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王女は普通を主張します!  作者: 火宮魅月
政務編
2/5

先輩と後輩

 師匠との会話が一息ついた私は、恨めしげに、後ろを振り返る。

「うぅ~、先輩達の薄情者~。」

 後ろに居たのは、この、文官達を統括する『総務省』に勤めている、私の先輩であり、師匠の部下でもある文官の皆さんだった。

「いや~、リア、今日も朝から凄かったな~。」

 先輩の一人が、苦笑しながら私の頭をポンッと叩く。

「先輩達も、最初から見てたんなら、助けてくれてもいいじゃないですか!!」

 頬を膨らませながら、中年の先輩に噛みつくと、横から、二十代の若い先輩がまあまあと私を宥めてくる。

「いいじゃないか、リア。結局命は助かったんだから。僕達も心配をしていたんだよ?」

「先輩、あんたさっき思いっきり爆笑してたでしょうが!!」

 後ろで、笑いすぎてヒーヒー言ってた奴が何を言う。

 納得がいかなくて、私は先輩をポカポカと殴る。

「いや、毎朝毎朝、よくあれをやるなって。いいじゃん。面白いんだから。特に、リアが勝てもしないのに、総務長官に、良いようにいたぶられて・・・いや、掌で転がされているのを見るのが笑えるよね。」

「いたぶられてと掌で転がされるって、そんなに意味は変わらないよ!」

「まあ、いいじゃん。本当のことなんだから。いいよね。目の前で人が、良いように掌で踊らされているのを見るのは。めっちゃ見ていて楽しい。」

「・・・・・先輩、ドSだ・・・!」

 え、やだ。怖い。見た目はニコニコとしている好青年なのに、本性がそれとか。思わず、近くに居た他の先輩の側に隠れると、私は、思いっきりあっかんべえをする。

「べえ、さすがに先輩ここまでこれないでしょう!」

「そうかな?」

「へ?」

 気付けば、ヒョイッと襟首を掴まれて猫のように持ち上げられる。



 ・・・・・あらやだ。嫌な予感。ギチギチと音が鳴るというように後ろを振り向くと、とてもイイ笑顔をしている先輩と目が合う。

 えっ、ちょっ!なんで先輩わざわざこんなことに、超上級の転移魔法を使っているんですかぁ!!めっちゃ無駄ですよね!?それ!先輩、大人げない!!



「・・・・・先輩に対して、あっかんべえとは。・・・・・リア?良い度胸だね?」

 イヤァァァァァァァァ!!殺られる!

・・・・・先輩の目は、全く以て笑っていなかった。

「ごめんなさいぃぃぃぃ!!!」

 私は、即座に涙目で謝る。その心からの謝罪を聞いて、先輩は、ニッコリと笑って私を下ろしてくれる。

その時、ブハッと、何かが吹き出す音がして、次いでこの部屋は爆笑の渦で満たされる。

「「え?」」

 先輩と共に周りを見渡してみると、爆笑していたのは、他の先輩達だった。困惑して先輩と顔を見合わせていると、先輩達が、ヒーヒー言いながら涙目で教えてくれた。

「ぶ、あはははははは!!お前ら面白えよ!朝からこんなに笑ったのは久しぶりなんだけど!!」

「クククッ、リア、折角の挑発、失敗したなあ。ククッ、い、いや、面白いなと思ってよ。あ、あっかんべえって・・・あ、思い出した。ちょ、タンマ・・・・・・ブッ、アッアハハハハハハハハハ!!!」

「ヒー、あー息がヤベえ。襟を掴むとか、お前ら猫か。ね、猫が2匹・・・!!く、ククククククククククククククッ、は、腹痛え。」

「猫って言うか、子猫ですよね。い、いいじゃないですか。か、可愛いですよ。ブフッ。」

 おい、笑い堪えられていないぞ。思わず半眼になりながら心の中でツッコミを入れる。

「フンッ、先輩達の意地悪!!」

 私は、ぶうっと頬を膨らませてそっぽを向く。そして、先輩は・・・・・

「くすっ、先輩達、良い度胸ですねぇ。いたいけな後輩を笑うなんて。やっぱり、私の分の書類を手伝ってくれるんでしょう?可愛い後輩の頼みですから?も・ち・ろ・ん?断るなんて、ないですよねぇ?」

 超どす黒いイイ笑顔で、先輩達にお願い(という名の脅迫)をしていらっしゃった。

 その黒さに、至近距離でその笑顔を見てしまった私は勿論、その笑みを向けられた先輩達も、顔面蒼白である。特に、先輩をからかおう(・・・・・というか、虐め?よう)として逆に虐め返された先輩達は、ちょっぴり・・否、かなり涙目である。私は陰で、先輩達に対して合掌する。先輩達が目で縋ってきたので、私は・・・・・・・



(先輩!・・・・・ドンマイ!!先輩達のことは、忘れない!)



 思いっきりイイ笑顔で、ぐっと親指を立てて先輩達に突きだしていた。

 憐れみ?ないない、そんなの。所詮他人事。私も、自ら死にに行くような程愚かじゃないのだ。

 これから過酷な時間を過ごすであろう先輩達に同情がある訳でもないが・・・・・・・・それより自分の命大事。これ重要。



「リアァァァァァ!!」

「助けてくれぇ!!」

「後生だから!!」

「「俺ら死んじゃう!!」」



 背を向けた方から聞こえる絶叫は聞こえない。・・・私は何もキカナカッタ。うん。先輩の悲鳴とか?何かが投げられた音とか?聞こえないよ?

 その時、私はふと、あることに思い至って顔から血が引く。・・・・・・居ないのだ。ある人が。

「せ、先輩・・・」

「ん?リア、何ですか?」

 ニコニコしながら先輩( 自称被害者。でも完全なる自業自得)を吊し上げていた先輩( 自称被害者。でも完全なる加害者)に、恐る恐る最悪の出来事を知らせる。

「・・・・・・・師匠が、居ないんですけど。」

「・・・・・・・・・・は?」

 部屋の空気が凍る。腹の中まで真っ黒な、何時もどす黒い先輩は、掴み上げていた哀れな先輩を床に落とし、私の肩をがしっと掴む。

「・・・リア?よく聞こえなかったようです。もう一度、この優しい先輩に、ゆっくり、言って、ご覧なさい・・・?」

 痛いです、先輩。しかも貴方、優しいって片腹痛いんですけど。ドS大王のほうがピッタリですよ〜。何て軽口を叩ける雰囲気ではなく、先程まで先輩に〆られていた先輩達も、真面目な顔をして私を覗き込む。

「ですから・・・・・・・・・・師匠が、いつまで経っても終わらない書類に痺れを切らせて、逃亡しちゃったっぽいです。」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 先輩達が固まったので、私も無言を貫く。私も、気付かなかったし。つーか、完全なる不可抗力だよね。これ。っていうか、私や先輩達の目をすり抜けてこの部屋を出て行くって・・・・・さすが師匠。ちなみに、私や先輩達・・・いや、この国の文官達は、一般的な非戦闘員ではない。それこそ、小型のドラゴンぐらいなら一人で狩ってこれるくらいなら。ーー実際は、一流の冒険者数十人でやっと狩れるくらいだがーーその元凶は、先輩達が絶句している原因となるお馬鹿さんだ。お馬鹿さんが軽~いノリと勢いで魔獣溢れる『魔の森』に放り込む演習を組んだりするから、新人の文官を含め、私達は必死に闘う術を覚えていくのだ。・・・・・・総務省(うち)の先輩達(私も含む)は、大体月一で行われるこの演習を、どうしても溜まってしまうストレス発散の場にしている猛者だが。

私が遠い目をしてアホなこと・・・・・というか、悲しい現実をつらつらと考えていると、たっぷり数十秒間固まっていた先輩達は、おもむろに口を開く。

「「何だとぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 野郎共の絶叫が部屋を揺らした。私は、無言で耳を塞いだ。

 お嬢様方の甲高い悲鳴も煩いが、野郎共ーー私以外は全員男だーーの絶叫も声量がある分煩いと知った。・・・・・・とにかく、うるせえ。

 演習にワクワクと魔獣ハンティングに出掛けていくーーもう気分的にはピクニックだーー先輩達(猛者)をも絶叫させるこの事態が楽な訳はなくて、私は、これからこの身に掛かるであろうストレスに、胃を押さえながら密かに溜息を吐いた。

 

 ぶっ飛んだ主人公の師匠の部下の皆さんも当然のごとくぶっ飛んでいました。

 さり気に文官に混じっている主人公。主人公の頭の中には、本来の立場なんて欠片もありません。

 修行のためとは言え、第一王女が文官に混じるとか・・・・・発想がぶっ飛びすぎの主人公を止めるストッパー役は無し。

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