エピローグ『旅路の先に続いていく』
ルーキーどもは捨て置いて俺のガントレットはビンビンにチャージされている状態。
そして、センセイらはともかく俺は一日中歩きっぱなしではあったものの体に気持ち悪いぐらいの活力を注入していたから……うっぷなんかイメージ悪いな……ともかく、体力もバッチリある。
合流地点はそろそろ最奥手前だったこともあり、後は奥でボスを倒してどくけしそうを手に入れるだけであった。
「それにしても、都合のいいところに休憩ポイントがありましたねー」
"ダンジョンの様式美というやつだな。無作為に広がった洞窟ではなく、最終的に攻略されることを前提に作られているからこうして便利なところに休憩ポイントがあることも多い"
「ほへー」
"まあ勿論、厳しいダンジョンの場合はそうとも限らないが"
そんな会話をしている二人も完全に調子が戻っているようだ。俺は胸を撫で下ろす。
サキュバス化はやはり本人の精神を塗り替える、完全に人格チェンジしてるって再確認できるんやね。あの淫蕩状態は操られたも同然の精神状態だから、こうして素に戻った彼女らに何の罪もないのだ。
「それでボスって何でしたっけ? かぼすエレメント?」
「唐揚げとかに問答無用で掛けてくるのが得意技の凶悪なやつだったっけか」
「恐ろしいですー!」
"違うから。カオスエレメントな。他の魔物に取り憑いて凶暴化とレベルアップさせるタイプの魔物だ。それがダンジョンの支配者となったことでダンジョン全体でそれに似た効果が起こりやすくなっていたのだろう。また、恐らくエリザのサキュバス化が進行したのも体内のサキュバス因子がそれの影響を受けた可能性がある"
「そりゃあさっさと倒さねえと、またサキュバス化が始まったりするかもしれねえな」
"一旦アルトからリセットを受けたので暫くは平気だろうが……んん"
「ううっ、口の中に青臭い匂いの思い出が……」
二人共何やら思い出して顔を赤らめ首を振っている。そういう機能がついているのか、センセイのジャケットのノッペリとした表面も僅かに赤らんでいた。
ええい、生き残って二人を元に戻すためとはいえ、微妙に罪悪感が湧くぜ。そもそも戻す為のサキュバスタードソードは斬った相手に精神ダメージを与えた挙句に気絶させたら淫夢まで見せるという厄介な魔剣だから困る。
淫夢の内容はまあ人それぞれだが、印象に残っている相手との行為が多いらしい。つまり斬られて眠るとなると大抵一番印象に残るのは斬ってきた相手、俺なわけだが。
……チャモンの夢の中に俺が出てこないことを祈ろう。夢の中でホモ箱化黄金像になってたりしたらどうしよう。殺すしかない。
"ともあれ、以前の洞窟で出会った蛇竜との遭遇戦と違い、今度は明確に奥にいるとわかっている。準備は念入りにしていこう"
「そうだな。備えあればなんとやらだ」
"ついだらしないところを見せてしまったからな……ここらで[探検技工士]の面目躍如をせねば……"
言うとセンセイはカチャカチャと何かをクラフトしていく。
出来上がったものは……センセイっぽい形をした人形?
足のところに台座と車輪がついていて前方にするすると進んでいく仕組みだ。
"これを先行させて敵の不意打ちを防御する。敵がこの人形に攻撃を仕掛けたときに、我々は遠距離攻撃で仕留める"
「なるほど、囮作戦ね」
魔法使いがゴーレムとか死霊術とかで時々やるやつだ。狂乱しているダンジョンの魔物相手にならば充分通じるだろう。
変な二本の棒が付いた箱みたいなのをセンセイが持って、ガッシャンガッシャンと棒を動かすと人形は前方へ進んでいく。
充分に距離を取ったら俺らもその後を付いて歩き出した。
"あの人形が攻撃された際、エリザは合図をしたら塹壕とシェルターを作ってくれ"
「はいです!」
「おうセンセイよ俺も頼りにしていいんだぞ俺漲ってるからな俺」
"アルトは接近されかけたときの最終兵器だ。頼むぞ"
なるほど……最終兵器か。
やれやれ。センセイってのも単純だな。男が皆、最終兵器なんて単語に心惹かれて喜ぶとでも思ってやがるのか?
最終兵器:超戦士アルトリウス。
いい響きじゃないか。
ごろごろと進むセンセイ人形はカーブにも対応して道の真ん中を器用に進んでいく。
「それにしてもこの偵察人形、普通のダンジョンでも使っているのか?」
"いや。普通の、他の冒険者が潜っているかもしれない場所では使わないな"
「へー。便利そうなのに」
"危ないから"
「なにが?」
聞くとやがて大きな広間が待ち構えている。
その部屋の手前で人形は立ち止まった。センセイは双眼鏡を使って中の様子を探っている。
"……この先だ。地図によれば──"
そう云って地図を出現させて見せる。何度も攻略されているダンジョンだけあって、ゴール地点でも詳細なマップが作られている。
この先には大広間があり、そこにダンジョンボスが待ち構えているらしい。
普段ならば精々リビングメイルとか、フレッシュゴーレムとか、ポイズンリザードとかなんかこう、中の下とか下の上とかそこら辺の魔物がボスになっているらしい。
単体で現れた場合は駆け出し冒険者でも囮役と攻撃役を分けてビビらず六人で協力して戦えば何とか勝てるラインのボスだ。
で、そいつを倒すか引きつけて部屋の外に出すと仕掛けが動いて背後の壁が開き、その通路の先にどくけしそうが群生した空間がある。それを持って帰ってギルドに納品するのがこのダンジョンの攻略証明だな。ここを攻略しておけば自称冒険者ではなく、ちゃんとした冒険者みたいな扱いにはなっていたらしい。昔の話だ。今では呪われし凶悪ダンジョンだがな。
"よし、では──"
センセイは皆を見て、ハンマーを構えながら頷いた。
"まずは部屋の下をくぐるトンネルを掘って、先にどくけしそうを確保しに行こう"
「はいです!」
「……そ、そお?」
ナチュラルにセンセイはボス戦を無視した。ひどい。
ガコンガコンと穴を掘る。技工士二人の掘削能力を使えば、アホかってぐらい容易くトンネルが掘られる。
目的のボス部屋の前まで来たことで、マップには書かれていない高低差なども確認出来たから容易に程よい深さで距離を測って進んでいくようだ。
岩盤を挟んで頭の上でボスが待ち構えていると思うと不憫と思うやら間抜けに感じるやら。
"距離よし。ここから上に進む"
「階段設置ー!」
そうして今度は斜め上に掘ると、ぼこりと天井を砕いて本来の通路に出た。
背後には閉じたままの岩戸。さらばボス。フォーエバー。
それはさておき、最奥のどくけしそうが生えている場所へと通路を進む。
そこまで離れていない位置に、ふわりふわりと揺れて宙に浮いている光の玉と、その光の真下は土になっていてそこには切れ込みの入った葉を付けた、薄青色の花を咲かせている植物が群生していた。
「これが……」
"ふむ。植物の種類としてはポピーに近いな。上の光っているのは[ダンジョンの証]だ。壊さないように──まあ、生半可では壊れないのだが"
「キレイな花ですー」
"ポピーはアルカロイド系の成分を含んでいることが多い。アルカロイドは毒物や幻覚系の薬物として有名だ"
「なんかこんなもん取ってこさせてた冒険者ギルドの闇を感じるんだが……」
「つまり! どくけしそうは[毒芥子草]ってことですね!」
「上手いこと言ったな。褒めてやろう」
「うえへへ……そういえばアルトくん、ちょっと臭いますね」
「そうか?」
エリザを撫で撫でしてたらそんなことを言われたので、体をくんくんと嗅ぐ。
そういやセンセイとかと過ごしていると毎日風呂に入るという傭兵にあるまじきゴージャス生活だったが、このダンジョンに潜ってからは……
一日目:共同キャンプ場なので風呂無し。
二日目:休憩前にテレポートの罠。そのままダンボール野宿。
三日目:ダンボール野宿。
そして四日目に進みまくって現在ここなわけだから、丸四日風呂に入っていない。
そりゃ臭うか。終わったら風呂に入らないとな。ゾクフーはお風呂屋とも言うが、汚い体で行くと自由恋愛をするチャンネーに嫌われて自由恋愛イベントが発生しないことも考えられる。
「そういや帰りはどうなるんだ?」
"かくねんりょうとサキュバスの素材で[ディメンジョンゲート]を作成して一気に戻れるぞ"
「ならさっさと終わらして、帰って温泉でも入るか」
とりあえずそう決めて俺は無造作にどくけしそうを毟る。エリザが作ったガラスの採取ケースに入れて、センセイの荷物袋に詰め込んだ。
これで目的は果たしたわけだが……
"よし、これで気兼ねなくボスを倒せるな"
「あ。一応倒すんだ」
"このダンジョンがいつまでも危険では村も大変だろう。見捨ててはおけない。前準備をしよう"
そう告げるとセンセイは再びトンネルの中へ戻り、まずはどくけしそうの取れる通路とトンネルの間を念入りに塞いだ。ボスを無視するショートカットはこうして無かったことになる。
続けて、広間の地下をエリザと一緒に広げ始める。
下にではなく横に。イメージとしてはボスの間に地下一階の同じような広さの空間ができた感じだろうか。
蓋は完全に塞がっているが陥没すれば巨大な落とし穴になるだろう。
そこに何やら樽めいた道具をエリザと一緒にクラフトして等間隔で配置している。
「おーい。俺なんか手伝うことねーの?」
"アルトは最終兵器だからな……"
そうか。
最終兵器なら仕方ねえな。
そこまで時間が掛からないうちに作業を終えて、ボスの間の前にある通路へと俺らは戻った。また、そのトンネルはみっしりと地下空間を残して埋めている。
"よし、エリザ。塹壕を掘るぞ。落盤にも耐えるシェルターもだ"
「はいです!」
「ねえ何が起きるの? 凄くぼく不安」
"準備完了! スペランクラフト人形発進!"
ガチャガチャと箱を動かすと再び人形は前へと進み始めた。
俺は仕方なく、センセイから作ってもらった双眼鏡を覗いて中の様子を確認する。
薄暗い室内に、人形が真ん中付近まで入った途端に明かりが灯ったようだ。
多種多様な魔物達の雄叫びが奇妙なメロディになったように響いた。
広間の中に居るのはランボーゴブリン、ジゴボルト、蝙蝠男、蜘蛛男。それも一匹や二匹ではない。部屋の中にウジャウジャといやがる。モンスターハウスだ。
中でも目を引くのが奥に居る黄金色をした巨人の骨とでも云うべき巨大スケルトンがゆっくりと動き出しながらカタカタと骨の当たる音を出していた。
"あれはスケルトンの異型進化、[ガシャスケルトンゴールド]だ。スパルタカスが数を増やさず巨大化という方向に進化したもので、大きくなった分頑丈さと力が増していてドラゴンと取っ組み合いができるという"
「うげ。しかも早速ランボーが暴れだして室内が大混乱に覆われてやがる。センセイ、どうすんだ?」
「あっ! 人形さんが巨大な剣でぶち抜かれたです!」
あれはトウエイスパイダーが投影したゴーレムの放った投剣だ。殆ど真っ二つになった人形が震えだし──
"全員身を伏せろ!"
センセイの叫びで何はともあれ、エリザの頭を掴みながら塹壕の下に伏せて半開きにしていたシェルターの中に潜り込む。
即座にセンセイがシェルターの入り口をシャットアウトした。
その直後に、ど、と空間を震わせる震動があった。本来は空気を通じて洒落にならない爆音がしたのかもしれない。空気すら入り込まないシェルターに入っていなければ耳をやられていただろう。
しかも更に激しい爆発が連続してどうやら外で起こったようだ。地面に固定されているシェルター自体がぐらんぐらんと揺れて、吐きそうになった。
センセイだけは体をシェルターに固定しているので何か平気そうなのがムカつく。
「な、何が起こりやがった……」
「痛い……舌を噛みましたぁ……アルトくぅん」
エリザも涙目でベロを出しながら呻いている。
「唾でも付けとけ」
「唾つけてくださーい」
「ぺっ」
「……興奮しました。えへっ」
「するなよ!?」
ちなみに唾吐いてないからな。フリだからな。
"説明しよう"
「説明してからやれ!」
ビシっと俺がチョップをセンセイの頭に入れると、何故かジャケットが白く点滅した。
"あーあー!! ザンキが減らないように体を固定してたのに、アルトがザンキ減らしてきたー!"
「な、なんだよチョップぐらい」
"ただのチョップで私は死ぬんだからな! ……まあ、確かに説明前に爆発してしまったが、あのスペランクラフト人形の中には高性能の爆薬を大量に詰め込んでいたのだ"
「それで、魔物に攻撃されてドカンと?」
"そう。それだけでもかなり強力なのだが、更にそれを呼び水として地下に仕掛けた18基の爆雷が誘爆して山一つ吹き飛ばすぐらいの爆発力で内部を消し飛ばした。ダンジョンが魔力に守られていなければこの洞窟ごと粉々だっただろうな"
「えげつな!」
センセイは説明を終えて外に出る。シェルターの入り口を開けると気圧差で瞬時に内部と外部の空気が混ぜられ、俺らは耳をキーンってする感じの感覚が襲った。
広間のあったところはえぐり取られたように入り口も広がって、中は粉塵が舞っていてよく見えない。
センセイは更に内部に妙な筒を構えた。
"ロケットランチャーだ。念のためにこれでフラッシュボムを叩き込んでおこう。万が一生き残りが居ても静かに死んでいくはずだ"
「容赦ねえなあ」
油断なく崩れかけの炭鉱めいたぼろぼろの部屋へと向かう。俺とエリザも付いていく。
内部では天井が崩れるぱらぱらとした小さな落下物の音が響いている、岩瓦礫の谷だった。部屋の広さも若干大きくなったように見えるし、奥のどくけしそうへ向かう通路の入り口も消し飛んでいた。
爆発力が向こうにも向かったように黒焦げた痕が僅かに見える。ひょっとしたらその先どん詰まりのどくけしそうも吹き飛んでいるかもしれない。
"こんなこともあろうかと先にどくけしそうを摘んでおいたわけだ"
「クリア景品が消滅してないかこのダンジョン」
「キレイなお花も粉々です……」
"なに、時間さえあればそのうちに復活するだろう……む!?"
センセイがロケランの先を向けると、瓦礫をどうにか押しのけて緩慢な仕草で這い出てくる巨大な影があった。
ガシャスケルトンだ。ただし起き上がろうとしているのはいいが、体というか骨の表面がさらさらと粉になりながら崩れつつある。
"高熱により石灰化していっているようだな。まだ生きているということはあれにカオスエレメントが取り憑いているに違いない"
「よし! 最後のトドメは最終兵器が!」
"え?"
しゅぽっ。
ロケットランチャーが発射されて、ガシャスケルトンの目の前で炸裂。
即座にエリザがシェルターを作って、フラッシュボムのなんか浴びると魔物が死ぬことに定評のある光が届く前に遮った。
恐らくはこれまでに挑んだ冒険者の骨から出来たと思われる、カオスエレメントが取り憑いた骨の巨大な魔物は情け容赦無くセンセイのニュークリアな兵器で消滅させられるのであった……
最終兵器の出番は……?
釈然としない気分になりながらもせっせとエリザがディメンジョンゲートを作成して、俺らは外に出た。
これにて[初心者の洞窟]攻略終了だ。
カオスエレメントによる無差別魔物同士討ち強化現象も収まり、ダンジョン内を徘徊している現在クソ強い魔物もそのうち弱まって元の姿に戻る。
普通の生態と違い、ダンジョン内の魔物ってのはダンジョンの中に内包している魔力の量で存在を維持している。この初心者向けなダンジョンはそれこそ、ゴブリンやコボルドなんかの雑魚魔物でしか生きられない。
レベルアップしていた魔物は共食いとも言える同士討ちで魔力を補充していたのだが、それを行わなくなったら存在維持に充分な魔力に適した体に戻っていくという。
便利なもんだ。
それはそうとして目的のもんを手に入れたわけだから俺らは再びバニシュドの街へと向かってトロッコ車を走らせて向かうのであった。
「あのー」
"どうした? エリザ"
「ハッカちゃん達ダンジョンに置き去りにして大丈夫だったんですか? 今思い出したけど」
"……"
「……」
「……」
"ま、まあ。帰れる分の食料とロストした道具の補填はしておいたから、冒険者を目指すなら頑張って帰れるだろう。ボスも居ないし。多分"
「まだ強い魔物がうろついてると思うんですけど……」
「そこはほら……色々頑張るだろ多分」
過ぎたるは及ばざるが如し。この言葉の意味は過ぎたことにはもう手が及ばせられないので諦めようということである。
俺らは輝かしい未来を目指す新人共の健闘を祈って振り向かずに走っていった。
願わくば、チャモンがダンジョン的にモンスターの一種だと認められて次世代のボスに任命されていないことを……
とんでもねえダンジョンになりそうで嫌だな。
*******
交易の拠点となっている自治都市バニシュド。
ついこの前、災害指定級魔物であるウィップドラゴンの襲撃を受けて町中に踏み込まれたとは思えない復興っぷりで今日も栄えている。いや実際、大きな傭兵の拠点であって即時に対応戦力が回せるこの都市じゃないともっと被害はデカかったとは思うんだが。
その大体直った被害の中で、直らなかったのが魔法科学者であるトリエの工房だ。元々借家の工房に、様々な実験機材を借り受けて新薬の開発を行っていた彼女はぶっ壊された機材の借金で首が回らなくなった。
そんな中持ち出せた最低限の道具で作成するのが[多能性回復薬]──製作者曰く、ヨクナオールだという。
様々な種類の毒をそれ一つで治すことができる素晴らしく便利な薬で、セイビョーぐらいなら予め飲んでおけば一ヶ月ぐらいは予防できるという。
それを作ってもらうのだ!
数日ぶりに帰ってきたトリエの部屋は増築されており、寝床に実験器具が置かれている程度の感じだったのがそれなりに研究室っぽくなっていた。俺からの資金援助で部屋を大きくして道具を買ったのだろう。
中で椅子に座っていた、白衣を着ている酷く眠そうな眼差しをしている妙齢の女が、顔を上げて言ってきた。
「……おや。来たか。アルトリウスに……ええと、ぐぅぐぅぐぅ」
「いきなり寝ましたよこの人!?」
「初めてみた相手に脳の処理が疲れを訴えて睡眠を齎したんだろうな」
"難儀な眠り癖だ……"
しかしながらすぐに眠ってしまうがすぐに起きるのがトリエの性質である。
これは日中の寝落ちだけではなく、夜に布団に入っても同じく短時間の睡眠で起きてしまったり、また眠くなったりを繰り返す睡眠障害にあるらしい。
ヨクナオールはそんな睡眠の病も治せるんだと。
「つーわけでトリエ。どくけしそうを取ってきたから早速作ってくれ」
「ああ。わかったよ。資金援助も感謝する。おかげですぐにでも取り掛かれそうだ」
「へー。アルトくんって人の研究にお金を援助したりするんですね。意外!」
"世のため役に立つ研究の為に金を用立てるとは……良いことをしたな"
「確か……借りた分の四倍を返せばよかったのだったね。売り出すまでまってくれ」
"四倍"
「四倍」
「や、やめろ! 二人共そんな目で俺を見るな!」
ジト目で見てくる二人に向けて俺は手を振り払った。
いいじゃん四倍! トイチの金利だって一年一ヶ月も経てば四倍になるし合法の範囲だ!
「過払い金の請求って弁護士に頼まなくても役場でやってくれるところもあるらしいですね……」
"まずはご相談を"
「ああはいはい! 早くやろうぜ!」
目元をこすりながら眠そうなトリエは俺が差し出したどくけしそうを受け取り、何やら装置の上に置いた。
「他の準備は済んでいるからすぐにできる。まずはどくけしそうをこの量子線放射装置で進化させて効能を強める」
トリエが操作をすると、装置の上で青白い光が直視できないぐらい輝いて見える。
"ちょっと待て。放射線とか大丈夫なのか!?"
「大丈夫だ。青く見えるのは特性のシールド魔法を通過しているからで放射線はカットしている」
「なんか怖い話してないか?」
「大丈夫だ。まあ、実験段階ではこの光をまともに浴びた黒いマウスが真っ白になったり血を吐いたり甲高い声でファンタジーを叫んだりして死んだが……今は問題ない」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だ」
なるほど……問題ないんだったら仕方ねえな。
センセイが何か変な検査機みたいなのを取り出してしきりに周囲の何かを観測しようとしているが、注意を発しないあたり危険は無いのだろう。
「低出力の量子線で形質変換が行われたどくけしそうの情報を装置に記録する。これで進化したオメガどくけしそうの情報を魔力的にそこらの草──なるべく似た種類がベターだな。芥子などに植え込むことで形質を再現できるようになる」
"なるほど……情報子のキメラといったところか。そんなにうまくいくものなのか?"
「量子線放射装置は進化と退化を進めることが可能だ。一度退化させて形質が別れる前の種に近い状態に情報子を戻し、そこで因子を埋め込むと殆ど似たような状態に進化させられるよ」
"画期的だが恐るべき道具だな"
「使うのに魔力がかなり必要で、ふぁ、眠くなるのだが」
なんか小難しそうな話をセンセイとトリエがしている間、暇だったので俺らは。
「アルトくん、アルトくん。ほら見てくださいよこのブラジャー。大きいですよ。メロンとか入りそうですよ」
「ケツからぶっとい蠍女の尻尾が生えてるからかパンツがローレグばっかだな……」
"二人共!! 何を勝手にタンスを漁っているんだ!!"
センセイに怒れられた。トリエは相変わらずあくびを噛み殺した表情をしながら作業を進めているが。無頓着なのだろう。
「オメガどくけしそうをベースに量子進化した様々な物体から抽出した解毒成分を混合……」
"それも計算されているのか?"
「まあ……眠い……」
頷きながらも近くにあったホワイトボードにトリエは意味不明な数字だか文字だかの羅列を書き始めた。器用に尻尾の先でペンを取って、手元では作業をしながら。
[Guv=8πGTuv]とか[約10の33乗センチメートル]とか[RP3]とか[180度ひねる]とか[量子重力の変換解釈]とかまるで謎で眠くなる。
それを感心して見ながらセンセイだけは頷いて、
"なるほど……"
とか何か一人で納得してた。ふーんって感じ。
俺はそんな御大層な科学的知識より、セイビョー予防になるお薬が発明されるのが大事なんだよ!
寝るとムセーしそうだからネイゴヤードの街から寝ずにトロッコ車でやってきてんだぞこちとら!
間違ってもセンセイとエリザがひっついて寝ている状況でムセーなんかしたら……お、おしまいだ。いい年こいてエロ夢でストレス無駄打ちするピュアボーイとして噂される……!
最初に行く裏ゾクフーは決まってるんだ。
傭兵なんてあらくれゴロツキ時々指名手配が混ざってる職業の連中がよく集るこのバニシュド。情報を探ればどうにか裏ゾクフーの場所も判明した。
そこだ!!
「アルトくん、さっきから何を身悶えしているんですか」
「なんでもねえ。早くできないかな!」
材料を混ぜ合わせているトリエはそして尻尾の先をフラスコの口に付けた。
「何してんだ?」
「以前みたいに技術だけ取られないように考えたんだ……むにゃむにゃ、薬の材料にわたしの尻尾の毒を加えている。それで完成」
「毒って大丈夫なのか?」
「分量を調節すれば毒も薬になる……うーん」
「寝るな寝るな! おっぱい揉むぞ」
フラスコを持ったまま背後に倒れそうになったトリエを支えつつ耳元で怒鳴る。
彼女は感謝どころかうるさそうな目線を向けつつ、フラスコを弱火に掛けてから、
「完成した」
と、言った。
出来たのか……! 俺のセイビョー克服アイテムが!
感動で泣けてきた。
「うっ、うっ……早速それ一本くれ……」
「まあ待て。まだ実験をしていない。ほぼ完成しているとは思うが……そうだ」
トリエは雑な眼差しで俺とエリザを順番に見て提案する。
「二人に協力してもらおうか」
「な、なんですか?」
「この赤い薬はわたしが作った[風邪薬]……飲むと即座に風邪の症状が出るという微妙に使い所の無い薬だ。これを飲んだ後、このヨクナオールを注射して即座に治ったなら効果も確かだろうね」
風邪薬って風邪になる薬かよ。仮病に使うにしてもガチで症状が出るなら何の得もしねえな。
ともあれ差し出されたそれをクリアーしないと裏ゾクフーに行けない。
風邪を治せない程度ではセイビョーも治せないだろう! 俺は命の張りどころを見つけた!
「やるぞエリザ! 俺たちの冒険は無駄じゃなかったところを見せつけてやる!」
「え? あ、はいです!!」
勢いに流されてエリザも頷き、渡された風邪薬を二人して飲み干す。
センセイが「あちゃー」みたいなポーズをしていたが。
すると来る来る、風邪っぽい悪寒。頭はぼーっとして胃は締め付けられ、喉は痒くなり鼻息ができなくなった。
これは酷い。
「うっうっ……アルトくううん、あたす、風邪引くの初めてですうう……」
「よかったな。初体験で……フェクショ! ほら、鼻垂れてるぞちーんってしろ」
「ちーん! ううう、初体験でアルトくんにぬるぬるが出てる穴をティッシュで拭かれました……」
「誤解させようとしてなにげにどういうシチュだよ……げほっげほ!」
"大丈夫か二人共……ノリだけで行動するなあ"
センセイが呆れたような声で、風邪っぽいグッズをクラフトして出す。ちゃんちゃんことか水銀体温計とか氷嚢とかのど飴とか。
「大丈夫だ……注射をすればすぐ治るはず」
「よし、エリザ先にやっていいぞ」
「はひー……」
エリザは白っちい腕を差し出して、トリエが小さな注射器で吸い取った薬を彼女の腕に注入する。
「おおー……」
体の中に異物が入ってくる感覚が奇妙なのか、エリザから変な声が漏れた。
そして注射器を離して少し様子を見る。
エリザは鼻をもう一度噛んで、頭を何度かぶるぶると動かしてから飛び跳ねた。
「治りました! 凄い効き目ですよこれ! なんか健康になった気さえします!」
「までぃか。おでも頼むぜ」
俺も鼻が詰まってうまく発音できなくなってくる。
出した腕にちくりと針が刺さり血管に何か入ってきた。
おおっ……これで俺も健康に!
セイビョーに掛からない健康優良男児に!
みるみる体に力が……!
……
なんか筋肉痛と節々の痛みが襲ってきて、目眩がしてきた。
「治らないんですけお……」
「む。おかしいな……では次、君試してくれ」
"わ、私か!?"
「彼を助けると思って」
"むう……そう言われると"
センセイも説得されたからか、ジャケットを蒸気と共に脱ぎ去る。巨大こけし人形から美女が出てきても、トリエは動じずに眠そうな眼差しのままだ。
風邪薬をセンセイに手早く飲ませて、症状が出るや否や注射器を取り出す。
センセイは恐る恐る手を出すが、注射器の針を見ると途端に顔が青くなった。
"あ、アルト……片方の手を握っていてくれないか"
「ごめん。超センセイ可愛いーって抱きついてあげたいところなんだけどダルいから無理。エリザやってやれ」
「無様! 先生!」
"何だこの敗北感は"
そんなわけでエリザがセンセイを励ましつつ、ぷすりと薬が注射された。
すると──
"……治った"
と、センセイの症状も即座に回復した。
なんでか俺だけ効いていない。
「ふむ……採血してみよう」
トリエは提案して俺の腕から今度は血を取って、霊視顕微鏡とかいう魔法効果を確かめる道具の皿に載せて確認し始めた。
「わかった」
「ど、どういうことだよ……ごめん超ダルい」
聞きながらベッドに座り込む。立っていると背骨が軋みそうだった。しんどい。
「アルトリウスの体には、薬の主成分の一つであるわたしの毒に対する抗体が出来ている」
「抗体!?」
「いつか、わたしから毒針で刺されたことが……あったっけ? ねむねむ」
トリエの毒針で刺されたこと。
あります。
なんてこった……つい寝こけたトリエの胸部を、やむを得ない事故で僅かに触れたときに彼女の本能が起こす防衛反応で手を刺されてしまったことがあるんだ! やむを得ない事故で僅かに触れたことが無ければ!
「つ、つまり……ヨクナオールの薬は……」
「アルトリウスには効かないな……」
「お」
「お?」
「おろろーん!!」
俺は泣いて即座にその場のベッドにふて寝した。風邪でしんどかった体では、心のショックに耐えきれそうになかった。
もう一歩も歩き出せそうにないよジェニファー。
燃やし尽くしてしまったんだ。
自分の体を削り尽くしてしまったんだ。
新兵の心をへし折る訓練で山の中を突破して50キロ先の目的地に到着するってのがある。
50キロ先のゴールにたどり着くと教官は「残念だがゴール地点が変更になった。あと30キロ先だ」とか言う。
そこで動けなくなる者も居るが、頑張って30キロ先を目指しボロボロになりながら到着する兵士も多い。
そして再び教官はゴール地点で言う。「よくやった! だがまた変更になってな。あと20キロ先を目指せ──」殆どの新兵は心が折れる。
ゴールだと思って必死こいて進んできたことを否定されれば、誰でも心に重いダメージを負うのだ。
そんな気分を味わったように、俺は風邪の症状が襲う中ベッドからまったく動けない状態になってしまった……
「アルトくん……」
"アルト、元気を出せ……ゾクフー以外なら何か欲しいものがあればクラフトしてやれるが……"
違うんだ。そんな優しさも要らないんだ。俺は。俺は。
こんなちっぽけな願いすら叶わない世界が悲しくてつらくて、涙が出て来るんだ。
捨てるほどの料理を毎日作らせる金持ちが居る一方で、パン一つにありつくために人を殺すガキも居る。
そんな世界の理不尽を今まさに味わっているんだ。
暫く俺を見つめていた二人だったが、今はそっとしておこうと思ったのか静かに出ていってくれた。
ごめん……また少しすれば元気になると思うから。
そう仲間に謝りたくとも、口からは嗚咽しか漏れなかった。
僅かに開いた口にチューブが突っ込まれて、ゼリーのようなものが口の中に押し込まれた。
摩擦ゼロで喉に流れ落ちるそれを飲み込み、むせる。
「……ヨクナオールは効かなかったが、わたしの毒由来ではない風邪薬をゼリーに混ぜて飲ませた。じきに良くなる」
良くなっても、何も俺の事情は良くならないんだ。
ちくしょう何でこんなことに。
俺は強くなることだけを求めて故郷を飛び出して生きてきた。
そして世界にただ一人のサキュバス殺しという強さを手に入れた。
だが……だが……こんなに苦しいんだったら、サキュバス殺しなんて強さは要らなかった! 弱いままで居たかった!
強くなりさえすれば何でも願いが叶うと思っていたんだ! 誰にも負けない強さがあれば自由に生きられるって!
俺はこんな不自由な……ゾクフーに行くこともできない強さがあるなんて思ってもいなかったんだ……
「そうか……」
途中からくぐもった声にでもなって口に出していたのかもしれない。トリエは同情するようにそう呟いた。
体の奥から無駄に清浄な、ミント一気食いした感じの治癒効果が出て来る。飲み込んだ風邪薬が効いてきたのだろう。
しかし世の中に出回っている魔法薬で、セイビョーに効くものは殆ど無い。彼女が作った、俺に効かない薬以外は。
くそくそくそ。
トリエはのんびりとした口調で俺に話しかけ続けている。
「毒の抗体が出来ているってことは、高濃度の尻尾以外なら多分わたしの毒を中和できるはず」
「それがどうした……」
「よくわからないが性交ができればいいのなら──わたしが相手になるけれど」
「シャオラッ」
勃ち上がった。風邪はどうやら治ったらしい。
どうやら思ったよりもこの眠たがり学者は積極的というか、イエイ。もぞもぞとベッドの横で既にスカートを下ろしてらっしゃる!
ふともも!
ふう、思わず叫ぶところだったぜ。こう、むにっとした肉付きの良い柔らかそうなふとももが顕になっている。健康的に動いているのではなく普段から椅子なんかに座ってぶにぶにに柔らかくデチューンされているふとももだ。それに黒いローライズのパンツ。
エロい!
この微妙に疲れ目の女は、ギルタブルルがどんな感じで成長するのか詳しく知らねえけど俺好みのむしゃぶりつきたくなる熟れた体をしてらっしゃる!
やりますよ俺は。もうね、がんばりにがんばったからね。まあここのベッドでふて寝したのはこういう算段が無かったわけでもないけど。しっかりズボンには避妊具を念のために二箱も入れている。OK! 勃起OK!
「まあ丁度、繁殖期だったし……」
「……ん?」
なんか不吉な単語が出なかった?
繁殖?
「子供は……五人ぐらいをとりあえず目標にするか」
「こ、ど、も……?」
なん、なん、なんでしょう。
そのゾクフーを利用する際に一切脳裏によぎらない単語は。
「その……トリエ、さん? あの。避妊とかは……」
俺は目の前でゴム製品の避妊具を見せた。するとギルタブルルの尻尾がにゅっと伸びて重なったゴム製品全てに大穴をブチ開けた。
「何のことだ? 性交とは子作りだろう……まあ、なるべく希望に応えた体位や恰好をするから子供を作って寝よう」
「いやああああああ!!!」
俺はベッドから飛び上がって走り出した!
責任とか認知とかそういう、俺を不自由に縛る存在から逃げ出すために!
そして少しでも躊躇えばこの溜まりに溜まった状況、「もうトリエでいいかな! 生中最高!」とかそんな精神状態になって人生の墓場に投身自殺してしまう! お前がパパになるんだよ!ってなってしまう!
それもいいかななんて思う自分の心が判断するのが何よりも恐ろしかった! だから走ったんだ!
いやだ!! 俺はまだパパになんてなりたくないんだ! もっと独身な自由生活で色んな女と遊んでいたいんだ!
一人の女に操を立てたりせず、あっちの女にモーションを掛けこっちの女にモーションを掛け、女同士で俺を取り合って少し険悪になるのをオイオイ止めなよ君たちハハハとかしたいんだ! そんなアテは全く無いけど、夢ぐらい見てもいいじゃねえか!
さらば弱い方向に流れようとした俺!
俺は再び修羅になる! ゾクフーを諦めたりなんか絶対にしない!
********
──なにやらよくわからなかったが、叫んで走って飛び出していく元気がアルトリウスに出たなら良いか。
それにしても眠い。繁殖期は体温が高くなってとにかく眠くていけない。
アルトリウスが臥せっていたベッドに目をやって、わたしはそこに横になった。
少しだけ汗と涙が染み込んでいてアルトリウスの臭いがする。風呂に入っていなかったようだ。暫くベッドに残りそうな臭いである。
「……わたしが悪いわけではない」
スカートを脱ぎ捨てた恰好のまま、ショーツの中に手を入れてベッドの臭いを嗅ぎながら自分を慰めた。
寝ぼけた頭がトリップするようで夢見心地の快楽に耽れた。
「子作りしたかったなあ……」
ギルタブルルの種族は体液に混じる毒のせいで他種族と交わることは殆どできない。
だから繁殖期には故郷に戻るのが普通なのだけれど……
「子作り、できるんだよなあ……」
戻らなくてもいいなら、それがわたしにとって一番なのだけれど。
*********
「アルトくんが元気になってよかったですー!」
「おうよ! 新生アルトリウス様復活だっつーの!」
「じゃあまた新しい冒険ですね!」
「まあちょっと待て。トリエの薬販売の売れ行きも見ないといけないからすこ~しこの街に滞在しておきたいと思うんだが……いいかセンセイ」
"ああ。別に構わない。その間に次に行くダンジョンの情報を調べておこう"
「じゃあちょっとの間都会生活ですね! ふふーん! 都会人っぽくミネラルウォーターとか買って飲みますよ!」
「それ都会っぽいのか!?」
それから少しの間、俺らはバニシュドの街に留まって次の冒険の鋭気を養うことにした。
その間にこれまで出会った奴らがまたバニシュドにやってきて色々あったりしたのだが、それは後々。
まあまず滞在して真っ先に起きた事件といえば。
あの例のヨクナオール、俺に効かなくても相手の嬢には効果があるんだから相手に使えばキレイな体になって相手をしてくれると思ったわけだ。
それで俺がヨクナオールの入った注射器を片手に、裏ゾクフーで相手の嬢に注射しようとしたら違法薬物でヤクキメックスをしようとしたとんでもねえ客だということで叩き出された挙句に裏ゾクフー界でもブラックリストが出回ったことかな。
まあ確かに怪しい薬を入れた注射器を嬢に刺そうとする客はどう見てもヤバイが……
俺のゾクフーライフがどんどん遠のいていくのは何故なんだ。
だが俺は諦めない。いつか、きっと。この旅路の行先に、ゾクフーが繋がっていると──信じている。
第三章──完
第三章終わりです。ご愛読ありがとうございました!
次は日常章で、クリムゾンとかオークレイパーとか今回放置されたチャモンパーティとかトリエとか出てくる短編集になる予定
予定ですがちょっとおやすみです。また再開する日まで




