

「は?」


 葛城の挑発の言葉に、猪俣は一気に不機嫌になった。


「小学校の頃から、ずっと私をいじめてきた事は、今でも鮮明に覚えているわ。靴の中に画鋲は入れられたし、クラスの集合写真には私の顔に画鋲を刺して遊んでいたし、わざと私の前に画鋲をばら撒いた事もある。本当に、猪俣さんは画鋲が好きね。そんなに画鋲を好んで使用するって事は、画鋲を崇拝する宗教でも入っているのかしら?」


 葛城の挑発が、猪俣の怒りの頂点に達したようで、冷静さを失った猪俣は、自らの生徒証を葛城が身に付けているバッジに投げつけたが、それを葛城はすぐにキャッチした。


「付き合いが長い分、貴方の弱点も私は知っているの」


 猪俣の生徒証を持ったまま、葛城はジリジリと猪俣に接近した。


「それは、貴方がものすごい短気だって事。気に入らない事があれば、すぐに怒っていた。私だけじゃなく、貴方もそこそこ嫌われていたのよ?」


 先程まで葛城に精神攻撃をしていた猪俣に、今度は葛城が猪俣に精神攻撃を仕掛け、猪俣の冷静さを更に失わせていた。


「戦い中に、気を抜くのはダメだと思うの」


 戦い慣れている葛城は、猪俣の生徒証を持ったまま、長い話に欠伸をしていた日下部に接近し、2連続で日下部のバッジに触れて、日下部のバッジからピーっと音を鳴らした。これで、日下部は葛城の勝負に負けたと言う事になる。


「審判! 今のは反則でしょ⁉︎」


 すごく機嫌の悪い猪俣は、審判と進行を務めている内田先輩に詰め寄っていた。


「……えっと、人の生徒証を使って、相手を倒すのは有りなんでしょうか?」


 そこら辺は明確に決まっていないのか、内田先輩は、来賓席で見物していた榊原先輩に駆け寄って相談していた。榊原先輩、この会場にいたのか。


「……審議の結果、有りだと言う事なので、日下部さんは負けとなります」

「ちっ……」


 審議の結果が不服なのか、猪俣は舌打ちをした後、日下部を思いっきり睨んでいた。


「……ごめん」


 バツ悪そうに、日下部は後ろに下がっていた。本当に、猪俣を怒らすと怖いな。


「けど、今ので目が覚めた。バカな葛城は、下手な小細工は通用しない。それと私の弱点を教えてくれた事だし、葛城の話を鵜呑みにしなければいいだけの話。もう辺に取り乱したりしないわ」

「正々堂々と戦う気になったなら、この生徒証は返してあげる」


 何をトチ狂ったのか、葛城は猪俣に生徒証を投げ渡して返してしまった。

 攻撃が出来ない猪俣を倒すなら、今がチャンスだったはず。俺が攻撃する前に、どうして葛城は猪俣に生徒証を返してしまったのか。


「あんたは、本当にバカね。元トップだったのに、鬼に金棒って言葉も知らないの? それとも、真の恐怖を知らない、4軍に相応しい本当のバカなのかしら?」

「バカだったら、何の策もなく、貴方に返さないと思うの」


 葛城は、まだ何か策を考えているようだ。生徒証を持っていない葛城に、他に何が出来るのだろうか?


「貴方のご両親、観に来ているみたいなの」

「っ⁉︎」


 再び冷静さを失った猪俣は、血眼になって体育館一体を見渡していた。

 これは、一気に猪俣を倒せる絶好の機会だ。数値は低く、攻撃力も高くない俺だが、葛城が作ってくれたチャンスを活かし、一気に猪俣に畳みかけた。


「流石、私の信頼出来る仲間ね」


 葛城も、これが狙いだったらしく、不意打ちで、猪俣のバッジに俺の生徒証を触れされる事に成功し、僅かながらでも猪俣の数値を削る事が出来た。


「狼狽えてる暇なんかないと思うぞ」

「くっ……」


 この様子だと、数値を削られるのは初めてだったようで、かなりパニックになっているようだ。足がもたついて、転倒した猪俣に隙を与えず、更に追撃し、もう一度バッジに触れる事が出来た。


「絵面は、あまりよろしくないかもしれないわ」

「……余計な事を言うな」


 今の状況は、俺が猪俣を押し倒して、無理やり体を触ろうとしているような光景だ。葛城に突っ込まれるまで、俺も気がつかなかった。


『あの男、最低じゃない?』

『通報した方がいいかも』


 この勝負を観に来た観客の女性は、完全に猪俣を被害者扱いし始めていたので、すぐに俺は猪俣から離れて、葛城の所に戻った。葛城が作ってくれたせっかくのチャンスを、俺は台無しにしてしまった。


「深追いしなくていいわ。もう、私たちの勝利は確定よ」


 最初の頃とは打って変わって、葛城は余裕そうに腕を組んで、起き上がる猪俣の様子を見ていた。


「……やってくれたわね松原。けど、もう油断しないわ。あんたら4軍に負けるなんて、死ぬ事より嫌だから——」

「雫さん。これまでの報告は嘘だったのですか?」


 猪俣に近寄ってくる着物を纏う、和室でお茶でも嗜んでいそうな白髪のおばあさんは、かなりのお怒りの様子で、猪俣の下の名前を呼んでいた。


「お、お母様……」


 どうやら、猪俣のおふくろのようだ。親も子も、揃って美人だと思う。礼儀正しそうな人なのに、どうしてこんな暴君な娘に育ってしまったのだろうか。


「どんな生徒にも優しく接して、みんなに尊敬されています。その言葉を、まだ私に力強く言えますか?」

「……」

「話があります。来なさい」

「け、けど、まだ勝負が終わっていない——」

「早く来なさい」


 どこかのガキ大将のように、クラスの中では威張っている猪俣でも、自分の母親には逆らえないようだ。葛城は、このことも知っていたから、猪俣に生徒証を返したのだろう。


「……本当にいたのね」


 どうやら、でまかせで乗り切るつもりだったらしい。少し見直した俺がバカみたいだ。猪俣は棄権すると言って母親と共に出て行き、俺たちは準決勝を勝つ事が出来たようだ。


「少し猪俣さんが気の毒な気もするけど、良い薬になったと思うわ。優勝まであと1歩。次も頑張りましょう」


 葛城は拳を突き出してきたので、俺も自分の拳を出して、葛城と拳を合わせあった。


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