迷子捜索隊結成
題名変更しました!
「先輩、目標、居ましたか?」
「いえ、ここには居ませんね・・・・・リアはそちらを探してください。」
「イエッサー!!」
城の中庭でかち合った私と先輩は、至極真面目な顔をして互いに状況を確認する。私と先輩の会話から分かるとおり、私達は捜し物をしている。
探しているのは、犬や猫などの可愛らしいものではない。・・・・・・人間だ。
しかも、大の大人なのだ・・・・・!!
・・・・・・このような思わず目から汗が出て来るほどの悲しい事態になったのは、先程の出来事が原因だった。
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ー十数分前ー
「「何だとぉぉぉぉぉ!!」」
文官達を統括し、そのトップに立つ総務省。そんな文官達の憧れや尊敬、憧憬を一身に集めるエリート中のエリートの彼等は、広大な総務室が揺れるほどの大音声で絶叫していた。
理由は簡単。師匠・・・・・総務省のトップ、つまり文官の頂点に立つ彼が逃亡(という名の超迷惑行為)を遣りに行ったからである。それが判明したとたん、先輩達は思い思いの行動を取り始める。
「あぁ・・・・・死にたい。」
「まだ死ぬな同士!死ぬのは長官が発見されてからだろっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
先輩に無自覚にトドメを刺され、途端に死んだ目になった先輩。
「ちょっ!!首をくくろうとするな!!」
そして、本気で首をくくろうとする先輩を必死で抑える皆様。
「胃がぁ!胃がぁぁぁぁぁ!!」
「わっ!先輩が吐血して倒れてしまいました!!」
絶叫し、吐血して倒れる先輩にーー胃に穴が空いたっぽいーー慌てる新人であろう後輩。その騒ぎにバッと振り返ったのは、二十年以上総務省に勤めているベテランの先輩。
「何!?・・・・・長官特製『徹夜に劇効き!!元気になるお薬』を投与だ!!」
「えっ、ちょっ、嘘だよね!?それってあの、体は元気になるけど、味と匂いがエグすぎて、一週間は味覚と嗅覚を失ってしまう伝説のアレだよね!?」
心なしか・・・・・いや、確実に嬉しそうに言う先輩にーー間違いなく『元気になるお薬』の被害者・・・あれは被害者で良いと思う。うん。・・・が増えるのが嬉しいのだろう。全く性格が悪いお人だ。まあ、性格が悪くないと、総務省では生きていけないが。ーー倒れてしまった先輩は、顔を真っ青にして絶叫する。
「全く伝説ではないわボケェ!こちとらストレスに毎日の胃の友だよ!!」
「ええええええええ!?あ、ちょっ、何その匂い!鼻がひん曲がるぅぅぅぅ!!色もヤバいんだけど!?エグい色をしているよ!何故かボコボコ泡も立っているよ!『俺は飲んだらヤバいぜ』って全身で自己主張しているよ!!」
騒ぐ先輩達に他の先輩達が目を向けーー明らかにヤバイ異臭を嗅ぎ取ったことも要因だろうーー即座に逸らす。ある先輩は合掌して天に召されるための祈りを捧げているし、ある先輩は、『お前もやっとその薬を飲むのか・・・・・ハッ、ザマア』と鼻で笑い、ある先輩は、何かを思い出したのか目元を抑えて天井を仰ぎ見る。
「大丈夫・・・・・・そのうち無味無臭に感じられるようになるさ。」
「それヤバイ奴ぅぅぅぅぅ!!・・・・・ちょっ、まっ、ゴクッ、ギャァァァァァァァァァ!!!」
哀れにも、先輩に瓶ごと口の中にツッコまれ、一瓶分全部飲み干してしまった先輩は、叫び声をあげて気絶する。
「あーあ、先輩、この人、白目を剥いて気絶してしまいましたよ。」
「うむ。・・・・・・まあ、ピクピク痙攣しているし、生きているだけマシだな。」
「マシなんですか?・・・・・・・・泡吹いていますよ。この人。」
「いや・・・・・・こないだいきなり襲いかかってきた竜にこれを飲ましてみると、死んでしまってな。いやー、生きてて良かった。アッハッハッハッハ。」
「何ちゅうもんを飲ませてんだぁ!あんた!!」
大きな声で笑う先輩と、そんな先輩にツッコむ後輩。
この場は、阿鼻叫喚の地獄絵図を展開していた。
あら・・・・・楽しそう♪私はワクワクしながらその光景を見ていた。
「・・・・・リアって、相当性格が悪いよね。」
「へ?だって、普段はとても優秀な先輩達がこんなに乱れるなんて・・・・・楽しいじゃないですか!!」
「悪魔だ。これを楽しいって・・・・・」
「さすがあの長官の一番弟子・・・・・見事にそっくりだな。」
「だけど、少し前に長官に遊ばれていた自分と、今自分が楽しんで見ている皆がそっくりだって事に気付いていないところが、アホの子だよね。」
「「ああ・・・・・・・」」
・・・・・何か、他の先輩達がコソコソ言っているけど、煩いやい。ちょっとぐらい現実逃避をしてもいいじゃないか。
そして、この混沌な空間を鎮める勇者が現れる。
「皆さん、どうかしたんですか?」
一瞬でこの場は静まり、私達は一斉に床に跪く。総務省の中でもNO.2の権力を持つ上司のいきなりの登場に、冷や汗を流す。
「副長官・・・・・」
誰かがポツリと呟いた一言が思いの外部屋に響く。そう、この部屋に姿を現したのは、師匠に次いで文官の中で権力を持ち、個人の能力はあるが人を纏めるのがダメな長官に変わり、私達文官を統率する、文官の中でも慕われている総務省副長官その人だったのだ。
私は、周りの先輩達の視線での圧力を受けて口を開く。
「副長官、報告があります。長官が「勝手に抜け出して逃亡でもしましたか?」・・・!!はい、そうです。」
途中で遮り、まるで見ていたかのように師匠の行動を当てて見せた副長官。驚くが、私なんかよりも師匠とのつきあいが長い副長官なら、こんなのは朝飯前だろうと自身を落ち着かせ、副長官の言葉を肯定する。副長官は、このような事態に(可哀想なことに)慣れていらっしゃる。なので、このような事態の時には、とても頼りになるお人なのだ。
・・・・・・師匠の吃驚な言動に慣れているだけではない。師匠・・・・・もとい、『天才』の副官を務める人が、無能であるはずがない。
顔を覆うように手を当て、溜息を吐いた副長官は諦めたように顔を上げ、即座に命を下す。
気のせいでなければ・・・・・訂正、額にくっきりと青筋を浮かべて。
「これから、この総務省の業務は総務省副長官の権限で以て、完全に凍結します。探査魔法を使える者は、即座にあのアホ・・・・・もとい、『ストレス・トラブル製造機』を捜索しなさい。その他の者は、一応、居るかも知れないという一縷の望みを掛けて城内の捜索を。皆さん、通信用の魔道具を持っていますね?私は、この総務室で待機していますので、ここを本部としてアホ捜索本部を立ち上げます。私はここで指示を出しますので、何かあったら私に連絡を。」
「「はっ」」
揃った私達の返答を聞き、満足そうに頷いた副長官は、不意にその顔を、雰囲気を真剣なものに変える。
鋭い眼光に、相対する者が身の竦むような圧力さへ感じる雰囲気。
これは、副長官が長年問題児の元で勤め上げてきた歴戦の猛者であり、あの師匠が右腕として重宝する、間違いのない強者である事の証だった。そんな副長官の威圧に当てられ、私達の背筋も自然と伸びる。
「では、さっさとあの馬鹿を捕獲・・・ゴホン、保護して、一秒でも早く業務を再開しましょう。・・・・・勿論、業務が遅れた分は、楽しく皆で残業しましょうね?」
「「・・・え゛」」
・・・・・副長官、今、完全に『捕獲』って言ったよね!?師匠は動物扱いかい!!
・・・・・否定はしないが。
しかも、ついでとばかりに連徹記録更新中ーー勿論原因はあの馬鹿ーーの私達にとっては、悪夢とも言える一言を追加する副長官。その言葉で、私達のやる気とテンションーーやけくそとも言うーーは、一気にハイになった。
「それでは・・・・・・散」
その言葉を皮切りに、私達は、問題児を探し出し、捕獲するために動き出した。
副長官さんは、頼れるお兄ちゃんポジション。
しかも、長年お馬鹿さんのお世話をしてきて潰れなかった猛者です。お兄ちゃんには、誰も逆らえません。
意外と常識人。
ちなみに、『ストレス・トラブル製造機』は、師匠のあだ名。思いっきり自業自得です。